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1
ナッジ理論を活用した通知文の変更とその効果
~RCTでの検証2事例の紹介~
第16回YBiT研究会
2020年3月11日
茅ヶ崎市 総務部 市民自治推進課 勝山明日香
事例発表②
2
事例発表②(茅ヶ崎市)
★本日の発表の流れ★
① 市民参加イベント「市民討議会」案内通知の変更事例 ✓ 効果がなかった事例
② 市民アンケート「市民意識調査」依頼文の変更事例
③ 2事例の比較考察
④ 次回の効果検証(予告)
✓ 効果があった事例
3
事例シート 【茅ヶ崎市市民討議会】
<概要> ナッジを活用して「市民討議会」(市民が市の課題について話し合うイベ
ント)の案内通知を変更し、RCTにより従来の案内通知と比較したが、参加承諾
率及びアンケート返信率に有意な差はみられなかった。
【支援】東京大学 村山先生
YBiT 髙橋さん
【担当】茅ヶ崎市 勝山
行動の特定
✓ 参加承諾書又は不参加者アンケートを返送する。
EAST:
行動の分析
✓ 字が多く、読解が面倒なのではないか(明確な動作指示により改善可?)
介入方法の決定
✓ 案内通知の変更による介入(費用:経費増なし。文面検討や封入等にかかる人工。
社会的に受け入れられるか:提供する情報に差はなく、倫理的にも問題ないと考える)
<変更前/後の通知>効果検証
✓ RCTにより、ナッジ群と従来群の参加承諾率、アンケート返信率の差を統計解析(評価のしやすさ◎)
✓ イベントに魅力を感じないのではないか(魅力の提示により改善可?)
(従来)
(ナッジ)
E-2 E-3
A-1 A-2 S-1
・ツールキットに沿ってナッジを活用しても、必ずしも効果が見込めるわけではない。
・事前の分析、プレ検証の重要性を実感。・情報過多に注意。
4
案内通知の構成(従来の案内通知)
①鑑文 ②概要説明 ③参加承諾書 ④不参加者
アンケート
参加希望の方が
記入・返信
参加できない方が
記入・返信
イベントの概要と、
返信方法の説明
「市民参加」について説明
5
案内通知の変更
①鑑文
(同一)
②概要説明 ③参加承諾書 ④不参加者アンケート
色を変更
封筒
(ピンク) (水色)
6
変更のポイント
④
③
①
⑨
⑦
⑧
⑥
⑤
〔E-2〕面倒な要因の減少
①承諾書とアンケートをそれぞれピンク・水色の紙に印刷し、
判別の手間を減少
〔E-3〕メッセージの単純化
②全体として文字数を少なくフォントを大きくする
③参加の可否に合わせてフローを提示し、動作指示を明確にする
〔A-1〕関心をひく
①(再掲)見やすいレイアウト(色で識別できるように)
④参加者の満足度を強調し、利益を際立たせる
〔A-2〕インセンティブ設計
⑤「通知が届いた方だけ」という希少性を訴える
⑥「あなたの意見を求めている」という記述により、
「市政に協力する私」という自己イメージを刺激する
⑦得られるもの(美味しい弁当)を明示する
⑧締切を強調し、機会の損失回避を促す
〔S-1〕社会的規範の提示
④(再掲)多くの人が参加し満足したことを訴える
⑨市章で公的機関からの通知であることを強調し、
義務感を出す
◆基礎情報
< 期 間 >
< 対 象 者 >
2019年10月10日(木)の発送後、11月15日(金)までの約1ヶ月間
(返信締切は10月31日(木)だが、収受したものはカウントした。)
満18歳以上の市民約20万3千人から無作為抽出した2,200人
(参考)茅ヶ崎市人口:約24万2千人
< R C T > 上記対象者2,200人を、ランダムに1,100人ずつ2群に振り分けた。
→ 従 来 群:1,100人(うち3通が行き先人不明で未達)
→ ナッジ 群:1,100人(うち2通が行き先人不明で未達)
< 回答方法 > 郵送での返送のみ(一部窓口持参者もいた)
7
倫理的配慮について
✓ いずれの群の通知を受け取っても、
受け取る情報には差が生じないようにする
(不利益が生じるものではない)
✓ 検証のために返信有無のデータを取るが、
個人が特定されることのないよう、
匿名化処理して集計する
✓ 上記内容を市ホームページの市民討議会
開催に関するページに掲載(返送期間中~)
8
✓ 検証について市民討議会の報告書に掲載
(参加者全員に配布、市ホームページで公表)
事例シート
◆効果(概観)
◆考察
✓ EASTなどのツールキットに沿ってナッジを活用しても、必ずしも効果が見込めるわけではないことがわかった。
✓ 過度のナッジの取り込みにより、情報過多となり、かえって効果を薄めてしまう危険性があると思われる。
✓ 効果を得るためには、事前の分析が重要。できれば原因特定も「感覚」ではなく「データ」に基づいて・・・。
✓ 効果が出そうか、事前に小規模なプレテストをしてもいいかも・・・。
○承諾書とアンケートを合わせた返送率は1.3ポイント上昇(統計的な有意差なし)
<結果>
全体 n=2195 従来群 n=1097 ナッジ群 n=1098 P(両側)
返送数 607
(27.7%)
296
(27.0%)
311
(28.3%)
0.504
<謝辞> 東京大学 村山先生 実施上の倫理面での配慮に関するアドバイスや、分析をお願いしました。
YBiT 髙橋さん 変更文面の検討から実施後のまとめまで、頻繁に相談に乗っていただきました。
この場をかりてお礼申し上げます。本当にありがとうございました!
