情報職業論 2016-12 情報財の価格決定

1. 情報職業論 ⑫
情報財の価格決定

2. 原稿料・講演料はどう決まる?
•原稿料(400字換算)は－2000円～
50,000円
•執筆者が掲載料を負担する学術刊行物
•講演料は0～30万(5時間)円
•高い人は1時間100万円はざら
•交通費・宿泊費は別途
•寄稿(講演)者の「格」や知名度
•主催者の支払い能力
•参加者の動員力などがパラメータ

3. 原稿料・出演料
•新聞社・出版社・テレビ局で規定
の報酬額がある。相手の「格」に
よってS～D級のランク
•出版印税は定価の10％が基本
•人気作家は15～20％の印税率
•「実売分」のみで計算も(先に5％程度を払
い，半年後などに追加分があれば支払い)
•学術著書の場合，著者による買取り，直接
経費の補助(さまざまな助成あり)が前提で，
印税(報酬)がゼロのケースも

4. 投げ銭
•対価が0～∞円。大道芸・
ライブなどに適用。基本
的には少額(“銭”の語感に
関わらず硬貨だけではない)
•類義語が「おひねり
(祝儀)」。聖なるも
への貢ぎ物が原義。
対価を求めない
スタチューのレパートリー。
投げ銭すると動き出す。
大衆演劇の冨士川竜二に
渡された，粋な“おひねり”

5. YouTube投げ銭
•視聴者ファンディング
•Googleウォレット
•100円，500円，任意
•手数料は22円＋5％
•動画投稿者が投げ銭機
能を有効にする前提
電話でのアカウント確認
Adsenseアカウント

6. 情報財の価格決定メカニズム
•工業商品=万人に一定の使用価値。
希望小売価格or定価。需要と供給
の均衡による価格決定
•情報商品=一人ひとり異なる価値
(お布施理論 by梅棹忠夫)。0～∞円。
需要の競争による価格決定
•ブランド商品はその中間的存在。
モノの使用価値よりも“記号的価
値”(ブランド)を評価

10. ダフ行為
•劇場・スタジアムの客席数に限界
(供給量は一定)
•「発売即完売」など需要は超過(正
価より高くても購入するユーザー
の存在)し，都合が悪くなっても払
い戻せない慣習
•ダフ行為=都道府県の迷惑防止条例
違反。会場周辺でのつきまとい。
暴力団による仕切り・資金源に

11. チケット売買サイト
•チケットキャンプ(mixi/運営一時預
かりのあんしん決済)，チケットス
トリート，チケット流通センター，
チケット・チェキットなどの二次
流通サイトが存在。オークション
と合わせて，
ダフ屋が介
在する余地
を狭める

12. オークション
•「需要の競争」(欲しいと誰がより
強く思うか)によって，落札価格が
決定していく
•供給量が稀少なモノ(レアモノ)で需
要が高いモノは落札額が高騰
•万人は見向きもしないのに，特定
の少数者だけが大きな価値を見出
すモノも，落札額を高く競り合う

13. お布施
•お経の価値→受容する人によって
百人百様(10～30万円という“相
場”はあるが)。寸志で自分たちなり
の対価を表現
•アウラ(いま/ここにいる権威性)へ
の対価。戒名料もある
•宗教者の格×檀家の格
の係数で決まる。宗教
者の労働時間・情報量
とは無関係(神秘主義)

14. 宗教=情報産業の原形
•死生観・世界観という「人生とこ
の世」についての解釈(学問の基盤)
を宗教者が古代から独占してきた
•冠婚葬祭の主宰者の地位
を独占
•儀式・説法・托鉢(→)など
を通じて，信者から喜捨(報
酬)を得て，宗教活動を維持・
・発展させる

15. 学術研究の基礎
•古来，学問芸術は神官・僧侶・御
用学者・宮廷画家など，情報処理
能力がある個人を権力者が庇護・
支援(パトロネージュ)する形で発展
•対面型で情報伝達がなされ，写本
(経)で複製物を制作するプロセスそ
のものが研究の基礎

