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自然史資料の保存
生物多様性の保全と
社会の中での意義を中心に
佐久間大輔(大阪市立自然史博物館)
自己紹介
佐久間大輔(さくまだいすけ)
神奈川県横須賀市出身
twitter sakumad2003
facebook www.facebook.com/sakumad
sakuma@mus-nh.city.osaka.jp
大阪市立自然史博物館に入ってもう20年余。専門はキ
ノコだったり里山のことだったり。
ある人はIT・データベースの人だと思ってるかと思えば防
災とかNGO連携のことにすごく時間を使っていたり。
博物館ってなんだろう
• 博物館には多様な役割があるはず
1. 研究の証拠資料として(価値を生み出す研究)
2. 環境行政の証拠資料として
3. 地域の文化的アーカイブ、アイデンティティの拠
り所「陸前高田市立博物館」の標本レス
キュー復興に関わる理由
4. 気づきを生み出す場所として
5. 他のユーザーと出会う場所として
博物館と資料
• 資料があるのが博物館
博物館法第2 条「この法律における「博物館」とは、歴史、芸術、
民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成を含
む。以下同じ。)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に
供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必
要な事業を行い、あわせてこれらの資料に関する調査研究をする
ことを目的とする機関(以下略)」 (保管→将来にわたって)
→資料こそが博物館の根源
(前のページの赤枠)
• 生物は多様—資料も多様—博物館も多様
自然史博物館 5%(歴史博物館44%,美術館22%)
自然史標本
・自然が作り上げたものである
自然界に存在する物を収集すればそれは
自然史標本となる
・展示,教育・普及活動,研究,自然環境
の保護のベース
・採集データはとても重要
比較解剖用標本,展示標本,絶滅種の標本等の例外も
ある
自然史標本の役割
その裏には
研究結果を保証するもの
→証拠 voucher !!
分類学研究
新種の発見(論文作成 学名をつけて記載する)
タイプ標本:原記載を保証するもの
ホロタイプ holotype パラタイプ paratype
学名を背負った標本,1つだけ
保存が重要
→あらたに“新種と思われる”標本を得た時のチェッ
クに必要 確認→論文(別種として記載)
→研究者により意見が異なる
研究者 種Aと種Bは同じ→論文(同物異名 synonym)
第3者(複数)による意見(査読)
Suzuki T. and Randall, J.E . 2011. Paragobiodon kasaii, a New Gobiid Fish from Japan and Palau. Bull. Natl.
Mus. Nat. Sci., Ser. A, 37(3): 155–161
カサイダルマハゼ
大阪市立自然史博物館魚類標本
分類学研究
新種の発見(論文作成 学名をつけて記載する)
タイプ標本:原記載を保証するもの
ホロタイプ holotype パラタイプ paratype
学名を背負った標本,1つだけ
保存が重要
→あらたに“新種と思われる”標本を得た時のチェッ
クに必要 確認→論文(別種として記載)
→研究者により意見が異なる
研究者 種Aと種Bは同じ→論文(同物異名 synonym)
第3者(複数)による意見(査読)
収蔵庫
• 100万点以上の科学研究の証
拠となる標本
• 博物館が新たに発信する情報
の源泉。「倉庫」ではない
植物標本庫
(ハーバリウム)
収蔵庫の中でもっとも
利用者が多い
液浸標本
なんでそんなにいるの?
• 一種一点でいいんじゃないの?
• 古いのはもういらないんじゃ?
• 写真とデータベースがあれば、邪魔だから処
分してもいいよね?
そんなことはありません
同じ種類の標本が複数収集
→場所,日付が異なれば別物
• 生態学研究結果を保証するもの
• 生物の分布を保証するもの
→学名は常にかわるもの と関係
Zacco temminckii (Temminck & Schlegel 1846)
Zacco temminckii (Temminck & Schlegel 1846) Zacco sp.
Zacco temminckii (Temminck & Schlegel 1846) Zacco sieboldii (Temminck & Schlegel 1846)
Candidia temmichii (Temminck & Schlegel 1846)
カワムツ
カワムツB型 カワムツA型
1963年
1988年
2003年カワムツ ヌマムツ
Candidia sieboldii (Temminck & Schlegel 1846)
2013年
カワムツ ヌマムツ
流水 止水域
生物分布の調査
1960〜1980年 の 報告書
カワムツは?
