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科学を変えた10の
コンピュータ・
コード
フォートランからプレプリントアーカイブまで、プログラミングと
プラットフォームの進歩は、生物学、気候科学、物理学を新たな高
みへと導いたのです。JeffreyM.Perkel
はんなりPython #38 サクラな季節なLT会
@TyaoiB 2021/03/19
Nature
Vol 589
21January
2021
345 - 348
この読み物記事の紹介
です
天文学から
動物学まで、
現代の偉大
な科学的発
見の裏には、
必ずコン
ピュータが
存在する
 2019年、リング状の光り輝くブラックホールの実際
の形状画像
 通常の写真ではなく、アメリカ、メキシコ、チリ、
スペイン、南極にある電波望遠鏡で撮影されたデー
タを数学的に変換し合成したものだ。
 研究チームは、この偉業で使用したプログラミング
コードを、論文と一緒に公開し、科学界の人々が成
果の共有と発展に資するようにした。
 こうしたことは一般的な流れになってきている。
 スタンフォード大学・計算生物学者マイケル=レ
ヴィット
 2013年のノーベル化学賞受賞
 化学構造をモデル化するための計算ストラテジーの研
究。
 現在のノートPCは、1967年当時に、受賞対象の研究
用に作ったコンピューターの約1万倍のメモリとク
ロックスピードを備えている。
 「今日、私たちは本当に驚異的な計算処理能力を手
にしている。」「問題は、それを活用するにはまだ
人間の思考力を必要とすることです。」
the scientist-
coderの出番
です
 強力なコンピュータ+研究課題に対応できるソフト
ウェア+そのソフトウェアの書き方や使い方を知っ
ている 研究者
 英国エジンバラに本部を置き、科学分野におけるソ
フトウェアの開発と利用の改善を目的とした組織で
あるSoftware Sustainability Instituteのディレクター、
ニール・チュ・ホン氏
 「研究は今や基本的にソフトウェアと結びついてい
ます」
 「研究活動のあらゆる側面に浸透しています」。
この記事の
焦点は…
 過去数十年間において、研究を変えた重要なコード
 このようなリストは決定的なものではない
 過去1年間に何十人もの研究者に聞き取り調査を行
い、科学の世界に大きな影響を与えた10種類のソフ
トウエアーツールの多様なラインナップを作成した。
先駆的言語:
Fortranコンパイラ
1957年
 最初の近代的なコンピューターは、ユーザーフレンドリーで
はなかった。
 初期:何万枚ものパンチカードを使ってコードを入力
 機械語やアセンブリ言語の開発:コードでコンピュータをプロ
グラミング
 科学者に手の届かない言語:コンピュータ・アーキテクチャの
熟知を必要。
 「formula translation」言語Fortranの登場が状況を一変
 IBM社のジョン・バッカスとそのチームが開発
 人間が読める命令を使ってコンピューターをプログラム
 コンパイラは、その指示を高速で効率的な機械語に変換。
 ニュージャージー州プリンストン大学の気候学者である真鍋淑
郎氏
「初めてコンピュータ科学者ではない自分たちでプログラムを組
むことができました」
 現在Fortranは、気候モデル、流体力学、計算化学など、複雑
な線形代数を必要とする分野で広く使われている、強力なコ
ンピュータで素早く数値を計算することができる。 高速化
されたコードの書き方を知るプログラマーは今でもたくさん
いる。昔のFortranコードベースは、今でも世界中の研究室や
スーパーコンピュータの中で生き続けています。
信号処理装置:
高速フーリエ変換
(FFT)
1965年
 電波天文学者が空を観測するとき、時間とともに変
化する複雑な信号の不協和音を捉える。
電波の性質を理解するには、その信号が周波数の関数
としてどのように見えるかを見る必要がある。
それを可能にするのが、フーリエ変換と呼ばれる数学
的プロセス。
しかし効率が悪く、N個のデータセットに対してN2個
の計算が必要となる。
 米国の数学者クーリーとチューキー
 このプロセスの高速化方法FFTを発見。
 アルゴリズムを繰り返し適用する再帰を用いて、
フーリエ変換の計算問題をわずかN log2(N)ステップ
