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死刑存廃論




     目次

 第 0 章 プロローグ

第 1 章 死刑制度の現状

1-1.死刑制度存廃状況

1-2.死刑存廃論の歴史

1-3.日本における死刑

1-4.アメリカにおける死刑

 第 2 章 死刑存廃論

2-1.犯罪抑止力の有無

 2-2.人権侵害の有無

2-3.誤判・冤罪の可能性

 2-4.死刑の残虐性

 第 3 章 エピローグ

     資料

   参考文献等
第 0 章 プロローグ
 2009年7月28日、日本。3人の殺人犯が一生を終えた。2010年1月25日、バグダッド。「ケミカ
ル・アリ」と呼ばれた旧フセイン政権時代の元国防相が命を終えた。他人の命を非人道的に、傲慢
にも奪った彼らは、死刑によって自らの命を奪われることとなった。果たして、殺人を禁止している
国家が、一国民の生命を奪っていいものだろうか。
 死刑とは、国が一方的に対象者の生命を奪う極刑である。死刑は古くからとられてきた刑罰のひ
とつで、ギロチンや火あぶりの刑、車裂きなど耳にしたことがあるのではないだろうか。そもそも死
刑はなぜおこったのだろうか。そもそも死刑は文明の初期段階における刑罰として執られてきてお
り、身体刑とともにもっとも一般的な刑罰であった。前近代における死刑は、威嚇効果を目的とし
ていて、そのため公開処刑の方法が一般的であり、また窃盗の懲罰や宗教弾圧のために用いら
れることもしばしばあった。当時の執行方法はあまりにも残虐で(その内容については省略させて
いただく)、近代化が進むに連れて次第にその制度も見直されるようになってきた。罪刑法定主義
が整備されてくると、死刑の適用行為が法律によって定められるようになり、違法行為に対し死刑
の適用を検討するという形にシフトしていった。
 現代では死刑制度に関する議論が世界中でなされており、死刑は廃止すべきという立場をとる
のが世界の潮流である。1948 年 12 月 10 日に発された世界人権宣言にはじまり、欧州人権条約、
国際人権規約自由権規約、89 年 12 月 15 日には国連総会で死刑廃止条約が国際人権規約の
中で採択されており、締約国では死刑廃止が取り決められている(→資料 1 参照)。EUにおいて
は死刑廃止が加入条件に盛りこまれるなど、その趨勢は顕著である。直近では、モンゴルが政府
レベルで死刑廃止宣言を唱えたというニュース1も耳にしている。
 死刑制度が問題とされるのは、「基本的人権である生命権が国家により一方的に制約および搾
取されること」2にあり、単に刑法学上の問題のみならず、憲法、国際法、医学、生命倫理学、哲学
といった非常に多岐にわたる分野の学問とも複雑に絡み合っている問題であり、また存続か廃止
かという議論も水掛け論のようなところが多く、未だに解決の糸口は見えていないのが現状である。
 ここからはまず死刑存廃にまつわる諸外国の議論の歴史を紐解いていき、その上で廃止論、存
置論がいかなる根拠をもとにその主張をしているのか、そして現在の各国における存廃状況およ
び日本の立場の如何に言及し、私見を述べたいと思う。ただし上述したとおり、国際的に廃止論
が主流となっていることや、もともと死刑の存在を前提に議論がなされていること、わが国が死刑存
置の立場にあることから死刑存置論の立場の資料・文献が限られているため、基本的には廃止論
者の論拠に対する反証を軸に理論を展開していく。

第 1 章 死刑制度の現状
まず、イメージをつかむために現在の世界における死刑制度の存廃状況がどうなのかをみていく。
1-1.死刑制度存廃状況
 死刑廃止を掲げ国際的に活動するNGOとして有名な Amnesty International によると、世界19
7カ国のうち、
・いかなる犯罪に対しても死刑を廃止       95 ヶ国
・通常の犯罪に対してのみ死刑を廃止       9 ヶ国
・実際に死刑を廃止している国          35 ヶ国
・法令上は死刑を廃止している国         104 ヶ国
・死刑存置国                  58 ヶ国
と発表されている。先進国と呼ばれる国の多くは死刑制度を廃止、または執行の停止をしている
が、アメリカ(ただし、州により異なる)、日本、シンガポールの 3 ヶ国だけは存置国である。また、実
際に死刑を廃止している国と法令上は死刑を廃止している国の数にギャップがあるのは、戦時下

1 共同通信 2010.01.14
2 平川宗信 ジュリスト No.1100
における死刑を容認している現状があるからである。このことについては後ほど言及する。

1-2.死刑存廃論の歴史
  死刑は「人を殺す」ことにほかならず、理性的人間の原初的な強い忌避感情に関わるものであり、
存廃の議論は古くからなされてきた。中世の欧州では、神学者トマス・アクィナスや宗教改革で有
名なマルティン・ルターなどが死刑を肯定する発言を残している。また、当時キリスト教国は死刑の
正当性を肯定し、魔術を使う者(魔女)や非キリスト教信者をみせしめのために処刑するなど、残虐
な公開処刑がなされていた。
 近代になり人権の保障として罪刑法定主義の原則が取り入れられるようになり、犯罪者に対し国
家が科すべき刑罰に関して、旧派刑法学(客観主義刑法理論)と新派刑法主義(主観主義刑法
理論)の新旧刑法学派の対立が生じた。このような、刑罰の本質に対する論争のひとつとして、死
刑制度の位置づけによって制度の存否をめぐる議論が生まれた。ホッブズやロック、カントといっ
た啓蒙主義時代の思想家たちやモンテスキューやルソーといった文化人が存置派であり、廃止論
は『ユートピア』の著者トマス・モアにはじまり、近代法学の祖ベッカリーア、目的刑という新しい刑
法の体系を生み出したリストなどがいる。彼らに始まる死刑存廃論は現在に至るまで激しく議論を
されている。
 以上は世界における歴史であったが、わが国においてもその系譜は受け継がれている。しかし、
ここで特筆すべきなのは、日本においては平安時代に 347 年もの間死刑が事実上廃止されてい
た3ということである。これは前近代社会ではきわめて珍しい例である。

1-3.日本における死刑
(i)概要
  現時点では死刑存置の立場をとっており、18 種類の犯罪(刑法で 12 種類、刑事特別法で 5 種
類、刑法に準じて罰する法律が 1 種類→資料 2)について死刑の対象となりうる旨が法定されてい
る。
  また、死刑適用要件を満たしている場合であっても 14 歳未満の者(刑法 41 条)、罪を犯した時
点で 18 歳未満であった者(尐年法 51 条)には死刑を適用することはできず、また、日本の批准す
る子供の権利条約の規定に基づき 18 歳未満の者に対して死刑または釈放可能性のない終身刑
を科すことが禁じられている(→資料 1)。
  なお現実として、内乱罪、外患誘致罪等の国家に対する犯罪での死刑適用は未だかつてなく、
現住建造物等放火罪、汽車転覆等致死罪等の公共への犯罪も、その犯行が起因で人が死亡し
ない場合においては死刑適用になるケースは前例がない。最近 10 年間における死刑の言渡し
は,殺人又は強盗致死(強盗殺人を含む)に限られており,平成 19 年の各罪名別の有罪人員中
に占める死刑言渡人員の比率は,殺人では 1.7%(10 人),強盗致死では 5.6%(4人)であった
(→資料 3)。

(ii)執行までの期間
  死刑は判決確定後 6 ヶ月以内に出される、法務大臣の命令をもって執行されることが定められ
ているが(刑訴法 475 条)、再審請求や恩赦請求等の期間はこれに含めないことも定められており、
また判例によれば 6 か月以内の執行は法的拘束力のない訓示規定とされていることもあって実際
は 6 ヶ月以内に命令がくだるというケースはほとんどなく、「死刑執行起案書」とよばれる書類が作
成されなければ、死刑の執行にむけての法手続きは進行しないため、死刑確定から執行まで数
年から十数年もの期間を要するのが一般的である。そのため、刑を執行されないまま拘置所の中
で一生を終える死刑確定者もいる。



