大学生のキャリアデザインについての発表です。なぜ大学生は進路選択や就活に迷うのか、キャリアの構成要素と本田由紀が提唱する教育の職業的意義から考察しました。

1. 大学卒業後のキャリアについて考える
ーキャリアデザインと教育の職業的意義から見る一考察ー
立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部
文化・メディア・社会 清家久美研究室
2020/06/06 卒業生企画・基調プレゼン
鳥井美沙

2. もくじ
1. 自己紹介
2. 問題設定
2-1 問題意識・発表の背景
2-2 大学生検討者の特徴
2-3 仮説
3. キャリアデザインとは何か
3-1 言葉の定義
3-2 他の単語との違い
3-3 キャリアデザインの重要性
3-4 キャリアを構成する要素
4. 日本の社会構造と教育の職業的意義
4-1 戦後循環型モデルの破綻と新たな循環型モデル
4-2 教育の職業的意義と職業の定義
4-3 教育の職業的意義の2つの側面
5. 考察
5-1 大学生のキャリアデザインに必要なものとは何か
5-2 大学におけるキャリアデザインの実態
ー立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部のカリ
キュラムを事例にー
6． 結論とおわりに
参考文献

3. 自己紹介
鳥井美沙（TORII Misa） 2018年卒
● 研究に至るまで：田原ゼミで言語教育 →デンマークの成人教育機関フォルケホイスコーレへ休学留学 →清家ゼミにて、教育社会学
● 研究テーマ：『新教育運動にみる教育思想と日本での実践についての一考察 ―きのくに子どもの村学園の実例を対象に ―』
● 課外活動：和太鼓 ”楽”、GASS、旅館でのアルバイト
● 趣味：写真、旅行、読書、ウクレレ、銭湯 /サウナ
● 関心ごと：成人発達、キャリアデザイン、組織開発、才能診断ツール
「ストレングスファインダー」（規律性 /最上志向/内省/学習欲/個別化）、
大学教育など
● その他：朝活コミュニティ「朝渋」に 2018年夏より参加。
NZ在住の作家四角大輔主宰の会員制コミュニティ
「LifeStyleDesign.Camp」に2019年より参加。
ライティングの複業

4. どんな仕事をしているのか
● デジタルハリウッド（株）入社 3年目。スクール事業部
STUDIOユニット所属。
● Web、動画、CGを約3~6ヶ月で学ぶ「デジタルハリウッド
STUDIO」にて学校運営、募集（企画広報）を担当。新コー
ス開発、新校舎立ち上げなどを経て、 4月よりSTUDIOなん
ばの募集・運営基盤づくり、東京との連携に従事。
● 「スタッフ」「スタッフさん」って呼ばれることが多い。
● 予備校スタッフに似た仕事。学習検討者に向けたキャリア
カウンセリングを200人以上に実施。
https://school.dhw.co.jp/

5. 2 問題設定
2-1 問題意識・発表の背景
● 2年間で約200人のキャリアカウンセリングをし、 大学生のカウンセリングに難しさを感じている。
● 大学生の歩留り（申込み）率を他属性の歩留り率と比較すると、
個人：約-33%
関東3校舎：約-20%
と数値で見ても実績が低い。
● 社会人検討者のカウンセリングより もう一歩手前のところ、前提が掴めない感じ がする。

6. 2 問題設定
2-2 大学生検討者の特徴
● 文理系問わず、大学院進学と Webデザインの学習、プログラミングと Webデザインの学習をするかなど、
複数の進路と迷っている人が多い。 社会人検討者の場合、そのケースは少ない。事前アンケートでも迷っ
ているゼミ生が多かったため、大学生全般的に言えるのではないか？
● 大学4年生など高学年が多いが、 どんな仕事をしたいのか、どんな人生を歩みたいのか抽象的で曖昧。
一方、大学低学年の検討者は意思、やりたいことがはっきりしているように感じる。
● 自分は何が好きなのか、何をしているときにやりがいを感じるのか、何が強みなのか自己認識が少ない。
● 約1.5時間で納得できるキャリアプラン（進路）を提示できることが少ない。解決の糸口が見当たらない。
（だから歩留まりが悪い。）

7. 2 問題設定
2-3 仮説
● 大学生のカウンセリングにおける私の課題感や歩留まり率の低さは、
①チームのカウンセリング力に何か課題があるのではないか？
②キャリアを考える上で、大学教育や日本の公教育システムに何か課題があるのではないか？