に簡略化。
 速度は、Nが大きくなるほど向上。
 1,000点の場合は約100倍、100万点の場合は約5万倍の
スピードアップになります。
 FFTはコードで何度も実装され、人気のあるオプ
ションの1つはFFTWと呼ばれ「西欧で最速のフーリ
エ変換」と呼ばれている。
デジタル信
号処理、画
像解析、構
造生物学な
どへの応用
が可能に
なった。
 「これは、応用数学と工学における偉大な出来事の
1つです」(英国オックスフォード大学の数学者
ニック・トレフェセン)
 米国ローレンス・バークレー国立研究所分子生物物
理学・統合バイオイメージング部門ポール・アダム
ス
 1995年にバクテリアのタンパク質GroELの構造を精
密化したFFTとスーパーコンピュータを使った。
「計算には何日も何時間もかかった」「FFTを使わず
に計算しようとすると、永遠にかかってしまうだろ
う」
実はドイツの数学者ガウスは1805年に、この問題を
解決したが発表しなかった。
分子のカタログ化:
生物学的データベー
ス
(1965)
今日の科学研究に不可欠なデータベースの背景に
はソフトウェアの存在は忘れられがち
過去数十年の
間に、データ
ベースは規模
を拡大し、
様々な分野を
形作ってきた
が、生物学ほ
ど劇的な変化
はなかっただ
ろう。
 今日の膨大なゲノムやタンパク質のデータベースの
端緒は、米国のバイオインフォマティクスの先駆者、
マーガレット・デイホフの研究。
 1960年代初頭、生物学者がタンパク質のアミノ酸配
列の解明に取り組んでいた
 異なる種間の進化的関係の手がかりを求めて、1965
年には、当時判明していた65種類のタンパク質の配
列、構造、類似性を記載。
 データをパンチカードでエンコードしており、デー
タベースの拡張や検索が可能だった。
 その後、他のコンピュータ化された生物学的データ
ベースが登場。
 1971年:17万以上の高分子構造を持つ「Protein Data
Bank」公開。
 1982年:米国国立衛生研究所のDNAアーカイブ
「GenBank」の原型が公開。
「この発見
は客観的な
生物学の到
来を意味す
る。」
(NCBIオス
テル氏)
 1983年7月、ロンドンの生化学者、ウォーター
フィールドとドゥーリトル
 ヒト成長因子とサルの癌ウイルスのタンパク質配列
間の類似性を報告。
 この結果は、ウイルスが成長因子をまねて、細胞の
無秩序な増殖を引き起こすことを示唆。
「この発見は、コンピュータや統計学に興味のな
かった生物学者たちは、配列比較で、がんについて
何かを理解することができることに気づいた。」
(NCBIオステル氏)
「大学院生当
時、 Entrezを
使っていて魔
法のようだと
思ったもので
す」 (NCBI現
所長代理ス
ティーブン・
シェリー)
 1991年:NCBIのプログラマーがEntrezを開発
 DNA配列からタンパク質配列、文献までを研究者が
自由に移動できるようにするツール。
研究者は、
 仮説検証のための実験をする研究
 公開データセットから、実際にデータを収集した人
が思いつかなかったような関連性を見つけ出す研究
ができるようになった
気象予測の
先駆け:
大循環モデル
(1969)
コンピュー
ターの先駆
者フォン・
ノイマン
 第二次世界大戦末期、コンピューターを天気予報に
も応用開始。
 それまでの天気予報:経験と勘で予測するものだっ
た。
 フォン・ノイマンのチーム:「物理法則に基づいて
数値的な気象予測」を目指す。
 1940年代後半:フォン・ノイマン、プリンストン大
学高等研究所に気象予測チームを設立
 1955年:地球物理学的流体力学研究所の第2チーム
が、ノイマンが「無限の予測」と呼ぶ気候モデルの
研究を開始。
 1958年:チームに加わった真鍋は大気のモデリング
に、同僚のカーク・ブライアンは海洋のモデリング
に着手。
 1969年、この2つのモデルを組み合わせることに成
功し、2006年の『Nature』誌で科学技術計算の「マ
イルストーン」と呼ばれたモデルが誕生。
 米国海洋大気庁の地球流体力学研究所モデリングシ
ステム部門ヴェンカトラマニ・バラジ氏
 「予測のための方程式は何十年も前から知られてい
たが、初期の気象学者はこの問題を現実的に解決す
ることができませんでした。」
 「現在の状況を入力し、それが短期間でどのように
