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NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)病態ラットに
おけるアディポネクチン受容体(AdipoR1/R2)と
インスリン受容体基質(IRS-1/-2)の
生理的意義の解明
松波 登記臣1, 佐藤 雪太2, 有賀 恵規2, 湯川 眞嘉2
1日本大学大学院 獣医学研究科,
2日本大学生物資源科学部 獣医学科
背景および目的
• アディポネクチンと、その受容体AdipoRが、肝臓における脂肪酸
合成および酸化調節に重要な存在であることが明らかとなってきた。
• 肥満・インスリン抵抗性を基盤とするNASH病態でのAdipoRに
関する上記調節機序は十分に解明されていない。
• 本研究では、アディポネクチン受容体AdipoR1/R2と、肝臓の脂質
代謝調節にとって重要な役割を担うインスリン受容体基質IRS-1/-2
に着目し、上記調節機序解明を目的とし、NASH病態ラットを作製し
解析した。
NASH病態ラット作製
• 動物; Obese (fa/fa) Zucker rats (♂;n=16)
• 特殊飼料; High-fat and-cholesterol diet (HFC diet; 8wks)
Metabolic Parameters Control HFC
Liver weight (g) 13.3 ± 0.5 53.2 ± 0.5 *
Plasma Glucose (mmol/L) 5.6 ± 0.3 8.2 ± 0.5 *
Plasma Insulin (ng/mL) 8.4 ± 0.9 9 ± 0.5
Plasma total cholesterol (mg/dL) 128 ± 1.5 1360 ± 74 *
Plasma ALT (U/L) 71.3 ± 8.5 138 ± 7.7 *
Serum NEFAs (mEq/L) 1.15 ± 0.19 1.77 ± 0.11 *
Hepatic triglycerides (g/liver) 65.7 ± 5.2 170 ± 14 *
Antioxidant enzymes
GSH (nmol/mg protein) 61 ± 5.5 42 ± 5 *
SOD (U/mg protein) 96 ± 10 54 ± 7.1 *
GPx (U/mg protein) 604 ± 20 356 ± 43 *
Catalase (U/mg protein) 5956 ± 278 1381 ± 141 *
Lipid peroxidation (TBARS)
Liver (nmol/mg protein) 0.6 ± 0.1 1.56 ± 0.3 *
Erythrocyte (nmol/g hemoglobin) 15.3 ± 2.7 30.6 ± 5.2 *
* P < 0.05 for HFC diet-induced rats vs control diet-induced rats.
Steatosis (%) 1.8 ± 1.3 88.7± 8.1*
Activity (inflammation) 0.4 ± 0.2 5.5 ± 0.5*
Stage (fibrosis)
Histological diagnosis steatohepatitisnormal
Control HFC
0 3*
* P < 0.01 for HFC diet-induced rats vs control diet-induced rats.
インスリン
抵抗性
高血糖
高脂血症
酸化ストレス
脂質過酸化
two hits theory 成立広範囲な線維化(架橋形成)脂肪変性および炎症細胞の浸潤
NASH病態時における脂肪酸合成調節
関連遺伝子群の発現量の変化
AdipoR1 AdipoR2
IRS-1 IRS-2
AMPK
SREBP-1c ACC
FAS
de novo
synthesis
Citrate
Acetyl-CoA
Malonyl-CoA
Fatty acids
de novo
synthesis
Fatty acids
NASH病態において・・・
• AMPK発現量低下およびSREBP-1c発現量上昇により、
脂肪酸(FA)合成が亢進した(肝性TG上昇)。
• IRS-1とIRS-2は補完的役割を持つと考えられる。
(Ide et al., 2004)
Triglycerides
?
AdipoR2
IRS-1 IRS-2
PPARα
Foxa2
CPT-1a
UCP-2
ACOX
CYP2E1
CYP4A1
Mitochondria
Peroxisome
Microsome
β-oxidation
β-oxidation
ω-oxidation
Malonyl-CoA Fatty acids
NASH病態時における脂肪酸酸化調節
関連遺伝子群の発現量の変化
Malonyl-CoA Fatty acids
NASH病態において・・・
• Foxa2発現量上昇およびFA合成亢進により、FA酸化が増大した。
• Foxa2の調節はIRS-2に依存的であり、FA酸化関連遺伝子群の調節は
FA蓄積に依存していると考えられる。
総括
NASHの肝臓において・・・
AdipoR1/R2の減少
IRS-1の上昇
IRS-2の減少
AdipoR1 AdipoR2
IRS-1 IRS-2
AMPK
SREBP-1c ACC
FAS
de novo
synthesis
Citrate
Acetyl-CoA
Malonyl-CoA
Fatty acids
Triglycerides
?
FA合成抑制(AMPK)/ 酸化亢進(PPARα)
FA合成亢進(SREBP-1c)
FA酸化亢進(Foxa2)
AdipoR経路およびIRSがNASH病態の肝臓において、
FAの合成や酸化調節に重要な役割を担っている。
AdipoR2
IRS-1 IRS-2
PPARα
Foxa2
CPT-1a
UCP-2
ACOX
CYP2E1
CYP4A1
Mitochondria
Peroxisome
Microsome
β-oxidation
β-oxidation
ω-oxidation
Malonyl-CoA Fatty acids