3 嵯峨天皇が 818 年に弘仁格を発布し、およそ 350 年間にわたって死刑が停止された。
(iii)執行までの手続き(→資料4)
  死刑判決が確定すると、判決謄本と公判記録が検察庁に送られ、これらの書類をもとに、死刑
確定者に関する上申書が作成され、裁判の確定記録と同時に法務省刑事局に回される。刑事局
による資料の確認、記録の審査を受けた後、検事は死刑執行起案書が作成され、これが刑事局、
矯正局、保護局の決裁を受け、これらの決裁の確認の後、「死刑執行命令書」として大臣官房へ
送られる。裁判資料は通常膨大な量となるため確認と決裁に相当な時間がかかり、この間に死刑
確定者が妊娠した場合や、精神に異常をきたした場合は、書類は刑事局に戻される。「死刑執行
命令書」は官房長の決裁を経て、法務大臣の下へ届き、大臣がこれに署名してはじめて死刑執
行が可能となる。

(iv)死刑適用の判断基準
  死刑判決を宣告する際は、過去の判例と同等に、最高裁としてはじめて死刑適用の判断基準を
示した、いわゆる「永山基準」を参考にすることが多い。この「永山基準」は昭和 58 年 7 月 8 日の
最高裁判決の傍論で示された基準で、「犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗
性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人
の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大あつて、
罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合」には、死
刑の選択の余地もあるといえる、とした。この事件以降、死刑の適用に際してはこの基準を主に判
断を下している。

(v)救済制度
  死刑制度には、おおまかに3つの救済制度が存在する。
① 時効制度
  刑訴法 250 条において、死刑相当の犯罪を起こしても犯罪行為終了後 25 年間公訴されなかっ
た場合は時効が成立すると法定されている。「刑法等の一部を改正する法律案」が 2005 年 1 月
1 日から施行され、従来死刑に当たる罪について 15 年の時効期間が 25 年に延長された。時効
を長く取る場合、証人・証拠の信憑性が薄らぐという問題もあり、軽々しく時効延長というわけにも
いかなかったが、刑事訴訟法の施行時期(1949 年)と比較して科学的捜査の方法が確立しており、
物理的科学的証拠が保全しやすくなっていること、また平均余命が著しく異なっていること等から
公訴時効期間を延伸することになった。なお法務省は 2010 年 1 月 28 日、公訴時効見直し案を
法制審議会刑事法部会に提示している。その内容は、殺人事件など凶悪重大事件の時効を廃止
すること、その他の人を死亡させた事件の時効を現行の倍に延長させるというものになっている。
時効が進行中の事件にさかのぼる遡及適用も取り入れられており、改正法施行までに時効が成
立しなかった事件については新制度が適用され、殺人事件なら公訴時効がなくなる。
② 再審請求制度
  一度有罪判決がなされたあとでも、それを覆すに足る一定の事由があると認められるとき、再び
裁判をやり直すことを請求できる制度である(刑訴法 455 条)。しかし、再審請求を簡単に認めてし
まうと、確定判決に対する国民の信頼が失われてしまう恐れがあるため、再審請求が認められるの
は厳しいのが現状である。再審請求が棄却された場合でも、有罪宣告を受けたものは即時抗告を
行うことができるし(刑事訴訟法第 450 条)、また一度請求が棄却されても、違う根拠での再審請
求は可能である(刑事訴訟法 447 条)ため、上述したように、再審請求が濫発され確定判決から死
刑が執行されるまでの期間が非常に大きくあいてしまうということがしばしば見受けられる。
③ 恩赦制度
  恩赦制度は行政府(国家)が国家的な祝賀に際して刑を減免する制度で、1947 年に恩赦法が
制定されることによって始まった。恩赦には政令恩赦と個別恩赦があり、前者に関しては 1952 年
のフランシスコ平和条約によって 13 名が、後者に関しては公判記録の紛失や尐年法の改正、共
犯との量刑の均衡、そして法案廃案の見返りといった個別具体的な事例のもとで 11 名に適用さ
れている。

(vi)憲法との関係
  死刑制度を議論するうえで、憲法上の争いがある。すなわち、死刑は 13 条に定められる生命権、
36 条において残虐な刑罰の禁止に反しているという議論である。これに関して判例は昭和 23 年
3 月 12 日最高裁大法廷判決にて、日本国憲法において死刑についての直接的明文規定はない
が、13 条および 31 条の逆説的解釈により類推できるとしている。すなわち、13 条より、「公共の福
祉という基本的原則に反する場合には、生命に対する国民の権利といえども立法上制限乃至剥
奪されることを当然予想しているものとい」え、さらに 31 条から、「国民個人の生命の尊貴といえど
も、法律の定める適理の手続によつて、これを奪う刑罰を科せられることが、明かに定められてい
る」ということができる。すなわち日本国憲法においては、死刑は、その「威嚇力によつて一般予防
をなし、死刑の執行によつて特殊な社会悪の根元を絶ち、これをもつて社会を防衛せんとしたも
のであり、また個体に対する人道観の上に全体に対する人道観を優位せしめ、結局社会公共の
福祉のために死刑制度の存続の必要性を承認したものと解せられ(中略)まさに窮極の刑罰であり、
また冷厳な刑罰ではあるが、刑罰としての死刑そのものが、一般に直ちに同条にいわゆる残虐な
刑罰に該当するとは考えられない」として、合憲判決がでている。

(vii)世論
  「基本的法制度に関する世論調査」によると、死刑制度存廃について肯定的な意見が 81.4%、
否定的な意見が 6.0%と存置に肯定的な意見が圧倒的多数を占めていることがわかる。

1-4.アメリカにおける死刑
 アメリカでは 20 世紀前半には死刑が多く執行されたが、1960 年代に入るとその数は減尐した。
米連邦最高裁が 1972 年、死刑を違憲と判断し 1976 年までの間は一時的に死刑が停止されてい
たが、76 年以降は再審が行われたという条件付で死刑の合憲性が連邦最高裁判所で認められ
たため、再び死刑が執行されるようになった。以降、1990 年代に州法で三振法4が制定されるなど
厳罰化が顕著となり、死刑の執行数は増加した(→資料 5)。執行方法は電気椅子・薬殺・窒息死・
絞首刑・銃殺刑など州によりさまざまである。なお 2009 年 12 月 9 日、オハイオ州で新たな執行方
法が執られた。それは従来全米 35 州のうち 34 州で採用されてきたそれぞれ麻酔、筋肉のまひ、
心臓を止めるという役割をもつ薬物 3 種の注射による執行法ではなく、麻酔薬のチオペンタール・
ナトリウムのみを動物を安楽死させるときと同程度の量を静脈注射することで命を絶つという方法
である。この新たな執行法については、痛みが尐なく、より人道的だと賛成する声があがる一方で、
「一度も試されたことがない方法で行うのは人体実験にほかならない」という非難の言葉も聞かれ
る5。
 なおアメリカにおける死刑制度は州によってさまざまであり、死刑に対する態度や判断基準は州
による差異も大きく、死刑を廃止した州もあれば、死刑制度を存置している州もあるが、一般的に
は民主党優位の州では廃止、共和党優位の州では維持される傾向にある。存置州でもテキサス
州のように 2000 年代にはいっても全米で毎年死刑執行数の三分の一が同州で行われている一
方で、死刑執行を 10 年以上していない州もあるのが現状だ。
 現在アメリカでは依然として死刑制度が維持されてはいるが、DNA 鑑定による大量の誤判の存
在が判明した上に合衆国最高裁が死刑適用範囲の厳格化を求めているため、裁判所が慎重に
なり死刑の言い渡し件数は減尐傾向にあるという。具体的な数字として 1999 年に 282 件の死刑


4       殺人,放火,強姦等の重大な暴力的犯罪を繰り返す者に対する重罰化政策として、重罪の前科が 2 回以
上ある者が 3 度目の重罪による有罪判決をうけた場合には、通常より重い刑を科されるとする法律。「三振」の条件
(犯罪の種類・回数)や効果(処分の内容)は州により異なる。
5 (c)AFP 12 月 9 日の記事にて ケネス・ビロス死刑囚の弁護士
言い渡しがあったのに対し、2003 年に 144 件、2004 年に 130 件であった6。全米の多くの州では
死刑執行が減尐傾向にある。

