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小松帯刀 幕末へ向けて影で支えた男の姿
- 1. 1 提出日 2016 年 8 月４日 人間文化学科 3 年 前田泰志 小松帯刀 －幕末へ向けて影で支えた男の姿－ 1 はじめに 小松帯刀(1835～1870)i を取り上げるきっかけとしては、鹿児島で幕末期に活躍した人 物として、西郷隆盛や大久保利通のように活躍をしているのにも関わらず、世間一般であ まり知られていないことが大きいことからであり、自分も大学に入ってから小松帯刀につ いて知ったので小松帯刀についてあまり知らない部分が多いことと、また小松帯刀が幕末 期にどのような影響を与え、その後どのような影響をもたらしたかについて興味をもった ことからである。先行研究としては原口泉氏が小松帯刀の活躍について総合的に記されて いるがここでは幕末期に焦点を絞って小松帯刀がどういった活躍をしたかについて考えて いく。 先行研究 （原口泉『龍馬を超えた男 小松帯刀』 グラフ社 (2008)ｐ５８より引用） ２龍馬と小松帯刀の出会いから薩長同盟へ 幕末の代表する歴史の中に薩長同盟がある。私たちは歴史の教科書の中で薩長同盟につ いては、長州の木戸孝允と薩摩の大久保利通らが京都で結んだということを中学の歴史や 高校の日本史で学んでいるが、薩長同盟を進めるにあたっては帯刀の存在も重要とされて いた。 原口先生によると帯刀と坂本龍馬が初めてであったことについてこのようにしめしてい る。 「軍艦奉行を罷免された海舟は、西郷に、神戸海軍操練所の塾生たちの身の振り方を相 談し、薩摩藩邸にかくまってもらえないかと依頼します。これを西郷に依頼された帯刀は 即座に快諾、龍馬らは、大坂の薩摩藩邸にかくまってもらえることになったのです。」 原口泉『龍馬を超えた男 小松帯刀』 グラフ社 (2008)ｐ78 より引用） 当時ここにいる者たちは幕府からしてみれば軍艦奉行でさえも罷免されてしまうというこ とは相当の危険人物であることがうかがえる。薩摩藩邸で龍馬や海舟をかくまってもらえ たことは西郷や帯刀などいわゆる薩摩の人柄のよさがあらわれているといえるのでないか と考える。その後も小松邸に集まって貞姫(さだひめ)の興入れ準備に使いまたこの屋敷が 近衛家から譲られたものであったのでまた当時から近衛家の家紋を利用していたことをか
- 2. 2 んがえると幕府の役人が簡単に近寄りがたい存在であったことについては変わりがなかっ たといえるのではないかと考える。 帯刀は龍馬とともに薩長同盟の締結に向けて慶応元年にこのような行動としたとされて いる。原口先生によると 「すでにこの年の五月には、薩摩に行った龍馬が、帯刀らと相談のうえ、薩長連合のた めの遊説に出かけていました。一方、幕府は、翌年になってからも、十四代将軍・家茂を 戴いて出兵しています。幕府に時勢を見る目がなかったというべきでしょう」 （原口泉『龍馬を超えた男 小松帯刀』グラフ社 (2008)ｐ このころからすでに新しい時代への改革を始めるべく薩摩をはじめとした諸藩が改革に向 け行動をしていたことは、幕府が長州征伐ii のことで躍起になっていたことがあげられ、 その間に帯刀は保護した神戸海軍躁練所の塾生を長崎に連れて行き、給料を払って航海に つかせ、龍馬は遊説が功を奏して７月に長州からのちに総理大臣となる伊藤博文と井上馨 らが亀山社中iii の上杉宗次郎のもとを訪れ、長州で武器を購入したいが長州名義で購入す ることができないので薩摩名義で購入することはできないかについて相談していたところ で帯刀らが動いたことからはじまっている。また条約締結に向けて薩摩藩がどのよう動き をしていたかについて佐々木氏によると 「小松、西郷、大久保らの在京首脳部は、長州藩の幕府にたいする態度を確認したかった のだと思う。」 （佐々木克『幕末政治と薩摩藩』吉川弘文館(2004)ｐ328 より引用） 薩摩藩内においても帯刀の行動力並びに交渉力が功を奏しているのからか長州藩が幕府 に対する信頼が長州征伐を二度も受けている段階ですでになかったとされていることから、 西郷や大久保も条約締結ということに向けて真剣に動いて交渉していったことが長州藩を なるべく早い段階で交渉の椅子につかしたい思いがあったのではないのかと考えられる。 