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生徒指導論第10回不登校1:現状理解 富田英司 愛媛大学教育学部 1
前回の課題 教員採用試験対策チームを作成 希望者のみ(10点) 内容 グループで時間外に集まって協議 問題を持ち寄る(教職支援ルームなど) 来週木曜PM2時までに問題・回答を富田まで 来週の授業で回答と解説を行う 2
次回までの課題 扱う問題 教育相談・カウンセリングマインド 不登校 担当者 次回は12月22日(水)が金曜時間割 3
不登校の現状 <不登校児童生徒数の傾向> 基本的に横ばい傾向が強い(ここ2年は微減) <対応の変化> 働きかけ、かかわりを控えた待つ対応:文部省「学校不適応対策調査研究協力者会議」報告(1992) ↓ 働きかけ、かかわりを持つ対応:文部科学省「不登校問題に関する調査研究協力者会議」報告(2003) スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーの配置など教育相談の充実
文部科学省「平成21年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」(速報値) 不登校児童生徒数は、小学校22,327人(前年度より325人減少)、中学校100,105人(前年度より4,048人減少)の合計122,432人(前年度より4,373人減少)。  ・小学校  0.32%  (前年度0.32%)  ・中学校  2.77%  (前年度2.89%)
文部科学省「平成21年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」(速報値) 学年別不登校児童生徒数のグラフ
7 文部科学省「平成21年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」(速報値)
中1ギャップ :2005年7月27日小学生から中学1年生になったとたん、学習や生活の変化になじめずに不登校となったり、いじめが急増するという現象。新潟県教育委員会が名づけた。同委員会では2004年度までの2年間にわたり、県下の中学5校の1年生約1800人を対象に実態調査を実施している。05年3月にまとめられた報告書によると、ギャップの典型例は、コミュニケーションが苦手な生徒が小学校時の友人や教師の支えを失う「喪失不安増大型」と、小学校でリーダーとして活躍していた生徒が中学校で居場所を失ってしまう「自己発揮機会喪失ストレス蓄積型」であることがわかったという。      (出典:JapanKnowledge)
「不登校」概念の変遷 60年代「学校恐怖症」 70~80年代 「登校拒否」 学校を恐れている場合だけでなく,自ら拒否しているというケースが認識されるようになる 90年代以降 「不登校」 登校を拒否しているだけでなく,学校に行きたくても行けないというケースが認識されるようになる。
不登校の定義の変遷 「不登校児童生徒」の定義(H15 文部科学省報告書) 何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるため年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの 学校教育法施行規則の一部を改正する省令(H17.7.6) 第3 留意事項:不登校状態であるか否かは,小学校又は中学校における不登校児童生徒に関する文部科学省の調査で示された年間30日以上の欠席という定義が一つの参考となり得ると考えられるが,その判断は小学校等又はその管理機関が行うこととし,例えば,断続的な不登校や不登校の傾向が見られる児童生徒も対象となり得るも のであること。
最近の傾向① 「非在宅校内型」の不登校が増えた 登校はしているが,保健室等に別室登校しているケース 従来の枠組みでは不登校に入らない 登校しているが欠席したい児童生徒が相当いることが認識されるようになる
最近の傾向② 「不登校は誰にでも起こりうる」 「何が何でも登校すべき」という認識の低下 ->周囲も本人も冷静に対応できつつある ->教師が真剣に対応しないという傾向も 不登校経験者の7割はその後普通に社会生活を送る しかし,残りの3割を見逃すことはできない
不登校への対応 文部科学省の方針 一般的な対応指針 スクール・ソーシャルワークの導入 学校へ行かないという選択肢 13
不登校への対応にあたって(5つの視点)(文部科学省,2003)
不登校への一般的な対応指針(鈴木, 2002) 早期発見・早期対応を心がける 兆候がみられたら,個別面接や情報収集 校内での協力体制の確立 担任一人で解決しようと思わない 先入観を捨て毎回を初めてのケースと認識する 学校復帰・再登校を最終目標としない 登校刺激は無理強いしないが,徐々に根気強く 家庭訪問は午後や休日に短時間で 保護者への共感的理解・協力 専門機関との連携 登校を誘ってくれるクラスメイトの負担に気をつける,そのことについて本人の意向を聞く 15
滋賀県教育委員会スクールソーシャルワーク的学校不適応支援事業 アセスメントとプランニングを重要視 ケース会議の定期的開催 B-PDCAサイクルの採用 “B”:ベーシックアセスメント ベースシートの活用 支援の共通認識や情報収集,記録作成,SSW概念の意識化に役立つ 16
