SlideShare a Scribd company logo
1 of 13
Download to read offline
病院救急部と在宅療養支援診療所の
円滑な連携に向けて
~救急搬送症例における在宅診療所からの
情報提供についての検討~
関東労災病院 救急総合診療科
遠藤拓郎、小西竜太、金井隆之、東岡宏明
【背 景】
• 高齢化の進展に伴い急性期病院への救急搬送件数
は増加傾向であり、地域における中核病院を中心と
した救急医療体制の整備が急務となっている。
• 当院は川崎市の急性期総合病院で、地域医療支援
病院の認定を受けており、二次救急を中心に一次や
三次(一部)救急にも対応している。
• 今後、在宅診療所からの紹介患者の救急受診が
増えることが予想され、円滑な受け入れができること
を目指している。
【目 的】
① 「救急搬送時に在宅診療所に求める情報が
どういったものであるか」を明らかにすること
② 「それが実際に得られているか」を明らかにすること
③ 「円滑な連携に向けて、どういった方策があるか」を
明らかにすること
【目 的 ①】
「救急搬送時に在宅診療所に求める情報がどういった
ものであるか」を明らかにすること
【方 法 ①】
1. 情報提供書に実際に記載されている項目の抽出
• 救急総合診療科に紹介された在宅診療所が定期訪問を実施
している38症例での情報提供書を使用
2. 抽出された項目の必要度について確認
3. 上記以外に必要な情報項目の抽出
• 2,3 についてはアンケート調査(医師12名、看護師8名)を実施
【結 果 ①】
1. 情報提供書に記載
されていた述べ項目
• 現病歴
• 内服薬
• 既往歴
• ADLと認知症の程度
• 直近の検査結果
3. それ以外に必要な項目
• キーパーソン
• 急変時の方針
• 薬剤(特に抗凝固薬)
• かかりつけ医の連絡先
• ケアマネージャの連絡先
• 経済状況
2. 項目の必要度について
• 上記の5項目すべてが
必要と答えた人は17/20人
• 3人は4項目が必要と回答
+
【目 的 ②】
「救急搬送時に在宅診療所から情報が十分に
提供されているか」を明らかにすること
【方 法 ②】
• 方法①と同一の38症例の
情報提供書を使用
• 結果①で得られた項目か
ら下記の7項目を採用 4段階の判定基準
項  目 配 点
① 現病歴 3点
② 現在の内服薬      1点
③ 既往歴  1点
④ ADLと認知症の程度 2点
⑤ 直近の検査結果 1点
⑥ キーパーソン 1点
⑦ 急変時の方針 1点
合 計 10点
合計点数 判 定
9点~10点 非常に十分
6点~8点 十 分
4点~5点 中 間
3点以下 不十分
非常に十分
十 分
中 間
不十分
【結 果 ②】
13 件
34.2 %
9 件
23.7 %
16 件
42.1 %
0 %
平均点 4.1 点
合計 38 症例
【目 的 ③】
「円滑な連携に向けて、どういった方策があるか」
を明らかにすること
【方 法 ③】
アンケート調査による自由記載
【結 果 ③】
円滑な連携に向けての方策
• 顔の見える関係の構築
• 診療所と病院間の情報の共有化および伝達システムの改良
• 定期的なカンファレンスの開催(例:無事に在宅に復帰した
症例カンファレンス)
• 他職種を交えた相互研修
【まとめと考察】
目的 ① について
• 今回の調査より、現在提供されている情報に加えて、
「キーパーソンが誰であるか」、「急変時の方針」を望む
声が多かった。
• 重篤な症例では、気管挿管や心肺蘇生、緊急血液浄化
などを早期に行う必要があり、その判断に大きく関与する
と考えられるためである。
【まとめと考察】
目的 ②、③ について
• 今回の調査から、情報提供書の内容について病院側は
十分ではないと判断していた。
• 一方、在宅医側の実情として、「情報が不十分でも早く
搬送することを優先させたい」、「定期往診のため臨時
往診を優先できない」といったことが考えられた。
• お互いの事情を相互理解できていないことが明らかに
なり、今後の課題として定例カンファレンスや相互研修
といった交流を行い、連携体制を強化する取り組みが
必要と思われた。
【結 語】
• 在宅療養支援診療所からの搬送における情報提供に
ついての課題を調査した。
• 様々な問題点が明らかになったが、相互理解ができること
で解決されるものが多いと思われた。
• 今後の円滑な連携に向けての取り組みについて提案した。

