福岡ブロックチェーン勉強会のプレイベントでの発表資料です

1. 福岡ブロックチェーンエコノミー勉強会
ブロックチェーン・エコノミー
ユースケースと知見の蓄積
近畿大学
山崎重一郎

2. ブロックチェーンとは？
なんと未定義用語
HyperLedger、R3 Corda などは「分散台帳」や「共有台帳」
いま定義するのは時期尚早
ユースケースの積み上げが必要
参照モデルの検討などで用語の定義を進めている

3. インターネットとブロックチェーン
多くの技術者が類似性を感じている
類似点の分析からブロックチェーンを定義してみる

4. インターネットの発明
インターネットは核戦争の恐怖の下で発明された
回線交換方式：回線を専有する（一時的に）
全米の回線網は、交換局が核攻撃を受けると全身不随に陥る

5. インターネット
IPパケット(宛先IPアドレスを持つデータ）
ネットワークは共有財（パブリックなネットワーク）

6. IPパケットによる自律的な通信
ネットワークに故障があれば、IPパケットは迂回する
障害点がない
回線を専有しない、共有資源のコストを互恵的に負担
障害点
障害点

7. データベースの「トランザクション」
データベースへの処理の最小単位
銀行の振込手続きはトランザクションになる
ファイアーウォールの中の処理
フ
ァ
イ
ア
ー
ウ
ォ
ー
ル

8. ブロックチェーンはEDIブームの再来?
データ交換様式の統一（業界横断的な情報流通）20年前
ブロックチェーンへの期待も似ている
実際は、業界限定：金融、鉄鋼、化学プラント、旅行、物流 ...
ファイアーウォールの中のプライバシは守られる
データ ベース
（ 銀行Aの世界）
データ ベースのレコ ード
事実
事実
事実（ 送金）
事実
事実（ 送金）
事実
事実（ 受領）
銀行A
データ ベース
（ 銀行Bの世界）
データ ベースのレコ ード
事実
事実
事実（ 受領）
事実
事実（ 送金）
事実
事実
銀行B
データ ベース
（ 銀行Cの世界）
データ ベースのレコ ード
事実
事実（ 受領）
事実
事実
事実（ 受領）
事実
事実（ 送金）
銀行C
全銀ネッ ト
フ
ァ
イ
ア
ー
ウ
ォ
ー
ル
フ
ァ
イ
ア
ー
ウ
ォ
ー
ル
金融EDI

9. ブロックチェーンのトランザクション
送金先アドレスと処理の「表現」となる自律的データ
送金：トランザクションの作成、登録、複製の連鎖

10. ビットコインのトランザクション
時制式三式簿記形式
過去 現在 未来

11. ブロックチェーンとインターネットの類似性
トランザクション＝IPパケット （転送／送金の「表現」）
障害点がない、頑強性
資源を専有せず、互恵的に共有資源のコストを負担
障害点
障害点

12. インターネットの問題と解決手段
問題
プライバシ
匿名性
スケーラビリティ、応答性能
解決方法
SSL/TLS SSH などの暗号通信技術
PKI（公開鍵暗号基盤）による電子認証
IXなどの集約的管理システムの導入
プロトコルの改善、ハード、ソフトの性能向上

13. ブロクチェーンの問題と解決方法
問題
プライバシ
匿名性
スケーラビリティ、応答性能
解決方法
匿名タンブラー
オフチェイン決済
オーバーレイ型ブロックチェーン

14. ブロックチェーンによる分散台帳
ソフトをインストールすると、同期が開始される

15. ビットコインの送金
P2P型ネットワークへの送金情報の
ブロードキャスト（転送型の放送）

16. ブロックチェーンとトランザクション
ブロックチェーンは、ブロックの連鎖
一つのブロックの中に10分間に世界中で発生したトランザクション
が含まれる
新ブロック
10分 10分 10分 10分 10分 10分
トランザクション トランザクション
トランザクション トランザクション
トランザクション トランザクション
ブロックヘッダ

17. 銀行の台帳システム
経済活動の信頼できる基盤（法的にも）
数秒の停止も許されない
何十年も安定して稼働し続けなければならない
従事者のモラルの維持（人件費）
大規模災害への備え（立地、建築物）
組織犯罪、テロ攻撃への対策
構築、維持に莫大なコスト

18. すべての記録の正当性を全員で確認し保存
互恵的なコスト分散
見かけのコスト削減の効果
台帳の分散的ガバナンスとコスト
確認
コードコード
コード
コード
コード
コード
コード
コード
コード コード
コード
確認
確認
確認確認
確認
確認
確認
確認 確認 確認
36

19. マイニング工場
莫大な電力消費
23

20. 10分ごとに一定量増加している
増加量は（4年周期で半減）
経済圏全体の「貨幣的量」は単調増加
10分 10分 10分 10分
12.5BTC
12.5BTC
12.5BTC
12.5BTC
無
無
無
無
UTXO