カワムツ? ヌマムツ?
生物分布の調査
1960〜1980年 の 報告書
カワムツは?
カワムツ? ヌマムツ?
標本でチェックする他ない
同じようなことはたくさんある
• テングタケとイボテングタケ
• セイヨウタンポポとアカミタンポポ
• 形態で区別できなかったものがDNAで再検討
もされる時代
レッドデータブック
植物の場合・・・
1.標本から
2.生物目録
3.レッドリスト
植物標本庫
(ハーバリウム)
収蔵庫の中でもっとも
利用者が多い大阪市立自然史博物館の標本を基礎に作られた
植物関連の生物多様性情報
・大阪府植物誌
・奈良県植物誌(作成中)
・近畿地方の苔類(児玉コレクション)
・和歌山県産シダ植物標本目録(真砂コレクション)
・近畿地方の保護上重要な植物
・大阪府レッドリスト
・奈良県レッドリスト
・三重県レッドリスト
・堺市レッドリスト、上野市レッドリスト・・
標本は環境政策と生物科学の「説明
責任」のためにある
• 出版・研究に使った標本・体系的に収集した標本が
地域に残れば、将来地域の情報源になります。それ
は環境政策の根拠になります。
• 死蔵することは最悪の選択。 「標本は使ってなん
ぼ」整理ができてから活用するのではなく、活用する
ことによって整理されていくものです。
• 地域研究の成果を地域でまとめる必要があります。
(それはシステムの問題でなく、人が把握しているこ
とが望ましい。)会報なども含め、ちょっとした記録が
後に役立つことも多いのです。
生物標本
• 乾燥標本 dried specimens
昆虫,植物,貝
哺乳類・鳥類などの剥製・骨格標本
• 液浸標本 fluid-preserved specimens
液体に浸けた標本
・ その他プレパラート、DNA、カルチャーコレク
ション・種子など
標本化の基本
残したい特徴を長期間変質しないように残す
• 生物分類学的な研究のための標本の基本は
「形態」を残す (基本は虫害・カビ害対策)
• 現代生物学においては+α DNAを残す、安定
同位体、色彩、動画など必要に応じ様々なもの
を残す (基本は100%エタノールまたはDMSO)
• 「展示」をしたいのであれば、生態や色彩を生き
生き残すなど、違う要求もある。
• 学習教材であれば・・・
乾燥標本について詳しくは再来週 松本さんがやります
標本と観察と研究成果は三位一体
標本にする
• フリーズドライ標本
や樹脂含浸標本な
ど、様々な標本の
作成は自然史博物
館の得意分野
• 教育普及に活用
も。展示会などにも
利用できる。
いろいろな標本
凍結乾燥生のキノコ 樹脂包埋
乾燥標本 レプリカ
自宅で熱風乾燥標本作製
ドライフルーツ用
の乾燥機。
布団乾燥機や温風ヒー
ターと段ボールを組み
合わせてもできる
においと火事と生乾き
に注意
自然史博物館の研究用標本
• 主に近畿地方のキノコ・変形菌を中心に
約20,000点
• 長期の保存を優先した熱風乾燥による
研究用標本
形態的特徴と言っても
• 肉眼的な特徴?
• どんな計測が必要?
• 顕微鏡的な特徴も?
• 解剖は必要?
