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M1/M2型マクロファージの識別マーカー
2017年3月30日
伊純 明寛
a.isumi (at) cellbio.info
 一口にマクロファージと言っても、その内実はM1型と
M2型の機能的な亜群(phenotype)に分かれています。
 
 これらを明瞭に識別できる方法が中々無いことがしばし
ば頭を悩ませられる課題となります。
 本資料では、マクロファージのphenotypeを識別する
ために一般的に使用されるマーカーの組み合わせについ
て概説していきます。
見やすさよりも情報を出来るだけ多く残すことを重視しているため、かなりtext richになっています。
[ Phenotypeの識別 ]
伊純 明寛
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目次
●
M1/M2型マクロファージ識別の目的
✔
ケース① <生体材料の適合性評価>
✔
ケース② <動脈硬化症の病因としてのM1型マクロファージ>
✔
ケース③ <I型アレルギーの病因としてのM2型マクロファージ>
●
Phenotype識別のためのマーカー選択
✔
Phenotype識別の前準備 | マクロファージの篩い分け
✔
M1型マーカーとM2型マーカーの組み合わせ -1(Iba1 / CD11c / CD163 or CD206)
✔
M1型マーカーとM2型マーカーの組み合わせ -2(CD80 or CD86 / CD163 or CD206)
✔
M1型マーカーとM2型マーカーの組み合わせ -3(Iba1 / CD181 / CD163 or CD206)
✔
M1型マーカーとM2型マーカーの組み合わせ -4(Iba1 / CD197 / CD163 or CD206)
✔
M1型マーカーとM2型マーカーの組み合わせ -5(Iba1 / iNOS / Arginase1)
✔
M1型マーカーとM2型マーカーの組み合わせ -6(Iba1 / CD38 / Egr2)
✔
マーカーの組み合わせ まとめ
●
Appendix(おまけ)
✔
Appendix-1 | M1型/M2型マーカーを共発現する事例
•
事例A. 腫瘍随伴性マクロファージ(TAM; Tumor-Associated Macrophage)
•
事例B. M2型マクロファージによりM1型マクロファージのApoptosis誘導過程
•
事例C. バクテリアへの免疫応答
✔
Appendix-2 | サイトカインの検出
•
解決策 A | ELISpot法
•
解決策 B | Bouin固定
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伊純 明寛
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M1/M2型マクロファージ識別の目的
 異物排除に働く免疫細胞と一括りにされがちですが、細かく見ていくと、生理的な役割が全く
異なるM1型とM2型のPhenotypeに分かれています。
【主な役割】
●
M1型・・・創傷直後から細菌やウイルス、ゴミなどを貪食するとともに、炎症を促進。
●
M2型・・・治癒段階に移行した組織の修復に働くとともに、炎症を抑制。
 Phenotypeによって集簇時期や機能が異なるため、創傷部位の組織が今まさに炎症を来して
いるのか、あるいは再生・修復が行われているのかを判断することが出来ます。
 
 また、M1/M2の拮抗バランスの破綻が原因となる疾患もあり、組織中のPhenotype局在を探
ることで、病態形成の機序や投薬治療の奏功などを解析することが出来ます。
Phenotype 集簇時期 機能
M1型
創傷直後から
炎症の収束まで
貪食作用、活性酸素産生、活性窒素産生、抗原提示、炎症性
サイトカイン産生(炎症促進)
M2型
炎症収束期から
再生が終わるまで
組織修復、血管新生、繊維化促進、抗炎症性サイトカイン産
生(炎症抑制)、抗体産生促進(寄生虫防御などに関与)
伊純 明寛
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ケース① <生体材料の適合性評価>
Ge LP, et al. (2015)
Integration of nondegradable polystyrene and degradable gelatin in a core–sheath nanofibrous patch for pelvic reconstruction.
