憲法ゼミ
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外国人労働者の人権
2017/01/31 l144055 仲田宗司
目次
1.はじめに
2.外国人の人権共有主体性についての学説•判例
3.外国人への労働法の平等適用について
4.不法就労者の保護
5 外 国人研修•技能実習制度
a. 外 国人研修•技能実習制度とは
b.制度の運用実態と問題点
c.政府の対応
6.外国人労働者受け入れのための法整備の状況
a. 出 入国管理及び難民認定法(入管法)
b.外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)
7.考察
1.はじめに
近年、我が国では外国人労働者の受け入れが進んでいる。厚生労働省のデータによると、平
成 27 年 10 月末時点での外国人労働者数は 91 万人であり、外国人雇用状況の届出制度の義務化
以来、過去最高を記録した。1こうした状況から、我が国の外国人労働者問題は、かつての受け
入れの是非から、共存の問題に焦点が当たるようになってきている。それに伴って、我が国で
暮らす外国人労働者の権利に関心が寄せられるようになってきている。そいて本論文では「外
国人労働者」に焦点を当てて、我が国の外国人労働者に関する制度の問題点について考えてい
きたい。
2.外国人の人権共有主体性についての学説•判例
日本国憲法は、外国人にも、日本人と同等と保障を認めているのだろうか。これについての
主な学説として、否定説、準用説、肯定説が挙げられ、さらに肯定説は文言説と権利性質に分
けられる。それぞれの学説を整理すると、以下の通りである。
⑴否定説
日本国憲法の規定する人権は、日本国民のみ保障されるとする説。我が国の憲法は、第3章
1 厚生労働省ホームページ www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000110224.html
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我が国の労働法は、日本国民だけでなく、外国人にも平等に適用されるものである。その根
拠として、憲法 27 条1項が「賃金、就業規則、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律で
これを定める」とし、憲法 28 条が「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をす
る権利は、これを保障する」としており、その人的適用範囲を日本国民に限定せず、「勤労者」
として権利主体を明らかにしていることを挙げることができる。これを受けて、労働法の基本
法である労働基準法ならびに労働組合法は、「勤労者」に代えて同義語として「労働者」を権利
主体及び権利保護の対象としている。4通説においても、外国人労働者に対して、労働基準法、
労働安全衛生法、労働災害補償保険法、最低賃金法等の労働保護法規は、日本国内における強
行法規として在留資格の有無、合法、違法の如何を問わず適用されるとともに、職業安定法、
労働者派遣法における職業紹介、労働者派遣、労働者供給の原則禁止も適用されると解されて
いる。5
4.不法就労者の保護
外国人が不法就労している場合でも、労働契約は原則有効である。このことは、基発の「職業
安定法、労働者派遣法、労働基準法等関係法令は、日本国内における労働であれば、日本人で
あると否とを問わず、また、不法就労であると否とを問わず適用されるものであるので、両機
関(職業安定機関及び労働基準監督機関)は、それぞれの区分に従い、外国人の就労に関する
重大、悪質な労働関係法令違反についても情報収集に努めるとともに、これらの法違反があっ
た場合には厳正に対処すること」(昭和 63 年 1 月 26 日基発 50 号,職発 31 号)という文言から
も明らかである。6つまり、「労働者」として保護されるかどうかは出入国及び難民認定法(入管
法)を凌駕した問題であり、たとえ入管法に違反していたとしても公法的取締法規違反にすぎ
ず、公序良俗に反する行為として無効となるものではない。7
5 外 国人研修•技能実習制度
a. 外 国人研修•技能実習制度とは
外国人研修•技能実習制度は、主に開発途上国から労働者を招いて、各種の技能•技術等の習
得を援助•支援して人材育成を行い、我が国が有する汎用性の高い技術を移転することで国際社
会に貢献することを目的とする制度である。1989 年の入管法改正で在留資格「研修」が設けら
4 外国人と法【第3版】手塚和彰著 有斐閣 246頁
5 外国人の人権へのアプローチ 近藤敦編集 明石書店 53頁
6 外国人と法【第3版】手塚和彰著 有斐閣 247、267頁
7 外国人と法【第3版】手塚和彰著 有斐閣 267頁
外国人の人権へのアプローチ 近藤敦編集 明石書店 55頁