分類群ごとにそれぞれ最適な作成方法と保
存方法
液浸標本ができるまで
• 採集(様々,購入も含む)
• 第2次資料としての写真撮影(色彩の記録)
• 固定(麻酔,DNAサンプル採取)(ホルマリン)
• 保存(アルコールないしホルマリン)
• 標本台帳へのデータの記載
(データベースの作成)
写真の撮影
• 博物館展示標本(退色を補うものとして)
• 研究のための標本
魚類(両生類・爬虫類)
• 麻酔: 4-アミノ安息香酸,MS222,キナル
ジン (冷凍)
• 固定:10%(中性)ホルマリン(成魚),5%
(稚魚)
• 保存:70%エチルアルコール,50%イソプ
ロピルアルコール,10%ホルマリン(成魚),
5%(稚魚)
棘皮動物
• 麻酔:塩化マグネシウム,硫酸マグネシウム,
1-フェノキシ-2-プロパノール,MS222,淡水
(ヒトデ),低温
• 固定:10%中性ホルマリン(ホウ砂),70〜
80%エチルアルコール
• 保存:70〜80%エチルアルコール,10%中性
ホルマリン
甲殻類
• 麻酔:低温,(冷凍)
• 固定:75〜80%エチルアルコール
• 保存:70%エチルアルコール,10%中性ホル
マリン(ホウ砂)
貝類
• 麻酔:メントール,塩化マグネシウム,硫酸マ
グネシウム,プロピレン・フェノキシトル
• 固定:10%中性ホルマリン(貝殻の炭酸カル
シウム溶解防止;4ホウ酸ナトリウム,重炭酸
ナトリウム」飽和液)
• 保存:70%〜80%エチルアルコール
きのこ類
• 固定:FAA液(Formal-Acetic acid-Alcohol
fixative:ホルマリン,氷酢酸,50%エタノール
1:1:18),70%エチルアルコール
• 保存:同上
固定 fixation
5〜10%ホルマリン,
80%エチルアルコール,
保存 preservation
70%エチルアルコール
脊椎動物,大型の無脊椎動物の固定はホルマリン,(海産)無脊椎動物はエチ
ルアルコールでも
例外もある→クラゲ類,オタマボヤ類はアルコール不可
蒸発,退色,劣化などの問題に対処するために分類群ごとに工夫されている
(→各論)
まとめてみると
固定:ホルマリン formalin
• 約35%のホルムアルデヒド formaldehyde水溶液
メチルアルコールが添加(ホルムアルデヒドの重合
を防ぐ)
• HCHO メチルアルコールより作成,ギ酸に変化
※貝殻の炭酸カルシウム溶解防止
→中性ホルマリン(ホウ砂,重曹添加)
• 1:9(水)の割合で混合 10%とする
3.5%のホルムアルデヒド溶液
ホルマリンの歴史
• 発見:ロシアの化学者
Butlerov, A. M. (1859)
• 作成:ドイツの化学者
Hofmann, A. W. (1867)メ
タノールの酸化.
• 固定に使用:ドイツの医者
Blum, F. (1893)
Der Formaldehyd als Härtungsmittel.
Vorläufige Mittheilung.
Zeitschrift für Wissenschaftiliche
Mikroskopie und für Mikroskopiche
Technik, 10: 314-315.
固定剤としてのホルムアルデヒド(予報)
組織の細胞内外に浸透,アルデヒド基がタンパク質のアミ
ノ酸残基に結合→メチレン架橋、蛋白質の構造変化
図は藤田浩司氏(東京医科大学 )HPよりホルムアルデヒド+アミノ基等と→ヒドロキシルメチル基+アミノ基→→→メチレン架橋
固定剤としてのアルコール
• 蛋白との反応ではなく,主に脱水作用による蛋
白質の三次構造の変化.ここでの固定は凝固,
各種アルコール類(メチルアルコール,エチル
アルコール,イソプロピルアルコール)の”固
定”原理は同じ.
• 自己消化を遅らせる
• 殺菌の効果(細菌の細胞膜やウイルスのエンベ
ロープの破壊による)
保存:エチルアルコール ethyl alcohol
• C2H5OH [CH3COOH]
• 細胞膜の脂質の溶解で浸透性が高まり,タンパ
クや核酸を変性させるとともに細胞膜の破壊→
殺菌(保存の原理)
• 発酵あるいは工業的に合成
• 7:3(水)の割合で混合 70%とする
• 欠点は脱水作用そのもの,タンパク質,色素,脂
質の溶解
• ホルマリンはギ酸(ホウ砂などで中性化で防げる
が)になり硬組織を侵食、毒性
※保存液としてのホルマリン:ヒトの組織,稚
魚・両生類幼生
エチルアルコール保存の歴史
• アルコール発酵による酒造と蒸留
• ラム酒(サトウキビ),ウオッカ(96%のものが
あるらしい),ウイスキー(穀物),ブランデー
(果実酒)
• 樽で標本を輸送
• ロンドン自然史博物館の液浸収蔵庫はSpirit
Building
ロンドン自然史博物館のOld Collection
"Southern Ocean."
Shaw, G. and F. P. Nodder 1795 . The Naturalist's Miscellany, or coloured figures of natural
objects; drawn and described from nature. London.