Int J Nanomedicine. 2015 Apr 24;10:3193-201.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25995629
 インプラントやステントなどのような人工物を組織へ埋植する生体材料の開発分野では、
術後の治癒段階を評価する上でマクロファージの局在観察に高く関心が寄せられています。
●
M1型の集簇が主であれば、埋植物が異物と見做され、貪食作用により腐食を受けていることを示す。
  ⇒ 生体材料として適さない素材。
●
M2型の集簇が主であれば、埋植物へ向かって組織が再生・修復されていることを示す。
  ⇒ 生体材料として適する素材。
生分解性埋植素材の埋植予後。
M1型の集簇が少ない一方で、
M2型は2週間後をpeakにして
多くの集簇が認められる。
3週間以降はどちらも
あまり集簇が認められない。
⇒ 殆ど炎症を来すことなく
 3-4週間程度で定着完了。
伊純 明寛
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ケース② <動脈硬化症の病因としてのM1型マクロファージ>
 このようにM1型優位な免疫応答により増悪してしまう疾患では、M2型優位な状況
を促し、M1型への分化を抑制するよう拮抗させる投薬治療法が検討されています。
 Phenotypeの識別により、M1型/M2型のバランス制御への奏功を評価することが出
来ます。
 また、動脈硬化症のように、本来であれば異物排除に働くはずの M1型マクロファー
ジの活性化が、むしろ病態形成の原因となってしてしまうケースもあります。
Fan-Ching Lin, Howard A. Young (2013) The talented interferon-gamma.
Advances in Bioscience and Biotechnology Vol.4 No.7A3
http://www.scirp.org/JOURNAL/PaperInformation.aspx?PaperID=34661
1. 血管内にコレステロール塊(Plaque)が蓄積すると、異
物排除のため M1型マクロファージが集簇します。
2. 集簇したM1型マクロファージはPlaqueを貪食します
が、マクロファージは Plaque の分解能を持たないた
め、マクロファージ死後には消化されないまま結晶化
した Plaque が堆積します。
3. また、集簇したM1型マクロファージは TNFα、IL-
6、IL-12 などの炎症性サイトカインを分泌して更に
M1型マクロファージの分化・集簇を促進させる方向
へ働くため、Plaqueの堆積が進んでいきます。
4. この結果、損傷部位へ M1型マクロファージが集簇す
ればするほど、局所的な Plaque の堆積が増していく
ことで血栓を形成し、病態形成が増悪していくことに
なります。
伊純 明寛
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ケース③ <I型アレルギーの病因としてのM2型マクロファージ>
 治療法として、人為的にM1型マクロファージを増加させてM2型マクロファージを抑制する
投薬も検討され、やはりPhenotype識別により奏功の評価が可能となります。
Boden SR, Wesley Burks A. (2011)
Anaphylaxis: a history with emphasis on food allergy.
Immunol Rev. 242(1):247-57
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21682750
1. 体内にアレルゲンが侵入すると、M2マクロファージはこれを
貪食し、一部を抗原として膜表面へ提示するとともに、ヘル
パーT細胞(TH2細胞)を活性化する。
2. TH2細胞はB細胞へアレルゲン特異的なIgE抗体を産生するよ
う働きかける。アレルギー体質のヒトは通常よりも過剰にIgE
抗体を産生してしまう。
3. 産生されたIgE抗体は白血球の一種である肥満細胞(マスト細
胞)の膜上へ結合(感作)し、肥満細胞が抗原(アレルゲン)
を認識するためのセンサーとして機能する(IgE抗体の産生量
が多いほど多くの肥満細胞へ結合する)。
4. 抗原を認識した過剰量の肥満細胞は異物排除のためヒスタミン
等の血管拡張促進物質を分泌することで、血管から免疫細胞を
滲出・集簇させ、過剰な炎症が生じてアレルギー症状となる
(花粉症の薬に抗ヒスタミン剤が使われるのは、この炎症を抑
