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検査の特性と使い分け
感度・特異度・陽性的中率・陰
性的中率・コスト・侵襲...
MELASの赤色ぼろ
繊維(ゴモリ・ト
リクローム染色)
http://ja.wikipedia.org/wiki/MELAS
そもそも検査は何のため?
• 最善の治療方針を決めるため
• 経過観察やあえて検査しないことも必要
• 基礎疾患のない感冒様症状の患者(一日目)
• 原因病原体を調べる必要はあるか?
• 原因疾患を積極的に検索する必要はあるか?
(抗生剤を出せ!と迫られた時は、抗生剤が効かないことだけではなく、他の積極的な
対処法を紹介することも大切)
• 間質性肺炎の外科的肺生検
• 侵襲は大きいが、下位分類を知ることで、ベストの治療を行うことができる
検査の性質
• 簡便さ(医療者側の簡便さ・患者側の簡便さ・金額的コスト)
• 侵襲度
• 体が痛む(患者の体を傷つける・リスクがある)
• 懐が痛む(患者や金額的負担をかける)
• 心が痛む(内診など。婦人科でも必要なければしない。ex. 先天的子宮奇形の検査)
• 感度・特異度
• 侵襲が低い/コストがかからない試験で両者を両立するのは難しいことが多い
• 検査で得られる情報の精度・幅・種類
• 検査結果が出るまでの時間
• 医師の技量や医療機関の設備
陽性・陰性
疾病あり 疾病なし
陽性 真陽性
偽陽性

(第一種の過誤)

疾病を持たないの
に検査が陽性
陰性
偽陰性

(第二種の過誤)

