社会の芸術フォーラム20150918
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多文化主義だとかアイデンティティ・ポリティクスだとかの基礎的な話をしました。ただし、日本には多文化主義という理念そのものが存在しないので、人によっては応用的な内容に感じられるかもしれません。
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社会の芸術フォーラム20150918
- 3. 人種主義racismとは、人間や社会の優劣を人 種の違いに帰属させるイデオロギー。遺伝や 文化の差異を本質的なものと捉える特徴。 「人種主義の世紀」 1850年から1950年 この場合、遺伝的差異に注目する科学的レイ シズムを指す。科学的には根拠なし。 「人種主義の変貌」 1960年代以降 この場合、言語・宗教・伝統・慣習などの文 化的差異を重視する文化的レイシズムを指す。 （「韓国人はずるい」）
- 4. アングロ・コンフォーミティ （1780～1900 年代） 「移民はイギリス的な制度や慣習に服属すべ き」 19世紀末から20世紀にかけて、しだいにイギ リス文化を優位視する偏狭な人種主義と一体化。 人種のるつぼmelting pot論（1900～1960年 代） さまざまな人種や民族が融けてまじりあう「る つぼ」を理想とする。実際には移民が支配的な 文化に混じり込むだけであるため、実態として
- 5. 佐野氏「すべての色を混 ぜ合わせるとできる黒で 多様性を表現」 この発想は典型的な「る つぼ」論であって、同化 主義の一種。多様性の対 極に位置する表象。 本番採用されていれば恥 をさらしていた。
- 6. 同化主義は人種主義に対抗するために提唱され たが、じつは支配集団であるWASPの優位性を まったく疑わない思想であり、人種主義とは親 和的。 現代の統計的な調査でも、同化主義的な質問に 賛成する人ほど、排外主義的な傾向があること がわかっている。日本も例外ではない。 欧米諸国では、同化主義は差別主義と同義語と 捉えられている。（多文化主義は挫折したと主 張する人でも、同化主義がいいとまではいわな い。それをいうのは極右のみ。）
- 8. 第一期は、おもにヨーロッパからの後期移民を想 定。既存文化への順応を疑っていない。 60年代に入ると、そうしたマジョリティの傲慢さ が批判されるようになる。移民がモザイク状に特 性を保持したままであるのは、そう望むからだけ でなく、ホスト社会から差別されて仕方なくそう ならざるをえないという面も。 そこで、社会・経済的な地位は統合（＝平等化） する一方で、文化的には同化しない状態を理想と する、新しい多文化主義が唱えられるようになっ た。これが、現在の多文化主義。
- 9. ざっくりいうと： ① 同化主義の問題を告発する運動はアイデ ンティティ・ポリティクスと呼ばれる。 ② 多文化主義はアイデンティティ・ポリ ティクスへの解答。 ③ アイデンティティ・ポリティクスには弊 害もあり、多文化主義も必然的に進化を 迫られてきた。
- 10. 人種、宗教、ジェンダー、性的指向など、何ら かの差異を共有するとみなされる集団（アイデ ンティティ集団）ごとに社会的資源が偏って分 配されがち。 そうした偏りは差別と呼ばれ、対抗運動を惹起 するが、そのあり方は二つの運動様式に大別さ れる。普遍的な市民としての平等な分配を勝ち 取るための運動（分配の闘争）と、個々の集団 としての要求に見合った公平な分配を勝ち取る ための運動（承認の闘争）。 キング牧師らの公民権運動とマルコムXらのブ ラックパワー運動
- 11. アイデンティティ・ポリティクスとは、アイデ ンティティ集団を単位としてさまざまな社会的 資源の獲得を目指そうとする運動。 多くの場合、当該社会で歴史的に周辺化されて きたマイノリティによる自己決定権や差異の承 認要求としてたち現れる。60年代から活性化。 アイデンティティ・ポリティクスの獲得目標を 「差異への権利」と表現したり、その運動様式 のことを「承認の闘争」と呼ぶこともある。 日本語の中に該当する熟語は存在しないが、 「当事者主権」「当事者運動」など。
- 12. ① 普遍的な「市民」や「国民」に同化するのではな く、アイデンティティ集団の異なった扱いに関す る承認を求める。自己決定権の要求。 ② 多様な社会的資源のうち、物的資源の公正な再分 配を追求するだけでなく、文化的資源と関係的資 源の剥奪をも異議申し立ての対象に含む。とりわ けアイデンティティ集団に付与される否定的な威 信を撤回させることが目標となる。 ③ 同じアイデンティティ集団のメンバーを手段的に も情緒的にも動員しやすいため、相対的に運動を 生起させやすい。（○○しないのは同胞じゃな
- 13. カナダのケベックなどにみられる地域的マイノ リティの独立運動は、文化的差異の承認とアイ デンティティ集団による自己決定を求める典型 的なアイデンティティ・ポリティクス。 エスニック集団のアイデンティティ・ポリティ クスは、居住国に対して文化的独自性を尊重す る多文化主義を要求する形で表出する。 ポスト・コロニアリズムの文脈における帝国主 義批判も、支配的な価値意識の転換と自己決定 を求める告発。