変化するかを計算し、それを繰り返すという、非常
に時間のかかる作業を行わなければならなかったた
め、気象が追いつくまでに数学を完成させることが
できなかった。」
 「コンピュータはこの問題を扱いやすくしたので
す。」
 現在のモデルでは、地球の表面は25×25キロメート
ルの正方形に、大気は数十レベルに分割されている。
 一方、真鍋とブライアンが開発した海洋と大気の統
合モデルでは、500km四方の正方形と9つのレベル
を使用し、地球の6分の1しかカバーしていない。
 それでもバラジ氏は言う:
「あのモデルは素晴らしい仕事をしてくれました」
「二酸化炭素濃度の上昇がもたらす影響を初めてイ
ンシリコで検証することができたのです。」
膨大な量の数字や情
報を取り扱い分析す
る標準規格:
BLAS
(1979)
 科学技術計算では,ベクトルや行列を使った、非常
に多くの極めて単純な数学的演算が行われる。
 1970年代:このような演算を行うための世界共通の
計算ツールがなかった。
 科学分野のプログラマーは、基本的な数学を実行す
るための効率的なコードの作成に時間を費やし、科
学的な問題に集中することができなかった。
プログラミン
グの世界が必
要とした標準
規格「Basic
LinearAlgebra
Subprograms
(BLAS6)」
の制定
(1979)
1990年まで進化し続けたこの標準規格は、ベクトル、
そして後には行列の数学のための基本的なルーチン
を何十も定義している。
 一般的な関数の名前を標準化
 BLASを使ったコードはどのコンピュータでも同じ
ように動作することを保証。
 コンピュータメーカーは、自社のハードウェアで高
速に動作するようにBLASの実装を最適化。
 現在、BLASはサイエンティフィック・コンピュー
ティング・スタックの心臓部であり、科学ソフト
ウェアを動かすコードとなっている。
 テネシー大学ノックスビル校のコンピュータ科学者
で、BLAS開発チームのメンバー ジャック・ドン
ガラ氏
「BLASは、行列やベクトルの数学を、足し算や引き
算と同じような基本的な計算単位にまで落とし込ん
だのです」
「コンピューティングを行うための布地を提供して
います」
 テキサス大学オースティン校のコンピュータ科学者、
ロバート・ヴァン・デ・ゲイン氏
「BLASは、科学的な計算のために定義されたイン
ターフェースの中で、おそらく最も重要なもの」
顕微鏡の必需品:
NIH Image
(1987)
1980年代初
頭、米国国
立衛生研究
所の脳画像
研究室に所
属のプログ
ラマー、
ウェイン・
ラズバンド
 デジタル化したX線フィルムをコンピューター上で
表示したり分析したりするためのプログラムを、15
万ドルもするPDP-11ミニコンピュータ用に作成。
 1987年:アップル社から出た親しみやすく手頃な価
格で、実験室で画像を解析するのに最適な「マッキ
ントッシュII」に移植した。
 NIH Imageとその後継製品は、研究者があらゆるコ
ンピュータであらゆる画像を表示し、数値化するこ
とを可能にした。
 ImageJは、1990年代からほとんど変わっていない、
シンプルで最小限のユーザーインターフェースを備
えています。しかし、内蔵されているマクロレコー
ダー(マウスのクリックやメニューの選択を記録し
てワークフローを保存できる)、幅広いファイル
フォーマットへの対応、柔軟なプラグインアーキテ
クチャなどにより、無限の拡張性を備えている。
 ソフトウェアファミリー:
 WindowsおよびLinuxユーザー向けJavaベースの
ImageJ
 ImageJのディストリビューションFiji
 ブロード研究所のイメージングプラットフォームに
所属する計算生物学者のベス・シミニ氏
「ImageJは、私たちが持っているツールの中で最も基
礎的なものであることは間違いありません」
「イメージャーやその派生プロジェクトであるフィ
ジーを使わずに顕微鏡を使ったことのある生物学者と
は、文字通り話をしたことがありません」
 この理由のひとつは「これらのツールが無料である
こと」(ラズバンド氏)
配列検索ツール:
BLAST
(1990)
動詞化した
ソフト名:
検索なら
Google
遺伝学なら
BLAST
 進化による変化は、置換、欠失、ギャップ、再配列
として分子配列に刻み込まれる。配列間の類似性、