21. 通貨としてのビットコイン
通貨発行に原価（電気代）がある → 現物通貨に近い
輪転機で増刷できる信用通貨ではない
総量が制限されるので、金兌換券と同様に決済規模に限界

22. 少額のビットコインの上に任意のアセットを乗せる
発行者が存在し、必要に応じていくらでもアセットを発行できる
アセットの三式簿記
Open Assets Protocol

23. 自己宛小切手
（銀行が発行する小切手）
発行者：銀行
内容：アセット量と同額の日本円と交換
実質的に日本円として流通する
Open Assets債券の例
46

24. オーバーレイ型ブロックチェーンと
上位レイヤのトランザクション
Bitcoinのブロックチェーンの上位レイヤ
応用の性質ごとに異なる上位レイヤを設定
ブロック ブロック
ビットコインのブロックチェーン
Open Assets protocol
トランザクション
OP_RETURN
トランザクション
OP_RETURN
アセットの送金

25. オーバーレイ型ブロックチェーンと
上位レイヤのトランザクション
Bitcoin-NG
キーブロックとマクロブロックを使ってスケーラブルなBitcoinを目指
している
ブロック ブロック
ビットコインのブロックチェーン
Bitcoin-NG
キーブロック
マイクロ
ブロック
マイクロ
ブロック
マイクロ
ブロック
マイクロ
ブロック
キーブロック

26. オーバーレイ型ブロックチェーンのノード
異なるオーバレイを持つノード同士は
同じ上位プロトコルも持つもの同士しか機能しない
Bitcoin
node
Bitcoin
node
Bitcoin
node
Bitcoin
node
Bitcoin
node
Bitcoin
node
Bitcoin
node
Bitcoin
node
Bitcoin
node
Bitcoin
node
Bitcoin
node
bitcoin-NG
bitcoin-NG
bitcoin-NG
bitcoin-NG
bitcoin-NG

27. オフチェーン技術
通常のビットコインは決済の完了まで10分〜30分必要
ビットコインで即時決済を実現する方法
マイクロ・ペイメント・チャネル
ライトニング・ネットワーク
瞬時に決済が完了する（ブロックチェーンに書き込まない）
オープニング・トランザクション（資金のデポジット）
コミットメント・トランザクション（即時決済）
クロージング・トランザクション（ブロックチェーンに記録）

28. マイクロペイメント・チャンネル

29. ブロックチェーンのプライバシ
ミクシングサービスの詐欺被害は莫大
TanbleBitなどが登場
オフチェーン取引の仲介者を信頼点にしない技術
仲介者が「タンブラー」になる
タンブラー

30. ブロックチェーン・エコノミー
Code is Law（プログラムの仕様＝法律）
ソフトウェアのコードの仕様が法や法執行の力を持つ領域
コードの仕様
経済／ビジネスモデル
法／制度いかにして
統治するか？

31. Code (法律) = Code (プログラム)
ローレンス・レッシグ
34

32. The DAO 問題とCODEのバグ
ethereumのクラウドファウンディグ基盤
・プログラムのバグによって大量の資金が流失
ブロックチェーンへのプログラムの登録は
宇宙に探査機を打ち上げるようなもの
故障しても、永久に修理は不可能
ハードフォークしなければ
100年後もthe DAOのプログラムは動き続けただろう

33. ブロックチェーン・エコノミー
新しい仕事を創り出すプラットフォーム
AI（人工知能）は人間から既存の仕事を奪っていく技術
ブロックチェーンは、人間の仕事を創出を支援する技術
シェアリングエコノミー
（個人が雇用者から事業者なる経済）
所有資産の商材化の支援、創作物や二次創作物の利益を得やすい流通

34. ロックスクリプトとアンロックスクリプト
コインが移動するのではない
状態が遷移するだけ
ビットコインの所有の移転
インプット アウトプット
送金先
金額
送金者 秘密鍵
インプット アウトプット
金額
ビットコインを
ロック状態にする
ロックスクリプト
アンロックスクリプト
ロックを解除する
電子署名
UTXO使用済 UTXO
ロックスクリプト

35. ブロックチェーンの著作権管理への利用
著作者自身が自分の著作権を直接管理
コンテンツの使用権の「状態」を転々移転
★コピーを防止する技術ではない
ブロックチェーン
著作者
使用済状態 使用済状態
使用可能状態

36. ピコ太郎モデル（二次創作状態を許可）
YoutubeのContent-ID ：登録動画の画像、音楽にID付与
動画の全コマ 音楽
content IDがついている
著作権
ID埋め込み
オリジナル動画
二次創作動画
許可（削除でなく）
収入著作者
ブロックチェーン上で実現すれば管理主体は完全に著作者

37. ブロックチェーンの
シェアリング・エコノミーへの利用
利用権を転々譲渡できる基盤（所有者が管理主体、中間者なし）
シェアオフィス： 自社の空き会議室を有償で貸す
シェアショップ： 商店街の空き店舗を有償で貸す
ブロックチェーン
所有者
使用済状態 使用済状態
使用可能状態