9
補足:サブ解析(男女・年齢別)
○男女別の返送率は、男性で2.5ポイント上昇(統計的な有意差なし)
○年齢別の返送率は、60代で9.7ポイント上昇(統計的な有意差なし)
合計返送数 全体 従来群 ナッジ群 P(両側)
~20代 n=673
114(16.9%)
n=345
58(16.8%)
n=328
56(17.1%)
1.000
30代 n=471
115(24.4%)
n=237
57(24.1%)
n=234
58(24.8%)
0.915
40代 n=452
122(27.0%)
n=216
62(28.7%)
n=236
60(25.4%)
0.459
50代 n=263
103(39.2%)
n=146
56(38.4%)
n=117
47(40.2%)
0.800
60代 n=147
80(54.4%)
n=50
24(48.0%)
n=97
56(57.7%)
0.297
70代~ n=189
73(38.6%)
n=103
39(37.9%)
n=86
34(39.5%)
0.881
合計返送数 全体 従来群 ナッジ群 P(両側)
男性 n=1124
261(23.2%)
n=564
124(22.0%)
n=560
137(24.5%)
0.358
女性 n=1071
346(32.3%)
n=533
172(32.3%)
n=538
174(32.3%)
1.000
10
11
事例シート 【茅ヶ崎市市民意識調査】
<概要> ナッジを活用して「市民意識調査」の依頼文を変更し、RCTにより従来
の依頼文と比較したところ、アンケート回答率が有意に向上した。通知デザインの変
更により、受け取り手の行動が変化(向上)する可能性が示唆される。
<担当者>
茅ヶ崎市 企画経営課
(代理発表 勝山)
行動の特定
✓ アンケートに回答する。
EAST:
行動の分析
✓ 字が多く、読解が面倒なのではないか(明確な動作指示により改善可?)
介入方法の決定
✓ 依頼文の変更による介入(費用:経費増なし。文面検討にかかる人工。
社会的に受け入れられるか:提供する情報に差はなく、倫理的にも問題ないと考える)
・一部不審に思った市民から問合せがあったものの、回答率は大きく向上した。
・他の通知への応用可能性も高い検証結果である。精度が上がれば郵送費を削減可?
<変更前/後の通知>効果検証
✓ RCTにより、ナッジ群と従来群の回答率の差を統計解析(評価のしやすさ◎)
E-3 A-1
A-2 S-1
✓ 自分が回答せずとも…(「貴重な対象者」であることの強調により改善可?)
(従来)
(ナッジ)
12
封筒及び依頼文の変更
封筒 封筒
「令和元年度 茅ヶ崎市市民意識調査」
「これは、3000人の方に市民を代表して
お答えいただく調査です。ご協力お願いします。」
回答期限:令和元年12月23日(月)
(従来版) (ナッジ版)
13
変更のポイント
〔E-3〕メッセージの単純化 ★注力!
