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情報職業論 ⑧
情報職業と倫理
遅刻の誕生
工業社会の基本行動ルール(定められ
た時刻に遅刻しない)
学校での“隠れたカリキュラム”の一つ
(無遅刻無欠勤者の表彰=皆勤賞)
通学制ではない通信制の学校の浸透
農業社会(例:沖縄),消費社会(例:京都)
などでは,構成員に時間厳守を強く求
めない“◯◯時間”の風習も残る
自由労働時間制
労働(残業)時間はすべて自分で管理
し,求められる成果も上げる必要があ
る,最も厳しい労働形態(“過労死”し
ても自己責任に帰せられる)
一日8時間・週40時間という工業社会
的ルールに束縛されている限り,裁量
労働時間制といえども,自由度はそん
なに高くない
労働基準法
労働者が企業に雇用される場合,雇用
契約(労働契約)が結ばれ,労使協議で
締結された就業規則に準じて働く
労働基準法を下回る条件での就業規則
は無効となる
フリーランスは労働基準法で守られな
い。監督者もいない。しかし,求めら
れた成果は出し続けねばならない
電子時代の就業規則
業務上知り得た秘密(機密情報)を漏洩
させないこと
(業務で用いる機器での)業務外でのイ
ンターネット使用禁止
(同)私用での電子メールの利用禁止
情報セキュリティの遵守(別途,情報
セキュリティに関する規程を定め就業
規則とリンクさせる場合もある)
個人情報保護法
「氏名,生年月日その他の記述によ
り,特定の個人を識別できる」情報
利用目的の本人同意,開示・削除の依
頼など,個人が個人情報に対してコン
トロールできるようになったことに対
する措置
ただし大規模な漏洩・紛失などの被害
が常態化している
ACM倫理綱領
一般的な道徳上の義務
より特殊な,専門家としての責任
生じる可能性のあるリスクの分析を含む,コン
ピュータシステムとその影響を,包括的かつ徹
底的に評価する
組織の指導者の義務
ユーザー及び他の人々の尊厳を守る方策をはっ
きり述べ,支持する
ACM:Association for Computing Machinery
倫理綱領は1996年7月施行
倫理
倫理: 内発性・主体性が特徴で,外的
強制を伴わない。「強制力なき法」
行為規範: 道徳とほぼ同義。いかなる
状況でも他者の批判を受けず,称賛を
集めることができる行為類型。礼儀,
約束事(プロトコル),倫理綱領。規範
集団から有形無形の拘束を受ける
法律: 多くは罰則規定を伴う
たとえばP2P
倫理: 他者の知的成果を無料で利用す
るのは,情報職業従事者としては倫理
にもとる
行為規範: 大学のネットワーク資源利
用の約束事に抵触(他者〈とくに仲間〉
に迷惑をかけてはいけない)
法律: 著作権(公衆送信権)の侵害(一罰
百戒としての逮捕がありうる)
火のないところに
(1)火のあるところに煙は立つ
火: 何らかの事象が発生している
煙: 何らかの事象に関する情報(変化の
知らせ)が発生する
発信源が正規のものか,複数のルートから入る
情報が一致するか
発信者が,発信した情報に対してどの程度の責
任を持つ立場(代表者・広報担当者など)なのか
を確認する
どこまでが発信者の言葉で,どこまでが引用部
分なのかが明確になっているか。←その区分が
不明確な情報はすべて信用してはいけない
風評被害
客観的証拠がないまま(感情的に),別
の「火」があたかも真実の「火」のよ
うに「煙」が伝えられ,関係者が経済
的に損失を受けるケース
莫大な費用と労力をかけて,正しい情
報を積極的に発信している場合も「風
評」には対抗できない場合もある
(2)火のあるところに煙は立たぬ
大衆受けしない煙はなかなか立たな
い。ニュースバリューがないとメディ
アは扱わない
「火」を見つけた場合,その真偽を見
極め,自ら「煙」を発する場合は慎重
を期すべきである
発信者としての自分の立場を明確にする
元情報と自分が付加した情報の境界を明示する
発信後の経過措置が必要であれば実施する
(3)火のないところに煙は立つ
ネットワーク社会により急速に拡散し
やすくなったデマ(風聞)
「火」を探しても見つける努力が報わ
れない
情報職業従事者は,煙の拡散に手を貸
してはならない(RT/シェアなど)。火
のない煙を自ら発してはならないのは
当然である
デマは一定周期で繰り返される
LINEの有料化は2016
年3月に人口に膾炙。
2012年12月以来5回目。
【公式】LINEという名前
でLINE運営を装っている
指示に従わないと不利益
を被るという脅しが,デ
マを拡散する
(4)火のないところに煙は立たぬ
諺ではそうである
だが「火のないところに煙は立つ」パ
ターンが増えすぎた
(5)倫理感の喪失
勝手に火も煙も立てるケース
SNSを私的空間と認識し,問題行為とされる行
為の記録(写真)を書き込む
自己顕示欲を充たすための行為が,結果的に周
囲の人を巻き込み,刑事事件にも発展する
“ネットいじめ”や“リベンジポルノ”のように,
煙を立てる行為そのものが自己目的の場合も
顔を合わせないから,平気でその文言を書き込
めるが,対面状況で発話できるのか?
炎上
SNS上に掲載したもの(文章・画像・
映像)が何らかのきっかけで注目を浴
び,多くの非難や中傷的なコメントが
SNS上に届く状況を指す。そのサイト
やアカウントが閉鎖・削除に追い込ま
れることもある
ただし,炎上の参加者はそんなに多く
なく,鎮静化するまでの期間も短く
なっている
名誉権
刑法に定められた名誉毀損罪と侮辱罪
名誉毀損:事実を示し(真偽に関わらず)公然と人
(法人)の社会的評価を低下させる罪
侮辱:事実を示さなくても公然と人の社会的評
価を低下させる罪
公共の関心事・公益目的・真実の3条
件すべてが該当するならば名誉毀損に
ならない(言論の自由が守られる)
プライバシーや肖像権も名誉と同様の
人格を尊重する権利
名誉毀損/プライバシー侵害が確実
ASKA容疑者逮捕時のタクシーの映
像。
公共の関心事・公益目的と言えるか?
ドライブレコーダーをそのために用い
てよい
のか?

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