Attention to social information

藤岡徹
幼児期から青年期における自閉スペクトラム症児の
社会的情報への注目の発達的変化
本研究は本学倫理委員会の承認を経て実施しています

背景
 自閉スペクトラム症（ASD）児者は定型発達（ＴＤ）児者と比較して
 社会的情報（人、顔の目領域、biological motion）を
 注視しないことが報告されている
Pelphrey et al., 2002 Klin et al., 2009
Pierce et al., 2011

０～7歳TDの社会的情報へ注目の発達的変化
 TDは、発達に伴い社会的情報が強いとされる部位以外にも注目するようになる
(Nishizato et al., 2017）
指差し
人と幾何学図形人の顔刺激
バイオロジカルモーション

目的
 「0歳から7歳までの社会的情報の注視の変化」は報告されている
 幅広い年齢層を対象にして、
 発達に伴う“社会的情報の注視の変化”を明らかにした研究は、
 ＡＳＤ児でもＴＤ児でも報告されていない
 本研究は、
 幼児期から青年期にかけての社会的情報への注視の変化は、
 ASD児とTD児でどのような違いがあるか
 を明らかにすることを目的とした

研究協力者
ASD群：3.6 - 17.0才、IQ/DQ≧70、Social Responsive Scale(SRS)>カットオフ
TD群：2.0 – 18.5才、SRS<カットオフ
ASD 年齢 IQ/DQ SRS ADHD併存
合計 18 4.9±0.7 89.2±10.6 73.9±17.1 9
男児 13 4.8±0.8 89.2±9.7 71.3±19.1 7
女児 5 5.1±0.5 89.2±13.9 80.6±8.7 2
合計 34 9.2±1.6 94.6±14.6 88.5±25.6 17
男児 28 9.0±1.6 95.0±15.1 88.3±26.7 15
女児 6 10.0±1.6 92.7±13.0 89.3±21.2 2
合計 30 14.5±1.6 97.3±14.6 88.3±24.7 14
男児 22 14.4±1.7 101.0±13.7 88.7±23.1 11
女児 8 14.9±1.4 87.3±12.8 87.3±30.5 3
0-5歳
6-11歳
12-18歳
TD 年齢 IQ/DQ SRS ADHD併存
合計 122 4.6±1.0 - 30.0±12.2 -
男児 59 4.5±1.0 - 31.7±11.1 -
女児 63 4.7±1.0 - 28.4±12.9 -
合計 150 8.7±1.7 - 23.8±11.8 -
男児 69 8.6±1.6 - 24.4±11.8 -
女児 81 8.8±1.7 - 23.3±11.9 -
合計 37 14.2±1.5 - 21.5±11.7 -
男児 14 13.2±0.8 - 19.7±10.3 -
女児 23 14.8±1.6 - 22.5±12.6 -
12-18歳
0-5歳
6-11歳

社会的情報の注視
 社会性発達評価装置ＧａｚｅｆｉｎｄｅｒRを用いた
 5カテゴリーに大別される9刺激を提示（2分程度）
A) 顔刺激_mouth motion無
①静止（4秒）、②瞬き（5秒）、③無言（5秒）
B) 顔刺激_mouth motion有
④口動（5秒）、⑤話しかけ（7秒）
C) ⑥Biological motion （11秒）
D) 人物と幾何学模様
⑦同サイズ提示（20秒）、⑧小窓提示（16秒）
E) ⑨指差し（8秒）
• 本研究では、図中の関心領域についての
• 注視率（注視時間÷刺激提示時間）を算出

①静止（4秒）、②瞬き（5秒）、③無言（5秒）
• 本研究では、図中の関心領域についての

①静止（4秒）、②瞬き（5秒）、③無言（5秒）
• 本研究では、図中の関心領域（ＡｏＩ）についての

分析
ANOVA
 各刺激のAoIの注視率の比較を行った
 診断（ASD/TD）×年齢（0-5/6-11/12-17）×性別（男児/女児）
を独立変数としての3要因の分散分析を行った
 タイプ1エラーを避けるために、危険率は.01（.05/5）とした
散布図
 局所的に重み付けされた散布図平滑化（locally weighted
scatter plot smooth）を使って、散布図に回帰曲線を引いた

結果と考察
 年齢群のmain effect(p=.002)：高年齢＞中年齢＞低年齢
 ASDでは、10歳を過ぎたあたりで注視率が下がる

結果と考察
 年齢と診断と性別の交互作用（p<.001）
TDでは高年齢で女児＞男児、ASDでは高年齢で男児＞女児
TDで男児が高年齢＞低年齢、女児が高年齢＞他の２群
 ASDでは、10歳を過ぎたあたりで注視率が下がる

 両刺激の回帰曲線で、ASD群は10歳過ぎから注視率が下がっていて、
 この時期から目への注視率を下げる要因が働きていることが示唆される
 不安が目への注視率を下げる報告がある（Horley et al., 2003; Kleberg et al., 2016）
 不安障害（特には社交不安）は10-15歳が発症のピークと報告され（Schneier et al., 1992）
 不安障害はASDに高率で併存する（Sterling et al., 2008）
 10歳過ぎから不安の影響を強く受け、目への注視率が下がったのかもしれない
 mouth motion有で、高年齢ASD女児の目への注視率の低下が顕著であった
 不安症は女児で多いという報告がある（ Roza et al., 2003）
 上述の理由のため、目領域への注視を妨げる妨害刺激がある状況において、
 女児で目への注視率が顕著に下がったのかもしれない
結果と考察

結果と考察
C) ⑥Biological motion
 いずれの主効果と交互作用も有意ではなかった
 群間差が生じていた先行研究は、2歳以下を対象にしていた
 本研究では年齢層が高かったので、再現しなかったのかもしれない

結果と考察
 診断の主効果が有意（p=.004）:TD＞ASD
 性別の主効果が有意（p=.001）：女児＞男児
 この刺激は、ASDの社会性を年齢を問わず反映するのかもしれない

結果と考察
E) ⑨指差し
 いずれの主効果と交互作用も有意ではなかった
 群間差があった先行研究は、対象児の年齢が本研究より低かった
 本研究では年齢層が高かったので、再現しなかったのかもしれない

まとめ
 児童と言っても年齢、性別、その特性によって、
 社会的情報への注視は違いが生じているようであった
 顔刺激では、ASDにおいては、TDで見られるような
 年齢の上昇に伴っての目への注視率の上昇が生じにくい
 不安などの社会的情報の注視に関連する要因が、
 思春期以降のASD群で強く影響する可能性が示された
 人物と幾何学模様は、発達段階を問わず、
 ASDの社会性を反映する刺激なのかもしれない

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