える目的)。
 喘息や食物アレルギー、アトピーなどのI型アレルギーは、M2型マクロファージが病因と
なるケースです。本来は炎症抑制に働くはずのM2型マクロファージが、むしろ遠因的に炎
症を誘発してしまうところが大きな特徴です。
 M2型マクロファージは寄生虫防御などの慢性的な異物排除のため、M1型マクロファージによる短期的な免疫応答
では処理しきれない異物に対してIgE抗体の産生を促す機能があります。
 特定の食物や花粉などに過剰に反応してしまう体質のヒトは、このIgE抗体の産生が過剰に起こることでアレルギー
症状として表れます。
伊純 明寛
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Phenotype識別のためのマーカー選択
 様々な分野で重要な意義を持つM1型/M2型 Phenotypeの識別ですが
 しかしながら、これらを明確に識別するためのマーカー選択は悩ましい課題となっています。
 本資料では、M1型/M2型識別のために使用されるマーカーの内、一般的なものを列記するとと
もに、生理的な機能も交えておすすめの組み合わせについて概説していきたいと思います。
Phenotype マーカー名 細胞内局在 機能
M1型+M2型
CD11b
CD68
F4/80
Iba1(AIF-1)
細胞膜
細胞膜 Lysosome膜
細胞膜
細胞質 細胞膜
細胞接着に関与,Fibrinogenレセプター
食作用活性に関与
制御性T細胞(Treg)の分化に関与
アクチン膜骨格と結合して膜構造を変化
M1型
CD11c(integrin αX鎖)
CD38
CD80
CD86
CD181(CXCR1, IL-8RA)
CD197 (CCR7)
iNOS
細胞膜
細胞膜
細胞膜
細胞膜
細胞膜
細胞膜
細胞質
細胞接着に関与,Fibrinogenレセプター
cADP合成に関与
T細胞活性化の必須シグナル
T細胞活性化の必須シグナル,IL-2分泌に関与
IL-8レセプター,好中球活性化に関与
MIP-3-betaレセプター,リンパ細胞活性化に関与
NO産生による殺菌・殺腫瘍作用
M2型
CD163
CD206(Mannose Receptor)
Αrginase-1
Egr2(Krox20)
細胞膜
細胞膜
細胞質
核
エンドサイトーシス活性に関与
糖タンパクのエンドサイトーシスを活性化
ポリアミン類およびプロリン産生による組織修復
核転写因子 EGR; Early Growth Response protein
伊純 明寛
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Phenotype識別の前準備 | マクロファージの篩い分け
 Phenotype識別の前に、まずはPhenotypeに関らず全てのマクロファージをそれ以外の細
胞と篩い分けを行うことが必要となります。
 マクロファージマーカーを選択する際の課題として、マクロファージ以外の免疫細胞にも広く発現しているため、観察目的
のマクロファージ以外が検出されてしまう問題があります。
●
Iba1(AIF-1)を推奨
 Phenotype非特異的なマクロファージマーカーとして、最も安定的に発現する抗原としてIba1の検出をおすすめします。
 F4/80も一般的に使用されるマーカーですが、F4/80のデメリットとして肺・腎臓で発現が弱く、精巣・リンパ節ではT細
胞ゾーンで発現が認められないことが報告されています(Gordon et al, (1994) BCG-induced granuloma
formation in murine tissues. Immunobiology. 191(4-5):369-77.)。
 一方でIba1は組織によって発現の強弱はありますが、基本的には全ての臓器で良好な発現が認められます。特別の用途
がない限りはIba1を用いるのが無難です。
Phenotype マーカー名 細胞内局在 機能
M1型+M2型
CD11b
CD68
F4/80
Iba1(AIF-1)
細胞膜
細胞膜 Lysosome膜
細胞膜
細胞質 細胞膜
細胞接着に関与,Fibrinogenレセプター
食作用活性に関与
制御性T細胞(Treg)の分化に関与
アクチン膜骨格と結合して膜構造を変化
伊純 明寛
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【方針】
次頁からM1型/M2型マーカーの組み合わせを列挙していきますが
各Phenotypeマーカーはマクロファージ以外のものにも広範に発現しています!
