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トランプ大統領と米国核兵器の
アジアへの復帰
グレゴリー・カラキー (UCS) 2017年4月18日 東京
民進党非核議連会合 於衆議院第一議員会館
2017ね
こんにちは。ご参加いただきありがとうございます。
憂慮する科学者同盟(UCS)が、この何年間か、懸念を抱いていることがあります。
それは、米国の核兵器関係者の中で影響力を持っている人々の一部が新しい核
兵器あるいは能力を開発したいと考えているのですが、その意図についてです。
この数年間、私は、これらの新しい核能力がアジアに、とりわけ日本に配備され得
る事態について調べています。
トランプ政権の核兵器・宇宙政策に関する広範な分野の議論という本題に入る前
に、米国の核兵器のアジアに、とりわけ日本に配備するという意図が米国の新政
権において実現される可能背について簡単に見てみたいと思います。
1
US Nuclear Weapons Based in Okinawa沖縄配備の米核兵器
御存じの方が多いと思いますが、米国が大量の核兵器をアジアに配備していたこ
とがありました。
とりわけ、日本の沖縄には、戦後、米国の占領下で、様々な核兵器が置かれてい
ました。米国は、学者が「低威力」、「戦場用」あるいは「戦術」核兵器と呼ぶ核兵器
――つまり、ここに描かれている沖縄に配備されていた兵器システムのようなもの
――を状況によっては使う計画を持っていました。太平洋で戦争が起きた場合のこ
とです。
2
Okinawa-Based US Nuclear Weapons to Taiwan (1954-55)沖縄配備の米核兵器台湾に(1954-55年)
そのような状況の一つが、中国との通常兵器による戦争です。
1950年代の二つの群島危機(台湾海峡危機)において、米国は、戦場に核兵器を
送りました。中華民国の所有する群島に対する中華人民共和国政府による砲撃を
やめさせるためにはその使用も辞さないという態度でした。
米国の専門家の一部は――とりわけ、中国の指導者が通常兵器戦争を開始する
のを抑止するには、米国による信憑性のある核兵器使用の脅しが必要だと論じる
人々は――こう主張します。すなわち、これらの危機の歴史は、過去においてこの
ような核使用の威嚇が機能したし、将来も機能することを示しているというのです。
しかし、歴史が、実際にこのような結論の根拠になるかどうかは定かではありませ
ん。
3
元米兵、1962年に沖縄で核攻撃がかろうじて回避と
明らかに
沖縄に配備されていた米国の核ミサイルは中国の都市を標的にしていて、1962年
のキューバ・ミサイル危機の際に、誤って発射されそうになったとの報道がありま
す。
このことは、いわゆる「限定核攻撃」を実施しようという「柔軟な」フレクシブル核戦
争オプションを維持することに伴う危険性の一つを示しています。とりわけ、核を最
初に使う先制使用、先制攻撃使用を想定する核態勢と合わせた場合そうです。つ
まり、軍事的危機あるいは外交的危機における「戦場の霧」の中でミサイルが誤っ
て発射される可能性です。
4
Eliminated entire world-wide inventory
of ground based nuclear weapons.
Removed all sea-based nuclear
weapons from submarines and surface
vessels.