第 2 章 死刑存廃論
この章では、死刑制度の問題点をもとに、実際に廃止論者、存置論者がどのような根拠に基づき
その主張をしているかについて述べていく。

2-1.犯罪抑止力の有無
 死刑制度の存在によって、新たなる犯罪を抑止する効果を期待できるだろうか。アメリカの実証
研究によると、死刑の犯罪抑止力は結果として現れていない。現在先進国の主流である死刑廃止
を導入した国々において、死刑廃止前と死刑廃止後の凶悪事犯の発生率を比較すると、必ずし
も凶悪事犯が増加したことは立証し得ない。反対に言えば、死刑存置により犯罪者による目撃者、
証言者等への殺害行為などの助長効果が死刑制度にはあるのではないかという主張が廃止論者
の主張である。
 しかし、そのような実証研究によって得られた結果に関して、死刑制度はそのような科学的手法
にはなじまない要因が多いため、かような検証による証明は不可能であるといわれている。存置論
者からは、死刑制度の存在がこれから罪を犯すかもしれない、いくらかの人々を威嚇するという予
防説が唱えられている。確かに廃止論者の主張のように死刑による畏怖の念に打たれない人もい
くらかはいるかもしれないが、尐なくともそれ以外の人の中には死刑に恐怖している者もいるはず
である。死刑が廃止されることによってそれらの人々がその恐怖ゆえに犯してこなかった犯罪を犯
しはじめるのではないだろうか。このことは、死刑が廃止された諸国において、犯罪率が増加し、
それらの諸国のいくつかに死刑を復活させることを余儀なくさせているという事実によって証明さ
れている。その端的な例がフィリピンである。フィリピンは 1987 年、2000 年と 2 度死刑制度を廃止
したが 1993 年、2003 年に死刑制度が復活している。これは華僑系の富裕層の誘拐事件多発に
よるのが原因とされている。

2-2.人権侵害の有無
 死刑は、前述したが、国が一方的に対象者の生命を剥奪する行為である。いかなる人間であっ
ても当然に保護されるべき基本的人権の、基本的要素である生命の尊厳は、たとえ国家であって
も奪うことはできないのではないだろうかというのが廃止論者の主張である。フランスの劇作家アル
ベール・カミュの著書『ギロチン』の中の言葉が引用されることがある。「生きるという権利は、償い
の機会と表裏をなしており...全ての人間に生まれながら備わっている権利で...裁判官でも犯罪者
でもこの点で同等に並び...これがなければ道徳的生活は不可能」である、と。すなわち、重大な犯
罪をおかした者は死を以って償うのではなく、生きて償うべきであるという考え方である。さらに国
際規約(→資料 1)においても死刑は人権たる生命権のいっぽうてきな剥奪であると規定している。
 一方存置論者からは、生命の尊厳は重要ではあるが、すでに被害者は生命の尊厳を犯罪者に
よって極めて不当な方法で侵害されており、そのような極罪を犯した犯罪者はすでに生命の尊厳
を主張する権利を失っているから、それを適用することはできないということ、また犯罪者の生命の
尊厳が被害者のそれよりも尊重されるようなことがあってはならないので、被害者の生命の尊厳を
尊重するためにも犯罪者は死刑に処せられなくてはならないという主張がなされている。後者につ
いては尐々強引な気もするが、確かに人の生命を奪った犯罪者が自らその生命権を主張すると
いうのはいささか矛盾しているように思える。さらに国際規約については死刑廃止 3 条約(国際人
権規約、欧州人権規約、米州人権規約)では戦時における死刑を是認するなど例外規定も存在
し、廃止論においてはこのことがないがしろにされているように思える。平時における死刑の廃止
を主張しつつも戦時の死刑を是認していることは、これまた矛盾が生じているのではないだろうか。

6 スコット・トゥロー 『極刑』岩波書店 2005 年 ISBN4000225456 154 頁
2-3.誤判・冤罪の可能性
 廃止論の論拠は以下のようである。すなわち裁判は人間の仕事でありそれゆえ完全無欠というこ
とはなく、すなわち裁判所の下した結論が必ずしも正しいとは限らない。あらゆる裁判に関しても
誤判が発生する余地はあるものの、死刑に関する誤判は、あらゆる保障措置、救済措置をとって
もその命は還らない。誤判だった場合 3000 万円以内で補償がされるが、人の命をお金ではかる
ことなどできない。これは他の刑罰と決定的に異なる点であり、死刑に処せられた被告人に対する
直接の名誉回復が不可能である。近代裁判制度の下でも誤判による処刑の例がティモシー・ジョ
ーン・エヴァンズ事件7である。戦後死刑判決を受けたのち、逆転無罪となった事例は 4 件あり、今
後もそのような事態がないとは言い切ることはできない。当該事項は廃止論者の強力な論拠とされ
ている。
 しかし、誤判の可能性は死刑に限ったものではなく、刑法全体にかかわる問題であって、死刑の
存廃とは全く別個の問題である、と存置論者は主張する。いわく、もし誤判の可能性があるために
死刑を廃止すべきであるならば、他の全ての刑罰も廃止しなくてはならなくなるし、また、誤判がな
くならないからといって、そのことを直接死刑反対に結びつけることはできないという主張もなされ
る。なぜなら、誤判の問題は司法制度を十分に整備することで解決してゆかねばならない問題だ
からである。現在の裁判制度では客観的証拠の有無、その信憑性を重点においており、この恐れ
は非常に尐ない。また、日本では犯罪者の自供をも重視しており、被告人自身が犯行を行ったか
どうかに関しては争われることは極めて尐ない。さらには、再審の制度や、裁判官の全員一致が死
刑判決確定の必要条件となっている現在の裁判制度のもとで「確定した判決を誤りであるというの
は、三審制度の価値を否定するもの」という主張もある。(勢藤修三)先の誤審事件に関してもほと
んどが戦後の未熟な捜査制度・裁判制度の下での判決であり、現在の裁判制度では客観的証拠
の有無、その信憑性を重点においており、この恐れは非常に尐ない。また、日本では犯罪者の自
供をも重視しており、被告人自身が犯行を行ったかどうかに関しては争われることは極めて尐ない
といえる。

2-4.死刑の残虐性
 廃止論の論拠として死刑の残虐性もあげられる。しかし、死刑は終身刑や懲役刑などの長期に
わたって苦痛を強いられる刑に比べたら、幾分も短い苦痛で済むうえ、死刑の執行は当日まで知
らされないわけでその間再審請求等することができるのであるから、残酷とは言い難い、という反
論が存置論者からなされている。また、残虐性を死刑の廃止要因とするのであれば、残虐でない
死刑であれば許されるというのだろうか。確かに中世社会においては火あぶりや斬首刑のような非
常に残虐な処刑方法がとられていた。しかし、現代においては死刑はほぼ絞首刑や薬殺によって
行われているのであり、廃止論者の想定しているような残虐性というものはないのではないだろう
か。判例においても、死刑の「執行の方法等がその時代と環境とにおいて人道上の見地から一般
に残虐性を有すると認められる場合には、勿論これを残虐な刑と言わねばならぬ」として、「将来
若し死刑について火あぶり、はりつけ、さらし首、釜ゆでの刑のごとき残虐な執行方法」は憲法 36
条に言う残虐な刑罰に当たるとして理解を示している。世論においても死刑制度が支持されてい
る日本の状況から見れば、一般的に死刑が残虐であると捉えられているとは考えにくい。

2-5.諸国の見解
 ここでは、世界の国々がどのような理解を死刑制度に対して示しているかについて触れたい。


7 英国では 1956 年死刑廃止法案が提出された。このとき「近代裁判制度の下、誤審があったとは考えられない」と
  英国内相が発言し、廃案となった。その答弁の後、1950 年に処刑されたティモシー・ジョーン・エヴァンズという死
  刑囚が、その後、真犯人が現れたことにより無実であったことが判明するという事件。Amnesty International より引
  用。
(i)フランス
  廃止論の立場。暴力犯罪の割合と死刑存否の間に関連性は無いとして、犯罪抑止効力を否定。
ただし、平時における死刑は廃止しているものの、戦時下では容認している。

