脂質ナノ粒子について
ドラッグデリバリーシステムへの応用
目次
1. これまでの抗ガン剤
2. 副作用の克服に向けて
1.これまでの抗がん剤
• 抗ガン性抗生物質
• アントラサイクリン系
• アドリアシン
キーワード
1.これまでの抗ガン剤
「殺細胞性抗悪性腫瘍薬」
• ガン細胞の分裂(DNA合成)を阻害する
抗ガン剤
• 正常な細胞にまで働きかけるため副作
用が重い
例:吐き気
骨髄抑制
髪が抜ける
「分子標的薬」
• ガン細胞が産生する特異な物質に狙
いを定めて働きかける
• 副作用が軽くなる可能性がある
• 問題点
分子標的薬特有の副作用も確認され
ている。
参考 http://www.gan-info.com/kouganzai/syurui-bunrui.html
1.これまでの抗ガン剤
-殺細胞性抗悪性腫瘍薬-
• アルキル化薬
DNAの塩基に結合し正常な複製ができないよ
うにする抗ガン剤
• 代謝拮抗剤
DNAの合成に必要な塩基などに似た物質か
らできた薬。ガン細胞に取り込ませることで正
常な分裂を阻害する。
• 抗ガン性抗生物質
ガン細胞のDNAの中に入り込んだり、DNA合
成に必要な酵素を阻害したりすることで正常
な複製が出来ないようにする抗ガン剤。
• 白金製剤、トポイソメラーゼ阻害薬など
http://www.phs.osaka-u.ac.jp/homepage/yaku/sotugo/pdf/h19_05_1.pdf
図1 それぞれが担当とする細胞周期がある
抗ガン性抗生物質
• ガンは無秩序な増殖を繰り返したり転移す
ることで正常な細胞や組織を壊す
– ガン細胞のDNAの中に入り込んだり、DNA合成に
必要な酵素を阻害したりすることで正常な複製が
出来ないようにする
例 アドリアシン
ブレオマイシン
アムルビシン
日本人が発見
アドリアシン(ドキソルビシン)
• 製造 協和発酵
• DNA合成の妨害、切断
により抗腫瘍性を示す
• 赤色の見た目と副作用
化から ”レッドデビル”
と呼ばれる
画像 http://www.anticancer-drug.net/antibiotic/doxorubicin.htm
アドリアシン(ドキソルビシン)
• 開発
– 時 1967年
– 場所 ファルミタリア研究所(イタリア)
– 由来 アドリア海から名付けられた
• アントラサイクリン系
アドリア海
https://retrip.jp/articles/12199/
アドリアシン(ドキソルビシン)
• 腫瘍細胞のDNAの塩基対に入り込み,トポ
イソメラーゼⅡの反応を阻害し、DNAとRNA
の合成を抑制することによって抗腫瘍効果を
示す
– アントラサイクリン系
• 細胞周期別では特にS期(DNAの複製が行わ
れる)に高い感受性を示す
– 図1参照
適応となるガン、副作用
適応となるガン
• 悪性リンパ腫
• 肺ガン
• 胃がん
• 骨肉腫
• 乳がん
• 子宮体がん
• 大腸がん など
副作用
• 吐き気、嘔吐
– 発生頻度はシスプラチンに次
いで高い
• 骨髄抑制
• 脱毛
• 心臓障害
– 総投与量に比例し頻度、重
症度共に増加
なぜこのような副作用が起きるか
胃粘膜も髪も骨髄では血液も毎日作られてい
る。つまり頻繁に分裂している。
抗がん剤はどんどん分裂している細胞を攻撃す
るということで、これらの正常な細胞も攻撃され
てしまう。
→これが副作用の原因
2.副作用の克服に向けて
• ドラッグデリバリーシステム
• リポソーム化
キーワード
ドラッグデリバリーシステム
• 薬を必要最低限の量で、必要な時間、必要な
場所へ、狙い通りに届ける技術
• 注射や薬を飲む回数を減らしたり、薬の副作
用を少なくしたりすることが可能になってきた
• ガン治療を始めとした最先端治療として期待
されている
参考 大日本住友製薬HP http://www.ds-pharma.co.jp/sukoyaka/conclusion/technology/dds/
リポソーム化
• リポソームとはリン脂質による二重膜構造を
外側に持つ小胞
– ヒトの細胞膜と同じ構造
• それで薬剤を閉じ込めることで様々な利点が
得られる