Took US strategic bombers off high alert
1991年の米国の一方的な核撤退、
ソ連、急速な削減で対応
世界中の地上配備型核兵器を全て廃棄し
た
全ての海洋配備核兵器を潜水艦及び水上
艦艇から撤去した
米国の戦略爆撃機を高度な警戒態勢から
外した
ブッシュのイニシアティブは、ゴルバチョフによる数年前の提案を取り入
れたもの。相互に相俟って生まれた効果により、「真の核軍縮が目にも
とまらぬ速度で進んだ」
さにこのようなリスクのために、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領は――冷戦終焉が
もたらした機会を使って――一群の一方的な核軍縮イニシアチブを発表しました。
その結果、アジアから米国の戦術核が全て撤去されることになりました。
当時、4軍のトップたちや、ポール・ウォルフォウィッツ政策担当国防副長官、チェ
イニー国防長官は全てこの考えに反対しました。彼らは、これらの兵器の前方配
備が拡大抑止にとって、そして、同盟国を安心させるために必要だと考えたのです。
5
米国の戦略態勢に
関する
議会委員会最終報告
ウイリアム・ペリー 委員長
ジェイムズ・シュレシンジャー 副委員長
米国の同盟国に対する核拡大抑止の保証を強化するための「柔軟な」核オプショ
ンの必要性についての懸念は、オバマ政権初期にあった核態勢に関する議論の
中でも再浮上しました。そして、それは、二人の元国防長官、ウイリアム・ペリーと
ジェイムズ・シュレシンジャーが共同議長を務めた議会委員会の最終報告にも反
映されました。
米国におけるアジアへの核兵器の再配備の提唱者らの議論は、秋葉剛男という
日本の外交官のおかげで力づけられました。委員会における秋葉氏の証言は、こ
の地域への米国の核兵器の再配備を日本政府が要求していることを意味すると
解釈されました。
幸い、民主党による介入、とりわけ、クリントン国務省長官、そしてオバマ大統領に
自らの考えを説明した岡田外務大臣の介入によって、東京とワシントンの戦術核
を好む官僚たちの試みは阻止されました。少なくとも、しばらくは。
6
オバマ政権は、この論争とこれらの事態で生じた混乱に対処するために、日本と
拡大抑止協議を始めました。日本に対する核抑止の保証についてもっとよく議論
できる場所です。
7
Founders of the US-Japan Extended Deterrence Dialog
Brad Roberts
ブラッド・ロバーツ
Takeo Akiba
秋葉剛男
米日拡大抑止協議の創設者たち
ペリー・シュレシンジャー委員会でこの問題を最初に取り上げた秋葉氏、そして、
ペリー・シュレシンジャー委員会報告の作成で中心的な役割を果たしたブラッド
リー・ロバーツは、拡大抑止協議に参加する両国の代表団をそれぞれ率いること
になりました。協議会は、年2回、ワシントンDCと東京で開かれてきました。
両者は、彼らが今では「テイラード・核オプション」(状況対応型)と呼ぶものの使用
を強く支持しています。アジアにおける米国の核抑止の信憑性に関する「問題」と
二人がみなすものに対処するためです。
言葉は変わったかもしれませんが、これらの「テイラード・オプション」は、「低威力」、
「戦場用」、「戦術」核兵器と同じで、ジェイムズ・シュレシンジャー元国防長官が
「柔軟な」核オプションと呼んだ要件を満たせるということになっています。核戦争
遂行用で――必要なら最初に、あるいは、先制攻撃として――使うためのものです。
8
ブラッド・ロバーツ
元国防次官補代理(核・ミサイル防衛担当)
オバマ政権
北東アジアにおける核抑止・戦略
オバマ政権を去った後、ロバーツ氏は、日本で数か月過ごし、日本防衛省と協力
して、アジア用の「テイラード核オプション」を提唱する論文を書きました。
ロバーツは、東京での研究について発表した際に、米国政府は日本政府に対し、
これらの「テイラード核オプション」を両用航空機に載せる形で提供すると伝えたと
述べています。つまり、通常兵器と核兵器のどちらでも搭載できる航空機に載せよ
うというわけです。
9
ペンタゴン委員会、
トランプ・チームに
核オプションの拡大を促す
報告書、「限定的使用のためのテイラード核オプション」を提言
官僚機構の中で核兵器・核抑止を提唱し、新しい戦術核を開発したいと望む人々