38. 分散型のシェアリングエコノミープロジェクト
La'Zooz :分散型Uber （ライドシェア）)
都市ごとにクリティカルマスに達するまで利便性は
低い
●分散リワード
●投票システム
●独自仮想通貨
初期参加者ほど有利

39. ★ブロックチェーンによる
シェアリングエコノミープロジェクトの例
Factom ：貸付記録、証券、保険、医療記録のタイムスタンプ保存
ビットコインのブロックチェーンの上位レイヤのデータベース
●記録をカテゴリごとに分類
●最終的にビットコインの
ブロックチェーンに埋め込む
●記録自体は秘匿可能

40. 書き換え可能なブロックチェーン
ハッシュチェーンへの暗号学的トリックだけではない
タイムマシンのパラドクスの解決
過去を変更したときの現在の「世界」への影響範囲を特定など
時相論理、多世界モデル
現在の世界
成立している命題
p1
p2
…
p'k
p'k+1
p'k+2
過去の世界
成立している命題
p1
p2
…
pk
pk+1
pk+2
修正された過去の命題

41. シェアオフィス事業者のセットを設置だけでビジネスできる
福岡市ブロックチェーン・エコノミー実験
仮想通貨による支払い
（マイクロペイメントチャネル）
利用者
事業者セット
評判情報
bitcoin ノードスマートロック
評判情報用
分散データベース評判情報
事業者

42. シェアオフィス事業者が増えたとき
評判情報用データベースも複製される
事業者が減っても記録は消えない
福岡市ブロックチェーン・エコノミー実験
事業者セット
bitcoin ノードスマートロック
評判情報用
分散データベース
事業者セット
bitcoin ノードスマートロック
評判情報用
分散データベース
事業者セット
bitcoin ノードスマートロック
評判情報用
分散データベース

43. 福岡市ブロックチェーン・エコノミー実験
評判情報のシェアが本質
AirBnbの例

44. 福岡市ブロックチェーン・エコノミー実験
ブロックチェーンは大きなデータの管理にはむいていない
IPFS (InterPlanetary File System)
P2P 型の分散ファイルシステム
PKIベースのIPNSと呼ばれるネームサービスがある
●分散型のGithub

45. 突然のオフィス需要

46. ブロックチェーン・エコノミー
Code is Law（プログラムの仕様＝法律）
ソフトウェアのコードの仕様が法や法執行の力を持つ領域
コードの仕様
経済／ビジネスモデル
法／制度いかにして
統治するか？

47. シティ・オブ・ロンドン

48. 国家を超越した自治区、自治的経済圏
約1000年前より英国国王からの自治的統治が許可された地域
ウォール街と並び立つ世界の金融センター
バチカン以上の資産を持つ
シティオブロンドン自治体が統治

49. 塩飽（しわく）水軍の島における自治
徳川幕府からも自治権を得ていた
織田信長、豊臣秀吉、秀次、徳川家康、秀忠の朱印状
人名（にんみょう）による合議制 ←大名に属さないという意味
海運、造船、軍事が主な産業

50. ブロックチェーン・エコノミーの
ガバナンス
経済：ビジネス・モデルの登録、修正、廃止
そのための、ソフトウェアのコードの登録や修正などが必要
コードのガバナンス：githubのプルリクエストなど
ビジネスモデルのガバナンス：電子投票システムの利用
法的ガバナンス：定期的監査受け入れ、事業内容の開示

51. githubのプルリクエスト
git バージョン管理システム
●ソースコードの修正
修正案を提案する仕組み
コアメンバーがテストして承認すると、正式なソースコードに反映
●文書の修正
仕様を規定するドキュメント
方針そのものを規定するドキュメント

52. ブロックチェーン・エコノミー
ドキュメント管理によるガバナンス
コードの仕様
経済／ビジネスモデル
法／制度
部屋を汚した場合の罰則
部屋の備品を壊した場合の罰則
部屋の目的外使用の罰則
日時による部屋の利用料の設定
利用者による利用料の設定
受験生を優先
するルール
プルリクエスト

53. パブリックな法とプライベートな法
国家が立法し執行する法と「コード」によるプライベートな法の関連
づけの定義が必要
公的な法
プライベートな
コード
プライベートな
コード
プライベートな
コード
プライベートな
コード
民法第1条
1.私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2.権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わ
なければならない。
3.権利の濫用は、これを許さない。
☓

54. 仮想通貨の法整備
2016年5月 「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀
行法等の一部を改正する法律案」が成立
資金決済法の改正
2017年3月
銀行法改正 APIの公開に関するルール

55. 現状と今後
現在のブロクチェーン技術は、初期のインターネット
インターネット：専用線より遅くて品質が悪い、プライバシが守れない
ブロックチェーン：DBより遅くて品質が悪い、プライバシが守れない
★世界の叡智が集結してきている
特許戦略が重要
人材育成が必要
実験で、技術、経済、法律、三層の知見の集積が必要