抗ガン剤のリポソーム化
• 1960年代から研究がはじめられた
• 副作用克服のためリポソーム化が行われた
が問題が2つ生じた
1. マクロファージ
2. 粒子径
2.1マクロファージによる問題
• 細菌などの外敵侵入に備える白血球の1種
• リポソームは体内異物とみなされてオプソニ
ン効果やマクロファージの働きで体外へ排出
してしまう。これにより血液中に長く滞在でき
ずすぐに排出されてしまう。
→マクロファージに見つからないようにする工夫
が必要
オプソニン化
出典 http://chugai-pharm.info/bio/antibody/antibodyp08.html
2.2 リポソームの粒子径による問題
がんの周囲に新しく生えてきた血管は、正常な
血管に比べて網目が粗く、構成する細胞同士
に隙間が空いている
→理論上、この隙間を透過し癌細胞へ蓄積す
ると考えられた。
しかし、実際には引っ掛かりガンには届かない。
→更に小さなリポソームが必要となる。具体的
には100nm程度
解決するべき課題
1. マクロファージに見つからない
→オプソニン化を受けない
2.ガンによる新生血管を透過するサイズの粒子
に薬剤を閉じ込めること
→100nm以下の粒子径
ステルスリポソーム
• Stealth Liposome(アメリカでの商標名)
• 一般名 PEG修飾リポソーム
• 問題点1の解決
→PEG修飾
• 問題点2の解決
→エクストルージョン法により100nmにすることが
可能となった
PEG修飾リポソームとは
• 分子量2000以上のPEG鎖を結合した脂質を5
モル%程度含む脂質で構成されたリポソーム
• 投与後、数時間~数十時間という安定した血
液循環挙動を示した
臨床成功例
ドキシル(アドリアシンを封入したもの)
オプソニン化の回避
• PEGという水溶性高分子を混ぜることでタンパ
ク質の一種によるオプソニン化を回避
• ABC現象
ABC現象
• Accelerated blood clearance現象の略
• PEG修飾リポソームを2度以上投与した際、
血液中の濃度が急激に低下する現象
• PEGを認識する抗体が関わっているのではな
いかという機構が提唱されているが謎である
粒子径100nm
• エクストルージョン(押出成形)により得られる
• これによりガンの新生血管を透過することが
できるように
• EPR効果
EPR効果
• Enhanced permeability and
retention effectの略
• ガン組織内では血管が粗
く高分子が透過できる
– 正常な血管では透過しない
• ただし、肝臓とガンの間で
は高い選択性は得られな
い
高分子学会“ドラッグデリバリーシステム”
共立出版(2012)P48
https://www.researchgate.net/figure/262
99551_fig6_Figure-12-Illustration-
showing-the-diffusion-of-dendrimers-
based-drug-delivery-systems
図2 EPR効果のイメージ図
ドキシル
• この2つの問題点を解
決したステルスリポソー
ムにアドリアシンを閉じ
込めたドキシルが唯一
の臨床成功例である
• 副作用の軽減に成功し
薬の選択肢の少ない患
者さんたちの希望と
なっている
http://www.anticancer-drug.net/antibiotic/doxil.htm
今後の課題
• ABC現象の機構の解明
– これによりさらに投与回数、量を減らせるかもし
れない
• リポソーム化に伴う新たな副作用の調査
– 現在、治験が進んでいる最中である
感想
このスライドを作成するにあたって、薬剤名で
検索することで多くの人の闘病ブログが目に
入った。日本ではとにかく新薬の承認が遅いと
いう、技術だけではどうしようもならない問題も
多く見つかった「ドラッグ・ラグ」
リポソーム化製剤は開発費が膨大になるが
副作用を減らすことで一人でも多くの患者さん
のQOLをあげることが出来るのであれば、非常
に有意義な研究だとわかった。

脂質ナノ粒子について