の動きによって、研究・開発プログラムが10年以上にわたって議会の中をゆっくり
進んできています。
彼らは、米国は、核戦争遂行用に使う「テイラード」核オプションを作るだけでなく、
配備すべきだと考えています。その中には、アジアでの核戦争も含まれています。
トランプ大統領の下における新しい核態勢の見直しについて交渉するプロセスを
見越して、ここに引用されている「防衛政策協議会」のもののような様々な記事や
報告書が再登場し、「テイラード核オプション」いうアジェンダを推し進め始めていま
す。米国政府の中で。
この「テイラード」あるいは「柔軟な」という範疇に当てはまる開発中の二つの核兵
器が、ここに写真のあるLRSOという核搭載可能巡航ミサイルと、次のスライド
の・・・
10
国家核安全保障局(NNSA)、空軍、
B61-12 の寿命延長プログラム開発飛行テストを
成功裡に終える。トナパ射爆場
ここに写真のあるB61-12という自由落下核爆弾です。
11
アメリカ・ファースト
アメリカをまた偉大にする
予算青写真
LRSOもB61-12も、両用航空機で運ばれる「テイラード核オプション」です。
12
デイビッド・トラクテンバーグ
元国防省高官
トランプの核態勢の見直しを組織することになっている人物――デイビッド・トラクテ
ンバーグ(元筆頭国防副次官代行(政策))――は、新しい低威力の核兵器の必要
性を信じている人です。ロバート氏や、秋葉氏、そして、シュレシンジャー元国防長
官のように、彼もこう信じています。必要とあらば、先に、あるいは先制攻撃の形で、
核兵器を使用するぞという信憑性のある脅しが米国の拡大抑止の保証にとって欠
かせないものであり、この信憑性は、「使用可能性」の高いユーザブルな核兵器の
配備によって供されると。彼らは、これらの兵器によって、米国は核兵器を使いな
がら、報復を避けることができると考えています。とりわけ、米国自体に対する報
復は避けられると。
ここで指摘しておかなければいけないことがあります。それは、核兵器が使われた
後、エスカレーションをコントロールできるということを示す実世界の経験も証拠も
ないということです。
13
アメリカ・ファースト
アメリカをまた偉大にする
予算青写真
トラクテンバーグ氏は、すでに政権の中で核兵器に関する決定に相当の影響を持
つようになっているかもしれません。エネルギー省に国家核安全保障局というのが
あります。ここは米国の現存の核兵器の維持、そしてUCSの考えでは、新しい核兵
器の開発に責任を持っているところですが、ここがエネルギー省の核兵器予算とし
て驚くべき11.3%の増加を獲得しています。同省の他のほとんどの分野では予算
が削減されている中でのことです。
14
President Trump and the Return
of US Nuclear Weapons to Asia
ここで、今日の発表の第二部のテーマとなります。トランプ大統領がアジアにおけ
る米国の核兵器の再配備を承認しそうであるだけでなく、それを可能にするため
の現存する準備作業を加速しそうだと
15
トランプ、国防予算540億ドルアップを求める
米国の新政権に関連したいくつかの要因のために、米国の核兵器がアジアに戻る
可能性が大きくなっています。
まず、トランプ大統領は米国政府予算の優先順位を、軍事支出の増大に移してい
ます。トランプ政権は、すでに、次の会計年度で防衛予算を540億ドル増やすこと
を求めています。
米国軍隊の規模と新しい装備の購入を拡大するとの選挙公約をトランプが守れば、
年々の増加率は加速することになります。
16
「軍拡競争で結構」:ドナルド・トラ
ンプはリスクを承知で核拡大に
掛けるつもりのようだ
一兆円の核トライアド
(3本柱)
トランプ氏が米軍増強の方向に動くだろうことを示すものがほかにもあります。彼
は、オバマ大統領の核の近代化計画を批判しています。この計画はすでに1兆ド
ルに達しようとしていたのに、これでは弱いというのです。
17
トランプ、国務省予算の37%削減を提案
計画は米国国際開発庁(US AID)が与える援助を削減することに
トランプ、国連用資金の50%以上
の削減を要求:報告
トランプ、イラン協定「完全な
大失敗」
今日からは、アメリカ・
ファーストだけだ
もう一つのファクターは、トランプ氏が米国の国際関係の実施における国務省の役