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れた後、1993 年に在留資格を「特定活動(法務大臣が個々の外国人について、特に指定する活
動)」とする技能実習の制度が設けられ、1997 年にはその滞在期間が2年(研修の滞在期間を合
わせると最長 3 年)とされた。8
b.制度の運用実態と問題点
この制度では研修生は、一年目は「研修生」として扱われ、2、3 年目は労働者である「技能
実習生」として技能実習を行うこととされて、受け入れ機関は就労させてはならず、研修につ
いて認められるのは週 40 時間のみで時間外•休日の研修は禁止されていた。また、研修の内容
についても、研修生に習得させる技術がすでに研修生本人が身につけている技術や日本から移
転すべき程度以下の技術では「研修」と言えないとされ、技能実習の対象職種については、入
管法令の要件を満たす同一作業の単純反復でない作業とされた。
しかし実際には、この制度は多くの問題を抱えるものであった。例えば、入管法上、「研修」
の在留資格については就労が認められていないことから、研修実施機関と研修生との間には雇
用関係がないとされ、報酬、賃金などを研修生は受けることがなく、研修中の死亡、負傷、疾
病について労働者災害補償はないとされた。こうした現状から、この制度の目的である「社会
貢献•国際貢献」という目的は空文化しており、多くの外国人研修生•技能実習生が劣悪な環境
のもとで働かされているという批判が多く寄せられていた。9
また、こうした技能実習生が置かれている現状が問題にされる一方、技能実習生の失踪につ
いて懸念する声もある。実際、技能実習生の失踪者数は年々増加しており、平成27年法務省
データによると、実習制度を利用して来日した外国人の失踪者数は5000人を超えており、
平成23年から5年間で 1 万人超が失踪している。10
主な実習生の主な失踪理由として、過酷な労働環境に耐えかねて失踪する場合、より高い賃
金を得るためブローカーを通して失踪する場合、技能実習生として在留資格を取得して入国し
てすぐ難民申請をする場合の三つがある。実習生の多くは出稼ぎ目的で来日しているのが実情
であるが、物価や社会保険料が高い反面、賃金は非常に安く、場合によっては時給換算で30
0円しか支払われない場合もある。また、技能実習生は入国前に多額の学費や保証金を現地の
送り出し機関に支払っている場合が多く(*本来保証金や担保な違反)、実習期間の初年は保証
金を返すために働かなくてはならない。しかし実習生の殆どは最低賃金で雇われており、稼ぎ
8 外国人の人権 関東弁護士連合会編 明石書店 116、7頁
9 外国人の人権 関東弁護士連合会編 明石書店 117頁
外国人と法【第3版】手塚和彰著 有斐閣 73頁
10 http://www.librige.com/2015/08/22/post-255/
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6.外国人労働者受け入れのための法整備の状況
a. 出 入国管理及び難民認定法(入管法)
平成 26 年に、「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律」が可決•成立し、同年6月
に交付された。この改正によって在留資格整備•創設が行われた。そして今回は、主な改正点の
一つである「高度専門職」の創設について見ていく。
「高度専門職」とは、現在「特定活動」の在留資格を持ち入国管理上の優遇措置を受けてい
る高度人材を対象に、新たな在留資格「高度専門職1号」を設け、この在留資格を持って一定
期間在留した者を対象に活動制限を大幅に緩和し在留期間が無制限の在留資格「高度専門職2
号」を設けるという制度である。高度人材とは、「『国の資本•労働とは補完関係にあり、代替す
ることの出来ない良質な人材』であり、『我が国産業にイノベーションをもたらすとともに、日
本人との切磋琢磨を通じて専門的•技術的な労働市場の発展を促し、我が国労働市場の効率性を
高めることが期待される人材』」13と定義されている。この制度の趣旨は、そのような「高度人
材」を入管法上の取り扱いによって優遇し、その受け入れを促進することである。
そしてこれに関連する制度として、「高度人材ポイント制」というものがある。具体的には、
高度人材の行う活動類型を、高度学術研究活動、高度専門•技術活動、高度経営•管理活動の三
つに分類し、学歴、職歴、年齢、年収などに応じてポイントを付し、その合計が70点以上の
者には様々な入管法上の優遇措置を与えるというものである。「高度専門職1号」の場合、⑴複
合的な在留活動の許容、⑵在留期間「5年」の付与、⑶在留歴に係る永住許可要件の緩和、⑷
配偶者の就労規制の緩和、⑸一定の条件の下での親の帯同の許容、⑹一定の条件の下での家事
使用人の帯同の許容、⑺入国•在留手続きの優先処理といった優遇措置が与えられる。また、「高
度専門職1号」として3年以上活動を行った者は「高度専門職2号」の資格が与えられ、この
