SlideShare a Scribd company logo
1 of 1
研究の背景と目的
関節リウマチ(RA)に対する生物学的製剤による治療は、本邦では
2003年にインフリキシマブが初めて臨床使用認可され、以後現在に至る
まで計8剤が使用可能となっている。当初は、生物学的製剤は古典的疾患
修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)とは分けて語られることが多かったが、
2014年にSmolenらが提唱した新しいDMARDsの分類法では生物学的製
剤はDMARDsの一つに組み入れられている。メトトレキサート(MTX)な
どの古典的DMARDsはConventional synthetic DMARD(csDMARDs)、
トファシチニブなどの標的が明らかな新規経口DMARDsはTargeted
synthetic DMARDs (tsDMARDs)、先発製品としてのBioはBiological
originator DMARDs (boDMARDs)、そして後発製品のバイオシミラー
はBiosimilar DMARDs (bsDMARD)と4種類に分類された。
生物学的製剤の有用性については改めて述べるまでもないが、
tsDMARDsやboDMARDsが登場してきた中でboDMARDs全体としての長期
成績を知ることは重要かつ必須の研究テーマと考えられる。欧州リウマチ
学会のレコメンデーションではcsDMARDs治療の効果が不十分のため
boDMARDs治療に入った場合、通常は治療目標に達するまで、ある生物学
的製剤は継続され、あるいは製剤変更を繰りかえされ、続けられる。本研
究ではboDMARDs治療(以下はこれをBIO治療とする)全体をひとつの治
療法と考え、全体としての治療成績を求めると同時に、長期継続に寄与す
る因子を解析し、またBIO治療中止例についても焦点をあて解析を試みた。
症例と方法
結果
考察
Department of Rheumatology, Toyohashi Municipal Hospital,
Corresponding Author: Yuji Hirano (yu-hr@sf.commufa.jp)
利益相反申告の有無 : 有 エーザイ株式会社+アッビー合同会社、田辺三菱製薬
より講演料があります。
■ 対象症例
2003年から2013年の間に当科にて初めてBIO製剤を導入され、その後
の経過が十分に把握できたRA254例を研究に使用した。他施設でBIO治
療を開始され、当科に紹介された症例は除外した。
■ 研究の方法
これらの症例について後ろ向きに調査解析した。調査・解析項目は①
BIO導入時患者背景とその経年的変化、②使用したBIO製剤種、③BIO治
療の継続率(Kaplan-Meier法)、④継続例と中止例のBIO治療開始時患者
背景の比較検討、⑤継続例と中止例の最終観察時疾患活動性の比較、⑥
BIO治療の中止理由の6項目とした。
あるBIO製剤から別のBIO製剤への変更はBIO治療の継続と定義し、6か月
以上BIO治療を施行しなかった場合BIO治療中止と定義し、その後BIO治
療を再開することがあってもそれは検討には加えず中止症例として扱った。
また、当科においてはBIO治療を安全に継続することを目標とし、いわゆ
るバイオフリーを目指した治療は積極的には行っていない。
■ 統計
Mann-Whitney U-test、Wilcoxon signed-rank test、Chi-square
test、Multivariate logistic regression analysisを適宜使用しp値が0.05
未満を統計学的有意と定義した。
研究の背景と目的
本研究はBIO治療全体のアウトカムを調査した稀な研究と考えている。
結果のまとめとしては以下のとおりである。(1)中~高疾患活動性症
例にBio治療が導入されていた。最高齢は82歳で、MTXは約86%の症例
に併用され、その最大用量は週16mgであった。身体障害者3級以上の症
例が約37%だった。患者背景は経年的に変化した。(2)使用した製剤
数は最大4製剤で74%は1製剤だった。(3)Bio治療の継続率は1年で約
90%、3年で約80%、5年で約75%だった。最初の1年が最も脱落率が高
かった。(4)Bio中止にはMTX非併用と合併症、中でも耐糖能異常の有
無が関連した。(5)最終観察時においてBio継続例では中止例と比較し
て疾患活動性が有意に抑えられていた。(6)中止理由で最も多いもの
は感染症で、中でも呼吸器感染症がその半数以上を占めた。
本研究結果から考えるBio治療継続のポイントについては、以下の点を
考えた。(1)BIO治療の長期安定継続については、患者選択によると
ころは大きい。栄養状態の良い例、耐糖能異常のない症例やMTX使用可
能症例などでは継続の可能性が高くなる。(2)BIO治療の中止要因の
最大はやはり感染症である。予防対策を最大限なすべきで、当科の場合
まだ余地はある。(3)製剤の使用パターン(変更パターンも含む)に
よる継続率の差異の可能性はあるが、あまりにも多くの使用パターンが
あり解析は難しい。(4)寛解に入った後に、バイオフリーにすべきか
MTXフリーにすべきか、安全性と有効性の観点から今後検討がなされる
べきテーマと考えた。