8. 3 キャリアデザインとは何か
3-1 言葉の定義
● 本発表において、「キャリアデザイン」とは、 将来のなりたい姿やありたい自分を実現するために、自分の
職業人生を主体的に設計し、実現していくこと と定義する。（出典：カオナビ人事用語集
https://www.kaonavi.jp/dictionary/career-design/）
● 本発表において、「キャリア」は、「経歴」、「経験」、「発展」さらには、「関連した職務の連鎖」等と定義し、
時間的持続性ないし継続性を持った概念として捉える。（厚生労働省 (2014)『キャリア形成を支援する労
働市場政策研究会』報告書 https://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/07/h0731-3.html）

9. 3 キャリアデザインとは何か
3-2 似た単語との違い （出典：カオナビ人事用語集
https://www.kaonavi.jp/dictionary/career-design/）
● キャリアプラン…キャリア形成のための具体的な行動計画
● キャリアパス…一つの企業の中で目標とするポジションや職
歴に就くため必要なステップ
● キャリア形成…仕事を通じて職業能力を習得する活動
● 本発表では、「キャリア形成」とは、「キャリア」の概念を前提と
して、個人が職業能力を作り上げていくこと、すなわち、「関連
した職務経験の連鎖を通して職業能力を形成していくこと」と
捉える。（厚生労働省 (2014)『キャリア形成を支援する労働市
場政策研究会』報告書
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/07/h0731-3.html）
1~3年目くらい？ 4~5年目くらい？

10. 3 キャリアデザインとは何か
3-3 キャリアデザインの重要性と社会・個人・企業の変化 （出典：カオナビ人事用語集https://www.kaonavi.jp/dictionary/career-design/）
①社会の変化
● バブル崩壊やグローバル化によって経済構造が急激に変化した
● 将来の保証が難しいVUCA（不安定・不確実・複雑・曖昧）時代となった
● 人生100年時代となり、国・組織・個人がライフコースの見直しを迫られるようになった
②企業の変化
● 終身雇用や年功序列などの日本的雇用慣行が崩壊し、成果主義となった
● 即戦力となる中途人材の採用が当たり前となり、人材の流動性が高まった
● 生産性の向上という視点から従業員のモチベーションや
エンゲージメントが重要視されるようになった
③個人の変化
● 自ら考え主体的に行動する「自律型人材」が求められるようになった
● 働き方や労働への価値観が多様化した
● 転職が当たり前となり、自己実現のために「なぜ働くのか」「どう働くのか」が見直されている

11. 3 キャリアデザインとは何か
3-4 キャリアを構成する要素（出典：カオナビ人事用語集 https://www.kaonavi.jp/dictionary/career-design/）
● キャリアを構成する要素には下記の 3つがある
①知識・技能：
業務を遂行するための能力的資源・資産
②行動特性・思考特性：
物事の行い方の傾向性、物事の考え方のクセ
③マインド・価値観：
仕事・キャリアに対する意識・価値観・動機
図1
出典：カオナビ人事用語集
https://www.kaonavi.jp/dictionary/career-design/

12. 4 教育の職業的意義とは何か
4-1 戦後循環型モデルの破綻と新たな循環型モデル 本田(2014) p.67, pp.72-74,
pp.88-89
● 高度経済成長期から安定成長期にかけ、日本社会の基本構造である 「戦後循
環型モデル」が成立したが、バブル崩壊とともに破綻する。
● それまでは、教育・仕事・家族という 3つの社会領域の間に、ある社会領域のアウ
トプットを次の社会領域のインプットとして注ぎ込む矢印が一方向的に作用して
いたが、もはやうまく資源を流し込めない矢印が現れている状態になった。
● このような現状への対処として、本田は社会領域間を結ぶ矢印が双方向である
新たな循環モデルを提案している (図3)。
● 教育と仕事の関係に関しても、教育が卒業生を次々に送り出せば会社が受け
取ってくれていたという従来の関係ではなく、教育と仕事との間に、教育内容に
関する対話や、あるいは一度仕事に就いた後に再度教育を受けるといったリカ
レント教育の流れを拡充してゆく必要がある、と主張する。
図2
出典：本田由紀（ 2014）『もじれる社会 ―戦後日本型循環モデルを超え
て』 筑摩書房 .p.73
図3
出典：独立行政法人労働政策研究・研修機構 講演１ 社会構造の変容と若者の現状：
第61回労働政策フォーラム 若者は社会を変えるか —新しい生き方・働き方を考える —
https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20120630/houkoku/01_honda.html

