Japanese Society of Social Psychology Webinar

1. 調査会社にWeb調査を委託する
—縦断ペアデータの収集—
2020/8/21 (金) 日本社会心理学会夏のWebセミナー
Webを利用した調査や実験で何ができるのか？―その応用可能性と限界を考える
浅野 良輔 (Ryosuke Asano)
久留米大学文学部心理学科
本研究はJSPS科研費JP18K13288の助成を受けたものである。

2. 対人関係を理解する
縦断ペアデータ

3. 縦断ペアデータ：理論
Finkel et al. (2017)

4. 縦断ペアデータ：理論
要 素 内 容
独自性
対人関係の成否は，個々人それぞれの特徴だけ
でなく，2人の特徴が交わることで生じる特有の
パターンによって決まる
統合
相互依存性は，2人の認知，感情，動機，行動の
結合を促しやすい
経過
対人関係におけるダイナミックスの長期的経過
は，個々人が常に更新する2人の相互作用や経験
に対する知覚の影響を受ける
❖対人関係科学の原理：グループ1
ペアデータ
ペアデータ
縦断データ
Finkel et al. (2017)

5. 縦断ペアデータ：理論

6. 縦断ペアデータ：方法論
行為者―パートナー相互依存性モデル
(Actor–Partner Interdependence Model: APIM)
夫X 夫Y
妻X 妻Y
最も有名なペアデータ解析法
(Kenny, 2018)
Ledermann & Kenny (2017)

7. 縦断ペアデータ：方法論
共通運命モデル
(Common Fate Model)
夫X 夫Y妻X 妻Y
ペアX ペアY
Ledermann & Kenny (2017)

8. 縦断ペアデータ：方法論
二者関係潜在曲線モデル
(Dyadic Growth Curve Model)
夫1 妻1夫2 妻2夫3 妻3
切片夫 傾き夫
切片妻 傾き妻
Ledermann & Kenny (2017)

9. 縦断ペアデータ：方法論

10. だれに，どうやって？
大学生サンプル
❖恋愛カップル＋縦断調査

11. ❖社会心理学の古典的研究 (例：同調)
元論文の結果が再現されたが…
18–25歳・45–70歳において効果量が高かった
だれに，どうやって？
Yeager et al. (2019)

12. ❖社会心理学の古典的研究 (例：同調)
元論文の結果が再現されたが…
高学歴者ほど効果量が高かった
だれに，どうやって？
Yeager et al. (2019)

13. ❖社会心理学の古典的研究 (例：同調)
元論文の結果が再現されたが…
高所得者ほど効果量が高かった
だれに，どうやって？
Yeager et al. (2019)

14. ❖「大学生の心理学」批判
参加者は心理学部／学科の学生だけ
どのくらい一般化可能なのか？
– 安藤他 (2017)，高野・岡 (2017)
だれに，どうやって？
サンプルの多様性を！

15. だれに，どうやって？
調査会社さん！

16. ❖調査会社にWeb調査を委託するメリット
回答者の多様さ
– 「大学生の心理学」から抜け出せる
時間や労力の節約
– 質問紙・調査ページを作成しなくてよい
– データの入力・整理をしなくてよい
– 実施から納品までが早い
クラウドソーシング (例：MTurk) との比較
– 属性による割付をしてもらえる
– 同一人物による回答の心配がない (？)
だれに，どうやって？

17. 事 例

18. ❖夫婦の主観的幸福感の相互影響を検討する
夫／妻の主観的幸福感が高いほど，妻／夫の
主観的幸福感も高いのか？
夫／妻の主観的幸福感は，1年後の妻／夫の
主観的幸福感の高さを予測するのか？
– 縦断ペアデータを用いて
本研究の概要

19. 参加者
❖日本全国の夫婦カップル1,348組
クロス・マーケティング社のモニタ & 配偶者
– モニタは30歳以上
– 結婚年数1年以上のカップルのみ分析
2017年3月 (T1)，2018年3月 (T3)，2019年3月 (T3)
サンプルの特徴 (T1時点)
– 夫: 平均45.84 ± 9.16歳 (27–76歳)
– 妻: 平均43.72 ± 8.46歳 (25–67歳)
– 結婚年数: 平均15.41 ± 9.51年 (1–40年)
– 子どもの数: 平均1.26 ± 1.06人 (0–6人)

20. ❖主観的幸福感 (下記を標準化し，1+2-3により算出)
1. 人生満足度 (Diener et al., 1985; 大石, 2009)
– 例: 私の人生は，とても素晴らしい状態だ
– 5項目7件法 (夫: αs = .91–.93; 妻: αs = .92–.93)
2. ポジティブ感情 (Mroczek & Kolarz, 1998; Ryff et al., 2018)
– 例: 楽しい; 機嫌がいい; 充実感
– 6項目5件法 (夫: αs = .91–.93; 妻: αs = .91–.92)
3. ネガティブ感情 (Mroczek & Kolarz, 1998; Ryff et al., 2018)
– 例: 神経質; 落ち着かない; 価値がない
– 6項目5件法 (夫: αs = .82–.86; 妻: αs = .81–.86)
測定内容