(ii)ドイツ
  1987 年に死刑制度廃止。抑止力の否定、誤判の危険性が高いことを理由に死刑制度には否
定的な見解。

(iii)スイス
  1987 年より、平時における死刑は禁止。

(iv)中国
  死刑制度存置国。犯罪と戦うためには死刑制度は必要であるとの見方を示す。ただし、18 歳未
満や妊婦に関しては適用除外。

第 3 章 エピローグ
 日本は死刑制度を維持し、毎年複数の死刑囚を執行している。93 年、98 年に国連規約人権委
員会による死刑廃止勧告、国連人権委員会における2度の死刑廃止決議にも反対するなど、死
刑を廃止しようとする国際的潮流とは逆の立場をとっている。しかし死刑は重大な犯罪、とくに個
人の生命を侵害した者に対してのみ科される。このように、刑罰は犯罪の重大さと適合しており、
そして犯罪人がその行為によって社会を恐怖あるいは腐敗させて、次の世代やひいては人類の
これからの未来を危うくしたのであれば犯罪人の生命が助命されるべきと要求する理由は存在し
えないのではないだろうか。資料6は平成 19 年度犯罪白書より一部抜粋したものであるが、この
表からわかるとおり、殺人および強盗致死による検挙人員 1150 人のうち、32 名が同一罪種の前
科を有する犯罪人であった。これは尐なくとも 3%弱の犯罪人が一度人を殺め、世の中に再びで
たときに新たに他人の生命をおびやかしている現実を表している。このような現状を放置しておく
ことが社会に悪影響を与えないとはいえないだろう。
 善とは言いがたい死刑制度を悪とするならば、私は死刑制度は必要悪であると考える。死刑の
存在が、多きにせよ尐なきにせよ犯罪を抑止している効果はあると考える。上でフィリピンを例に挙
げたように、死刑を廃止したことで暴力犯罪が増えた事例もあるということからその抑止効力を否
定することはできない。また、廃止論者の主張のひとつとして上では扱わなかったが、死刑の代替
刑として終身刑導入案がある。終身刑の特徴としては仮出獄の認められない無期刑であること、
恩赦等による有期刑への減刑の余地があることが挙げられる。しかしこれは、廃止論者の主張す
る残虐性という観点から見ると、死刑に優る過酷さがあるといえるのではないだろうか。終身刑が導
入されている国においては、終身刑囚から死刑にしてくれという懇願がなされているという報告も
あり、彼らの主張には矛盾点が多い。また実務的観点からも、現行制度であっても刑務所のキャ
パシティを超える囚人が監獄されており死刑を廃止することでもし囚人の数が増え続けるようなこと
があれば、刑務所はパンクしてしまう。彼らのような囚人の生活するための食料などはわれわれ国
民から徴収された税でまかなっているのであり、私たちの血税がかような犯罪者たちのために使わ
れさらに徴税額が増加するような事態になれば、日本国政府に対する信頼を墜落するであろう。
 日本と並ぶ先進国で数尐ない存置国であるアメリカでは、2009 年秋ごろに米国法律協会(ALI)
が死刑制度を原則的に支持してきた指針を撤廃し、現状の死刑制度には問題があるとする決議
案を採択していたことが判明した。米紙 New York Times が4日伝えたところによると、ALI は昨年
10 月 23 日、1962 年に制定した死刑に関する指針を撤廃。それに代えて、「死刑を執行するうえ
で適当な制度と確信するには、現在の制度にはやっかいな制度的、構造的な問題がある。(ALI
は)そうした制度を支持しない」との決議案を圧倒的な賛成多数で採択した。同紙は、「米国の死
刑制度が破綻(はたん)していると宣言したものだ」と説明している。廃止された指針では、複数の
犠牲者が出た殺人や逮捕を逃れようとしたり、収容先から逃亡した上での殺人など、さまざまな条
件下で死刑は適当としていた。しかし、ALI メンバーから近年、米国の死刑制度には問題が多い
という意見が強く出されるようになった。一部のメンバーからは「協会として明確に死刑に反対すべ
きだ」との主張も出されたが、死刑制度そのものは存続させるべきだという意見も強かったという。
そのため、現状の死刑制度には問題が多く支持できないという点で意見集約を図り、指針廃止な
どが決まった。
 昨今の死刑制度存廃論の議論の中には死刑を無くすこと、もしくは維持することを目的とした議
論も多いように思える。死刑の存廃というのはあくまでも手段であって、本当の目的というのは死刑
の執行の数を最小限に減らす、ということではないのだろうか。死刑となるような犯罪が減れば、死
刑は不要なものとなり、そのとき初めて存廃という問題が生じるのではないだろうか。
 死刑は人の生命を一方的に奪う行為であり、とても慎重に行われなければならない。そのため
には、さらにしっかりとした司法制度の整備や、制度面での徹底が必要だろう。日本のみならず全
世界において、死刑問題に対する議論がさらに深まることを期待したい。
資料

[資料 1]国際法上の死刑制度に関する規約
世界人権宣言(1948)   第3条
               「すべての者は、生命、自由及び身体の安全についての権利を
               有する。」
               第5条
               「何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける
               取り扱い若しくは刑罰を受けない。」
欧州人権条約         2条1項
               「何人も、故意にその生命を奪われない。」
               2項
               「生命の略奪は、それが次の目的のために絶対に必要な、力の
               行使の結果であるときは、本条に違反して行われたものとみなさ
               れない。
               (a)不法な暴力から人を守るため
               (b) 合法的な逮捕を行い又は合法的に抑留した者の逃亡を防
               ぐため
                (c) 暴力又は反乱を鎮圧するために合法的にとって行為のた
               め」
国際人権規約自由権規約    6条2項
               「死刑を廃止していない国においては、死刑は、犯罪が行われ
               た時に効力を有しており、かつ、この規約の規定及び集団殺害
               犯罪の防止及び処罰に関する条約の規定に抵触しない法律に
               より、最も重大な犯罪についてのみ科することができる。」
こどもの権利条約       37 条
               「締約国は、次のことを確保する。

               (a) いかなる児童も、拷問又は他の残虐な、非人道的な若しく
               は品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けないこと。死刑又
               は釈放の可能性がない終身刑は、十八歳未満の者が行った犯
               罪について科さないこと。
               (b) いかなる児童も、不法に又は恣意的にその自由を奪われな
               いこと。児童の逮捕、抑留又は拘禁は、法律に従って行うものと
               し、最後の解決手段として最も短い適当な期間のみ用いること。
               (c) 自由を奪われたすべての児童は、人道的に、人間の固有
               の尊厳を尊重して、かつ、その年齢の者の必要を考慮した方法
               で取り扱われること。特に、自由を奪われたすべての児童は、成
               人とは分離されないことがその最善の利益であると認められない
               限り成人とは分離されるものとし、例外的な事情がある場合を除
               くほか、通信及び訪問を通じてその家族との接触を維持する権
               利を有すること。
               (d) 自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適当な援
               助を行う者と速やかに接触する権利を有し、裁判所その他の権
               限のある、独立の、かつ、公平な当局においてその自由の剥奪
の合法性を争い並びにこれについての決定を速やかに受ける
                   権利を有すること。」


[資料 2]死刑犯罪 18 種類
刑法                  77 条   内乱罪、81 条 外患誘致罪、 82 条 外患援助罪、
                   108 条   現住建造物放火罪、117 条 激発物破裂罪、
                   119 条   現住建造物等浸害罪、126 条 汽車転覆等致死罪、
                   127 条   往来危険による汽車転覆等致死罪、
                   146 条   水道毒物等混入致死罪、199 条 殺人罪、
                   240 条   強盗致死罪、241 条 強盗強姦致死罪
刑事特別法              ・航空機の強取等の処罰に関する法律
                   2 条 航空機強取致死罪
                   ・航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律
                   2 条 航行中の航空機を墜落させる等の罪
                   ・人質による強要行為等の処罰に関する法律
                   4 条 人質殺害罪
                   ・爆発物取締罰則 1 条
                   ・決闘罪ニ関スル件 3 条
刑法に準じて罰する法律        ・組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律
                   3 条 組織的殺人罪

[資料3]司法統計年報及び最高裁判所事務総局の資料に拠る。




[資料 4]死刑執行までの流れ
[資料 5]アメリカ国内死刑執行数の変移 ©DPIC




[資料 6]平成 19 年度犯罪白書拠
参考文献等

『国際法上の死刑存置論』 中野進著 信山出版
『死刑廃止論』 団藤重光著 有斐閣
『検証・死刑存廃論』 守山正著 犯罪社会学研究第 16 号 1991
『死刑の考現学』 勢藤修三著 三省堂
『極刑』 スコット・トゥロー著 岩波書店
『刑事訴訟法講義』 渡辺咲子著 不磨書房
『日本死刑史』 布施弥平治著 巌南堂書店
『死刑』 菊田幸一著 三一書房
Death Penalty Information Center (http://www.deathpenaltyinfo.org/)
犯罪白書(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/nendo_nfm.html/)法務省
死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム'90(http://www.jca.apc.org/stop-shikei/index.html)