More Related Content

Similar to es 1 遠藤拓郎-病院救急部と在宅療養支援診療所の円滑な連携に向けて

地域医療シンポジウム救急研修2014
地域医療シンポジウム救急研修2014地域医療シンポジウム救急研修2014
地域医療シンポジウム救急研修2014敏雄 福岡
 
倉敷中央病院 救命救急センター 救急統計2013 2014
倉敷中央病院 救命救急センター 救急統計2013 2014倉敷中央病院 救命救急センター 救急統計2013 2014
倉敷中央病院 救命救急センター 救急統計2013 2014敏雄 福岡
 
金井病院魅力発信経営報告書
金井病院魅力発信経営報告書金井病院魅力発信経営報告書
金井病院魅力発信経営報告書Nobuyuki Kanai
 
Aichi kodomo
Aichi kodomoAichi kodomo
Aichi kodomomimonism
 
⾸都圏の在宅医療⽀援診療所における防災の取り組みとBCP(事業継続計画)の策定
⾸都圏の在宅医療⽀援診療所における防災の取り組みとBCP(事業継続計画)の策定⾸都圏の在宅医療⽀援診療所における防災の取り組みとBCP(事業継続計画)の策定
⾸都圏の在宅医療⽀援診療所における防災の取り組みとBCP(事業継続計画)の策定遠矢 純一郎
 
2013. 8.31 内閣府広域災害訓練を振り返って
2013. 8.31 内閣府広域災害訓練を振り返って2013. 8.31 内閣府広域災害訓練を振り返って
2013. 8.31 内閣府広域災害訓練を振り返ってYuichi Kuroki
 
災害拠点病院とは?
災害拠点病院とは?災害拠点病院とは?
災害拠点病院とは?Yuichi Kuroki
 

Similar to es 1 遠藤拓郎-病院救急部と在宅療養支援診療所の円滑な連携に向けて (7)

地域医療シンポジウム救急研修2014
地域医療シンポジウム救急研修2014地域医療シンポジウム救急研修2014
地域医療シンポジウム救急研修2014
 
倉敷中央病院 救命救急センター 救急統計2013 2014
倉敷中央病院 救命救急センター 救急統計2013 2014倉敷中央病院 救命救急センター 救急統計2013 2014
倉敷中央病院 救命救急センター 救急統計2013 2014
 
金井病院魅力発信経営報告書
金井病院魅力発信経営報告書金井病院魅力発信経営報告書
金井病院魅力発信経営報告書
 
Aichi kodomo
Aichi kodomoAichi kodomo
Aichi kodomo
 
⾸都圏の在宅医療⽀援診療所における防災の取り組みとBCP(事業継続計画)の策定
⾸都圏の在宅医療⽀援診療所における防災の取り組みとBCP(事業継続計画)の策定⾸都圏の在宅医療⽀援診療所における防災の取り組みとBCP(事業継続計画)の策定
⾸都圏の在宅医療⽀援診療所における防災の取り組みとBCP(事業継続計画)の策定
 
2013. 8.31 内閣府広域災害訓練を振り返って
2013. 8.31 内閣府広域災害訓練を振り返って2013. 8.31 内閣府広域災害訓練を振り返って
2013. 8.31 内閣府広域災害訓練を振り返って
 
災害拠点病院とは?
災害拠点病院とは?災害拠点病院とは?
災害拠点病院とは?
 

es 1 遠藤拓郎-病院救急部と在宅療養支援診療所の円滑な連携に向けて