21. ❖級内相関係数の算出
夫／妻の主観的幸福感が高いほど，妻／夫の
主観的幸福感も高いのか？
❖APIMによる分析
夫／妻の主観的幸福感の高さは，1年後の妻／
夫の主観的幸福感を予測するのか？
分析計画

22. 級内相関係数
夫 (T1)
主観的幸福感
妻 (T1)
主観的幸福感
.44***
夫 (T3)
主観的幸福感
妻 (T3)
主観的幸福感
.47***
夫 (T2)
主観的幸福感
妻 (T2)
主観的幸福感
.45***
*** p < .001

23. APIM：等値制約なし
夫 (T1)
主観的幸福感
夫 (T2)
主観的幸福感
妻 (T1)
主観的幸福感
妻 (T2)
主観的幸福感
e
0.74*** 0.84***
0.84*** 0.76***
0.05
0.09**
0.08*
0.02
2.60*** 0.65***
e
夫 (T3)
主観的幸福感
妻 (T3)
主観的幸福感
e
0.35***
e
χ2 (4) = 72.12, p < .001, CFI = .959, RMSEA = .112, SRMR = .026
Note. 数値は非標準化係数。* p < .05, ** p < .01, *** p < .001

24. APIM：等値制約あり
夫 (T1)
主観的幸福感
夫 (T2)
主観的幸福感
妻 (T1)
主観的幸福感
妻 (T2)
主観的幸福感
e
0.79*** 0.79***
0.79*** 0.79***
0.06***
0.06***
0.06***
0.06***
2.60*** 0.64***
e
夫 (T3)
主観的幸福感
妻 (T3)
主観的幸福感
e
0.36***
e
χ2 (10) = 80.81, p < .001, CFI = .958, RMSEA = .072, SRMR = .032
Note. 数値は非標準化係数。*** p < .001

25. ❖夫／妻別々に回答してもらうには？
リクルート調査
– モニタへの教示
– モニタ & 配偶者のメールアドレスの取得
本調査
– モニタ & 配偶者へ個別配信
苦労話…：調査前
カンペキ？

26. 苦労話…：調査後
ID
性別
(T1)
本人
年齢
(T1)
相手
年齢
(T1)
性別
(T2)
本人
年齢
(T2)
相手
年齢
(T2)
性別
(T3)
本人
年齢
(T3)
相手
年齢
(T3)
1 男 45 43 男 46 44 女 45 47
1 女 43 45 女 44 46 女 45 47
2 男 61 54 男 62 55 男 63 56
2 女 54 61 男 55 62 女 56 63
3 男 37 32 女 33 38 男 39 34
3 女 32 37 男 38 33 女 34 39
4 男 36 44 男 37 45 男 38 46
4 女 44 36 男 37 45 女 46 38
5 男 61 54 男 62 55 女 56 63
5 女 54 61 女 55 62 男 63 56

27. 苦労話…：調査後
❖夫／妻が両方の調査に回答した？
ID
性別
(T1)
本人
年齢
(T1)
相手
年齢
(T1)
性別
(T2)
本人
年齢
(T2)
相手
年齢
(T2)
性別
(T3)
本人
年齢
(T3)
相手
年齢
(T3)
1 男 45 43 男 46 44
1 女 43 45 女 44 46
2 男 61 54 男 62 55 男 63 56
2 女 54 61 男 55 62 女 56 63
3 男 37 32 女 33 38 男 39 34
3 女 32 37 男 38 33 女 34 39
4 男 36 44 男 38 46
4 女 44 36 女 46 38
5 男 61 54 男 62 55 女 56 63
5 女 54 61 女 55 62 男 63 56
女 45 47
女 45 47
男 37 45
男 37 45

28. 苦労話…：調査後
❖夫／妻が両方の調査に回答した？
ID
性別
(T1)
本人
年齢
(T1)
相手
年齢
(T1)
性別
(T2)
本人
年齢
(T2)
相手
年齢
(T2)
性別
(T3)
本人
年齢
(T3)
相手
年齢
(T3)
1 男 45 43 男 46 44 . . .
1 女 43 45 女 44 46 . . .
2 男 61 54 男 62 55 男 63 56
2 女 54 61 男 55 62 女 56 63
3 男 37 32 女 33 38 男 39 34
3 女 32 37 男 38 33 女 34 39
4 男 36 44 . . . 男 38 46
4 女 44 36 . . . 女 46 38
5 男 61 54 男 62 55 女 56 63
5 女 54 61 女 55 62 男 63 56
調査会社との
確認作業を経て削除

29. ❖性別の回答を間違えた？
苦労話…：調査後
ID
性別
(T1)
本人
年齢
(T1)
相手
年齢
(T1)
性別
(T2)
本人
年齢
(T2)
相手
年齢
(T2)
性別
(T3)
本人
年齢
(T3)
相手
年齢
(T3)
1 男 45 43 男 46 44 女 45 47
1 女 43 45 女 44 46 女 45 47
2 男 61 54 男 62 55 男 63 56
2 女 54 61 55 62 女 56 63
3 男 37 32 女 33 38 男 39 34
3 女 32 37 男 38 33 女 34 39
4 男 36 44 男 37 45 男 38 46
4 女 44 36 男 37 45 女 46 38
5 男 61 54 男 62 55 女 56 63
5 女 54 61 女 55 62 男 63 56
男