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死刑制度存廃論

  • 1. 死刑存廃論 目次 第 0 章 プロローグ 第 1 章 死刑制度の現状 1-1.死刑制度存廃状況 1-2.死刑存廃論の歴史 1-3.日本における死刑 1-4.アメリカにおける死刑 第 2 章 死刑存廃論 2-1.犯罪抑止力の有無 2-2.人権侵害の有無 2-3.誤判・冤罪の可能性 2-4.死刑の残虐性 第 3 章 エピローグ 資料 参考文献等
  • 2. 第 0 章 プロローグ 2009年7月28日、日本。3人の殺人犯が一生を終えた。2010年1月25日、バグダッド。「ケミカ ル・アリ」と呼ばれた旧フセイン政権時代の元国防相が命を終えた。他人の命を非人道的に、傲慢 にも奪った彼らは、死刑によって自らの命を奪われることとなった。果たして、殺人を禁止している 国家が、一国民の生命を奪っていいものだろうか。 死刑とは、国が一方的に対象者の生命を奪う極刑である。死刑は古くからとられてきた刑罰のひ とつで、ギロチンや火あぶりの刑、車裂きなど耳にしたことがあるのではないだろうか。そもそも死 刑はなぜおこったのだろうか。そもそも死刑は文明の初期段階における刑罰として執られてきてお り、身体刑とともにもっとも一般的な刑罰であった。前近代における死刑は、威嚇効果を目的とし ていて、そのため公開処刑の方法が一般的であり、また窃盗の懲罰や宗教弾圧のために用いら れることもしばしばあった。当時の執行方法はあまりにも残虐で(その内容については省略させて いただく)、近代化が進むに連れて次第にその制度も見直されるようになってきた。罪刑法定主義 が整備されてくると、死刑の適用行為が法律によって定められるようになり、違法行為に対し死刑 の適用を検討するという形にシフトしていった。 現代では死刑制度に関する議論が世界中でなされており、死刑は廃止すべきという立場をとる のが世界の潮流である。1948 年 12 月 10 日に発された世界人権宣言にはじまり、欧州人権条約、 国際人権規約自由権規約、89 年 12 月 15 日には国連総会で死刑廃止条約が国際人権規約の 中で採択されており、締約国では死刑廃止が取り決められている(→資料 1 参照)。EUにおいて は死刑廃止が加入条件に盛りこまれるなど、その趨勢は顕著である。直近では、モンゴルが政府 レベルで死刑廃止宣言を唱えたというニュース1も耳にしている。 死刑制度が問題とされるのは、「基本的人権である生命権が国家により一方的に制約および搾 取されること」2にあり、単に刑法学上の問題のみならず、憲法、国際法、医学、生命倫理学、哲学 といった非常に多岐にわたる分野の学問とも複雑に絡み合っている問題であり、また存続か廃止 かという議論も水掛け論のようなところが多く、未だに解決の糸口は見えていないのが現状である。 ここからはまず死刑存廃にまつわる諸外国の議論の歴史を紐解いていき、その上で廃止論、存 置論がいかなる根拠をもとにその主張をしているのか、そして現在の各国における存廃状況およ び日本の立場の如何に言及し、私見を述べたいと思う。ただし上述したとおり、国際的に廃止論 が主流となっていることや、もともと死刑の存在を前提に議論がなされていること、わが国が死刑存 置の立場にあることから死刑存置論の立場の資料・文献が限られているため、基本的には廃止論 者の論拠に対する反証を軸に理論を展開していく。 第 1 章 死刑制度の現状 まず、イメージをつかむために現在の世界における死刑制度の存廃状況がどうなのかをみていく。 1-1.死刑制度存廃状況 死刑廃止を掲げ国際的に活動するNGOとして有名な Amnesty International によると、世界19 7カ国のうち、 ・いかなる犯罪に対しても死刑を廃止 95 ヶ国 ・通常の犯罪に対してのみ死刑を廃止 9 ヶ国 ・実際に死刑を廃止している国 35 ヶ国 ・法令上は死刑を廃止している国 104 ヶ国 ・死刑存置国 58 ヶ国 と発表されている。先進国と呼ばれる国の多くは死刑制度を廃止、または執行の停止をしている が、アメリカ(ただし、州により異なる)、日本、シンガポールの 3 ヶ国だけは存置国である。また、実 際に死刑を廃止している国と法令上は死刑を廃止している国の数にギャップがあるのは、戦時下 1 共同通信 2010.01.14 2 平川宗信 ジュリスト No.1100
  • 3. における死刑を容認している現状があるからである。このことについては後ほど言及する。 1-2.死刑存廃論の歴史 死刑は「人を殺す」ことにほかならず、理性的人間の原初的な強い忌避感情に関わるものであり、 存廃の議論は古くからなされてきた。中世の欧州では、神学者トマス・アクィナスや宗教改革で有 名なマルティン・ルターなどが死刑を肯定する発言を残している。また、当時キリスト教国は死刑の 正当性を肯定し、魔術を使う者(魔女)や非キリスト教信者をみせしめのために処刑するなど、残虐 な公開処刑がなされていた。 近代になり人権の保障として罪刑法定主義の原則が取り入れられるようになり、犯罪者に対し国 家が科すべき刑罰に関して、旧派刑法学(客観主義刑法理論)と新派刑法主義(主観主義刑法 理論)の新旧刑法学派の対立が生じた。このような、刑罰の本質に対する論争のひとつとして、死 刑制度の位置づけによって制度の存否をめぐる議論が生まれた。ホッブズやロック、カントといっ た啓蒙主義時代の思想家たちやモンテスキューやルソーといった文化人が存置派であり、廃止論 は『ユートピア』の著者トマス・モアにはじまり、近代法学の祖ベッカリーア、目的刑という新しい刑 法の体系を生み出したリストなどがいる。彼らに始まる死刑存廃論は現在に至るまで激しく議論を されている。 以上は世界における歴史であったが、わが国においてもその系譜は受け継がれている。しかし、 ここで特筆すべきなのは、日本においては平安時代に 347 年もの間死刑が事実上廃止されてい た3ということである。これは前近代社会ではきわめて珍しい例である。 1-3.日本における死刑 (i)概要 現時点では死刑存置の立場をとっており、18 種類の犯罪(刑法で 12 種類、刑事特別法で 5 種 類、刑法に準じて罰する法律が 1 種類→資料 2)について死刑の対象となりうる旨が法定されてい る。 また、死刑適用要件を満たしている場合であっても 14 歳未満の者(刑法 41 条)、罪を犯した時 点で 18 歳未満であった者(尐年法 51 条)には死刑を適用することはできず、また、日本の批准す る子供の権利条約の規定に基づき 18 歳未満の者に対して死刑または釈放可能性のない終身刑 を科すことが禁じられている(→資料 1)。 なお現実として、内乱罪、外患誘致罪等の国家に対する犯罪での死刑適用は未だかつてなく、 現住建造物等放火罪、汽車転覆等致死罪等の公共への犯罪も、その犯行が起因で人が死亡し ない場合においては死刑適用になるケースは前例がない。最近 10 年間における死刑の言渡し は,殺人又は強盗致死(強盗殺人を含む)に限られており,平成 19 年の各罪名別の有罪人員中 に占める死刑言渡人員の比率は,殺人では 1.7%(10 人),強盗致死では 5.6%(4人)であった (→資料 3)。 (ii)執行までの期間 死刑は判決確定後 6 ヶ月以内に出される、法務大臣の命令をもって執行されることが定められ ているが(刑訴法 475 条)、再審請求や恩赦請求等の期間はこれに含めないことも定められており、 また判例によれば 6 か月以内の執行は法的拘束力のない訓示規定とされていることもあって実際 は 6 ヶ月以内に命令がくだるというケースはほとんどなく、「死刑執行起案書」とよばれる書類が作 成されなければ、死刑の執行にむけての法手続きは進行しないため、死刑確定から執行まで数 年から十数年もの期間を要するのが一般的である。そのため、刑を執行されないまま拘置所の中 で一生を終える死刑確定者もいる。 3 嵯峨天皇が 818 年に弘仁格を発布し、およそ 350 年間にわたって死刑が停止された。