13. 4 教育の職業的意義とは何か
4-2 教育の職業的意義と職業の定義 本田 (2014) pp.88-89,
pp.160-161
● 教育の職業的意義とは、 4で見た教育と仕事の領域の間を結
びつける概念である (図4)。
● また、職業とは、個人が他者に対して何らかの有益さ・有用さを
もつ行為を遂行し、 その対価としての報酬を得ることである。
● 職業の構成要素
①遂行する行為の中身
②報酬や労働時間など、いわゆる労働条件
図3
出典：独立行政法人労働政策研究・研修機構講演１ 社会構造の
変容と若者の現状：第61回労働政策フォーラム若者は社会を変え
るか —新しい生き方・働き方を考える—
https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20120630/houkoku/01_h
onda.html

14. 4 教育の職業的意義とは何か
4-2 教育の職業的意義の 2つの側面 本田(2014) pp.58-59, pp.90-92, pp.160-161
● 教育の職業的意義は、 〈適応〉と〈抵抗〉という2つの側面を含んでいなければならない。
● 〈適応〉＝職業としての行為をより適切に遂行できる力をつける こと。環境からの要請に即して個人が
自らを変化させて応えるという方向である。職業の構成要素①に関するもの。
● 〈抵抗〉＝職業にまつわる諸条件をより妥当で適正なものとして要求してゆけるような力をつける こと。
環境に含まれる問題含みの点を個人が是とする方向へと変節するという方向である。職業の構成要
素②に関するもの。
● この両面は、職業人として生きてゆくうえで不可欠の両輪 であり、いずれかが欠落すれば職業生活は
いびつなものとなる。教育はこの両面を視野に入れ、それらの力が身につけうるよう手助けする役割を
持つべきだと本田は主張する。
＜再掲＞職業の構成要素
①遂行する行為の中身
②報酬や労働時間など、いわゆる労働条件

15. 4 教育の職業的意義とは何か
4-2 教育の職業的意義の 2つの側面 本田(2014) pp.58-59, pp.90-92, pp.160-161
● 〈適応〉の具体的内実として、本田は「柔軟な専門性」 (フレックスペシャリティ )という概念を提唱。
● 「柔軟な専門性」とは、固く閉じた専門性ではなく、 ある専門性を切り口とし、そこから隣接分野や関連
領域などに広げながら、普遍性が高い知識やスキルにたどり着いてゆくプロセスの端緒としての専門
性を意味している。「柔らかい鎧」のようなもの。
● 「柔軟な専門性」は、カリキュラムやキャリア設計の仕方によって、十分に実現してゆけるものと本田は
考える。固く閉じた専門性は、社会変化が激しい中で融通が利かないものになり、自滅的になるおそ
れがある。

16. 5 考察
5-1 大学生のキャリアデザインに必要なものとは何か
● 本田が言う教育の職業的意義の2つの側面を、キャリアを構成する要素(図1)に当
てはまめると、下記のことが言える。
● 職業としての行為をより適切に遂行できる力をつけることである〈適応〉は、①知識・
技能に、当たるものである。
● 職業にまつわる諸条件をより妥当で適正なものとして要求してゆけるような力をつ
けることである〈抵抗〉は、②行動特性・思考特性、③マインド・価値観に当たるもの
である。
➡私自身が、大学生検討者のカウンセリングに難しさを感じる、また大学生が進路選択
に迷うのは、②行動特性・思考特性、③マインド・価値観がはっきりしていないからであろ
う。「社会人検討者に比べ前提が掴めない」と感じていた部分は、②行動特性・思考特
性、③マインド・価値観に当たるものではないだろうか。
＜再掲＞図1 キャリアを構成する要素

17. 5 考察
5-2 大学におけるキャリアデザインの実態 ー立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部のカリキュラムを
事例にー http://www.apu.ac.jp/home/study/content35/
● アジア太平洋学部APSにおいて、キャリアデザインに関する授業は「キャリア・デザインⅠ～Ⅲ」があ
り、「共通教育科目」の中の「社会ニーズ対応」、その中の「基礎スキル系」に位置づけられている。
● キャリアデザインⅢ、Ⅳは、学生の該当セメスターによる区分の違いで同一講義である。

