水は地球上の物質の中で著しく大きな熱容量を有すため、海は地球の熱エネルギー循環のために本質的に重要である。そのことを反映して、数ヶ月から数千年にわたる気候変動は、海洋の振る舞いによって説明される。南極海は、南極大陸をぐるりと取り囲むように存在する広大な海であり、いわば世界の海洋循環の交差点である。本講義では、南極海とはどういう場所か、そして南極海が気候システムにおいて果たす役割について紹介する。

1. 2022年 北海道科学大学「社会の理解Ⅰ」
南極海を通じて地球の気候を考える
講師 山崎 開平（日本学術振興会・国立極地研究所）
キーワード：南極海・海洋物理学・気候力学

2. 2/50
どうして海？

3. 3/50
広い海
地表の7割
ハワイ
ニュージーランド
Google Earth
マリアナ海溝
カリフォルニア
アラスカ

4. 4/50
深い海
面積
深さ
標高
海面
海の平均水深 ~ 4000m
Talley et al. DPO 6th edition

5. 5/50
空気１ℓ 水１ℓ
1.3 [J/℃]
4200 [J/℃]
熱容量
97％
は海
海は熱を貯める

6. 6/50
地球温暖化＝海の温暖化
温室効果
による熱
海
氷河氷床
と陸域
大気
93%
6%
1%
約0.2ペタワット
IPCC AR5

7. 7/50
暖まる
冷える
大気海洋による熱の輸送
極
赤道
大気
100km
海
4km
地殻
6370km
大気と海洋の熱輸送力は同じぐらい（約2ペタワット）

8. 8/50
海＝「地球のエネルギー循環」

9. 9/50
海洋観測は「地球の血液検査」
人の血液検査
生活習慣病、ガン、白血病などの病気
の状態が分かる。
海洋観測
気候変動と生態系の変化が分かる。

10. 10/50
海を知る 物理
• 水温塩分
• 流れと波
• 境界過程
化学
• 酸素炭素
• 栄養塩
• 微量元素
生物
• プランクトン
• 魚類
• 鯨類鳥類
気候変動
生態系
海
私の専門

11. 11/50
I. 海の流れ
Ⅱ. 南極海
Ⅲ. 将来の気候

12. 12/50
どうして海は流れる？『風』と『密度』
https://www.youtube.com/watch?v=p4pWafuvdrY&feature=emb_title

13. 13/50
海の物理法則
★質量保存則
★運動方程式
★状態方程式
圧力傾度力 重力 摩擦力
コリオリ力
運動量の時間変化
密度の時間変化 体積変化率
一般的には、水温θと塩分Sが未知なので、
それら２つの保存則が加わる。
流速
密度
圧力
を診断する

14. 14/50
海洋大循環（30年前の描像）
啓林館

15. 15/50
海面平均塩分
海面平均水温
冷たい⇒重い
塩辛い⇒重い
★衛星観測★

16. 16/50
海洋大循環（現在の描像）
Talley et al. DPO 6th edition

17. 17/50
Q. 海洋深層循環が一周するのにかかる時間は？
①５０年 ②２００年 ③１０００年
数ヶ月～数千年の気候変動は海が説明する

18. 18/50
海は渦で満ちている
https://www.youtube.com/watch?v=F8zYKb2GoR4

19. 19/50
I. 海の流れ
Ⅱ. 南極海
Ⅲ. 将来の気候

20. 20/50
北極 南極

21. 21/50
南極海東インド洋区における
ナンキョクオキアミを中心とした
生態系総合調査
2018/19年 水産庁・開洋丸 南極航海
https://www.saildrone.com/news/what-learn-studying-antarctic-krill
ナンキョクオキアミ

22. 22/50
2019/20年 第61次南極地域観測隊
青木さん
隊長
小野さん
技術全般/撮影
中山さん
係留系/AX
Patさん
海氷/ROV
山崎
XCTD/CTD
北大から5名が参加
北大プレスリリース

23. 23/50
https://youtu.be/1BvjHkBNkiY 冒頭6分30秒まで

24. 24/50
第61次南極地域観測隊：JARE61
フリーマントル
11/27
3/19
トッテン
氷河沖
2週間
3週間
1/4-2/6
行程
北の浦海氷観測
ラングホブデ地学観測
袋浦ペンギンコロニー
ラジオ体操