  • 4. (iii)執行までの手続き(→資料4) 死刑判決が確定すると、判決謄本と公判記録が検察庁に送られ、これらの書類をもとに、死刑 確定者に関する上申書が作成され、裁判の確定記録と同時に法務省刑事局に回される。刑事局 による資料の確認、記録の審査を受けた後、検事は死刑執行起案書が作成され、これが刑事局、 矯正局、保護局の決裁を受け、これらの決裁の確認の後、「死刑執行命令書」として大臣官房へ 送られる。裁判資料は通常膨大な量となるため確認と決裁に相当な時間がかかり、この間に死刑 確定者が妊娠した場合や、精神に異常をきたした場合は、書類は刑事局に戻される。「死刑執行 命令書」は官房長の決裁を経て、法務大臣の下へ届き、大臣がこれに署名してはじめて死刑執 行が可能となる。 (iv)死刑適用の判断基準 死刑判決を宣告する際は、過去の判例と同等に、最高裁としてはじめて死刑適用の判断基準を 示した、いわゆる「永山基準」を参考にすることが多い。この「永山基準」は昭和 58 年 7 月 8 日の 最高裁判決の傍論で示された基準で、「犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗 性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人 の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大あつて、 罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合」には、死 刑の選択の余地もあるといえる、とした。この事件以降、死刑の適用に際してはこの基準を主に判 断を下している。 (v)救済制度 死刑制度には、おおまかに3つの救済制度が存在する。 ① 時効制度 刑訴法 250 条において、死刑相当の犯罪を起こしても犯罪行為終了後 25 年間公訴されなかっ た場合は時効が成立すると法定されている。「刑法等の一部を改正する法律案」が 2005 年 1 月 1 日から施行され、従来死刑に当たる罪について 15 年の時効期間が 25 年に延長された。時効 を長く取る場合、証人・証拠の信憑性が薄らぐという問題もあり、軽々しく時効延長というわけにも いかなかったが、刑事訴訟法の施行時期(1949 年)と比較して科学的捜査の方法が確立しており、 物理的科学的証拠が保全しやすくなっていること、また平均余命が著しく異なっていること等から 公訴時効期間を延伸することになった。なお法務省は 2010 年 1 月 28 日、公訴時効見直し案を 法制審議会刑事法部会に提示している。その内容は、殺人事件など凶悪重大事件の時効を廃止 すること、その他の人を死亡させた事件の時効を現行の倍に延長させるというものになっている。 時効が進行中の事件にさかのぼる遡及適用も取り入れられており、改正法施行までに時効が成 立しなかった事件については新制度が適用され、殺人事件なら公訴時効がなくなる。 ② 再審請求制度 一度有罪判決がなされたあとでも、それを覆すに足る一定の事由があると認められるとき、再び 裁判をやり直すことを請求できる制度である(刑訴法 455 条)。しかし、再審請求を簡単に認めてし まうと、確定判決に対する国民の信頼が失われてしまう恐れがあるため、再審請求が認められるの は厳しいのが現状である。再審請求が棄却された場合でも、有罪宣告を受けたものは即時抗告を 行うことができるし(刑事訴訟法第 450 条)、また一度請求が棄却されても、違う根拠での再審請 求は可能である(刑事訴訟法 447 条)ため、上述したように、再審請求が濫発され確定判決から死 刑が執行されるまでの期間が非常に大きくあいてしまうということがしばしば見受けられる。 ③ 恩赦制度 恩赦制度は行政府(国家)が国家的な祝賀に際して刑を減免する制度で、1947 年に恩赦法が 制定されることによって始まった。恩赦には政令恩赦と個別恩赦があり、前者に関しては 1952 年 のフランシスコ平和条約によって 13 名が、後者に関しては公判記録の紛失や尐年法の改正、共 犯との量刑の均衡、そして法案廃案の見返りといった個別具体的な事例のもとで 11 名に適用さ
  • 5. れている。 (vi)憲法との関係 死刑制度を議論するうえで、憲法上の争いがある。すなわち、死刑は 13 条に定められる生命権、 36 条において残虐な刑罰の禁止に反しているという議論である。これに関して判例は昭和 23 年 3 月 12 日最高裁大法廷判決にて、日本国憲法において死刑についての直接的明文規定はない が、13 条および 31 条の逆説的解釈により類推できるとしている。すなわち、13 条より、「公共の福 祉という基本的原則に反する場合には、生命に対する国民の権利といえども立法上制限乃至剥 奪されることを当然予想しているものとい」え、さらに 31 条から、「国民個人の生命の尊貴といえど も、法律の定める適理の手続によつて、これを奪う刑罰を科せられることが、明かに定められてい る」ということができる。すなわち日本国憲法においては、死刑は、その「威嚇力によつて一般予防 をなし、死刑の執行によつて特殊な社会悪の根元を絶ち、これをもつて社会を防衛せんとしたも のであり、また個体に対する人道観の上に全体に対する人道観を優位せしめ、結局社会公共の 福祉のために死刑制度の存続の必要性を承認したものと解せられ(中略)まさに窮極の刑罰であり、 また冷厳な刑罰ではあるが、刑罰としての死刑そのものが、一般に直ちに同条にいわゆる残虐な 刑罰に該当するとは考えられない」として、合憲判決がでている。 (vii)世論 「基本的法制度に関する世論調査」によると、死刑制度存廃について肯定的な意見が 81.4%、 否定的な意見が 6.0%と存置に肯定的な意見が圧倒的多数を占めていることがわかる。 1-4.アメリカにおける死刑 アメリカでは 20 世紀前半には死刑が多く執行されたが、1960 年代に入るとその数は減尐した。 米連邦最高裁が 1972 年、死刑を違憲と判断し 1976 年までの間は一時的に死刑が停止されてい たが、76 年以降は再審が行われたという条件付で死刑の合憲性が連邦最高裁判所で認められ たため、再び死刑が執行されるようになった。以降、1990 年代に州法で三振法4が制定されるなど 厳罰化が顕著となり、死刑の執行数は増加した(→資料 5)。執行方法は電気椅子・薬殺・窒息死・ 絞首刑・銃殺刑など州によりさまざまである。なお 2009 年 12 月 9 日、オハイオ州で新たな執行方 法が執られた。それは従来全米 35 州のうち 34 州で採用されてきたそれぞれ麻酔、筋肉のまひ、 心臓を止めるという役割をもつ薬物 3 種の注射による執行法ではなく、麻酔薬のチオペンタール・ ナトリウムのみを動物を安楽死させるときと同程度の量を静脈注射することで命を絶つという方法 である。この新たな執行法については、痛みが尐なく、より人道的だと賛成する声があがる一方で、 「一度も試されたことがない方法で行うのは人体実験にほかならない」という非難の言葉も聞かれ る5。 なおアメリカにおける死刑制度は州によってさまざまであり、死刑に対する態度や判断基準は州 による差異も大きく、死刑を廃止した州もあれば、死刑制度を存置している州もあるが、一般的に は民主党優位の州では廃止、共和党優位の州では維持される傾向にある。存置州でもテキサス 州のように 2000 年代にはいっても全米で毎年死刑執行数の三分の一が同州で行われている一 方で、死刑執行を 10 年以上していない州もあるのが現状だ。 現在アメリカでは依然として死刑制度が維持されてはいるが、DNA 鑑定による大量の誤判の存 在が判明した上に合衆国最高裁が死刑適用範囲の厳格化を求めているため、裁判所が慎重に なり死刑の言い渡し件数は減尐傾向にあるという。具体的な数字として 1999 年に 282 件の死刑 4 殺人,放火,強姦等の重大な暴力的犯罪を繰り返す者に対する重罰化政策として、重罪の前科が 2 回以 上ある者が 3 度目の重罪による有罪判決をうけた場合には、通常より重い刑を科されるとする法律。「三振」の条件 (犯罪の種類・回数)や効果(処分の内容)は州により異なる。 5 (c)AFP 12 月 9 日の記事にて ケネス・ビロス死刑囚の弁護士