30. ❖性別の回答を間違えた？
苦労話…：調査後
ID
性別
(T1)
本人
年齢
(T1)
相手
年齢
(T1)
性別
(T2)
本人
年齢
(T2)
相手
年齢
(T2)
性別
(T3)
本人
年齢
(T3)
相手
年齢
(T3)
1 男 45 43 男 46 44 女 45 47
1 女 43 45 女 44 46 女 45 47
2 男 61 54 男 62 55 男 63 56
2 女 54 61 女 55 62 女 56 63
3 男 37 32 女 33 38 男 39 34
3 女 32 37 男 38 33 女 34 39
4 男 36 44 男 37 45 男 38 46
4 女 44 36 男 37 45 女 46 38
5 男 61 54 男 62 55 女 56 63
5 女 54 61 女 55 62 男 63 56
調査会社との
確認作業を経て訂正

31. ❖夫／妻が逆になった？
苦労話…：調査後
ID
性別
(T1)
本人
年齢
(T1)
相手
年齢
(T1)
性別
(T2)
本人
年齢
(T2)
相手
年齢
(T2)
性別
(T3)
本人
年齢
(T3)
相手
年齢
(T3)
1 男 45 43 男 46 44 女 45 47
1 女 43 45 女 44 46 女 45 47
2 男 61 54 男 62 55 男 63 56
2 女 54 61 男 55 62 女 56 63
3 男 37 32 男 39 34
3 女 32 37 女 34 39
4 男 36 44 男 37 45 男 38 46
4 女 44 36 男 37 45 女 46 38
5 男 61 54 男 62 55
5 女 54 61 女 55 62
女 33 38
男 38 33
女 56 63
男 63 56

32. ❖夫／妻が逆になった？
苦労話…：調査後
ID
性別
(T1)
本人
年齢
(T1)
相手
年齢
(T1)
性別
(T2)
本人
年齢
(T2)
相手
年齢
(T2)
性別
(T3)
本人
年齢
(T3)
相手
年齢
(T3)
1 男 45 43 男 46 44 女 45 47
1 女 43 45 女 44 46 女 45 47
2 男 61 54 男 62 55 男 63 56
2 女 54 61 男 55 62 女 56 63
3 男 37 32 男 38 33 男 39 34
3 女 32 37 女 33 38 女 34 39
4 男 36 44 男 37 45 男 38 46
4 女 44 36 男 37 45 女 46 38
5 男 61 54 男 62 55 男 63 56
5 女 54 61 女 55 62 女 56 63
調査会社との
確認作業を経て入換

33. 今後に向けて

34. ❖パネルの特徴を確認しませんか？
性別，年齢，居住地
結婚状況
学歴，職業，所得
– 母集団とは異なる可能性がある (宇佐美, 2016)
健康状態
– MTurkerはうつ病率が高い (Ophir et al., 2020)
提案１

35. ❖努力の最小限化に対処しませんか？
教示や項目をよく読まずに反応する (三浦・小林, 2018)
– 研究者が回答者の様子を監視できない
– 回答者は謝礼目的で参加する
– スマホは特に注意資源を節約させやすい
提案２

36. ❖この項目は「あてはまる」を選択してください
提案２
13.7
4.7
0.7
0
5
10
15
20
調査会社 クラウド
ソーシング
大学生
違
反
率
（
％
）
三浦・小林 (2018)
自分の評判を
気にする必要がないから？

37. ❖努力の最小限化に対処しませんか？
教示や項目をよく読まずに反応する (三浦・小林, 2018)
– 研究者が回答者の様子を監視できない
– 回答者は謝礼目的で参加する
– スマホは特に注意資源を節約させやすい
Web調査において顕著となる (高橋・成田, 2018, 2019)
– 質問紙調査よりも起きやすい
– レイアウトを問わず
– パソコン or スマホ・タブレットを問わず
提案２

38. ❖複雑な構造のデータ収集を助けてください！
調査・実験に際しての工夫
データ作成に際しての工夫
– 予想以上に苦労することも…
お願い
縦断ペアデータに限らず

39. まとめ
Ryosuke ASANO (asano_ryousuke@kurume-u.ac.jp)
❖調査会社を通じたWeb調査
大規模な縦断ペアデータを収集できた
夫 (T1)
主観的幸福感
夫 (T2)
主観的幸福感
妻 (T1)
主観的幸福感
妻 (T2)
主観的幸福感
e
0.79*** 0.79***
0.79*** 0.79***
0.06***
0.06***
0.06***
0.06***
2.60*** 0.64***
e
夫 (T3)
主観的幸福感
妻 (T3)
主観的幸福感
e
0.36***
e