25. 空から海洋観測（トッテン氷河沖）

26. 26/50
南極海＝氷の海

27. 27/50
Q. 南極海の氷、食べられる？
①すべて食べられる
②ほとんど食べられる
③ほとんど食べられない
④まったく食べられない

28. 28/50
２種類の氷
「氷山」は陸からきた氷
；南極氷床が切離してできる
；厚さ100m～1000m
「海氷(流氷)」は凍った海水
；塩分を含む（食べられない）
；厚さ数cm～10m

29. 29/50
空からみた南極海 分厚い氷山、薄い海氷
氷山
氷山 海氷
氷山
海氷
氷山
海氷
海氷
海氷
海氷
氷山

30. 30/50
南極海＝世界の海の交差点
昭和
シドニー

31. 31/50
Talley et al., DPO
海洋循環のターミナル
• ３大洋をつなぐ
• 深海の窓：沈み込み+湧昇

32. 32/50
海底付近の南極底層水の割合
太平洋
インド洋
大西洋
Johnson et al., 2010
世界を旅する

33. 33/50
昭和
シドニー
南極周極流
海流…

34. 34/50
氷床
棚氷
南極周極流
暖水
氷山
海氷
融解

35. 35/50
NASA
氷床量の変化
「海が融かす」氷床
気温は常に結氷温度より低い

36. 36/50
棚氷の崩壊
https://svs.gsfc.nasa.gov/30914

37. 37/50
南極氷床の質量損失 ☞「年間152ギガトン」
1ギガトン＝
https://climate.nasa.gov/vital-signs/ice-sheets/
＝融解量ｰ増加量

38. 38/50
I. 海の流れ
Ⅱ. 南極海
Ⅲ. 将来の気候

39. 39/50
過去100万年のCO2変動
↓過去100万年間、大気中CO2濃度はこのラインより低かった
⇒ 温室効果「地表の毛布」

40. 40/50
地球の熱収支
太陽からの入射：1366 W/㎡
温暖化で蓄えられた熱： 0.42 W/㎡
わずか
0.03％
IPCC AR5
海と陸
空
太陽からの入射
海と陸からの
熱放射
温室効果ガス

41. 41/50
さまざまな変化が起きている
IPCC SROCC(2019)

42. 42/50
気候変動のシナリオ
RCP2.6
2100年で産業革命
以前の気温+1.6℃
RCP8.5
2100年で産業革命
以前の気温+4.3℃
将来の気候を
シミュレーション
最大限の「脱炭素」 「従来通り」の政策
IPCC SROCC(2019)

43. 43/50
Fig TS3
海洋貯熱量
※1986-2015年を基準
海の温暖化 従来通り
脱炭素
• 加速的な温暖化はもはや避けられない
• 「脱炭素」では、2100年での温暖化が半分
IPCC SROCC(2019)

44. 44/50
二酸化炭素
溶け
込む
酸性化
石灰質の殻が
溶解
貧
酸素化
温暖化
表層の水が
軽くなる
海の酸性化と貧酸素化
呼吸を阻害
IPCC SROCC(2019)

45. 45/50
Fig SPM3
今世紀末の海の生き物
脱炭素 従来通り
生物の存在量の変化
増える
減る
<-50％ >+50％
IPCC SROCC(2019)

46. 46/50
1.1m
5.4m
Fig 4.2
1.1m
0.6m
2100
2000 2300
海面上昇
• 「脱炭素」によって、今世紀後半以降の
海面上昇を大幅に抑制できる
IPCC SROCC(2019)
★予測誤差の
ほとんどは
南極に由来！

47. 47/50
4mの
海面上昇

48. 48/50
南極大陸に向かって
海流が接近中
Yamazaki et al. (2021)
科学的な仮説…
人間活動
↓
地球温暖化+オゾン層破壊
↓
偏西風が強くなる
↓
海流が南下
↓
深海が暖かくなる
↓
氷がもっと融ける

49. 49/50
人類がしたことは、既に取り返しがつかない…
過渡的・不可逆的な気候変化「Tipping Point」は？
http://blogs.edf.org

50. 50/50
気候変動対策＝21世紀の生存戦略の要
SDGs
パリ協定

51. ありがとうございました！
KADOKAWA「宇宙よりも遠い場所」 http://yorimoi.com/