割を劇的に減らし、そして、専門的な外交の運用を無用のものとして扱うことを望
んでいるということです。
トランプ氏は、また、国連のような国際機関について評価しておらず、米国がこれ
らを支持することを望んでいません。
総合すると、これは、経済的あるいは軍事的強制を使用するぞという米国による
明示的な脅しと繋がっていない外交オプションの有効性をトランプ氏が信じていな
いことを明白に示すものです。
18
ドナルド・トランプの最初のキャンペー
ン演説(1987年)の真実
若干の気概さえあれば、
米国の外交・国防政策の
問題で治せないものはない。
米国の外交の実施及び方向についてのトランプ氏のネガティブな見方は新しいも
のではありません。1980年代にトランプ氏は、自分の金を使って、米国の主要紙に
広告を載せ、米国が国際システムを支持するのに負担を負いすぎているとの考え
を説明しています。
これらの広告は、彼自身のアート・オブ・ザ・ディール、交渉術に関する本の出版と
関連したものでしたが、トランプ氏が米国の有名人になった主な理由です。
19
これからはアメリカ・
ファーストだけだ
トランプ大統領
反国際主義――特に、米国の人々が国際主義の外交・防衛政策を維持するため
に払わされている代償についての不満――は、トランプが一貫した立場をとってい
る唯一の政治的イッシューです。これは、彼が大事に思っている唯一のものと言っ
てもいいでしょう。そして、間違いなく、彼の政治的アピールの最も重要な単一の
源泉です。
彼の就任演説において「アメリカ・ファースト」の姿勢を強調したのはおそらくその
ためでしょう。
この演説において、トランプ氏は、「アメリカの殺戮」を描写しました。その責任は、
ワシントンの政治エスタブリッシュメントにあるとしています。エスタブリッシュメント
は「自らをまもりながらアメリカ国民をまもらなかった」と。
また、
エスタブリッシュメントは「米国の産業を犠牲にして外国の産業を豊かにした」
エスタブリッシュメントは「他国の軍隊を補助する一方で、わが国の軍隊が非常に
嘆かわしい枯渇状態に陥るのを放任してきた。」
そして「他の国々を豊かにする一方で、わが国の富、力、そして自身は、地平線の
向こうに消えていった。」と。
20
トランプの就任演説で打ち出されたビジョンは、ジャレッド・クシュナーのものでも、
ブラジミール・プーチンのものでもありません。スティーブン・バノンのものでもあり
ません。実は、34歳のバノンがゴールドマン・サックスの投資バンカーをしていた時
に、トランプ氏は、実質的に彼の最初の選挙演説をしたのです。1987年です。
21
Trump’s Pool of Foreign, Defense and Intelligence
Experts is Limited and Lacking Government Experience
トランプが利用できる外交・防衛・情報専門家の
グループは小さく、政府での経験に欠ける
トランプのNO.1中国専門家は
中国専門家ではない
ピーター・ナバロは中国語が話せない。
中国での経験も殆どない。
そのことは問題か?
「ワシントンの政治エスタブリッシュメント」をトランプが信頼してないことは、政府の
運営を任せる相手の選び方に現れています。
通常は大統領の指名によって埋まってくる多くの米国政府機関の中級及び上級レ
ベルのポジションの多くは、まだ空いたままで、これを急いで満たさそうという動き
は見られません。
トランプ大統領と、彼の勝利を生み出した政治アドバイザーらのチームは、政府の
キャリア専門家らの判断を信用していないことを示す公的な発言をいくつも行って
います。とりわけ、外交政策、防衛、インテリジェンス関係者らについてです。
そして、その感情は相互的なものです。共和党の外交政策、防衛、インテリジェン
ス分野の専門家たちは、選挙戦の期間中、彼に反対し、彼が勝利した場合は、そ
の政権でのポジションを受諾しないと宣言しました。
その結果、アジアにおける米国の核兵器政策に影響を与える主要問題に関するト
ランプ大統領の情報及び分析は、米中関係に関するものも含め、非伝統的なソー
スから来ています。
22
秘密主義のヘッジ
ファンド界大物トラン
プ大統領出現の裏に
ロバート・マーサーが如何に
米国のポピュリズムの反乱を
利用したか
この男は米国で最も