そのため、下記の方針で識別を行うことが必要となります。
・ Iba1−
 ・・・ マクロファージ以外(観察対象ではない他の細胞)
・ Iba1+
/ M1型マーカー+
 ・・・ M1型マクロファージ
・ Iba1+
/ M2型マーカー+
 ・・・ M2型マクロファージ
1. Iba1によりマクロファージとそれ以外を篩い分け。
↓
2. M1型/M2型マーカーによりPhenotype識別。
伊純 明寛
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M1型マーカーとM2型マーカーの組み合わせ -1
 
パターン① Iba1 / CD11c / CD163 or CD206
汎用性 ・・・ 高 一般的に使用される組み合わせです。
Phenotype マーカー名 細胞内局在 機能
M1型+M2型 Iba1(AIF-1) 細胞質 細胞膜 アクチン膜骨格と結合して膜構造を変化
M1型 CD11c(integrin αX鎖) 細胞膜 細胞接着に関与,Fibrinogenレセプター
M2型
CD163
CD206(Mannose Receptor)
細胞膜
細胞膜
エンドサイトーシス活性に関与
糖タンパクのエンドサイトーシスを活性化
【解説】
 CD11は細胞接着分子であるインテグリンの構成タンパクであり、a〜dに分かれています。
 この内、マクロファージに発現するのはCD11bとcですが、CD11bはM1型のみならずM2型にも発現が認められるため、pan(全ての)
macrophageマーカーである点に注意が必要です。M1型マーカーとして使用する場合はCD11bではなくCD11cを使用してください。
 CD163とCD206はエンドサイトーシスに関与する受容体であり、最も一般的に使用されるM2型マーカーとして使用されます。下記例で
はM1型にも若干のmRNA発現が認められていますが、実際にはタンパクレベルでM1型に認められることは殆どありません。
 ただし、どちらが手技的に使いやすいかは検討が必要です。
M1型 M1型 M1型M2型 M2型 M2型
Fujisaka S et al. (2009)
Regulatory mechanisms for adipose tissue M1 and
M2 macrophages in diet-induced obese mice.
Diabetes (11) :2574-82
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19690061Gene profiles of macrophages positive or negative for CD11c and CD206 in epididymal fat tissue.
伊純 明寛
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M1型マーカーとM2型マーカーの組み合わせ -2
 
パターン② Iba1 / CD80 or CD86 / CD163 or CD206
汎用性 ・・・ 高 最も一般的に使用される組み合わせです。
Phenotype マーカー名 細胞内局在 機能
M1型+M2型 Iba1(AIF-1) 細胞質 細胞膜 アクチン膜骨格と結合して膜構造を変化
M1型
CD80
CD86
細胞膜
細胞膜
T細胞活性化の必須シグナル
T細胞活性化の必須シグナル,IL-2分泌に関与
M2型
CD163
CD206(Mannose Receptor)
細胞膜
細胞膜
エンドサイトーシス活性に関与
糖タンパクのエンドサイトーシスを活性化
【解説】
 CD80とCD86は類似構造の膜タンパクです。どちらもT細胞上
に発現するCD20およびCD152(CTLA−4)の受容体として機能
をします。
 創傷部位等へ集簇したM1型マクロファージがT細胞と接近す
ると、T細胞上のCD20およびCD152がリガンドとしてマクロファー
ジ上のCD80およびCD86へ結合します。この刺激がシグナルとな
り、T細胞の増殖およびサイトカイン分泌を誘導して免疫応答を促
進します。
 CD163およびCD206についてはP.9と同様、どちらも特異性が
高くおすすめです。
特異性が非常に高く、最も一般的に使用される組み合わせです。
Mattiola I, et al. (2015)
Priming of Human Resting NK Cells by Autologous M1 Macrophages
via the Engagement of IL-1β, IFN-β, and IL-15 Pathways.
