ある経験 - 教材として
- 2. 武蔵高校バスケットボール部は、旧制高校時代からRKMと称します。大先輩によれば、篭球武蔵の略だとか。
随分と変わった略し方には理由があります。このRKMは、アール・ケー・エムとは読みません。「あるけめ」と
読みます。「あるけめ」は、中世西洋の錬金術alchemyに繋がります。私が、まだ中学一年の頃、高校生の先輩か
ら「君たちも、この体育館という坩堝(るつぼ)で金になるんだよ」と言われ「やっぱり高校生は言うことが違
う!凄いなあ」と感動したのを今も忘れない。今思うと戦前からそうやって、右も左も分からないオボコのよう
な少年達を煙に巻いて来たに違いないと思う。
しばらくしてバスケットボール部員となったものの、インターハイ常連で戦後も何度も全国制覇した名門チーム
も、自分達の代では、東京都予選で敗退。私はと云えば万年ベンチウォーマー。間違っても金にはなれなかった。
そんな私たちを、大人として扱い、根気よく、実に根気よく指導して下さったのが、畑龍雄先生。RKM3期。大
先輩でもある。先生の逸話は数え切れないが、オリンピックのナショナルチームの監督まで経験された先生に指導
されたことは、今にして思えば、実に勿体ないことでした。
先生の指導は、あくまでも論理的で、必ず私たちへの質問から始まる。私たちの意思や目標を確認した上で、
「だったら、こうしようじゃないか」「そんなんでいいのか?」設定した目標は、決してぶれない。できるまで徹
底的にやる。できるまで終わらない。どんなにへばっても気を抜いたプレイは絶対に許されない。チームメイトに
失礼だと叱られた。
先生は、練習は自分自身の決心でやることにこだわり、指導者はその決心が成し遂げられるよう支え、挫けて
放棄しそうになるまで悩み考えさせ、絶妙なタイミングでヒントをくれる。数学の難問を解く時に似てる。それ
だから、上手くいくとすごく嬉しいし、もっと嬉しい思いをしたいと思い、夢中になって練習する。
最近、畑先生の文章を読み、その時、実に夢中になって練習してた時のことを思い出した。研修医の指導をして
る今、研修医は夢中になってくれてるだろうかと考え、はっとした。凄いヒントを得た気がした。
畑先生が逝去されて10年以上。失敬なことにできの悪い弟子は、何年かすら覚えていない。命日も知らない。
在京の仲間は、毎年この時期、畑先生が眠る佐久に墓参する。不肖の弟子は、今回初参加であります。
12年6月25日月曜日