18. 5 考察
5-2 大学におけるキャリアデザインの実態 ー立命館アジア太平洋大学
アジア太平洋学部のカリキュラムを事例にー
● キャリア・デザインⅠのシラバスを見ると、
第3講「自分にとっての幸せや働くこと／生きることの意味を探
る」、第9講「自分は何を大切に生きていきたいのかを探る」、第
11~13講「これまでの自己理解をもとに、自分らしい仕事や生き
方を創っていく」第14講「キャリアプランをどのように具体的な行
動に移していくのかを学ぶ」など、
キャリアデザインの定義である 将来のなりたい姿やありたい自分
を実現するために、自分の職業人生を主体的に設計し、実現し
ていくことについて学べる内容となっている。

19. 5 考察
5-2 大学におけるキャリアデザインの実態 ー立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部のカリ
キュラムを事例にー
● しかし、キャリア・デザインⅡのシラバスを見ると、講義分野は、「経済、経営、キャリア、その
他 」となり、企業の経営・戦略・組織についてや、企業分析、マーケティングなど「キャリアデ
ザイン」の定義とはかけ離れた講義内容となっている。
● キャリアデザインⅢでは、企業戦略とパーソナルキャリアについて、招聘企業講師7社、7名
の共通点と相違点を学んでいく内容となっている。
➡APSのカリキュラムにおいて、キャリアデザインの本来の意味である「ありたい自分を実現する
ために、自分の職業人生を主体的に設計し、実現していくこと」やキャリアを構成する要素の②行動
特性・思考特性、③マインド・価値観を学べるものは「キャリア・デザインⅠ」の講義のみである。
➡学生個々人にキャリアデザインが委ねられている部分が大きいが故に、進路選択に迷うのでは
ないだろうか？
➡そもそもカリキュラムでやるものなのか？②③はAPUの環境、自らの学びで培うものではないだ
ろうか？

20. 6 結論とおわりに
● 本発表では、「キャリアデザイン」とは、将来のなりたい姿やありたい自分
を実現するために、自分の職業人生を主体的に設計し、実現していくこ
とだと明らかになった。
● 個々人のキャリアを構成する要素は①知識・技能、②行動特性・思考特性、③
マインド・価値観の3つによって成り立っていることが分かった。
● 本田が主張する、教育と仕事の社会領域を結びつける概念である教育の職業
的意義は、職業としての行為をより適切に遂行できる力をつける〈適応〉と、職
業にまつわる諸条件をより妥当で適正なものとして要求してゆけるような力をつ
けることである〈抵抗〉の2つの側面から成り立っている。
● キャリアを構成する要素と照らし合わせると、〈適応〉は①知識・技能、〈抵抗〉は
②行動特性・思考特性、③マインド・価値観にあたる。
＜再掲＞図1 キャリアを構成する要素

21. 6 結論とおわりに
● APSのカリキュラムにおいて、②行動特性・思考特性、③マインド・価値観や、将来の
なりたい姿やありたい自分を実現するために、自分の仕事も含めた人生の設計や
実現について学ぶ講義は、「キャリア・デザインⅠ」のみであり、学生個々人に大部
分が委ねられているため、進路選択に迷うのではないだろうか？
● しかし、マインドや価値観、思考などは大学の講義ではなく、APUの環境や大学生
活を通して培うものではないだろうか？
● 私自身は、卒論で明らかになったきのくに子どもの村学園の「○○さん」と先生/職員/
生徒を呼ぶ思想は、自分の価値観として染みつき、実際の業務でもそのマインドで
働いている。
● 他パネラーは、APUでの学び・大学生活のなかで、それぞれの価値観、思考はどう
変化したのか。それはどう進路の選択に影響したのか伺いたい。
＜再掲＞図1 キャリアを構成する要素

22. ご清聴ありがとうございました。

23. 参考文献
● 本田由紀（2014）『もじれる社会―戦後日本型循環モデルを超えて』 筑摩書房 .
● 独立行政法人労働政策研究・研修機構 講演１ 社会構造の変容と若者の現状：第 61回労働政策フォーラ
ム 若者は社会を変えるか —新しい生き方・働き方を考える — 本田由紀
https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20120630/houkoku/01_honda.html
● カオナビ人事用語集 https://www.kaonavi.jp/dictionary/career-design/
● 厚生労働省(2014)『キャリア形成を支援する労働市場政策研究会』報告書
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/07/h0731-3.html
● 立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部カリキュラム http://www.apu.ac.jp/home/study/content35/