J Immunol. 195(6):2818-28.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26276870
伊純 明寛
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M1型マーカーとM2型マーカーの組み合わせ -3
 
パターン③ Iba1 / CD181 / CD163 or CD206
汎用性 ・・・ 低 たまに見られる組み合わせですが、特異性の観点からおすすめは出来ません。
Phenotype マーカー名 細胞内局在 機能
M1型+M2型 Iba1(AIF-1) 細胞質 細胞膜 アクチン膜骨格と結合して膜構造を変化
M1型 CD181(CXCR1, IL-8RA) 細胞膜 IL-8レセプター,好中球活性化に関与
M2型
CD163
CD206(Mannose Receptor)
細胞膜
細胞膜
エンドサイトーシス活性に関与
糖タンパクのエンドサイトーシスを活性化
【解説】
 CD181はIL-8のGタンパク共益型受容体です。
 IL-8がCD181へ結合することで細胞内Ca2+
濃度が上昇し、IL−8を受容した方向(創傷部位)へ向かう走化性を生じさせます(参考 Calcium
and Chemotaxis http://stke.sciencemag.org/content/2007/399/tw293)。好中球, 好塩基球, Tサブセットが主な発現部位です。
  この組み合わせもPhenotype識別に使用されてい
ることがありますが、特異性は高くありません。
 また、好中球やT細胞などで高発現が認められるた
め、マクロファージ以外の免疫細胞が高密度に集簇し
ているサンプルの観察では、免疫細胞のほぼ全体が
染まってしまい、観察が難しくなる場合があります。
Zajac E, et al.
Angiogenic capacity of M1- and M2-polarized macrophages is determined
by the levels of TIMP-1 complexed with their secreted proMMP-9 (Supplemental Data)
Blood. 122(25):4054-67.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24174628
おすすめできません。
伊純 明寛
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M1型マーカーとM2型マーカーの組み合わせ -4
  
パターン④ Iba1 / CD197 / CD163 or CD206
汎用性 ・・・ 中 一般的に使用される組み合わせです。
Phenotype マーカー名 細胞内局在 機能
M1型+M2型 Iba1(AIF-1) 細胞質 細胞膜 アクチン膜骨格と結合して膜構造を変化
M1型 CD197 (CCR7) 細胞膜 MIP-3-betaレセプター,リンパ細胞活性化に関与
M2型
CD163
CD206(Mannose Receptor)
細胞膜
細胞膜
エンドサイトーシス活性に関与
糖タンパクのエンドサイトーシスを活性化
【解説】
 CD197はCCL19やCCL21のGタンパク共役型受容体
です。CCL19やCCL21は免疫細胞や線維芽細胞などの
間質細胞から分泌され、これらのリガンドがCD197と結合
することにより、セカンドメッセンジャーであるGDPを介して
走化性が制御され、リンパ系における循環や圓生部位への
集簇が誘導されます。
 M2型にも若干の発現が認められますが、圧倒的に
M1型の発現が多いです(CD80と同程度)。
(右図結果では、Fetal(胎児)のミクログリアではまだしっかりとした分
化機能が備わっていないのか、M2型へも発現が認められるため留意
しておく必要があります。)
 CD163およびCD206についてはP.9と同様、どちらも特
異性が高くおすすめです。
Durafourt BA et al. (2012)
Comparison of polarization properties of human adult microglia and blood-derived macrophages.
Glia. 60(5):717-27.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22290798
MØ, macrophage;  GM, GM-CSF;  M, M-CSF;
AM, adult microglia;  FM, fetal microglia.
伊純 明寛
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M1型マーカーとM2型マーカーの組み合わせ -5
 
Phenotype マーカー名 細胞内局在 機能
M1型+M2型 Iba1(AIF-1) 細胞質 細胞膜 アクチン膜骨格と結合して膜構造を変化
M1型 iNOS 細胞質 NO産生による殺菌・殺腫瘍作用
M2型 Arginase1 細胞質 ポリアミン類およびプロリン産生による組織修復
 iNOSとArginase1はどちらもArginineを基質とします。
 同一の基質から対照的な経路で合成される酵素のため、Phenotypeごとの機能と
も整合性を取れた組み合わせです。
 
 M1型はiNOS(inducible NO Sinthase)を発現し、貪食した異物への攻撃のため
ArginineからNOを合成します。
 M2型はArginase1を発現し、ArginineからOrnithinおよびその下流のポリアミンと
Prolineを合成します。これにより修復部位でのNO産生が抑制されるとともに、ポリアミ
ンおよびProlineを介した組織修復が促されます。
 生理的な機能を最も反映した組み合わせです。
パターン⑤ Iba1 / iNOS / Arginase1
汎用性 ・・・ 高 機能的な識別が出来るため、個人的には最もおすすめです。
【解説】
Rath M, Müller I, Kropf P, Closs EI, Munder M. (2014)
Metabolism via Arginase or Nitric Oxide Synthase: Two
Competing Arginine Pathways in Macrophages.