保存液
• 50%イソプロピルアルコールの使用
廉価,危険物ではない.揮発性が低く,
50-70%濃度では殺菌力はエタノールより
も強い,酸性色素の溶解が少ない
• 使用について賛否両論がある
標本の収縮,毒性
魚類では,エチルアルコールより収縮少
ない
様々な容器
• 特に魚類においては,大きさ,形が様々
• 蒸発防止 ・劣化対策 ・地震対策
標本の社会にとっての意味を考える
• 分類学
• 環境行政
• 他の博物館同様、地域のアイデンティティ、文
化の記録
特に21世紀に入り、自然と人間の関係のあり
方を考えることはますます重要に
自然とともに暮らす
市民科学の成果として
• 地域の自然史博物館の標本は誰が集めた?
その先人はどういう存在?
• 標本を利用し、成果を還元されるべきは誰?
• そのことによって育つ次世代
アマチュア・研究者の活躍の結果と
しての博物館コレクション
• 博物館のコレクションは
そこまでの博物館活動の
集積
• 連携研究者との共同研
究・アマチュアの育成
自然史博物館の菌類コレクション
• 本郷次雄(図鑑著者)
• 上田俊穂(高校教員・図鑑著者)
• 吉見昭一(小学校教員・図鑑著者)
• 京大の学生
• 関西菌類談話会
• 兵庫きのこ研究会
など、
プロとアマの活動の記録
陸前高田市立博物館
「岩手博物界の太陽」鳥羽源蔵
コレクションとしての高い付加価値
• 明治期のナチュラリストにして、後の師範
学校の博物学の教授
• 植物・コケ・地衣類・菌類・昆虫・貝類・地
質学・化石など多様な分野で東北の第一
人者。新発見の業績も多く上げている
• 地元では今も尊敬されている
• 自然史標本のレスキューは地域の文化
財の保全でも有り、今後の博物館復興へ
の基礎と考えて行われた。
• 地域のアイデンティティは復興に重要
京都の生物多様性戦
略の中核を占める生
物多様性サービスに
依存する文化
日本文化にかぎらず、ほとん
どの伝統文化、食文化は生
物多様性サービスに大きく依
存している。
生物多様性サービスはフロー
自然資本はストック
自然の恵みを受け続けるためには
ストックを食いつぶさない
しかも自然資本は公共財
Natural Capital
「自然資本」
これからの自然を考える
キーワードの一つ
http://www.naturalcapitalforum
.com
そのストックのモニタリングが可能な
のは自然史博物館しかない?
未来に向けての役割
従前どおりの生態系モニタリングの基礎として
(本日の前半の議論と関連)
レッドリスト、地図化や生息地推定など多様な展開
文化財の素材を記録する意義
(将来の模倣、研究などの資料)
• 資料だけでなく、その使われ方、生産方法など、幅広い二次資料
(メタデータ)の収集も関係してくるかも
文化財との関連
• レッドデータだけでなく、生産活動のリファレンスとしてのインベ
ントリー
でも実は自然史資料の保全を義務付
ける法律はない
• 歴史資料や美術資料は文化財保護法の元の文
化財(指定されているものはもちろん、されてい
ないものも候補文化財、未指定文化財)
• 自然史資料は文化財保護法上の資料ではない。
• 博物館にはいっているものは「博物館資料」(で
もそこにも保存義務は書かれていない)
• じゃぁ博物館にはいっていない自然史資料は?
資料保存の大きな課題
文化財保護法の周辺で意味づける
天然記念物や自然保護区の
科学的証拠標本としての自然史標本
• 文化財行政で所管されている自然:天然
記念物、世界自然遺産、(と名勝?)
• 天然記念物などをどう意義付け、管理す
るのか
• 世界自然遺産を文化財で扱うのであれば、
国立公園やその他自然保護区にも文化財
的意義を認めるのが自然
京都市深泥池
生物群集全体が天然記念物に
天然記念物をどう管理する?