- 15. ① 同化主義の立場からは、《わがまま》な権利要求 だという反発を招く。（民族教育なんか私費でや れ） ② 普遍主義の立場（例えば共通の労働者の権利を求 める階級闘争）からは運動を分断しているように 見えるため《裏切り》だという批判を受ける。 ③ アイデンティティ集団が特定のカテゴリーによっ て表象されると、その集団内部における差異が結 果として不可視化される弊害があるため、とりわ け多重マイノリティからは《過剰な代弁》である との告発が寄せられる。この告発はクリティカル。
- 16. アイデンティティ・ポリティクスは、今日のマ イノリティ解放運動において議題設定の大前提 とも言える位置を獲得している。 とりわけ同化主義を装った人種主義に、社会と して対抗すべきだという理念を持つ国々におい ては、多文化主義という形でアイデンティ ティ・ポリティクスのへの回答が試みられてい る。 しかし、アイデンティティ・ポリティクスへの 反発を乗り越えなければ持続可能な理念になら ない。
- 17. ざっくりいうと： 日本には理念としての多文化主義もなければ政 策としての多文化主義もない。 しかし、在日コリアンはアイデンティティ・ポ リティクスを実践してきた。民族組織はもちろ ん、個々人による生活多文化主義Everyday multiculturalismの実践も。 さらに、近年、若い在日コリアンの中に、伝統 的なアイデンティティ・ポリティクスを乗り越 えようとするポスト・アイデンティティ・ポリ ティクスの試みがみられる。
- 18. 移民統合政策指数 MIPEXは多文化主義政 策の実施度の尺度。 167もの評価項目。 日本は総合評価で37か 国中32位（韓国は13 位）。「差別撤廃」 部門ではぶっちぎり の最下位。 日本に多文化主義政 策は存在しない。
- 19. 「多」文化主義というからには「単」文化主義 （同化主義と同義）というのもあって、ウィキ ペディア英語版にはこういう不名誉な記述が。 「単文化主義とは、外的な影響を排除すること によって能動的に民族文化を保護しようとする こと。日本、韓国、朝鮮は単文化主義の典型。 通常、単文化社会は以下の要因によって成立す る。人種的均質性、ナショナリスティックな性 向、地理的孤立、政治的孤立（しばしば全体主 義体制）。ナチスドイツは…」 前スライドの通り、韓国は政策レベルではすで に単文化主義を離脱している。
- 20. 民族教育を守る運動（阪神教育闘争1948年） 帰国運動（1959年～）に触発されチマチョゴ リ制服 日本学校に通う子どもたちの本名宣言。生活多 文化主義の典型的な実践 帰化者による民族名を取り戻す運動（1985年 ～） 民族文化祭での伝統音楽、舞踊（1980年代 ～）
- 21. 関西でヘイトスピーチへの対抗運動を主導する 人々が発起人。2013年から。 当初の運営メンバーの過半数は朝鮮半島にルー ツを持つ人々。しかし、在日コリアンのアイデ ンティティ・ポリティクスという形をとらず、 標語は「あらゆる差別に“NO”を!」「大阪に誰 がおってもええやん」 「だって、（在日コリアンだけの運動なんて） ダサいでしょ」（凡：主要メンバーの一人） とはいえ、けっして普遍主義的な運動というわ けでもなく、複数のIPの連帯を志向した運動。 セクシュアル・マイノリティ、在日華人なども。
- 23. 趙成珠さんのブランド「そんいチョゴリ」 「何でもない日に着るチョゴリ」というコンセプ トで作る普段着向けの韓服。ルーツは愛知朝鮮高 校のギャル文化と朝鮮学校教員の仕事着。 チマチョゴリ制服での通学中に日本人男性から殴 られた経験があり、抑圧や差別の象徴へ。 抑圧や差別、伝統のしがらみからチョゴリを解放 する実践として、きゃわチョゴリを制作する。 東京大行進では日本人とともに着用。（じつは、 そのうち一人は出自を明かせない在日コリアン）
- 25. 壁がなければ同化主義を 装った人種主義からも守 られなくなる。 一方、壁に固執すればIP の陥穽にとらわれてしま う。 壁を取り払うのではなく、 「壁を前提として橋を架 けること」がポストIPの 大切なメタファー。
- 27. アイデンティティ集団としての行動でありな がら、他の集団の行動への架橋を試みる。 and/or アイデンティティ集団としての要求を意識し ながらも、個人を行為主体とする。 （「個人が承認されることが多文化主義の前 提」というのがフォーラム全体を貫くテーマ だったが、じつはポストIPのイメージ）
- 28. 日本では、支配社会がIP（マイノリティの価 値や自己決定権）を承認しない同化主義の 環境下で、マイノリティ側が一定の痛みに 耐えながらIPの超越を試みている状態。 IPの超越（メタ）は、IPの価値を理解できな い者にはただの同化（ベタ）に見える。メ タをベタ扱いする２周遅れの現状。 「壁」の価値を理解し、さらに「壁を前提 として橋を架けること」の重要性を理解す ることが求められる。