特にタンパク質間の類似性を検索することで、研究
者は進化上の関係を発見し、遺伝子機能を知ること
ができる。
 それゆえに、急速に膨らむ分子情報のDBを、迅速
かつ包括的に検索することが重要。
 1978年:デイホフは、「ポイント・アクセプタン
ス・ミューテーション」マトリックスを考案。
2つのタンパク質の関連性を、その配列の類似性だけ
でなく、進化的な距離にも基づいて評価できるように
した。
 1985年:ウィリアム・ピアソンとデビッド・リップ
マンは、このマトリックスと高速検索機能を組み合
わせたアルゴリズム、FASTPを発表。
 1987年:リップマン、ウォーレン・ギッシュ、ス
ティーブン・アルチュル、ウェブ・ミラー、ジー
ン・マイヤーズは、さらに強力な改良版「Basic
Local Alignment SearchTool(BLAST)」を開発。
 1990年:BLASTは、急速に増大するデータベースを
扱うために必要な検索速度と、より進化的に遠いが
マッチする配列を拾う能力を併せ持つ。
 データベースの更新が郵送で行われていた時代に、
ギッシュは電子メールシステムを構築し、後には
ウェブベースのアーキテクチャを構築した。
 これにより、ユーザーはNCBIのコンピュータ上で
遠隔地から検索を行うことができ、検索結果は常に
最新の状態に保たれることになる。
 ハーバード大学の計算生物学者ショーン・エディ氏
「このシステムは、当時まだ始まったばかりのゲノム
生物学の分野に、未知の遺伝子がどのような働きをす
るのかを、関連する遺伝子に基づいて解明するという、
画期的なツールをもたらした。」
「世界中のシーケンシング研究室にとっては、巧妙な
新語となった。BLASTingは動詞になったものの1つで
す。"BLASTing your sequences "という言葉が出てきま
した。」
Preprint
powerhouse:
arXiv.org
(1991)
当日版では紹介しませんでした
 1980年代後半:一部の高エネルギー物理学者たちは、
投稿した原稿の物理的なコピーを、友人や礼儀とし
て同僚に郵送していた。
 物理学者のポール・ジンスパーグ曰く(2011年)
「食物連鎖の下位にいる者は、Aリストに載っている
者の恩恵を受けており、エリートではない機関に所
属する意欲的な研究者は、特権の輪から完全に外れ
ていることが多かった。」
 (注:プレプリントは、学術雑誌に投稿する最終原
稿。投稿後、掲載までには当時数ヶ月から半年か
かったので、投稿とともに情報を共有することは最
新データをいち早く知ることができるという恩恵が
あった)
 1991年:ロスアラモス国立研究所に所属していたジ
ンスパーグは、競争条件を平等にするために、電子
メールの自動応答システムを開発。
 購読者は,論文の識別子が付いたプレプリントのリ
ストを毎日受け取ることができ、
 1通のメールで、研究所のコンピュータシステムから
論文を投稿したり、取得したり、新しい論文のリス
トを入手したり、著者やタイトルで検索したりする
ことができるようになる。
 当初計画:記事の保存期間は3ヶ月で、内容は高エネ
ルギー物理学のコミュニティに限定。
 同僚の説得:無期限保存に。"掲示板からアーカイブ
に変わった瞬間”
 1993年:ジンスパーグ氏の専門分野よりもはるかに
遠い分野の論文が殺到し、ジンスパーグはこのシス
テムをWWWに移行
 1998年:現在のarXiv.orgに改称
今年30周年
プレプリン
ト掲載数180
万件、すべ
て無料
 2011年:20周年を記念してNature Photonics誌の編集者曰く、
 「arXivがこれほど人気のあるサービスである理由を理
解するのは難しいことではない」
 「このシステムは、研究者がいつ何をしたかを示すフ
ラグを立てるための迅速かつ便利な方法を提供し、従
来のジャーナルでの査読に必要な手間と時間を回避し
ている」
 この成功から、生物学、医学、社会学などの分野でBioarXiv
など姉妹アーカイブのブームが起った。
 その影響は、今日、SARS-CoV-2というウイルスについて発
表された何万ものプレプリントに表れている。
(注:SARS-CoV-2のケースでは、昨年1月に各国の最新データが
早々に明らかにされ各研究グループが投稿前論文への公開コメン
ト欄で議論が伯仲し論文としてパブリッシュされるという展開を
