2020年5月13日、マレーシア中央銀行より2020年第1四半期のマレーシア経済及び金融動向が発表された。
マレーシアでは、1月25日に初の新型コロナウイルスの感染者が確認された。3月中旬までは持ちこたえていたが、3月14日より感染者が大幅な急増に転じたこともあり、ムヒディン政権下で3月18日より活動制限が布かれた。そして3月26日には1日当たりで235名の新規感染者を記録したものの、徹底した活動制限の影響もあり、第2四半期には新規感染者が減少に転じ、5月4日には経済活動が一部緩和されている。
活動制限の影響により、2020年3月の製造指数は-4.2%、鉱業指数は-6.5%、電力指数は-7.0%といずれもマイナスとなり、鉱工業生産指数(IPI)は前年同月比で-4.9%であった。製造部門で特に落ち込みが大きかったのは、電気・電子機器(-5.0%)、非金属鉱物製品、基礎金属・加工金属製品(-9.8%)、食品・飲料・タバコ(-9.9%)となっている。鉱業部門のマイナス成長は、天然ガス指数(-6.0%)、原油・コンデンセート指数(-7.1%)による影響となっている。結果として、2020年第1四半期のIPIは年同期比で0.4%となった。
また、2020年3月の卸売・小売業の売上高は合計で1,032億リンギットを記録し、前年同月比で5.7%減少した。特に小売業が29億リンギット(-6.6%)の減少となったことが大きく、他にも自動車が19億リンギット(-15.3%)、卸売業が14億リンギット(-2.7%)の減少であった。卸売・小売業出来高指数は120.1ポイントを記録し、前年同月比で-6.1%であった。部門別では、卸売業-2.5%、小売業-7.5%、自動車-14.4%となり、自動車は2桁のマイナスとなっている。
全体的な不振もあり、実質GDP成長率は2019年第4四半期の3.6%から2020年第1四半期は0.7 %にまで落ち込んだ。これは、2009年第3四半期以来で最低の成長率となる。
部門別では、サービス部門が3.1%の成長(2019年第4四半期:6.2%)で引き続き主要な推進力となった。同部門の業績は情報・通信、卸売・小売業、金融・保険サブセクターに支えられ、情報・通信サブセクターはMCO期間中の在宅勤務において通信セグメントが主導した。
製造業部門の成長率は、前四半期の 3.0%に対して1.5%と鈍化し、これは2013年第1四半期(0.6%)以来の最低成長率となった。石油・化学・ゴム・プラスチック製品(2020年第1四半期:3.9%)、電気・電子・光学製品(同:2.2%)、木製品・家具・紙製品・印刷(同:1.3%)が成長に寄与した。
鉱業・採石部門は、原油・コンデンセートと天然ガスの生産が改善したため、今四半期は-2.0%(2019年第4四半期:-3.4%)となった。
農業部門は-8.7に落ち込み、パーム油や林業・伐採、漁業、ゴムの低迷が主因となっている。特にパーム油サブセクターは22.0%(2019年第4四半期:-16.9%)減少したが、これはパーム原油(CPO)の生産量縮小によるものとなっている。
建設セクターは前四半期の1.0%から-7.9%へ落ち込み、1999年第2四半期(-7.9%)以来の低成長となった。
今期の労働市場の状況については、マレーシアの雇用者数は1.6%に増加して1,524万人となった。ただ、失業率は前期の3.2%から3.5%へ増加しており、失業率の上昇は主に移動規制令(MCO)が影響を与えたことに起因している。因みに、マレーシアで最も高い失業率を記録したのは1986年の7.4%となっている。
今後のGDP成長率見通しについては、国際通貨基金が2020年4月14日に発表した『World Economic Outlook, April 2020: The Great Lockdown』によると、2020年のマレーシアの実質GDP成長率は-1.7%に落ち込むが、2021年には9.0%へ回復する見通しが示されており、中国と同水準の高成長が見込まれている。
次にCOVID-19に対するマレーシアの景気刺激策の財政支出内訳を見ると、賃金補助が138億リンギット、現金支給が136億リンギットとなり、所得と生活支援に重点が置かれた内容となっている。またGDPに対する財政支出の規模では、マレーシアはドイツやフランスを上回る2.5%と高い水準にある。