2020年4月末、マレーシア国家不動産情報センターより、2019年の不動産市場の報告書がリリースされた。
不動産市場全体
報告書によると、2019年の不動産取引量は前年比で4.8%増となる32万8,647ユニットを記録した。2016年には前年比で-11.5%にまで落ち込んだが、最近は緩やかな回復傾向が見られる。また、サブセクター別では住宅が全体の63.7%を占めており、不動産市場を牽引している。
取引額で見ても、2019年は前年比で0.8%の増となる1,414億リンギットを記録し、わずかに増加している。
住宅物件
住宅販売については、2019年は前年比で6.0%の増となる20万9,295戸を記録、2年連続で販売戸数が増加した。住宅タイプ別では、テラスハウス(長屋式)が最多となる8万5,669戸で全体の41%を占めた。金額ベースでは、2019年は72億4,211万リンギットを記録し、前年比で5.3%の増加であった。
州別では、セランゴール州が全体の24.8%となる5万1,981戸を販売しており、ジョホール州とペラ州の合計を上回っている。
国内の住宅市場で大きな問題となっている売れ残り物件については、2019年は前年から5.1%減少して3万644戸となり、ようやく減少に転じた。この傾向は建設中及び建設前の物件でも同様の傾向となっている。州別では、売れ残り物件が最も多いのはジョホール州の5,627戸で、全体の18.4%を占めている。また、ペラ州(5,024戸)とセランゴール州(4,687戸)も比較的売れ残り物件数が多い状況にある。
物件タイプ別では、コンドミニアムやアパートメントといった高層住宅が全体の48.8%を占め、20万~70万リンギットの物件を中心に売れ残りが目立っている。また、テラスハウスも全体の32.2%を占め、30万~50万リンギットの物件で売れ残りが多い状況となっている。
売れ残り物件数が減少に転じた一方、マレーシア住宅価格指数(MHPI)の増加幅は縮小が続いている。2010年を100.0(平均価格21万7,857リンギット)として、2019年は197.5(同42万6,155リンギット)と9年で2倍弱まで増えたが、前年比の増加率は縮小が続いており、2019年は前年比で1.9%増にとどまっている。
商業施設
商業施設の総面積は年々増加傾向にあり、2019年は前年比3.4%増となる1,651万㎡まで拡大したものの、ここ2年の稼働率は80%を割り込んでいる。
2019年と取引総数は2万5,654ユニットとなっており、テラスタイプの物件が全体の51.8%を占めている。州別では、セランゴール州とクアラルンプールのクランバレーが全体の40.4%を占め、商業施設が同地域へ集中していることが分かる。
工業
工業施設の総面積は年々増加傾向にあり、2019年は前年比3.4%増となる2,259万㎡まで拡大したものの、稼働率は80.6%にまで落ち込んでいる。
2019年の取引件数は6,261ユニットであり、テラスタイプとセミダッチタイプに対する需要が高く、これら2つで全市場の53.8%を占めている。また州別では、セランゴール州が全体の35.3%となる2,212ユニットを販売し、ジョホール州が同16.2%の1,016ユニットであった。
2020年見通し
国内大手不動産エージェントにおいては、もともと落ち込んでいた不動産市場がCOVID-19蔓延による活動制限や経済見通しが不透明なこともあり、2020年は厳しい年になるとされている。また、iPropertyは長期的な視点として、COVID-19が消費者のライフスタイルに影響を与え、働き方、買い物、生活の仕方が変わることで必要とされる不動産の形が変わるだろうとしている。例えば、仕事ではリモートワーク文化が浸透したこともあり、オフィスを拠点とするビジネスは縮小することが予想されている。また、電子商取引やeウオレット、配送ビジネスの活用によって消費者の購買パターンに変化が現れ、ショッピングモールを中心とした小売業の不動産面積は縮小していくだろうとしている。その上で、今後10年の不動産業界は、それ以前の数十年とは大きく異なるものになることは間違いないと見通している。