当論文では経済学的アプローチを用いて宇宙空間でのスペースデブリ最適量と宇宙開発の最適活動水準を算定することを目的としている。宇宙開発が活発化している今日では、スペースデブリは増加の一途をたどり、デブリによる影響が深刻なものとなっている。宇宙開発主体が利潤の最大化のためにデブリの存在を無視しながら開発を行うと、デブリによる宇宙空間汚染が拡大し、結果として宇宙空間を利用したことで得られる利益を享受できなくなる。多数者が利用できる共有地が乱用された結果、資源の枯渇を招くことを経済学では“コモンズの悲劇”と呼ぶが、宇宙空間という共有地がデブリによって汚染されることで招く被害はまさしくコモンズの悲劇である。しかし現実的には、デブリが増加し続けることはなく、宇宙開発が停止されることもない。何故ならば、デブリ増加に伴う被害が拡大しすぎるあまりデブリ除去費用の方が安くなった場合、デブリ低減活動はビジネス化するため、デブリはある水準を超えることはないからだ。しかし問題となるのは、デブリによる被害は市場を介さずに直接他の経済主体に与える不利益であるため、市場においては適切に評価されないことである。これはデブリが過剰に生まれると同時に過剰な宇宙開発が行われることを意味する。そこで市場原理を活用し、被害額を市場に組み込みことで(外部不経済の内部化)、宇宙空間においてのデブリ最適量を把握し、過剰な宇宙開発を適切な水準に抑えることができる。