Front Immunol. 5:532.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25386178
Angiogenic capacity of M1- and M2-polarized macrophages is determined
by the levels of TIMP-1 complexed with their secreted proMMP-9.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24174628
iNOSとArginase1はそれぞれHIF-1α
およびHIF-2αに制御されるため、これら
上流の因子を検討するのもありです。
伊純 明寛
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M1型マーカーとM2型マーカーの組み合わせ -6
  
Phenotype マーカー名 細胞内局在 機能
M1型+M2型 Iba1(AIF-1) 細胞質 細胞膜 アクチン膜骨格と結合して膜構造を変化
M1型 CD38 細胞膜 cADP合成に関与
M2型 Egr2 核 核転写因子 EGR; Early Growth Response protein
 最近の網羅的トランスクリプトーム解析により絞り込まれた組み合わせです(Novel Markers to Delineate Murine M1
and M2 Macrophages. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26699615)。
 M1型/M2型にそれぞれ発現する膨大な因子の中から、最も発現動態が特異的かつ顕著であったものが抜き出された結
果、以下の結果が示されました。
パターン⑥ Iba1 / CD38 / Egr2
汎用性 ・・・ 低 最近の知見のためデータがまだ乏しいですが、文献による報告では最高精度です。
【解説】
●
M1型 CD38+
/Egr2−
●
M2型 CD38−
/Egr2+
 ただし、まだデータが乏しく汎用性に関しては注意が必要です。
 広範な実験条件で使用可能なマーカーかどうかは検証が十分とは言えない状況です。特にマクロファージは
由来や誘導方法、生理条件によって因子の発現が不安定に変化します。
 右図のグラフのように非常に明瞭な識別結果が示されているため、そう簡単に特異性が問題となる可能性は
低く思われますが、念のため、観察目的とするマクロファージで使用可能か、他のマーカーとの組み合わせにより
事前検討を行う方が万全と言えます。
 また、脳のミクログリア検出では、Egr2発現細胞の内の殆どがアストロサイトとなるため、Iba1を併用した識別
が非常に重要となります(アストロサイトはEgr2の機能によりミエリン鞘を形成する)。 伊純 明寛
16
マーカーの組み合わせ まとめ
パターン マーカー組み合わせ 汎用性 備考
⑤
(P. 13)
●
M1型+M2型  Iba1
●
M1型     iNOS
●
M2型     Arginase1
高
機能的な識別が出来る点から
最もおすすめです。
②
(P. 10)
● M1型+M2型  Iba1
● M1型     CD80 or CD86
● M2型     CD163 or CD206
高
最も一般的に使用される組み合わせで
す。
①
(P. 9)
● M1型+M2型  Iba1
● M1型     CD11c
● M2型     CD163 or CD206
高 一般的に使用される組み合わせです。
④
(P. 12)
●
M1型+M2型  Iba1
●
M1型     CD197
●
M2型     CD163 or CD206
中 一般的に使用される組み合わせです。
⑥
(P. 14)
●
M1型+M2型  Iba1
●
M1型     CD38
●
M2型     Egr2
低
報告された精度は最も高いですが
データは少ないです。
③
(P. 11)
●
M1型+M2型  Iba1
●
M1型     CD181(CXCR1, IL-8RA)
●
M2型     CD163 or CD206
低
散見される組み合わせですが
おすすめできません。
<おすすめ順>
伊純 明寛
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Appendix
ここから先はおまけです。
伊純 明寛
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Appendix-1 | M1型/M2型マーカーを共発現する事例
- Transdifferentiationについて.