疾病を持っている
のに検査が陰性
真陰性
感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率
疾病あり 疾病なし
陽性 a b
陰性 c d
感度(sensitivity): 疾病を持つ人が陽性になる率
特異度:(specificity): 疾病を持たない人が陰性になる率
陽性的中率(Positive Predictive Value, PPV): 検査で陽性の人が疾病を持つ率
陰性的中率(Negative Predictive Value, NPV): 検査で陰性の人が疾病を持たない率
偽陽性率(false positive rate): 疾病を持たないのに検査で陽性がでる確率
偽陰性率(false negative rate):疾病を持つのに検査で陰性が出る確率
• ほとんどの検査は確率を高くしたり低くしたりするだけ
感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率
疾病あり 疾病なし
陽性 a b
陰性 c d
感度(sensitivity): a/(a+c)
特異度:(specificity): d/(b+d)
陽性的中率(Positive Predictive Value, PPV): a/(a+b)
陰性的中率(Negative Predictive Value, NPV):d(c+d)
偽陽性率(false positive rate): b/(b+d)=1-特異度
偽陰性率(false negative rate): c/(a+c)=1-感度
母集団と陽性的中度
• 感度・特異度が同じ(99%)
• グループA: PPV=91.7%
• グループB: PPV=50%
疾病あり 疾病なし
陽性 990 人 90人
陰性 10人 8910人
グループA(有病率10%) グループB(有病率1%)
疾病あり 疾病なし
陽性 99人 99人
陰性 1人 9801人
• 患者の特性・ほかの検査結果・医療機関によってPPV・NPVは違うことに注意
• 専門科でのPPVと一般内科でのPPVは異なる
• 例: 本態性高血圧以外の高血圧の比率
感度と特異度のバランス
• 簡易な検査で感度・特異度ともに高くするのは難しい
• 感度を高くする(閾値を低くする)→特異度が下がる
• 特異度を高くする(閾値を高くする)→感度が下がる
• 感度の高い検査
• スクリーニングや除外診断(陽性が出ても疾病があるとは限らない)
• 特異度の高い検査
• 確定診断に適する(陰性が出ても疾病がないとは限らない)
スクリーニング検査
• 感度・特異度ともに高い検査は侵襲度が高いことが多く有病率の低い健康診断対象群には不向き
• 数が多いため、高い検査はできない
• 健康な人への侵襲は抑えたい
• まず感度が高い検査を行い、陽性の人に対してよりコストのかかる/侵襲度の高い検査を実施して
診断を確定
• 偽陽性の問題: 被験者に与える不安・再検査のコスト・誤診による不必要な治療
• フェニルケトン尿症
• 新生児期からフェニルアラニンの厳密な摂食制限が必要(無治療で精神遅滞)
• 初期のマススクリーニングの特異度は低かった(偽陽性率が高かった)が、見逃しは許され
ないため許容された
偽陰性問題
• 健康診断の心電図
• 検査時に心電図の異常が現れなければ「異常なし」
• 心房細動・労作時虚血性心疾患など多くの心臓病が漏れる
• 「心電図とったから心臓はだいじょぶ」と勘違いする人が多い
(そもそもほかの病気で医者に血液検査してもらってるから、健康診断の血液検査は必要な
い!と思う人多数)
• 運動負荷試験も偽陰性が多く、検査後の脳 塞の危険を伴う
• 冠動脈CTは高い、冠動脈造影は侵襲が大きく副作用がある
乳がんマンモグラフィ
http://dock.cocokarada.jp/bc/hikaku/
乳がんマンモグラフィ
• マンモグラフィ
• 小さい癌でも見つけられる
• 乳房を押しつぶすので痛い
• 若い女性は乳腺が多いため癌を見逃しやすい
• 超音波
• 乳腺の豊かな若い女性にも向いており良性・悪性の判断ができる
• 術者の技量に大きく左右される
• 米国におけるマンモグラフィー検診での偽陽性率は15%
• オランダでは偽陽性率が最も低く、1% である
• アメリカ・カナダでは40代のマンモグラフィは非推奨、乳がん死亡率を減らさないとの意見も
感度の低い検査
• 尿糖(糖尿病の検査)
• 侵襲度が低く簡便
• 感度が低い(一般に血糖値180mg/dl以上)
• 腎性尿糖(100mg/dl程度で陽性)の除外
• 多尿症の原因除外には有効
• 尿糖が出ない糖尿病は多尿症の原因にならない
髄膜炎の検査
症状が非特的な割に致死率の高い怖い病気!(訴えられる)
• 成人の髄膜炎の徴候: 発熱、頭痛、項部硬直、意識障害
• 4つが うのは44%、どれか一つはほぼ100%出現
• 発熱・頭痛は非特異的症状だが、項部硬直を念のためチェックしておくこと
• 髄膜刺激徴候(脳脊髄液の感染や出血による髄膜の刺激による)
• 項部硬直: 頸部の前屈に対し抵抗を示す
• 初期や小児では起きにくい
• 髄液検査(確定診断)
• 侵襲が大きい&脳圧亢進がある場合禁忌
髄膜刺激徴候がなく、髄液検査も危険な場合はどうするか?
→症状から総合的に判断して、髄膜炎の可能性が高ければ確定できなくても髄膜炎として治療開始
治療的診断
• 高齢者のうつ病と認知症
• まずは他の疾患を除外
• うつ病: 日内変動・自罰的・認知機能低下は軽度
• 認知症: 鈍感になる・図々しくなる傾向・他罰的・見当識低下
• 初期のアルツハイマー病は画像検査で診断できるとは限らない
(注: 最近はSPECTで診断できるようになりつつある)
• 判断がつかない場合は、治療の効果と経過を観察しながら判断
経験的治療(empirical therapy)
• 病原体の特定には時間がかかることが多いので、確定の前に治
療を始める
• ex: 敗血症・肺炎・尿路感染症・好中球減少症・細菌性髄膜炎
• 細菌性髄膜炎は各年代ごとに原因菌の統計が存在
• 抗菌スペクトラムの広い抗菌薬(確定前)→抗菌スペクトラム
の狭い薬(確定後)
• 抗菌スペクトラムの広い薬の長期使用は常在菌の耐性化を招く
名人的診断
• ミトコンドリア脳筋症
• 知能・筋力低下・感音性
難聴・心筋症・低身長
• MELASでは脳卒中様発
作が特徴
• 経験を積むと顔を見ただけ
でわかる→即筋生検
• 筋生検: 筋肉に麻酔をか
けずに切り取る。すごく
痛い。 赤色ぼろ繊維
(ゴモリ・トリクローム染色)

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