八月に銃購入へ動いたことが契機となって、その二カ月後に長州が軍艦の購入でも薩摩、 特に帯刀が動いたこともあって、翌慶応二年にそれまで龍馬の遊説が功を奏して、京都の 小松邸で犬猿の仲であったとされる薩摩と長州が手を組み薩長同盟を結んだとされている。 つまり薩長同盟までにおける帯刀の行動として一概に言えるのは当時活躍していた西郷 や大久保らなど他の偉人同様に表だった活躍をしていないかに思われがちであるが、世の 中を変えるために一つなっている点では同じではあるが、西郷や大久保らと違ってあまり 表立った行動に出ずに裏でまずは薩長が一つになるために一生懸命準備していたというこ とは、いわゆる帯刀が縁の下の力持ちである点を龍馬が評価してくれて、かつ薩長同盟に 向けての交渉も円滑に進んでいったのではないかとされる。 3 その後について
- 3. 3 薩長がもたらした薩長同盟の締結によって幕末において政治に様々な混乱をもたらした とされている。この薩長の提携によって幕末期におこったこととしては大政奉還、王政復 古の大号令がある。大政奉還における小松帯刀の行動ついて瀬野氏によると 「皇国の御為に大政奉還の御英断、誠に感銘の至り存じ上げます。この上は一刻も早く 朝廷へ御奏上召されるようお願い申し上げます。」 （瀬野富吉『幻の宰相 小松帯刀伝 下巻』小松帯刀顕彰会(1986)p66～67 より引用） 帯刀は新しい時代を作るために当時犬猿の仲であったとされる薩長の同意と尊王攘夷派 の支持を得ただけで討幕にこのまま走るのではいけないのではと考えて 15 代将軍であっ た徳川慶喜との会談を幾度か行い、会談の中で大政奉還という政治の実権そのものを天皇 に返上する形にするべきではないかといったことが持ち上がったのではないかと考えられ る。つまり大政奉還という役人、庶民も納得いく形に持ち込んだことは帯刀の人柄のよさ や当時の混乱を生じていた社会情勢についても帯刀が一番理解していたではないのかと考 えられる。大政奉還後に政治が変わるのでないかと考えた帯刀らであったが、しかしなが ら新しい政府が動き出す姿勢がなかなか見られないこととこのような状況をひっぱってい るとまた幕府時代の停滞した流れに戻る可能性があることに危機感を感じていたことがあ ったからこそ王政復古の大号令に動いたのではないかと思われる。 ４終わりに 小松帯刀が幕末期に新しい時代を作るために坂本龍馬に出会い、出会ったことによって 仲たがいであった薩長を条約締結に結びつけるために、色々と奔走し条約締結に結びつけ たこと並びに幕府の討幕についても納得いく形で持ち込ませたことは、帯刀のような人柄 の良さ並びに行動力や交渉力にたけている人物がその後の明治時代における新しい政府に おいて重要な基礎を作り上げたことであることははかりしれないのではないのかと考えら れて、もし仮に小松帯刀のような人柄がよく、交渉力にたけている人物がこの幕末時代に いなかったら今の社会ももしかしたら今生きている価値観や社会とは全く違っている価値 観や社会の中で生きているのかもしれないのではと思われる。 ５参考文献 佐々木克『幕末政治と薩摩藩』吉川弘文館(2004) 瀬野富吉『幻の宰相 小松帯刀伝 上巻』小松帯刀顕彰会(1985) 瀬野富吉『幻の宰相 小松帯刀伝 下巻』小松帯刀顕彰会(1986) 原口泉『龍馬を超えた男 小松帯刀』 グラフ社 (2008) 根占献一「小松帯刀とその時代:特に外国交際」の観点から」学習院女子大学紀要 11 号 pp.71－91(2009)
- 4. 4 町田明広「元治元年前半の薩摩藩の諸問題:小松帯刀の動向を中心に」神田外語大学日本研究 所紀要 7 巻 pp.29－57(2015) i 幕末期の薩摩藩の重臣。 島津久光の側役になってから藩政改革に尽力し、人材登用に努めたこと から 1862 年 12 月に薩摩藩の家老になる。 ii 江戸幕府が元冶元年と慶応 2 年の 2 回にわたり長州藩の処分をするべく二度にわたって出兵した 事件のこと。ここでは元冶元年に起きた第一次長州征伐のことをさす。 iii 帯刀が保護した神戸海軍操練所の塾生の宿舎を亀山(長崎市)に用意したことから。また日本で最初 の商社といわれる亀山社中を結成したとされている。