①全体として文字数を少なくフォントを大きくすることにより、
余白を十分に設ける
②回答方法ごとにフローを提示し、動作指示を明確にする
〔A-1〕関心をひく
①(再掲)全体としてレイアウトを見やすくし、興味をひく
③「あなたの10分が茅ヶ崎の未来を創ります!」により
低コストで利益(社会貢献)がかなうことを強調
〔A-2〕インセンティブ設計
④「市民を代表」するという自己イメージを刺激する(→封筒)
〔S-1〕社会的規範の提示
⑤市章で公的機関からの通知であることを強調し、
義務感を出す
⑤
②
③
◆基礎情報
< 期 間 >
< 対 象 者 >
2019年12月6日(金)の発送後、12月27日(金)までの約3週間
(返信締切は12月23日(月)だが、年内に収受したものはカウントした。)
満16歳以上の市民約21万人から無作為抽出した3,000人
(参考)茅ヶ崎市人口:約24万2千人
< R C T > 上記対象者3,000人を、ランダムに1,500人ずつ2群に振り分けた。
→ 従 来 群:1,500人
→ ナッジ 群:1,500人
< 回答方法 > 郵送での調査票の返送 または QRコードによるオンライン回答
< 倫理的配慮 > ・いずれの群の通知を受け取っても、受け取る情報には差が生じないように
・個人の回答有無のデータは取らない。
14
事例シート
◆効果(概観)
◆考察
✓ ナッジ理論を踏まえて適切に依頼文書のレイアウトを変更することにより、回答率が向上する。
✓ 市民意識調査など、性質上RCTでの検証を行っても倫理的に問題が生じないと考えられる事業では、
積極的にRCTを取り入れることによって、予算をかけずに、成果をより正確に検証できる。
○ナッジ群では、回答数が114通、回答率にして7.6ポイント上昇(統計的に有意)
<結果>
全体
n=3000
従来群
n=1500
ナッジ群
n=1500
P(両側)
回答あり 1550
(51.7%)
718
(47.9%)
832
(55.5%) P<0.001
※8通の未達(宛先人不明)があったが、いずれの群のものか不明なため、やむを得ずいずれの群も n=1500 、全体で n=3000 としている。
+114通
15
【市民意識調査】 【市民討議会】
2019年12月6日(金)~12月27日(金)までの
約3週間
期間 2019年10月10日(木)~11月15日(金)までの
約1ヶ月間
満16歳以上の市民約21万人から
無作為抽出した3,000人
対象 満18歳以上の市民約20万3千人から
無作為抽出した2,200人
上記対象者3,000人を、
ランダムに1,500人ずつ2群に振り分けた。
RCT 上記対象者2,200人を、
ランダムに1,100人ずつ2群に振り分けた。
アンケート回答数 指標 参加承諾書または不参加者アンケートの返送数
郵送またはQRコード(回答者が選択) 回答方法 郵送による返送のみ
高い 事業認知度 低い
①鑑文(従来/ナッジ)
②アンケート
通知構成 ①鑑文
②概要説明(従来/ナッジ)
③参加承諾書
④不参加者アンケート
16
2つの事例を比較して
✓ 失敗事例✓ 成功事例
17
2つの事例を比較して
<考察と仮説>
✓ 最初に目に触れるもの(封筒や、鑑文)にこそナッジが有効なのではないか。
(「市民討議会」では、鑑文は変更できていない)
✓ 通知に関しては、「EAST」のうち「E」が非常に重要なのではないか。
(「市民討議会」では、盛り込みすぎてシンプルさが失われた)
✓ ナッジは「わかっているけれどできない」を導くことは得意だが、
行動の前に「内容を知ってもらう(啓発する)」必要があるものは向かないのではないか。
✓ 「イメージがわく」「自分の知識で対応できそう」である必要があるのではないか。
(「市民討議会」や「市民参加」の認知度の低さ)
←→(「市民意識調査」のわかりやすさ、とっつきやすさ)
18
次回のナッジ効果検証【予告】
(ナッジ)
<茅ヶ崎市自治基本条例・市民参加条例の
施行状況等に関するアンケート調査>
✓ 封筒、鑑文にナッジを採用
✓ とにかくシンプルに
✓ 認知度が低い条例のアンケートなので、
市民意識調査よりは結果が劣りそう・・・
✓ 阻害要因のデータ的な分析はできなかったが、
初見の方に何度も見てもらいつつ、
最終版を決定(プレテスト)
(従来)
~2種類の鑑文で検証~
・4月6日発送、回答締切4月30日(予定)
・5月終わりには結果が出る予定
三つ折り送付のため、
3分の1のデザインに
こだわりました!

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