みせた)
 30年前には素粒子物理学界の外では異端視されていた方法論
が、今では一般的に明らかで自然なものとみなされているこ
とは喜ばしいことです。その意味では、研究プロジェクトの
成功のようなものです(ジンスパーグ氏)
Data explorer:
IPython Notebook
(2011)
 Pythonはインタプリタ型言語で、プログラムは一行
ごとに実行されます。
 プログラマーは、REPL(Read-evaluate-print loop)
と呼ばれる一種の計算上のコール&レスポンスツー
ルを使うことができ、コードを入力するとインター
プリターがそれを実行する。
 たとえば、コードのモジュールを簡単にプリロード
したり、データの可視化を開いたままにしたりする
ことはできなかった。そこでェルナンド・ペレスは
独自のバージョンを作成した。
データサイ
エンスの革
命
 その結果が、ペレスが2001年12月に発表した259行
の「インタラクティブ」なPythonインタープリタで
ある Ipython。
 2011年:ペレスは物理学者Brian Granger、数学者Evan
Pattersonと協力して、このツールをWebブラウザに
移行させ、IPythonノートブックを立ち上げた。
 IPythonノートブックは他の計算ノートと同様、
コード、結果、グラフィックス、テキストを1つの
ドキュメントにまとめた。
 他のプロジェクトとは異なる点
オープンソースであり、多くの開発者コミュニティから
の貢献を求めた。
科学者に人気の言語であるPythonにも対応。
 2014年:IPythonはProject Jupyterへと進化
約100種類の言語をサポート。
ユーザーは遠隔地にあるスーパーコンピュータ上の
データを自分のラップトップと同じように簡単に調べ
ることができるようになった。
データサイ
エンティス
トにとって、
Jupyterはデ
ファクトス
タンダード
として登場
した
(Nature,
2018)
 「当時、コード共有プラットフォームGitHubには
250万冊のJupyterノートブックがありましたが、現
在では、2016年の重力波の発見や2019年のブラック
ホールの撮像を記録したものを含め、1000万冊近く
になっています。私たちがこれらのプロジェクトに
少しでも貢献できたことは、非常にやりがいのある
ことです」(ペレス氏)
高速学習:
AlexNet
(2012)
2つのタイプ
の人工知能
(AI)
1. 成文化されたルールを用いるもの
2. 脳の神経構造をエミュレートしてコンピュータ
に「学習」させるもの
 「何十年もの間、AIの研究者たちは後者のアプロー
チを意味のないものとみなしていた」(トロント大
学ジェフリー・ヒントン)
 ImageNet:100万枚の日常的な物体の画像データ
ベースを使ってAIを学習させ、その結果得られたア
ルゴリズムを別の画像セットでテストするという、
毎年行われている研究会
 2012年:トロント大学ジェフリー・ヒントンの大学
院生であるアレックス・クリジェフスキーとイリ
ヤ・スツケバー
 当時の最高のアルゴリズムでは、約4分の1の画像が
誤って分類されていた。2人が開発したAlexNetは、
ニューラルネットワークをベースにした「深層学
習」アルゴリズムで、このエラー率を16%にまで低
減した。
 十分な量の学習データと優れたプログラミング、そ
して新たに登場したグラフィカル・プロセス・ユ
ニット(元々はコンピュータのビデオ性能を向上さ
せるために設計されたプロセッサ)の能力が組み合
わさった結果だった。
 2009年、本当の意味でのアルゴリズムのブレークス
ルーは、起きていた。
 「それは、数十年かけて改良された従来のAIよりも
正確に音声を認識できるニューラルネットワークを
開発したときのことでした。」(ヒントン)
 これらの勝利は、研究室や診療所などでの深層学習
の台頭の先駆けとなった。携帯電話が音声による問
い合わせを理解できるのも、画像解析ツールが写真
の中の細胞を簡単に取り出すことができるのも、
ディープラーニングのおかげである。AlexNetは、
科学を、そして世界を根本的に変えてきた数多くの
ツールの中で、その地位を確立している。

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