危険な政治工作員だ
スティーブ・バノンは、広大な
右翼陰謀を展開・・・
共和党で最も大きな
力を持つ女性
秘密主義のマンハッタンの女性
相続者レベッカ・マーサーがいか
にして政界で最も大きな力を持
つ女性の一人になったか
最も興味深いソースのうちの3っつは、選挙の勝利に貢献した人々です。資本家の
ロバート・マーサー。その娘、レベッカ。そして、スティーブ・バノン。バノン氏の映像
メディア、ソーシャル・メディアのネットワークは、マーサー家の提供する資金で設
立されました。
バノン氏は、彼の言う「行政国家の脱構築」を信奉しています。これは、要するに、
政府の機能をラジカルに縮小しようという試みです。
マーサー氏は、秘密主義的ですが、それでも、政治という非常に公の営みに参加
せざるを得ないと感じました。彼の見解について得られるわずかな情報によると、
彼は、政府関係者を忌み嫌い、彼らのいわゆる専門能力のほとんどが間違ってい
ると考えているようです。彼は同僚に、広島・長崎の放射性降下物が日本人をより
強くした、自分は米国が全面核戦争を生き延びることができると考えている、と
語ったと伝えられています。
彼の娘、ここに写真がありますが、共和党内で非常に活発に活動し、現在の党指
導部の力を奪い、とってかわろうと動いてきました。
23
トランプは政府資金による科学・研究を
信じないし、支持しない
トランプの気候変動政策に
対するControl-alt-delete
トランプの無謀な米海洋大気局
(NOAA)資金剥奪計画
トランプ氏のエスタブリッシュメントの定義には、自然科学者その他の学者が含ま
れます。これは驚くべきことではありません。そして、これは、昔から米国の選挙民
の一部にある、相当に強い反知性、反エリートの偏見を反映したものです。
トランプ氏はものを読みません。言語学者は彼の演説、例えば、最近の議会に対
する演説ですが、これを、小学校の読書レベルと評価しています。米国の新しい大
統領は、彼の情報の多くをタブロイド紙やテレビのニュースから得ていると伝えら
れています。
トランプ氏は、また、全てのニュースが操作されているか、偏向していると考えてい
ます。彼は、多くの問題について科学的コンセンサスが存在するということを受け
入れようとしません。気候変動とか、核戦争の影響とか。伝統的に、科学的方法や
厳密に検証されたデータや分析を使って議論されてきたものについてです。
最後に、そして、最も重要なのは、トランプ大統領は彼の信じるところと矛盾する情
報源について、大っぴらに敵対的な態度を示していることです。例えば、トランプ政
権は気候に関連した米国政府のデータベースを組織的に一掃しました。そして、
海洋大気局(NOAA)の予算をバッサリと削りました。海洋大気局は、トランプ氏が
米国のウェブサイトから一掃した天候・気候のデータの主要なソースとなっていた
ところです。
24
トランプと議会共和党との関係、
波乱の船出
就任から2週間。ドナルド・トランプはすでに共和党議員をうんざ
りさせている。行政府の行動により政策を一方的に実施すると
いう彼の結論は、ホワイトハウスと議会の間の伝統的な関係に
反する
最後に、覚えておくべき重要な点があります。トランプ氏は、共和党あるいはその
指導部の内部に個人的なネットワークを持っていないし、それに対する忠誠心もな
いのです。トランプ氏は、共和党指導部と日常的に相談することもないし、決定を
行う前に伝えることもしないという状態です。
トランプ氏は最近オバマ大統領のヘルスケア政策を廃止し別のものに変えようとし
て失敗しました。共和党が上下両院で多数派であるにもかかわらずです。これはト
ランプ氏と彼が代表していることになっている政党との間の距離を示すものです。
25
トランプには
外交政策がない
トランプ・ドクトリンなんてものはない。
あるのは、支離滅裂な滅茶苦茶だけだ
最後に、覚えておくべき重要な点があります。トランプ氏は、共和党あるいはその
指導部の内部に個人的なネットワークを持っていないし、それに対する忠誠心もな
いのです。トランプ氏は、共和党指導部と日常的に相談することもないし、決定を
行う前に伝えることもしないという状態です。
トランプ氏は最近オバマ大統領のヘルスケア政策を廃止し別のものに変えようとし
て失敗しました。共和党が上下両院で多数派であるにもかかわらずです。これはト