ベースシート 17
滋賀県の不登校に関する統計 18 学校不適応支援事業対象の 40小学校における不登校児童の変化
アセスメントのポイント(伊部, 2008) 家庭環境:家族構成,保護者の性格・教育方針,親子関係,夫婦関係,経済状況,きょうだい関係,力のあるところ,援助を必要とするところ 学校環境:友人関係,教師との関係,学習状況,学校生活全般(休み時間,保健室,給食,各授業中,部活,登下校等) 地域環境:家族,本人を支える資源の有無 本人自身:学力・体力・運動能力,性格,好き嫌い,こだわり,得意・不得意等,発育状況,日常生活(睡眠時間,起床,就寝時間,食事,入浴等),発達障害,虐待の有無,自尊感情,人への信頼感 19
スクール・ソーシャルワークの導入 スクール・ソーシャルワーカー(SSW)とは 学校に関する問題を解決するために,学校,児童生徒,家族,地域,行政などの間を取りもつ役割 SSW自体は資格制度ではないが,各自治体によって採用資格が決まっている 非常勤として地方自治体などから雇われることが多い 指導主事などの教員がその役割を担うこともある 20 典拠:日本スクールソーシャルワーク協会 http://www.sswaj.org/w_ssw.html
SSWの活動のレベル(鵜飼, 2008) 21
不登校への対応4:「学校」へ行かないという選択肢 ホームスクーリング フリースクール サポート型,適応指導教室,通信制,全寮制等 教育支援センターにおける適応指導教室 松山市「松山わかあゆ教室」 登校日数としてカウントされる 1992年より小中では校長の判断により出席扱い 今年度より,高校でも一部出席扱いに 22
教育基本法(平成十八年十二月二十二日法律第百二十号) (義務教育) 第五条  国民は、その保護する子に、別に法律で定めるところにより、普通教育を受けさせる義務を負う。 2  義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。 3  国及び地方公共団体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負う。 4  国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない。 23
愛着研究の起源Harlowの代理母実験(1958) 母子の絆が食料を与えることによって二次的に派生しているのかどうか直接検討. 実験の概要:生まれたばかりの子ザルを親ザルから隔離して,針金製と柔らかい布製の2つの「代理母」を与えた.子ザルは子の二つの「代理母」からミルクをもらった.子ザルは成長するにつれ,授乳条件に関係なく,布製の「代理母」の下で過ごす時間が長くなり,犬のおもちゃを見せると布製の母に抱きつくという行動を見せた. 生まれつき,接触による慰めと安心感を与えてくれる存在に接近する欲求がある事を示唆. イギリスの児童精神科医Bowlbyは,このような情緒的な絆や養育者等との接近を維持しようとする傾向を愛着と呼んだ.
愛着の発達 愛着の発達 行動レベル(物理的接近)から表象レベル(心理的接近)への移行 愛着とは養育者などの重要な他者との接近を維持する傾向を指すが,最初は物理的に接近する行動が特徴的だが,加齢につれて,物理的に離れていても安心感を維持することが可能になる. ->このようなことが可能になるのは,重要な他者についてのイメージを子どもが内在化したためだと考えられる.このようなイメージを内的作業モデル(表象モデル)と呼ぶ.
愛着形成における問題 ホスピタリズムとマターナル・デプリベーション(母性剥奪) Spitzは,子どもが生まれた家庭以外の環境(養護施設,病院の保育器)などで育てられる場合に生じる諸特徴(発達の遅れ:周囲に対する無関心,動きの少なさ,発声の少なさ,笑顔や呼びかけに対する反応の少なさ,食欲不振,体重増加の停止など)をホスピタリズムと呼んだ. Bowlbyは愛着理論から,ホスピタリズムの原因が乳幼児と養育者との間の暖かい心身のふれあいの欠如(=マターナル・デプリベーション)にあるとした.
対人関係の基礎をつくる愛着の個人差:愛着スタイル Bowlbyのもとで研究していたAinsworthは,赤ん坊の愛着行動を観察するため,子どもを一時的にストレスの高い新奇場面(strange situation)においてそこでの反応を観察した. ->その結果,母親の再会したのちの子どもの反応に特徴的なA~Cの3タイプを見つけた. タイプは母親の養育パターンと子どもの気質によって決まるが,一度形成された愛着スタイルは変化しにくいと言われており,個人の対人関係のあり方に影響を与える. 対人関係のスタイルが親から子へ,子から孫へ引き継がれていくことを「愛着の世代間伝達」と呼ぶ.
父母への愛着と不登校傾向の関係(五十嵐・萩原,2004) 対象:中学生1~3年生480名 愛着傾向 「安心・依存」:親との信頼できる依存関係の形成 「不信・拒否」:親への拒否的な態度や不信感 「分離不安」:親からの分離不安 不登校傾向を4つに分類 別室登校を希望するもの 遊び・非行に関連するもの 精神・身体症状を伴うもの 在宅を希望するもの
不登校傾向と父母への愛着との関連 (五十嵐・萩原,2004) 29

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