More Related Content

More from Yuji Hirano (7)

関節リウマチにおけるMTX週16mg投与の有効性と安全性の解析 JCR2015
関節リウマチにおけるMTX週16mg投与の有効性と安全性の解析 JCR2015関節リウマチにおけるMTX週16mg投与の有効性と安全性の解析 JCR2015
関節リウマチにおけるMTX週16mg投与の有効性と安全性の解析 JCR2015
 
座談会 ABTの位置づけ
座談会 ABTの位置づけ座談会 ABTの位置づけ
座談会 ABTの位置づけ
 
ACR2014 poster
ACR2014 posterACR2014 poster
ACR2014 poster
 
Acr 2014 poster
Acr 2014 poster Acr 2014 poster
Acr 2014 poster
 
フォルテオによる骨代謝マーカーの変化に関する研究
フォルテオによる骨代謝マーカーの変化に関する研究フォルテオによる骨代謝マーカーの変化に関する研究
フォルテオによる骨代謝マーカーの変化に関する研究
 
関節リウマチにおけるエタネルセプトのシリンジ製剤からペン製剤への変更に関するアンケート調査
関節リウマチにおけるエタネルセプトのシリンジ製剤からペン製剤への変更に関するアンケート調査関節リウマチにおけるエタネルセプトのシリンジ製剤からペン製剤への変更に関するアンケート調査
関節リウマチにおけるエタネルセプトのシリンジ製剤からペン製剤への変更に関するアンケート調査
 
関節リウマチの骨粗鬆症に対するテリパラチド連日投与製剤の有効性 第16回骨粗鬆症学会
関節リウマチの骨粗鬆症に対するテリパラチド連日投与製剤の有効性 第16回骨粗鬆症学会関節リウマチの骨粗鬆症に対するテリパラチド連日投与製剤の有効性 第16回骨粗鬆症学会
関節リウマチの骨粗鬆症に対するテリパラチド連日投与製剤の有効性 第16回骨粗鬆症学会
 