ランプ氏と彼が代表していることになっている政党との間の距離を示すものです。
26
ドナルド・トランプの核兵器についての姿勢、
広島の古傷を疼かせる
核軍備管理、核軍縮の提唱者らの間での最大の懸念は、核兵器の使用について
のタブーを彼が無視しているように見えることです。広島・長崎の原爆投下以来続
いてきたタブーです。
トランプ候補は、韓国や日本による核兵器開発を許すことに反対していないと述べ
ています。
どちらも、将来の核政策についての決定的兆候とみなすことはできません。しかし、
どちらも、これまでの米国の大統領の言動とは大きく異なるものです。
27
「軍拡競争で結構」:ドナルド・トランプは
リスクを承知で核拡大に掛けるつもりの
ようだ
トランプが軍拡競争の脅しを誰に向けているのかは不明
だが、彼はプーティンから「国際舞台での協力」を呼びか
ける書簡を受け取ったと述べている
トランプ大統領は、自分の明確な考えというのをほとんど持っていないため、どん
な問題についても、突然に、責任のある閣僚に相談することも知らせることもなく、
変える用意が大統領にはあるため、彼は米国の情報機関とか、本職の外交官、あ
るいは政府の科学者やアナリストを信頼していないため、そして、常識を無視し、
政治的タブーを破ることを楽しんでいるように見えるため、外交・防衛政策に関す
る決定は、予測不能であり、永遠に予測不能であり続けるでしょう。
ある瞬間に彼が言うことはどれも、それがどれほどの確信がその裏にあるように
見えようと、いつ変わるかわかりません。
28
Asia Example: Trump’s Flip-Flop on Taiwanアジアの例:台湾をめぐるトランプのドタバタ劇
トランプを予測不能にしているこれらの特性の全てが、米中関係に直接的な影響
をもたらしました。大統領に就任してもいない段階です。
核の脅し、そして、核使用の可能性というのは、悲しいことに、米中のワースト・
ケース・プラニングの一部です。米中の間で軍事的衝突があった場合に備えての
ものです。
米中間の紛争で核の脅しあるいは核使用に至る可能性のある数少ない紛争の一
つ――おそらくは唯一の紛争――は、中華民国の独立国としての地位という問題
に関する相互の意図の不確実性です。
次期大統領となった時点でトランプは、この極めてセンシティブな問題を弄びまし
た。国務長官も選んでない段階でのことです。どうも、彼は即興的にこれをやった
ようです。中華民国の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統との電話会談についての批
判、彼がフェアでないエリートや専門家の批判と受け取ったものに対する反応です。
29
トランプ、「一つの中国政策」に異議
電話についての質問、そして、それが現存の米国の政策に反しないかとの質問に
対し、次期大統領のトランプは、こう答えました。自分はそのような政策に縛られは
しない。台湾の独立国としての地位に関する米国政府の立場は変わり得る。彼は、
中国と米国の貿易問題を変更するパッケージ・ディールの一部として交渉すること
もできるとさえ示唆しました。
30
US Asia Analysts Praised His Bargaining Skills米国の中国アナリストはトランプの交渉術を称賛
トランプの中国交渉のわざ
トランプはいかにして「一つの
中国」政策から離脱しうるか
米国のオブザーバーの中には彼の発言について心配するものもいましたが、中国
に挑んだことでトランプをほめるものもいました。彼らの主張は、これはトランプの
伝説的な交渉術がアジアの勢力均衡を米国にもっとずっと有利なように動かし得
ることを示す例だというものです。
31
中国:トランプ、「一つの中国」政策について方針逆転
ところが、突然、なんの前触れもなく、自分で台湾問題を弄んでから2か月後、トラ
ンプ氏は考えを変えました。中国から何の明確な譲歩も引き出すことなくそうした
のです。貿易についても他のどんな問題についても。
32
トランプ、台湾方針転換。中国優位に。
米国の外交政策・防衛関係者、そして、多くの同盟国の政府は、台北の政府も含
め、トランプが挑発的な、軍事的影響を伴う可能性のある政策変更から一歩引い
たことについてほっとしました。何の相談もなく、また、事前に見通しを立てることも
殆どなく行なわれたと思われる政策変更でした。