場合、「高度専門職1号」で認められる活動のほか、その活動と併せて就労に関する在留資格で
認められるほぼ全ての活動が行うことが出来、在留期間が「無期限」となり、さらに⑶〜⑹ま
での優遇措置が与えられる。14
しかし、日本独立支援機構「調査シリーズ no.110 企業における高度外国人材の受け入れと活
用に関する調査」によると、2013年時点のデータでは、1000人以上の大企業に勤務す
る外国人人材は35%程度であり、60%は1000未満の中堅企業、500人以下の中小企
業に勤務している。また、企業で働く外国人人材の7割近くが役職なしと回答している。この
13 平成21年5月29日高度人材受入推進会議報告書
14 法務省ホームページ http://www.immi-moj.go.jp/newimmiact_3/index.html
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ことから、日本で働く殆どの外国人人材は「外国人普通人材」であると見てとることができる。
更にポイント制自体を知らない企業が殆どであり、知っていると回答している企業は7%程度
に留まる。これについて、高度外国人材の獲得において、各省庁の連携が取れていないなどの
問題が指摘されている。15
b.外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)
この法律は、今年 11 月 28 日に交付され、1 年以内の施行に向けて準備が進められている。そ
してここでは、⑴技能実習を行わせようとする者は、技能実習生ごとに技能実習計画を作成し、
それについて認定を受けなければならないこと、⑵実習実施者は、初めて技能実習を開始した
時に、届出をしなければならないこと、⑶管理事業を行おうとする者は、事前に許可を取らな
ければならないこと、⑷外国人技能実習生に対する人権侵害行為等について、禁止規定や罰則
を設けるほか、技能実習生による申告を可能にすること等が規定されている。また、新たに新
設される認可法の人外国人技能実習機構では、上記事務に加え、技能実習生からの相談への対
応•援助や、技能実習に関する調査研究業務を行うこととされている。16
7.考察
現在、技能実習法の成立や入管法の改正など、近年外国人労働者に関する法整備が進められ
ている。しかし、これによって我が国の外国人労働者に係る問題が改善とは言い難い。例えば、
上でも述べたように、技能実習制生の失踪問題の根底にあるのは低賃金労働の問題である。し
かし実際にはこの制度が非熟練労働者の労働力不足解消の為に利用されているにも関わらず、
この問題を解決する為の法整備は不十分なままである。高度人材の受け入れのための制度につ
いても、高度人材ポイント制の認知度の低さや、高度人材の少なさからして十分に機能してい
るとはいえない。結局、単純労働者についての法整備も高度人材についての法整備についても
中途半端になってしまっている。この解決策として、単純労働者を「単純労働者」として雇用
するための法制度を行うとともに、高度人材に関する認知度を高めるための施策を打ち出すこ
とが重要である。
参考文献・論文
・外国人と法【第3版】手塚和彰著
15 社会政策 日本における「グローバル人材」育成論と「外国人高度人材」受け入れ問題34
〜26頁
16 厚生労働省ホームページ www.mhlw.go.jp/stf/seikakunituite/bunya/0000142615.html
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・在日外国人【第3版】田中宏著 岩波新書 2013
・外国人の人権へのアプローチ 近藤敦編集 明石書店 2015
・国際人権規約第 6 回日本政府報告書審査の記録 日本弁護士連合会編 現代人分社 2016
・外国人の人権 関東弁護士連合会編 明石書店 2012
・定住化時代の外国人の人権 日本弁護士連合会編集委員会編 明石書店 1997
・憲法と外国人 那須俊貴 国立図書館保存
・憲法【第 5 版】芦部信喜著 岩波新書
・社会政策 外国人労働者問題と社会政策 日本における「グローバル人材」育成論と「外国
人高度人材」受け入れ問題 社会政策学会編 ミネルヴァ書房 2016 年6月第 8巻第 1 号
参考資料
・法務省ホームページ www.immi-moj.go.jp/nyukan2015/
・法務省ホームページ http://www.immi-moj.go.jp/newimmiact_3/index.html
・厚生労働省ホームページ www.mhlw.go.jp/stf/seikakunituite/bunya/0000142615.html
・http://www.librige.com/2015/08/22/post-255/
・「第5次入管基本計画の策定について」平成27年9月15日報道発表資料本文
・平成21年5月29日高度人材受入推進会議報告書
・http://arbourfield.jp/技能実習生逃亡失踪対策/