バイオ治療の継続 JCR2015

  • 1. 研究の背景と目的 関節リウマチ(RA)に対する生物学的製剤による治療は、本邦では 2003年にインフリキシマブが初めて臨床使用認可され、以後現在に至る まで計8剤が使用可能となっている。当初は、生物学的製剤は古典的疾患 修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)とは分けて語られることが多かったが、 2014年にSmolenらが提唱した新しいDMARDsの分類法では生物学的製 剤はDMARDsの一つに組み入れられている。メトトレキサート(MTX)な どの古典的DMARDsはConventional synthetic DMARD(csDMARDs)、 トファシチニブなどの標的が明らかな新規経口DMARDsはTargeted synthetic DMARDs (tsDMARDs)、先発製品としてのBioはBiological originator DMARDs (boDMARDs)、そして後発製品のバイオシミラー はBiosimilar DMARDs (bsDMARD)と4種類に分類された。 生物学的製剤の有用性については改めて述べるまでもないが、 tsDMARDsやboDMARDsが登場してきた中でboDMARDs全体としての長期 成績を知ることは重要かつ必須の研究テーマと考えられる。欧州リウマチ 学会のレコメンデーションではcsDMARDs治療の効果が不十分のため boDMARDs治療に入った場合、通常は治療目標に達するまで、ある生物学 的製剤は継続され、あるいは製剤変更を繰りかえされ、続けられる。本研 究ではboDMARDs治療(以下はこれをBIO治療とする)全体をひとつの治 療法と考え、全体としての治療成績を求めると同時に、長期継続に寄与す る因子を解析し、またBIO治療中止例についても焦点をあて解析を試みた。 症例と方法 結果 考察 Department of Rheumatology, Toyohashi Municipal Hospital, Corresponding Author: Yuji Hirano (yu-hr@sf.commufa.jp) 利益相反申告の有無 : 有 エーザイ株式会社+アッビー合同会社、田辺三菱製薬 より講演料があります。 ■ 対象症例 2003年から2013年の間に当科にて初めてBIO製剤を導入され、その後 の経過が十分に把握できたRA254例を研究に使用した。他施設でBIO治 療を開始され、当科に紹介された症例は除外した。 ■ 研究の方法 これらの症例について後ろ向きに調査解析した。調査・解析項目は① BIO導入時患者背景とその経年的変化、②使用したBIO製剤種、③BIO治 療の継続率(Kaplan-Meier法)、④継続例と中止例のBIO治療開始時患者 背景の比較検討、⑤継続例と中止例の最終観察時疾患活動性の比較、⑥ BIO治療の中止理由の6項目とした。 あるBIO製剤から別のBIO製剤への変更はBIO治療の継続と定義し、6か月 以上BIO治療を施行しなかった場合BIO治療中止と定義し、その後BIO治 療を再開することがあってもそれは検討には加えず中止症例として扱った。 また、当科においてはBIO治療を安全に継続することを目標とし、いわゆ るバイオフリーを目指した治療は積極的には行っていない。 ■ 統計 Mann-Whitney U-test、Wilcoxon signed-rank test、Chi-square test、Multivariate logistic regression analysisを適宜使用しp値が0.05 未満を統計学的有意と定義した。 研究の背景と目的 本研究はBIO治療全体のアウトカムを調査した稀な研究と考えている。 結果のまとめとしては以下のとおりである。(1)中~高疾患活動性症 例にBio治療が導入されていた。最高齢は82歳で、MTXは約86%の症例 に併用され、その最大用量は週16mgであった。身体障害者3級以上の症 例が約37%だった。患者背景は経年的に変化した。(2)使用した製剤 数は最大4製剤で74%は1製剤だった。(3)Bio治療の継続率は1年で約 90%、3年で約80%、5年で約75%だった。最初の1年が最も脱落率が高 かった。(4)Bio中止にはMTX非併用と合併症、中でも耐糖能異常の有 無が関連した。(5)最終観察時においてBio継続例では中止例と比較し て疾患活動性が有意に抑えられていた。(6)中止理由で最も多いもの は感染症で、中でも呼吸器感染症がその半数以上を占めた。 本研究結果から考えるBio治療継続のポイントについては、以下の点を 考えた。(1)BIO治療の長期安定継続については、患者選択によると ころは大きい。栄養状態の良い例、耐糖能異常のない症例やMTX使用可 能症例などでは継続の可能性が高くなる。(2)BIO治療の中止要因の 最大はやはり感染症である。予防対策を最大限なすべきで、当科の場合 まだ余地はある。(3)製剤の使用パターン(変更パターンも含む)に よる継続率の差異の可能性はあるが、あまりにも多くの使用パターンが あり解析は難しい。(4)寛解に入った後に、バイオフリーにすべきか MTXフリーにすべきか、安全性と有効性の観点から今後検討がなされる べきテーマと考えた。