  • 6. 言い渡しがあったのに対し、2003 年に 144 件、2004 年に 130 件であった6。全米の多くの州では 死刑執行が減尐傾向にある。 第 2 章 死刑存廃論 この章では、死刑制度の問題点をもとに、実際に廃止論者、存置論者がどのような根拠に基づき その主張をしているかについて述べていく。 2-1.犯罪抑止力の有無 死刑制度の存在によって、新たなる犯罪を抑止する効果を期待できるだろうか。アメリカの実証 研究によると、死刑の犯罪抑止力は結果として現れていない。現在先進国の主流である死刑廃止 を導入した国々において、死刑廃止前と死刑廃止後の凶悪事犯の発生率を比較すると、必ずし も凶悪事犯が増加したことは立証し得ない。反対に言えば、死刑存置により犯罪者による目撃者、 証言者等への殺害行為などの助長効果が死刑制度にはあるのではないかという主張が廃止論者 の主張である。 しかし、そのような実証研究によって得られた結果に関して、死刑制度はそのような科学的手法 にはなじまない要因が多いため、かような検証による証明は不可能であるといわれている。存置論 者からは、死刑制度の存在がこれから罪を犯すかもしれない、いくらかの人々を威嚇するという予 防説が唱えられている。確かに廃止論者の主張のように死刑による畏怖の念に打たれない人もい くらかはいるかもしれないが、尐なくともそれ以外の人の中には死刑に恐怖している者もいるはず である。死刑が廃止されることによってそれらの人々がその恐怖ゆえに犯してこなかった犯罪を犯 しはじめるのではないだろうか。このことは、死刑が廃止された諸国において、犯罪率が増加し、 それらの諸国のいくつかに死刑を復活させることを余儀なくさせているという事実によって証明さ れている。その端的な例がフィリピンである。フィリピンは 1987 年、2000 年と 2 度死刑制度を廃止 したが 1993 年、2003 年に死刑制度が復活している。これは華僑系の富裕層の誘拐事件多発に よるのが原因とされている。 2-2.人権侵害の有無 死刑は、前述したが、国が一方的に対象者の生命を剥奪する行為である。いかなる人間であっ ても当然に保護されるべき基本的人権の、基本的要素である生命の尊厳は、たとえ国家であって も奪うことはできないのではないだろうかというのが廃止論者の主張である。フランスの劇作家アル ベール・カミュの著書『ギロチン』の中の言葉が引用されることがある。「生きるという権利は、償い の機会と表裏をなしており...全ての人間に生まれながら備わっている権利で...裁判官でも犯罪者 でもこの点で同等に並び...これがなければ道徳的生活は不可能」である、と。すなわち、重大な犯 罪をおかした者は死を以って償うのではなく、生きて償うべきであるという考え方である。さらに国 際規約(→資料 1)においても死刑は人権たる生命権のいっぽうてきな剥奪であると規定している。 一方存置論者からは、生命の尊厳は重要ではあるが、すでに被害者は生命の尊厳を犯罪者に よって極めて不当な方法で侵害されており、そのような極罪を犯した犯罪者はすでに生命の尊厳 を主張する権利を失っているから、それを適用することはできないということ、また犯罪者の生命の 尊厳が被害者のそれよりも尊重されるようなことがあってはならないので、被害者の生命の尊厳を 尊重するためにも犯罪者は死刑に処せられなくてはならないという主張がなされている。後者につ いては尐々強引な気もするが、確かに人の生命を奪った犯罪者が自らその生命権を主張すると いうのはいささか矛盾しているように思える。さらに国際規約については死刑廃止 3 条約(国際人 権規約、欧州人権規約、米州人権規約)では戦時における死刑を是認するなど例外規定も存在 し、廃止論においてはこのことがないがしろにされているように思える。平時における死刑の廃止 を主張しつつも戦時の死刑を是認していることは、これまた矛盾が生じているのではないだろうか。 6 スコット・トゥロー 『極刑』岩波書店 2005 年 ISBN4000225456 154 頁
  • 7. 2-3.誤判・冤罪の可能性 廃止論の論拠は以下のようである。すなわち裁判は人間の仕事でありそれゆえ完全無欠というこ とはなく、すなわち裁判所の下した結論が必ずしも正しいとは限らない。あらゆる裁判に関しても 誤判が発生する余地はあるものの、死刑に関する誤判は、あらゆる保障措置、救済措置をとって もその命は還らない。誤判だった場合 3000 万円以内で補償がされるが、人の命をお金ではかる ことなどできない。これは他の刑罰と決定的に異なる点であり、死刑に処せられた被告人に対する 直接の名誉回復が不可能である。近代裁判制度の下でも誤判による処刑の例がティモシー・ジョ ーン・エヴァンズ事件7である。戦後死刑判決を受けたのち、逆転無罪となった事例は 4 件あり、今 後もそのような事態がないとは言い切ることはできない。当該事項は廃止論者の強力な論拠とされ ている。 しかし、誤判の可能性は死刑に限ったものではなく、刑法全体にかかわる問題であって、死刑の 存廃とは全く別個の問題である、と存置論者は主張する。いわく、もし誤判の可能性があるために 死刑を廃止すべきであるならば、他の全ての刑罰も廃止しなくてはならなくなるし、また、誤判がな くならないからといって、そのことを直接死刑反対に結びつけることはできないという主張もなされ る。なぜなら、誤判の問題は司法制度を十分に整備することで解決してゆかねばならない問題だ からである。現在の裁判制度では客観的証拠の有無、その信憑性を重点においており、この恐れ は非常に尐ない。また、日本では犯罪者の自供をも重視しており、被告人自身が犯行を行ったか どうかに関しては争われることは極めて尐ない。さらには、再審の制度や、裁判官の全員一致が死 刑判決確定の必要条件となっている現在の裁判制度のもとで「確定した判決を誤りであるというの は、三審制度の価値を否定するもの」という主張もある。(勢藤修三)先の誤審事件に関してもほと んどが戦後の未熟な捜査制度・裁判制度の下での判決であり、現在の裁判制度では客観的証拠 の有無、その信憑性を重点においており、この恐れは非常に尐ない。また、日本では犯罪者の自 供をも重視しており、被告人自身が犯行を行ったかどうかに関しては争われることは極めて尐ない といえる。 2-4.死刑の残虐性 廃止論の論拠として死刑の残虐性もあげられる。しかし、死刑は終身刑や懲役刑などの長期に わたって苦痛を強いられる刑に比べたら、幾分も短い苦痛で済むうえ、死刑の執行は当日まで知 らされないわけでその間再審請求等することができるのであるから、残酷とは言い難い、という反 論が存置論者からなされている。また、残虐性を死刑の廃止要因とするのであれば、残虐でない 死刑であれば許されるというのだろうか。確かに中世社会においては火あぶりや斬首刑のような非 常に残虐な処刑方法がとられていた。しかし、現代においては死刑はほぼ絞首刑や薬殺によって 行われているのであり、廃止論者の想定しているような残虐性というものはないのではないだろう か。判例においても、死刑の「執行の方法等がその時代と環境とにおいて人道上の見地から一般 に残虐性を有すると認められる場合には、勿論これを残虐な刑と言わねばならぬ」として、「将来 若し死刑について火あぶり、はりつけ、さらし首、釜ゆでの刑のごとき残虐な執行方法」は憲法 36 条に言う残虐な刑罰に当たるとして理解を示している。世論においても死刑制度が支持されてい る日本の状況から見れば、一般的に死刑が残虐であると捉えられているとは考えにくい。 2-5.諸国の見解 ここでは、世界の国々がどのような理解を死刑制度に対して示しているかについて触れたい。 7 英国では 1956 年死刑廃止法案が提出された。このとき「近代裁判制度の下、誤審があったとは考えられない」と 英国内相が発言し、廃案となった。その答弁の後、1950 年に処刑されたティモシー・ジョーン・エヴァンズという死 刑囚が、その後、真犯人が現れたことにより無実であったことが判明するという事件。Amnesty International より引 用。