 M1型とM2型の分類は明瞭なものではなく、生理条件によって転換(Transdifferentiation)を
生じ、不安定に移り変わります。
Appendix
M1型 M2型
 その過程では両方のマーカーを発現するマクロファージも生じ、完全にM1型/M2型を識別する
ことは困難となります。
 その事例を参考までにご紹介していきます。
伊純 明寛
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事例A. 腫瘍随伴性マクロファージ(TAM; Tumor-Associated Macrophage)
 腫瘍形成の最初期には異物排除のためM1型マクロファージが集簇しますが、腫瘍から分泌されるM-CSFにより、M1型か
らM2型様マクロファージへの分化誘導が促進されます。
 M1型からM2型様へ分化されたこれらのマクロファージを腫瘍随伴性マクロファージ(TAM; Tumor-Associated
Macrophage)と呼びます。
 TAMを誘導することにより、腫瘍はM1型マクロファージによる免疫応答から身を守り、且つM2型の性質を示すTAMから分
泌される成長因子による成長・肥大を促進します。
腫瘍周囲におけるM1型→M2型 Transdifferentiation.
Appendix
M-CSF腫瘍
M1 M2
IL-10 TGFβ
VEGF
EGF PDGF
抗腫瘍免疫の抑制
血管新生による腫瘍への栄養
腫瘍の成長活性化
 TAM誘導初期では、元々発現していたM1型マーカーのみならずM2型マーカーも共発現します。
 しかしながら、誘導の過程で元々のM1型マーカーが消失するTAMも生じ始めます。
●
TAMの誘導過程ではM1型/M2型マーカーの両方を発現する場合がある。
●
M1型マーカーを消失した後のTAMと正常M2型マクロファージとの一般的な識別方法は確立されていない。
●
腫瘍周囲のM2型マーカー発現マクロファージをTAMと判定する以上の識別は難しい。
伊純 明寛
20
 M2型マクロファージの集簇により、M1型マクロファージがApoptosisを誘導されることが知られています。
 M2型マクロファージ誘導性のIL-4、あるいはM2型マクロファージから分泌されるIL-10により、本来はM2型特異的酵素
であるArginase-1がM1型マクロファージ内に発現します。
 Arginase-1はiNOSと同一のArginineを基質とするため、M1型マクロファージ細胞内のArginineが競合的に欠乏する
こととなり、iNOSの機能が適切に働かなくなります。
 iNOSにより生成されるNOは貪食した菌やウイルスへの殺菌作用だけでなく、細胞内の代謝により生じた活性酸素
(ROS)へ結合することで除去する働きを持ちます。
 Arginineの欠乏によりiNOSのNO生成が阻害されることにより、細胞内で生成されたROSが細胞を障害し、M1型マクロ
ファージのApoptosisを誘導する機序へと繋がります。
 Apoptosis過程ではArginease-1とiNOSが共発現するため
これらのマーカーでは明瞭に識別することはできません。
Appendix
事例B. M2型マクロファージによるM1型マクロファージのApoptosis誘導
M1型マクロファージのApoptosis過程におけるM1型→M2型 Transdifferentiation.
IL-4
IL-10
M1 M1
Arg-1
iNOS
M1
O2
-
O2
-
M1
Apoptosis.
伊純 明寛
21
Appendix
事例C. バクテリアへの免疫応答
バクテリア由来Lipopsaccharide受容によるM2型→M1型 Transdifferentiation.
