変化しない洞察として

1. MEMO
直観を磨くもの 小林秀雄対話集
160901

2. 直観を磨くもの 小林秀雄対話集
考える実験的精神の発芽
小林：感覚の鈍りだ。はっきりものを見ないのが根本だ。
三木：その見ているところから、ものを考えるということが実験的精神というものじゃないかね。
学問を究める
三木：誰でも自分だけがぶつかっている特殊な問題がある。そういうものを究めてゆくことが学問
だ。
Designをすること
小林：どうも私は・・・大作家というものを見ていると、その実生活と彼らの大きい、広い意味で
の思想生活というものは連続していない。連続していないということは、非常に深い意味ではむろ
ん関連がなければならない。なければ空疎です。あるのです。けれども要するに実生活というもの
を大体皆卒業したというのは実生活に勝った人です。勝たなければ表現というものは成り立たぬ、
そういう人です。もっとひらたい言葉で言うと、とにかくこの世の中に人間並みに生きているだけ
では足りなくなって、足りないから表現があるのですが、ただ、足りないでは足りなくて表現する
わけにはいかないから、実生活をほんとうに意識的に征服する。征服して一つ飛び上がってしまう。
そこに表現の世界があって、彼という本当の人間がもう一度そこへ現れてくる・・・。けれども弱
い作家というのはみな生活の方が進んでいるのです。それを追いかけているのです。それを乗り越
す気魄もなければ精神力もない。だからたいがい生活の方が強力ですよ。

3. 直観を磨くもの 小林秀雄対話集
文化的な素養を学ぶ
小林：本来、カルチュアという語は畑を耕すという意味だ。ジンメルなんかもはっきり言っていま
すが、例えば林檎の樹を栽培する、まずい林檎からインドやデリシャスのような奴ができる。する
とその林檎の樹は教養を受けた樹となる。
ところが林檎の樹を伐って家を建てる。こんなのはカルチュアじゃない。つまり林檎には実を結
ぶという素質があるわけで、その素質を耕すことがカルチュアを与えるということだ。林檎の樹に
は家になる素質はない、下駄になる素質もない。だから、林檎の樹を伐って下駄にしたり、家を建
てたりしても、林檎にしてみればカルチュアを与えられたことにはならぬ。そういう意味でカルチュ
アという言葉を使っているのです。日本に入ってきて、教養だとか文化などという言葉に訳される
と、そういう本来の意味がわけのわからぬことになり勝ちなのです。いろいろな知識を得る。その
知識がもし僕の素質を育てなければ、僕は文化人になったことにはならぬ。カルチュアを受けたわ
けじゃない。
綜合して考えるー分化して行くなかで見えなくなる、思慮が及ばなくなる
小林：・・・「古今集」の詩人は字の美しさと歌の美しと恋愛行為と皆一緒にして歌というものを
考えていた。・・・
折口：分解してふれて行くのが安易な道なので・・・綜合して感受する筈の人でも、やっぱり切り
離して言をいう・・・。

4. 直観を磨くもの 小林秀雄対話集
都合よく考えないー先行事例研究・同一手法の援用も同じ
小林：温故知新という事は難しですね。どうも逆に知新温故という具合になりたがる。現代の方か
ら歴史を観点的に解釈する傾向があります。その方が易しいですからね。しかしこれは本当の利益
にはなるまいと思うのです。文学も美術も時代の日常生活の裡に溶け込んでいる、その溶け込んで
いるところを直覚するという事が大事だと思うのです。… ex. 利休の美学
伝統は見えるもの
小林：僕は伝統というものを観念的に考えてはいかぬという考えです。伝統は物なのです。形なの
です。妙な言い方になりますが、伝統というものは観念的なものじゃないので、物的に見えて来る
のじゃないかと思うのです。
デザインをすること
小林：セザンヌという人は、特にいい画をかきだしてから、世間とは何の関係もないです。弟子も
なし、友人もなし。世界の情勢も、フランスの情勢も何も彼は知りはしなかった。全然引っ込んで
いて、画は出来上がったんです。そんなものがどうして全世界に訴えるのかね。実に不思議なこと
だ。実に不思議なことだと考えこまない奴は、僕は馬鹿だと思う。
対い続ける大切さ。
小林：調べると考えるとは全然違う事だ。「考へる」という言葉は、宣長の説では「対へる」とい
う意味なのだ。歴史を「考へる」とは歴史に親身に交わる事なんだ。「調べる」という言葉は、こ
れとは反対の意味合いの言葉で、対象を遠ざかって見るという言葉だ。
・・・今：「調べる」というのは、学問の行政化だよ。

5. 直観を磨くもの 小林秀雄対話集
意味ある間
今：空虚と不可解とは違う。
感覚で読み切る能力
今：読者の方にも、大衆小説を読むような具合で、副詞的な文章が納得しないような心理的現実ー
そんなものが日本の新聞にはあるんだよ。だから、非常に下手糞な小説家の文章になってしまう。
小林：それは、やはり結局は物を見る目の問題だと思うな。
今：そうだな。目を使わずに文章で見るんじゃないかな。初めからこう書こうと成心があるようだ。
現代はどれだけ無駄な情報に踊っているのか。残っているものには価値がある。
小林：昔の人は、面白くない事実など、ただ事実であるという理由で、書き残してきた筈はない。
あんまり面白い事があったから、語らざる得なかったのだし、そういう話は、聞く方でも親身に聞
かざるを得なかったのだ。
気をつけよう
小林：人に干渉したがる奴は、また人から干渉されて困るという奴なんだ。自分のことだけやって
いれば、それで愉しいという人が増えなくてはいかん。

6. 直観を磨くもの 小林秀雄対話集
河上：現代の歴史風潮には、歴史を自然の方に振り向けようとする、よくない傾向が強い。歴史を
自然に見たてて、これを合理的に辿っていれば片づくと思っている。
小林：人間が歴史を作るんじゃなくて、歴史の方が、人間を作っているだ、と。
本質（生命の源泉）はどこにあるか
河上：…彼は言うのだ。近頃の歴史家は海じゃなくて、海の泡沫ばかり見ている、と。つまり、歴
史的事実を重んじて、歴史の生命を見ない。歴史的事実という泡沫をいかに巧みに操作しても、歴
史という大海は作れない。彼は現代を事実の世紀だと言っているね。しかし、事実で時代は創れな
い。海っものは、その上で人が泳ぐものであり、魚を釣るものであり、航海するものである。ーそ
ういう風にいいなおして、海を生き物にして行くんだね、ヴァレリーは・・・。
自分本意の都合の良い見方をすることは容易いことであるが、本来、そこにあるものを、そこで育
くまれてきたものこそを、しっかり見・究めていくことで、直感は養われていく。