16. お布施理論の現代化
•パーティウェア→対価を明示しな
いオンラインソフト。自分が評価
した使用価値に見合う料金を支払
う(カンパウェア)
•マイクロペイメント→Webなどを
閲覧した人が少額の「投げ銭」を
する

17. 情報財の価格決定
•お布施理論が全面的に適用できる
わけではない(情報財が有体物とし
て流通し「定価」設定されている
ケースが多いため)
•だが，人々が情報に見出す価値に
よって，物財とは異なる価格決定
メカニズムが作用している面は否
定できない

18. 情報の商品性
有償型情報 無償型情報
秘匿型情報 ノウハウ型情報 プライバシー型情報
公開型情報 アウラ型情報 広告型情報 公共型情報
情報には秘匿―公開の軸と有償(市
場価値あり)―無償(市場価値/対価
を想定しない)の軸がある

19. ノウハウ型(有償/秘匿)
•有償とはいえ必ずしも提供される
とは限らず，有償も相続など対価
支払いを前提としない
•一子相伝の秘法(秘儀)，特許化され
ない企業秘密(コーラのレシピ)など

20. 企業秘密の前提
①特定の従業員のみがアクセスできる
②機密扱いが明示されている
③秘密保持手続きがあり，それが維持
されていること
④違反者を追及できるようなシステム
があること
⑤以上が，従業員全員に周知されてい
ること

21. 専門家集団(弁護士など)
•日本弁護士連合会などギルド(職能
集団)で，基本報酬額を決定し，顧
客に明示する。ただし相談料や顧
問料などは最低料
金を掲げるが，顧
客が支払う金額は
お布施理論と同様，
神秘主義で決まる

22. プライバシー型(無償/秘匿)
•家族の写真，日記などの個人情報
•ただ，個人情報の収集・利用は企
業などにとって対価を支払ってで
も入手したいものになっている(リ
スト業者は今日でも暗躍している)

23. アウラ型(有償/公開)
•ほんものという概念は，オリジナル
のいま/ここにしかないという性格に
よって作られる(一回性/対面性)*
•美術(売買**)・音楽(演奏会)などで伝
統的な価格決定
•基本的に“人気投票”となる(AKB48
のように?)
*ヴァルター・ベンヤミン『複製技術時代の芸術』
** オークションは美術品の売買方法である
選抜総選挙は視聴率などと同様，アウラを可視化する
ための創意工夫だと言える。

24. 公共型(無償/公開)
•情報公開条例などで無償公開が義
務付けられている情報
•学術情報も今日ではCiNiiなどを通
して公開されている
•大学の授業は基本的にはアウラ型
であり，授業料を納付していない
履修者に対して情報を公開する必
要はない

25. 「情報はタダ」か?
•公開型情報の場合，情報の占有性
の確保は難しい
•占有性を維持するためには，情報
にバリアをはる必要があるが，そ
れも困難
•本来は売買対象の情報であっても，
たちまち公共型情報に変身しがち

26. 機密情報
•国家(地方自治体)などにより，機密
指定され，公開が制限される情報
がある
•機密性が最も高い情報は国家安全
保障に関するもの

27. 広告型(無償+有料/公開)
•生産者からは有償，消費者にとっ
ては無償*
•膨大な商品の中で自らを目立たせ
るため，差異を生もうとする情報
•商品(モノ)の束縛から離れ，広告自
体が商品(モノ)となっている
* 企業の広告経費は商品代金などに上乗せされており，回り回って消費者が
負担することになるが，その仕組みはあまり意識されない

28. 複製物の種類
①原像に近づこうとするコピー
芸術作品。原像の価格は“神秘主義”で
決まり，コピーも似たような原理
②原像から離れるコピー
本歌取り，パロディ，学術分野。原像
から離れるほど市場価格が高い?
③互いに他の複製となるコピー
同じ図面から製作された工業製品など。
書籍，CDなどパッケージ商品