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Nashモデル動物作製

Editor's Notes

  1. メタボリックパラメーターにおいて、肝重量の上昇、さらには高血糖、高脂血症を呈する数値が認められました。 肝臓の抗酸化酵素群については、全てで顕著な減少が認められ、肝に酸化ストレスが誘導されていることが考えられます。 また肝臓と赤血球の脂質過酸化を測定したところ、上昇していることから脂質過酸化反応の誘導も認められました。 以上から、NASHの定義である“two hits theory”が成立したと考えます。 病理組織についてですが、HEでは肝細胞において顕著な脂肪変性、さらには小葉および血管周囲における炎症細胞の浸潤が認められました。 マッソンにおいては、肝組織全体に及ぶ、つまり架橋形成を伴う線維化が認められたことから、このNASHは非常にグレードの高いNASHであることが分かりました。 以上の結果から、本モデルは脂肪性肝炎と診断できました。
  2. そのNASHモデルの肝臓を用いて、FA合成調節関連遺伝子の発現量を測定しました。 以下の模式図は、AdipoRとIRSを基点としたFA合成機序のカスケードです。これに沿って説明していきますと、 まずAdipoRの減少が認められ、次にAMPKの減少も認められました。このことからAMPKのFA合成抑制作用が減退されたことが考えられます。 次にIRSですが、IRS-1の上昇およびIRS-2の減少が認められました。さらにはSREBP-1cの上昇が認められたことから、FA合成が亢進していると考えられ、 実際に、アセチルおよびマロニルCoA関連遺伝子は上昇しました。 まとめますと、・・・・。 さらに近年、SREBP-1cの上昇はIRS-2をサプレッシングすることが明らかとなり、本研究結果もそれに適用できると考えています。 しかしながら、IRS-1が上昇した理由は不明ですが、実際にSREBP-1cの上昇が認められていることから、IRS-2の減退をIRS-1が補っている、 つまり、IRS-1とIRS-2は補完的関係性を持つ可能性が考えられます。
  3. 次に、FA酸化についてです。 先程と同様、IRS-1の上昇およびIRS-2の減少が認められました。通常FAのβ酸化をするFoxa2はIRSによって抑制されていますが、本研究では上昇しました。つまりFoxa2の調節はIRS-2に依存していることが考えられます。そしてFoxa2の上昇によってUCP-2も上昇し、ミトにおけるFA酸化は上昇したことが考えられました。 次にFA酸化をつかさどるAdipoR2についてですが、減少しています。よってFAの酸化を亢進するPPARαも減少しました。しかしながら、ペルやミクロにおけるFA酸化関連遺伝子は上昇しました。この理由は、先程も説明させて頂きましたが、本モデルでは顕著なFAの蓄積が認められております。ペルおよびミクロの遺伝子は、肝細胞に顕著なFAが蓄積したとき、ミトの代償的に働くことが明らかになっています。本研究結果では、それが適用したと考えています。 まとめますと、・・・・。
  4. 総括です。 AdipoR共に減少したことで、AMPKのFA合成抑制作用、PPARαのFA酸化亢進作用が惹起されました。 またIRS-1の上昇によって、SREBP-1cを上昇させ、FA合成作用を亢進させました。 最後にIRS-2の減少は、ネガティブフィードを示すFoxa2を上昇させ、FA酸化作用を亢進させました。 以上から、・・・・。 今後は、本モデルのクオリティーを上げる目的として、IRSに着目した実験系を確立していき、また肝臓・骨格筋・脂肪組織を含めた糖代謝の実験系にも力を入れていく予定であります。