• 過去の状態の記録は報告書・研究成果報告書などだけ
でいいのか
• 昔の深泥池はどんなだったのか?例えばある生物が在
来個体群だったのか、遺伝子で再検証する必要がある
…など
標本による検証が必要(誰がどこでどう責任を持つ
のか、例えば京都には大学博物館しかない)
おなじことが、国立公園など環境省事業にもいえる
(あえて厳しく言えば生物多様性センターの規模では難しい)
・過去との比較ができず、地域ぐるみの継続したモニ
タリングがない。
・ナショナルセンターに保管されても残念ながら地域
での活用はできない
今後はレッドリストと並び生物多様性
ホットスポットもより重要に
• ホットスポットのコアになるのは天然
記念物・国立公園などなど。
• 生物多様性国家戦略の立場で天然記念
物や国立公園のモニタリングをどう実
施し、貢献できるのか?
文化的景観の
構成要素として
奈良県明日香村
滋賀県近江八幡
生物学的多様性と文化多様性の複合
現状、その調査は自主的な研究
文化庁ホームページにおける
文化財の定義
「文化財は,我が国の長い歴史の中で生まれ,
育まれ,今日の世代に守り伝えられてきた貴重
な国民的財産です。これは,我が国の歴史,文
化等の正しい理解のために欠くことのできない
ものであると同時に,将来の文化の向上発展の
基礎をなすものです。」
(http://www.bunka.go.jp/Bunkazai/
shisaku/index.html 2014年2月3日確認)
確かにこれなら自然史資料も文化財かも
公共財としての博物館資料
• 公共財とは,社会のだれでもが使うことがで
き(非排除性),誰かが使うことで他の人が
使えなくなるということがない(非競争性)
財産である。お金がないから使えなかったり
独占したりできない存在である。
• 展示室の資料は公共財か?:十分に使われて
いるか
• 収蔵庫の資料は公共財か:いかにアクセスを
可能にするか?デジタルアーカイブ?
資料を守るためには
• 資料の公共的性格をはっきりさせてその
保存機関・公共機関としての博物館の維
持を図るのか。(文化財保護法ベース)
• 博物館の位置づけを明確化して、その資
料としての保全を図るのか。(博物館法
ベース)
選定や確保、管理の業務を考えると本質
的には後者ではないのか。
自然史博物館行政の不在
• 博物館法は文科省でありながら、数の上では
主軸となる美術歴史系は文化庁が中心となっ
て管轄
• 科学系博物館は旧科学技術庁系と科博に泣き
別れ関連団体も全国科学館連携協議会と全
国科学博物館協議会とが併存
• どちらも政策立案はせず。国の科学技術振興
政策である科学技術基本計画とリンクせず。
• 生物多様性施策は環境省・農林水産省マ
ター?
• 動物園はもっとひどい
自然史資料は文化財ではない
「博物館資料」の保護法制が必要
• 実は博物館法には博物館資料の保全義務が書いて
いない
• 廃止の手続きのところにも、資料のことは何もか
いていない
次期博物館法改訂で資料の保全を明記すべき
必要なら大学の標本庫を博物館類似施設のような
扱いにする。大学博物館であれば今でもOK
• 文化財保護法に文化財として「博物館資料」を明
記し、「博物館資料の保全」義務を示す。
• 国・地方公共団体及び設置者に博物館資料の保全
義務を示し、関連法令との関係を明記
資料保全義務がない・・・
「文化財としての標本」
の保全の責務を論ずる
世界の論調
マオリ文化とモアの標本
国際博物館会議による
自然史博物館のための
倫理規定
ICOM Codeof
Ethicsfor Natural
H i s t o r y
M useums
イコム博物館倫理規定に見る
博物館の強い責任感
• イコム博物館倫理規定:2章 コレクション
を負託を受けて有する博物館は、社会の利益
と発展のためにそれらを保管するものである。
• 自然史博物館倫理規定:4章E. 我々皆の機
関に所蔵される全ての自然遺産資料とその関
連情報は、その資料を所蔵する各機関の占有
財産ではなく、世界共有の財産管理人業務
[global custodianship] をしているという意
識のもとで保持されるべきである。
• 4章F. コレクションの一部または全てを
放置、無視することは決して許されない。
資料の管理能力が限界に達した場合、資
料コレクションの保持を正しく行うこと
が限界に達したような状況でも、これら
の資料を余力のある場所や安全な管理が
行える場所へと移すためのあらゆる努力
が必要である。売却は、たとえ他の機関
への移管のためであっても、最後の手段
である。

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2017保存論