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広範囲熱傷患者において
尿量0.5cc/kg/h
を達成するまでにかかる時間
についての検討
Parkland公式
4×熱傷面積(%)×体重(kg)の半分を8時間で,半分を残りの
16時間で投与
 成人では時間尿量0.5-1.0cc/kgをターゲットにする
ABLS公式
 2×熱傷面積(%)×体重(kg)の半分を8時間で投与する計算で
輸液開始
 成人では時間尿量0.5cc/kgをターゲットに,1/3ずつ輸液速度
を増減する
いつまでに目標尿量をクリアすればいいのか明記されていない
目 的
熱傷患者において,時間尿量0.5cc/kg/hを達成
するまでにかかる時間についての至適範囲を探る
TBSA≧20%
n=104
(2012-15年)
転送
n=69
直送
n=35
対象
n=28
年齢<18歳
n=3
CPAOA
n=2
慢性維持透析
n=1
24時間以内に死亡
n=1
方 法
初期輸液速度
ABLS公式(2×熱傷面積×体重×1/2×1/8)に従った
モニタリング
観血的動脈圧とビジレオモニター(Edwards LifesciencesTM),乳酸値(4-12時間
毎),総蛋白(TP)とヘマトクリット(4時間毎),尿浸透圧(4-12時間毎)
輸液調節
時間尿量や上記モニタリング値をもとに調節した
目標尿量達成時間
時間尿量≧0.5cc/kg/hが2時間以上持続した時を目標達成とした
受傷~目標尿量達成時間
n
受傷~目標尿量達成時間
n
中央値=12hr
E群 L群
E群 L群
n=15 n=13 P value
年齢 43 [21-74] 79 [23-87] 0.004
性別_男(%) 14 (93) 9 (69) 0.153
受傷原因(%) 0.035
火焔 15 (100) 9 (69)
熱湯 0 (0) 4 (30)
受傷~来院(分) 53 [20-130] 58 [37-77] 0.628
TBSA ,% 44 [20-90] 42 [20-84] 0.963
Burn Index 33 [10-75] 32 [10-82] 0.433
気道熱傷合併 (%) 10 (66) 8 (61) 1
<
E群 L群
n=15 n=13 P value
輸液量0-12h 3497 [975-9212] 4048 [1097-8391] 0.765
/kg/%BSA 1.52 [0.63-4.29] 1.43 [0.67-3.95] 0.908
輸液量12-24h 6499 [1259-23112] 5594 [1914-12259] 0.908
/kg/%BSA 3.08 [0.80-4.95] 3.40 [0.85-6.25] 0.695
輸液量0-24h 12261 [4390-28490] 10728 [3397-18689] 0.765
/kg/%BSA 4.64 [1.91-8.92] 5.10 [1.89-10.04] 0.982
アルブミン使用 (%) 1 (6) 4 (30) 0.153
HLS使用 (%) 2 (13) 3 (23) 0.639
≒
≒
E群 L群
n=15 n=13 P value
尿量0-12h 536 [105-1700] 212 [35-710] 0.003
/kg/h 0.75 [0.16-2.35] 0.31 [0.04-0.83] 0.004
尿量12-24h 839 [470-1320] 238 [0-615] <0.001
/kg/h 1.23 [0.61-2.00] 0.39 [0-1.14] <0.001
尿量0-24hr 1444 [952-2565] 499 [44-908] <0.001
/kg/h 0.91 [0.74-1.95] 0.42 [0.03-0.63] <0.001
輸液バランス 10817 [2120-26580] 10684 [3229-18029] 0.8≒
*
**
ICU入室時 12時間後 24時間後
*p<0.05 vs ICU入室時
**p<0.01 vs ICU入室時
心拍数
*
bpm
↓ ↓
*
**
ICU入室時 12時間後 24時間後
*p<0.05 vs ICU入室時
**p<0.01 vs ICU入室時
一回心拍出量係数(SVI)
mL/m3
↑
↑
*
ICU入室時 12時間後 24時間後
心係数(CI)L/m3
*p<0.05 vs ICU入室時
↑
ICU入室時 12時間後 24時間後
一回心拍出量変動(SVV)%
*
**
*
**
ICU入室時 12時間後 24時間後
乳酸値mg/dL
*p<0.05 vs ICU入室時
**p<0.01 vs ICU入室時
↓
↓
↓
↓
ICU入室時 24時間後
クレアチニン値
*
*p<0.05 vs ICU入室時
mg/dL
↑
E群 L群
n=15 n=13 P value
死亡(%) 1 (6.7) 7 (53.8) 0.011
ICU日数 31 [14-62] 30 [15-55] 0.967
入院日数 71 [23-124] 52 [15-123] 0.509
人工呼吸器日数 3 [0-18] 0 [0-18] 0.659
腎代替療法(%) 0(0) 1(7.7) 0.464
<
考 察 1
いつまでに
時間尿量0.5cc/kg
を達成すればいいのか?
<RIFLE分類>
<AKIN分類>
国際腎臓学会のAKI進行度分類では6時間でRisk or
Stage 1,12時間でInjury or Stage 2
熱傷輸液公式では8時間がひとつの区切り
今回の研究における乏尿持続時間の中央値は12時間
目標尿量達成時間は
できれば受傷後6時間以内
遅くとも12時間以内とするのが妥当か?
考 察 2
L群に対して
もっとたくさん輸液
すべきではなかったのか?
今回の結果を振り返ると,L群では頻脈が改善され,
SVI,CIが上昇し,さらに乳酸がクリアされていた
→L群でHypovolemiaが遷延していたとは言えない
→全身循環の問題よりも,腎臓の局所的問題が大きい
過剰輸液による合併症(ARDS,ACSなど)も
懸念される
L群に高齢者が多いことから考えても,輸液を増や
すことは妥当ではないと考えられる
考 察 3
「蘇生困難例」とも言うべき
L群のような症例に対して
どのような手を打つべきなのか?
蘇生困難例に対するオプション
VitC大量療法→腎不全の副作用
HLS→高齢者に対する塩分負荷のリスク
血漿交換→熱傷性ショック期に一時的な効果は
あっても,生命予後改善効果は示されていない
超早期手術→循環不安定で腎機能が悪い高齢者
に全麻手術を行うリスク
熱傷ショック期の乏尿持続時間は年齢によ
る影響が大きかった
高齢の広範囲熱傷患者については,尿量を
指標とするのは適切でない
結 語

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