 バクテリアが体内へ侵入すると、本来は動物に存在しないはずの細胞壁を構成するリポ多糖類(LPS; Lipopsaccharide)が
体内に存在することになります。
 M2型マクロファージがLPSを受容することにより、バクテリアを排除するため免疫促進性のM1型マクロファージへの転換が誘
導されます。
 また、M1型マクロファージは免疫促進性のTh1細胞を活性化させ、Th1細胞からはIL-21が分泌されます。
 M2型マクロファージがIL-21を受容することにより、更にM1型マクロファージへの転換が誘導されます。
LPS
M2 M1
バクテリア
IL-12
Th1
IL-21
 バクテリアの侵入に際してはLPSの受容およびTh1からのIL-21によるfeedbackの
両面からM1型マクロファージへの転換を誘導します。
 この過程のマクロファージでは分子発現の動態が不安定のためPhenotype鑑別は
難しくなります。
伊純 明寛
22
Appendix-2 | サイトカインの検出
Appendix
 本資料でマーカーとして取り挙げた分子は、受容体
や酵素などの細胞内分子のみに限定しました。
 これらは発現動態が比較的安定しており、再現性の
高い検出結果を得るのに好都合なためです。
 実際には、M1型/M2型のPhenotypeは細胞内の
分子動態のみならず、細胞外へ分泌するサイトカイン
などのリガンド成分にも大きな違いが表れます。
M1 Cytokine M2 Cytokine
TNFα
IL-1
IL-6
IL-12
IL-15
IL-23
CCL8
CCL15
CCL19
CCL20
CXCL9
CXCL10
CXCL11
CXCL13
TGFβ
FGL2
IL-10
CCL1
CCL13
CCL14
CCL17
CCL18
CCL20
CCL23
CCL26
CXCL1
CXCL2
CXCL3
 しかしながら、サイトカイン(特にIL系)は生細胞/固定細胞に拘らず、細胞外へ非常に遊
離してしまいやすい点と、品質の良い抗体の作製が難しいため、検出は困難を極めます。
ELISpot法解決策 A
 最も高精度に
サイトカインを検出できる実験系です。
解決策 B Bouin固定
 組織上の局在を観察したい時は
Bouin固定後の免疫染色が最適です。
伊純 明寛
23
Appendix
解決策 A | ELISpot法
 サイトカインは組織上での観察が非常に困難なため
通常は培養上清に含まれるサイトカイン濃度をELISA法により
測定することで検出されます。
 しかしながらELISA法では、よほど高濃度な試料でない限り
再現性の高い検出結果を得るのは困難です。
 そこで開発されたのがELISpot法です。
1. ディッシュ底面へ
抗サイトカイン一次抗体を固相化
2. 細胞をディッシュへ播種
3. 細胞からのサイトカイン分泌
4. 細胞を洗浄除去
(一次抗体へ結合したサイトカインは残留する)
5. 酵素あるいは色素標識二次抗体を結合させ
サイトカインを特異的に検出
Cell-based ELISA法とよく似ていますが
途中で細胞を洗い流すところが異なっています。
 
Cell-based ELISA法では細胞を播種した後、一次抗体へ結合した細胞数をカウントします。
サイトカインは分子が小さく膜外へ非常に遊離してしまいやすいため、
抗サイトカイン抗体では細胞をトラップしきれず、Cell-based ELISA法は全く向きません。
ELISpot法は現状、最も高精度に
サイトカインを検出できる実験系です。
Martino AT, Herzog RW, Anegon I, Adjali O. (2011)
Measuring immune responses to recombinant AAV gene transfer.
Methods Mol Biol. 807:259-72.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22034034
伊純 明寛
24
Appendix
解決策 B | Bouin固定
 Western BlotのようなLysateレベル、あるいはELISpotのような
単離された細胞レベルの間接的な検出ではなく、組織上でサイトカ
インの分泌局在を観察したい場合は免疫染色を行うことになります。
 しかしながら、サイトカイン(特にIL系)は分子量が小さく、細胞外
へ容易に流出してしまうため、通常の固定では極めて困難です。
サイトカインの染色にはBouin固定を推奨します。
 Bouin固定はホルモンや伝達ペプチドなど、分泌タンパク
の免疫染色に用いられます。
 Bouin固定ではサイトカインの観察にも適することが報告
されています。
【ブタ組織】
Salguero FJ. et al, (2001)
Detection of monokines in paraffin-embedded tissues of pigs using polyclonal antibodies.
Vet Res. 32(6):601-9.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11777010
抗原 IL-6
組織 ブタ肝臓
固定液 Bouin液
透過処理 Tween20
Bouin固定および抗原賦活化の
際にTween20を混ぜたBufferで
透過処理を行うことで、より高い
検出性が期待できます。
伊純 明寛

M1/M2型マクロファージの識別マーカー