  • 8. (i)フランス 廃止論の立場。暴力犯罪の割合と死刑存否の間に関連性は無いとして、犯罪抑止効力を否定。 ただし、平時における死刑は廃止しているものの、戦時下では容認している。 (ii)ドイツ 1987 年に死刑制度廃止。抑止力の否定、誤判の危険性が高いことを理由に死刑制度には否 定的な見解。 (iii)スイス 1987 年より、平時における死刑は禁止。 (iv)中国 死刑制度存置国。犯罪と戦うためには死刑制度は必要であるとの見方を示す。ただし、18 歳未 満や妊婦に関しては適用除外。 第 3 章 エピローグ 日本は死刑制度を維持し、毎年複数の死刑囚を執行している。93 年、98 年に国連規約人権委 員会による死刑廃止勧告、国連人権委員会における2度の死刑廃止決議にも反対するなど、死 刑を廃止しようとする国際的潮流とは逆の立場をとっている。しかし死刑は重大な犯罪、とくに個 人の生命を侵害した者に対してのみ科される。このように、刑罰は犯罪の重大さと適合しており、 そして犯罪人がその行為によって社会を恐怖あるいは腐敗させて、次の世代やひいては人類の これからの未来を危うくしたのであれば犯罪人の生命が助命されるべきと要求する理由は存在し えないのではないだろうか。資料6は平成 19 年度犯罪白書より一部抜粋したものであるが、この 表からわかるとおり、殺人および強盗致死による検挙人員 1150 人のうち、32 名が同一罪種の前 科を有する犯罪人であった。これは尐なくとも 3%弱の犯罪人が一度人を殺め、世の中に再びで たときに新たに他人の生命をおびやかしている現実を表している。このような現状を放置しておく ことが社会に悪影響を与えないとはいえないだろう。 善とは言いがたい死刑制度を悪とするならば、私は死刑制度は必要悪であると考える。死刑の 存在が、多きにせよ尐なきにせよ犯罪を抑止している効果はあると考える。上でフィリピンを例に挙 げたように、死刑を廃止したことで暴力犯罪が増えた事例もあるということからその抑止効力を否 定することはできない。また、廃止論者の主張のひとつとして上では扱わなかったが、死刑の代替 刑として終身刑導入案がある。終身刑の特徴としては仮出獄の認められない無期刑であること、 恩赦等による有期刑への減刑の余地があることが挙げられる。しかしこれは、廃止論者の主張す る残虐性という観点から見ると、死刑に優る過酷さがあるといえるのではないだろうか。終身刑が導 入されている国においては、終身刑囚から死刑にしてくれという懇願がなされているという報告も あり、彼らの主張には矛盾点が多い。また実務的観点からも、現行制度であっても刑務所のキャ パシティを超える囚人が監獄されており死刑を廃止することでもし囚人の数が増え続けるようなこと があれば、刑務所はパンクしてしまう。彼らのような囚人の生活するための食料などはわれわれ国 民から徴収された税でまかなっているのであり、私たちの血税がかような犯罪者たちのために使わ れさらに徴税額が増加するような事態になれば、日本国政府に対する信頼を墜落するであろう。 日本と並ぶ先進国で数尐ない存置国であるアメリカでは、2009 年秋ごろに米国法律協会(ALI) が死刑制度を原則的に支持してきた指針を撤廃し、現状の死刑制度には問題があるとする決議 案を採択していたことが判明した。米紙 New York Times が4日伝えたところによると、ALI は昨年 10 月 23 日、1962 年に制定した死刑に関する指針を撤廃。それに代えて、「死刑を執行するうえ で適当な制度と確信するには、現在の制度にはやっかいな制度的、構造的な問題がある。(ALI は)そうした制度を支持しない」との決議案を圧倒的な賛成多数で採択した。同紙は、「米国の死 刑制度が破綻(はたん)していると宣言したものだ」と説明している。廃止された指針では、複数の
  • 9. 犠牲者が出た殺人や逮捕を逃れようとしたり、収容先から逃亡した上での殺人など、さまざまな条 件下で死刑は適当としていた。しかし、ALI メンバーから近年、米国の死刑制度には問題が多い という意見が強く出されるようになった。一部のメンバーからは「協会として明確に死刑に反対すべ きだ」との主張も出されたが、死刑制度そのものは存続させるべきだという意見も強かったという。 そのため、現状の死刑制度には問題が多く支持できないという点で意見集約を図り、指針廃止な どが決まった。 昨今の死刑制度存廃論の議論の中には死刑を無くすこと、もしくは維持することを目的とした議 論も多いように思える。死刑の存廃というのはあくまでも手段であって、本当の目的というのは死刑 の執行の数を最小限に減らす、ということではないのだろうか。死刑となるような犯罪が減れば、死 刑は不要なものとなり、そのとき初めて存廃という問題が生じるのではないだろうか。 死刑は人の生命を一方的に奪う行為であり、とても慎重に行われなければならない。そのため には、さらにしっかりとした司法制度の整備や、制度面での徹底が必要だろう。日本のみならず全 世界において、死刑問題に対する議論がさらに深まることを期待したい。
  • 10. 資料 [資料 1]国際法上の死刑制度に関する規約 世界人権宣言(1948) 第3条 「すべての者は、生命、自由及び身体の安全についての権利を 有する。」 第5条 「何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける 取り扱い若しくは刑罰を受けない。」 欧州人権条約 2条1項 「何人も、故意にその生命を奪われない。」 2項 「生命の略奪は、それが次の目的のために絶対に必要な、力の 行使の結果であるときは、本条に違反して行われたものとみなさ れない。 (a)不法な暴力から人を守るため (b) 合法的な逮捕を行い又は合法的に抑留した者の逃亡を防 ぐため (c) 暴力又は反乱を鎮圧するために合法的にとって行為のた め」 国際人権規約自由権規約 6条2項 「死刑を廃止していない国においては、死刑は、犯罪が行われ た時に効力を有しており、かつ、この規約の規定及び集団殺害 犯罪の防止及び処罰に関する条約の規定に抵触しない法律に より、最も重大な犯罪についてのみ科することができる。」 こどもの権利条約 37 条 「締約国は、次のことを確保する。 (a) いかなる児童も、拷問又は他の残虐な、非人道的な若しく は品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けないこと。死刑又 は釈放の可能性がない終身刑は、十八歳未満の者が行った犯 罪について科さないこと。 (b) いかなる児童も、不法に又は恣意的にその自由を奪われな いこと。児童の逮捕、抑留又は拘禁は、法律に従って行うものと し、最後の解決手段として最も短い適当な期間のみ用いること。 (c) 自由を奪われたすべての児童は、人道的に、人間の固有 の尊厳を尊重して、かつ、その年齢の者の必要を考慮した方法 で取り扱われること。特に、自由を奪われたすべての児童は、成 人とは分離されないことがその最善の利益であると認められない 限り成人とは分離されるものとし、例外的な事情がある場合を除 くほか、通信及び訪問を通じてその家族との接触を維持する権 利を有すること。 (d) 自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適当な援 助を行う者と速やかに接触する権利を有し、裁判所その他の権 限のある、独立の、かつ、公平な当局においてその自由の剥奪
  • 11. の合法性を争い並びにこれについての決定を速やかに受ける 権利を有すること。」 [資料 2]死刑犯罪 18 種類 刑法 77 条 内乱罪、81 条 外患誘致罪、 82 条 外患援助罪、 108 条 現住建造物放火罪、117 条 激発物破裂罪、 119 条 現住建造物等浸害罪、126 条 汽車転覆等致死罪、 127 条 往来危険による汽車転覆等致死罪、 146 条 水道毒物等混入致死罪、199 条 殺人罪、 240 条 強盗致死罪、241 条 強盗強姦致死罪 刑事特別法 ・航空機の強取等の処罰に関する法律 2 条 航空機強取致死罪 ・航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律 2 条 航行中の航空機を墜落させる等の罪 ・人質による強要行為等の処罰に関する法律 4 条 人質殺害罪 ・爆発物取締罰則 1 条 ・決闘罪ニ関スル件 3 条 刑法に準じて罰する法律 ・組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律 3 条 組織的殺人罪 [資料3]司法統計年報及び最高裁判所事務総局の資料に拠る。 [資料 4]死刑執行までの流れ
  • 13. 参考文献等 『国際法上の死刑存置論』 中野進著 信山出版 『死刑廃止論』 団藤重光著 有斐閣 『検証・死刑存廃論』 守山正著 犯罪社会学研究第 16 号 1991 『死刑の考現学』 勢藤修三著 三省堂 『極刑』 スコット・トゥロー著 岩波書店 『刑事訴訟法講義』 渡辺咲子著 不磨書房 『日本死刑史』 布施弥平治著 巌南堂書店 『死刑』 菊田幸一著 三一書房 Death Penalty Information Center (http://www.deathpenaltyinfo.org/) 犯罪白書(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/nendo_nfm.html/)法務省 死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム'90(http://www.jca.apc.org/stop-shikei/index.html)