20091107レジュメ
- 2. 1.【図書紹介】 「 禁酒法 ~『酒のない社会』の実験~」 岡本 勝 著 ・講談社現代新書(新書) ・ 1996 年 1 月発行 ・ 215 頁 「高貴な理想」とは裏腹に、 もぐり酒場の隆盛、 密輸・密造業者の暗躍をもたらした禁酒法とは? 華やかな「ジャズ・エイジ」を背景に問う。
- 3. 2 .【禁酒法概要】 ※ 「禁酒法」という法律が存在していた訳ではない。 ( 1 )アメリカ合衆国憲法 修正第 18 条 「合衆国及びその管轄権に従属するすべての領土において、 飲用の目的で 酒精飲料を 醸造、販売若しくは運搬し、又はその輸入 若しくは輸出を行うことを禁止 する。」 ( 2 )ボルステッド法 上記「アメリカ合衆国憲法 修正第 18 条」を実施する為の法律。 飲用酒類の扱い禁止を定めた憲法と、その実行の為の法律のセットが 一般に「禁酒法」として認識されている。 ※ 1920 年 1 月 16 日~ 1933 年 12 月 5 日までの約 13 年 10 ヶ月が「禁酒法時代」
- 4. 3.【 具体的内容 】 ( 1 )禁止された「酒類」 -> 0.5% 以上のアルコールを含有している飲料を 「酔わせる酒」として禁止。 ( 2 )禁止された行為 ->上記飲料の製造、販売、 運搬、輸出入 ( 3 )許可された行為 ->飲用 医療、工業目的の使用 宗教儀式での使用 法律施行前に家庭でストックされていた酒類の個人的消費
- 5. 4 .【成立の背景】 ( 1 )歴史的背景 ① アメリカの基幹構成員(最初期移民である清教徒の系統)の酒類観 ・酒=蒸留酒(バーボン・ウイスキー) ->醸造酒(ワイン・ビール)は対象外 ・酔う(泥酔)=神に背く行為 ・酒場=低層民(後発移民、非清教徒)の溜まり場、不道徳の温床 節酒・禁泥酔・反酒場の土壌や運動は 19 世紀頃から存在
- 6. ② 近代産業社会への変革 ・ 19 世紀後半頃から工業、農業で近代化が進む。 ・それに伴い、従業員の効率的な運用が求められる。 ->「素面」で規則正しく働く人間が必要となる。 ・当時の労働現場では、休息時間に酒が支給され、給料の一部と されていた。 ->アメリカには「飲んだくれ国」の別称が付いていた 産業界からも節酒・禁泥酔・反酒場の要望
- 7. ( 2 )世情的背景 ① 1910 年代~ 1920 年代は第一次世界大戦が各方面に 影響を及ぼしていた年代 ・当時の酒類製造、酒場経営はドイツ系が主流。 ->敵性国民の牙城と見られていて、規制強化の声が強かった ・戦争遂行のための戦時物資確保として、酒類や穀物に 民用制限が掛けられていた。 ② 各州での酒類規制状況 ・前掲の酒類観に基づく酒類規制法規が存在。 ->内容は異なっていたが「州禁酒法」と呼ばれていた。 歴史的・世情的背景をみると、当時のアメリカ国民は 禁酒法を我々が思っているほど唐突、極端な法律とは 感じていなかった。
- 8. ( 1 )酒類業界の力を削減できた。 ->敵性国民であるドイツ系のアメリカでの勢力低下。 ( 2 )あれば飲んでた人が、無理してまで飲まなくなる 禁酒法直前頃のアメリカ国民 1 人あたりのアルコール消費量 7~11リットル(総アルコール量) 禁酒法終盤の 〃 4リットル(総アルコール量) ->酒=賃金の一部とするような社会からの脱却 ( 3 )一般市民の酒代が健全的消費に向かう ->アメリカの物質消費時代(ジャズエイジ)の到来に一役買う 5.【禁酒法のメリット】
- 9. ( 1 )成立に当たり妥協が繰り返された ->絶対的禁酒派(ドライ派)⇔穏健的禁酒派(ウェット派)の対立が 根強くあり、成立の為には両派とも妥協点が必要だった。 ↓ 広い解釈の可能な抜け穴だらけの法律となった 例)①法律施行前に所持してた酒の飲用OK ->ヤミ酒に古い製造年月日のラベルを貼って誤魔化す。 ②医療用OK ->ビール=胃腸薬、ウイスキー=気付け・保温薬の処方箋発行。 ③自宅で 0.5% 以下OK ->偶然 0.5% 以上が出来上がったので、直ちに家庭内で飲用した。 ( 2 )各州の自治 ⇔ 連邦での連携不調 ->アメリカは各州の自治が強く、既に州禁酒法を採用していた州は 連邦の規制、介入を良しとせず、取締りに非協力的。 6.【禁酒法のデメリット】
- 10. ( 3 )経済法的な法律 (国税関係の管轄) 一般市民が違反しても罰金、押収程度の罰則 ↓ 人々の順法意識が希薄で強制力に欠ける 例)①ヤミ酒を購入したり、もぐり酒場に対する罪悪感が希薄 ②カナダやヨーロッパからの酒類持ち込みが後を絶たない。 ↓ 今で言うなら、ポルノ雑誌をダメ元でお土産に持ち込む感覚 ( 4 )ヤミ酒、もぐり酒場の横行 前述の順法意識の希薄化と相乗効果 ↓ ① 一軒酒場が廃業すると、二軒のもぐり酒場が開業する。 ② もぐり酒場は身分をしっかり見極めた会員制のところが多かった。 -> 若者や女性が安心して飲める場となり、飲酒の裾野が浅く広く拡大。
- 11. ( 1 )時代の潮流の変化 ①第一次世界大戦終了に伴う各種戦時規制の不要化 ② 1930 年代大恐慌による経済不活性化 ③法律の問題点が次々と浮かび上がり、人々の不満蓄積 ↓ 禁酒法の役割終了論、廃止論の主流化 ( 2 )反禁酒法グループの宣伝攻勢開始 「禁酒法がきっかけでギャングが勢力を拡大している」 ->禁酒法時代に対する現代人のイメージ 「酒税収入は恐慌からの脱却手段」 1933 年 12 月 5 日、「アメリカ合衆国憲法 修正第 18 条」を 廃止する「アメリカ合衆国憲法 修正第 21 条」が採択され、 それに伴いボルステッド法が廃止。 禁酒法は終焉を迎え、「高貴な実験」は終了と相成った。 7.【禁酒法の終焉】
- 12. ( 1 ) 「禁酒法」 というより 「制酒法」 と捉えるべき ( 2 )当時のアメリカ及びアメリカ人には「禁酒法」を受け入れる 下地が存在していた事を認識しておかないと、禁酒法及びその 時代に対する誤認が発生する可能性有り。 ( 3 )ギャング云々はプロパガンダの面がある。 ギャングの勢力拡大は禁酒法以前であり、「禁酒法=ギャング拡大」 とは言い切れない。また、一般人を巻き込んだドンパチは大げさ。 ( 4 )嗜好品を規制する場合は、身近な組織(家族、自治体くらい)で 止めておくべき。大きな組織で網を掛けようとすると歪が出る。 ( 5 )禁酒法のメリット:デメリットは3:7くらいか? ( 6 )お酒は美味しく楽しく適量で! 8.【総括、私見】