しかし、彼らは、心配もしています。トランプのドタバタ劇が他の問題に関する将来
の交渉において中国を有利にするのでないかというものです。
トランプは、アジアにおけるもっとも重要で危険を孕む外交問題の一つにおいて、
交渉術により突破口を開いた素晴らしいビジネスマンではなく、弱々しく優柔不断
に見えました。
33
トランプの「一つの中国」の確認は
誰も欺けない--とりわけ中国は
不確かなままにとどまっています。
トランプ氏は、またその考えを変えるかもしれません。そして、アジアにおけるすべ
ての関係者は、トランプの言葉は信用できるのかという当然の疑問を持っていま
す。
フロリダにおける中国の習近平国家主席との間の短い出会いは、両国の多くのオ
ブザーバーらが想定したよりもあらゆる意味においてずっと良かったようですが、
そこで何が起きたにせよ、トランプの基本的行動パターンは変わりません。という
ことは、常にセンシティブな米中関係は、改善しそうになく、ずっと悪くなるかもしれ
ないということです
34
スイスチーズ大統領体制:トランプ
が主要ポストに人を充てられない
ことがなぜ米国を弱くするか
フロリダ訪問は、習近平にとってトランプ氏を直に観察する機会になりました。習近
平は米国の相手には補佐官もアドバイザーも付いていないことに気づいたでしょう。
普通、米中の首脳会談にはこういった人たちが準備をし、参加するものです。
実際、習近平が協議のための現存のメカニズムを拡大することに同意したのはそ
のためかもしれません。なぜなら、中国側は米国より準備ができている、つまりは、
議題を設定するのに有利な立場に立てるだろうからです。これは、両国の二国間
協議において大きな変化を意味します。
35
“Keep
your
friends
close, but
your
enemies
closer."
「友は近
くに置け。
だが、敵
はもっと
近くに」
最近のフロリダでの出来事の印象から、ほとんどのオブザーバーたちは二人の指
導者がいい個人的関係を築いたとみているようです。しかし、私は、このストロン
グ・マンとみられている二人は、どちらも、究極的ストロング・マンの映画、ゴッド
ファーザーのファンだということを思い出してしまいます。
二人がお互いを安心させようと気を使ったということについて余り深読みをしない
方がいいと思います。
36
The Man and the Mythその男と神話
もっと大事なことがあります。それは、中国の国家主席がトランプの性格や知性に
ついて評価する素晴らしい機会を得たということです。
トランプが尊敬される人物となるきっかけとなった本を実際に書いた人によると、中
国の国家主席は、すぐにわかるだろうというのです。この本で描かれている男は神
話であるということ、自分の前に座っている男は、感銘を与える、称賛に値する、
感じがいいなんて言うにはほど遠いということを。
私は異文化教育者として、考えることがもう一つあります。このような状況での長
時間の明確な御膳立てのない個人的接触では、偏見が露呈しがちだということで
す。非常に用心深い話し手の場合もそうです。ましてや、トランプ氏に見られるよう
な自由奔放な考えが噴出してくる場合には。
37
アジアにおける核戦争遂行のための「テイラード」核オプション要求の裏にある考
えが危険なのは、それが核使用の敷居を低くしてしまうからです。このような兵器
の開発をなぜするか。その核心はまさにこの点にあるのです。
これらの核兵器はまだ開発中で、アジアへの配備に向けて進むという確固たる決
定はまだなされていませんから、UCSとしては、これ以上進む前に止められるので
はと考えています。
人々の関心が高まること、米国とこの地域の両方においてですが、それが、政策
決定者らに核使用の敷居を下げることが賢明かどうか再考するように促す第一歩
です。この地域では軍事的緊張が高まっており、中米関係が控えめにいってもま
だまだ弱い状態なのですから。
これで、私の準備した発言を終えたいと思います。この問題についてのご質問、あ
るいは、トランプ時代における米国の核政策に関するもっと幅広い議論にこれがど
う関連するかというようなご質問があればお答えしたいと思います。
38

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