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徹 長谷川
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杉亨二伝 日本統計学の祖
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1.
杉 亨 二 駿 河 國 時 代 イ 、 駿 河 国 に 移 住 徳 川 幕 府 の 太 政 奉 還 後 、 杉 先 生 は 、 徳 川 家 の 供 を 申 付 か っ て 、 駿 河 国 に 移 住 さ れ た 。 こ よ り 前 、 杉 先 生 は 、 安 政 三 年 ・ に 、 本 郷 丸 山 の 阿 部 家 中 屋 敷 の 表 門 附 近 に 、 一 軒 の 家 を 求 め て 住 居 と さ れ 、 ( 註 ) そ こ で 、 福 山 藩 の 先 輩 で あ っ た 石 川 和 介 氏 の 媒 酌 に よ り 、 阿 部 家 の 側 役 中 林 勘 之 助 氏 の 令 妹 金 ( き ん ） 子 さ ん ( 当 時 十 八 歳 ) と 、 華 燭 の 典 を あ げ ら れ 、 駿 河 国 に 移 ら れ た と き に は 、 す で に 四 人 の 愛 児 の 父 と な ら れ て い た 。 註 、 杉 先 生 は 、 こ こ で 同 地 、 に 住 ん で い た 同 郷 出 身 高 嶋 秋 帆 と 來 往 さ れ 、 そ の 交 情 殆 ん ど 僚 友 の 如 き も の が あ っ た 。 先 生 の 談 中 に も ” 高 島 と は 年 が 三 十 位 も 違 っ て い た が 至 極 、 懇 意 に し て い た 。 却 々 技 術 の 優 れ て た 偉 い 人 で あ っ た 。 長 崎 は 全 く 箕 勢 力 の 下 に 在 っ た も の だ 。 惜 し い こ と に は 海 外 貿 易 や 輸 入 金 貨 な ど に 就 て 、 色 々 聞 て 置 け ば よ か っ た の に 私 は 其 頃 ま だ 若 年 の 事 で あ っ た か ら 其 気 も 附 か ず に 過 ご し た の は 今 で も 残 念 に 思 っ て い る 偉 い 人 で あ っ た が 、 遂 に 卒 中 で 倒 れ て し ま っ た 。 朝 飯 後 俄 然 と し て 倒 れ て し ま っ た 実 に 借 し い 事 を し た 幕 府 時 代 の 一 大 人 傑 で あ っ た 。 〃 と 述 べ ら れ て い る 。 先 生 は 、 は じ め 、 家 族 を 阿 部 屋 敷 に 残 し て 単 独 駿 河 国 に 移 ら れ た が 、 間 も な く 沼 津 奉 行 阿 部 国 之 助 氏 の 世 話 で 、 沼 津 在 香 貫 村 ( 現 在 沼 津 市 に 属 す ) に 移 っ て 家 族 を 呼 寄 せ ら れ た 。 そ れ か ら 程 な く そ の 家 に 不 幸 が あ っ て 明 け る 必 要 が で き 、 近 く の 富 士 郡 神 谷 村 に 引 越 さ れ 、 そ の 後 沼 津 に 移 っ て お ら れ る 。 神 谷 村 は 、 そ の 後 須 津 ( す ど ) 村 と な り 、 現 在 は 吉 原 市 に 属 し て い る 。 な お 、 当 時 、 先 生 の 義 甥 杉 徳 次 郎 氏 が 、 共 に 駿 河 国 に 移 住 、 さ れ た 。 同 氏 は 〃 人 と な り 才 学 、 人 に 優 れ 、 天 晴 れ 国 家 の 材 た る 天 品 を 具 え 、 中 村 敬 宇 ・ 菊 池 大 麓 ・ 外 山 正 一 等 の 諸 氏 と 共 に 英 国 に 留 学 し 、 新 進 の 新 知 識 と し て 、 当 時 最 も 重 き を な し た る 人 “ （ 註 ） で 杉 先 生 の 教 授 方 職 責 を 支 援 さ れ 、 沼 津 兵 学 校 教 官 に も な ら れ た 人 で あ る が 、 不 幸 病 を 得 て 早 逝 さ れ た 。 註 河 合 氏 〃 杉 先 生 略 伝 〃 に よ る 。 ロ 、 駿 河 国 人 別 調 の 実 施 （ イ ） 調 査 の 動 機 杉 先 生 は 駿 河 国 に 移 住 の 際 、 住 居 の 世 話 を 受 け ら れ た 沼 津 奉 行 阿 部 国 之 助 氏 が 、 馬 上 隅 田 の 奔 流 乗 っ 切 り の 講 談 で 有 名 な 阿 部 豊 後 守 の 分 家 で 、 杉 先 生 が 開 成 所 教 授 時 代 の 教 え 子 で あ る 関 係 も あ っ て 、 氏 に 統 計 の 必 要 性 を 説 い た 上 ” 今 や 太 政 は 一 新 し 、 天 下 は 平 穏 に 帰 し た 。 し か し 、 諸 政 刷 新 の 基 礎 は 、 将 来 の 努 力 に 侍 た な け れ ば な ら な い 。 此 際 一 段 と 統 計 的 調 査 が 必 要 な わ け だ 。 私 は 、 先 ず 沼 津 を 中 心 と し て 統 計 調 査 ー 現 在 人 別 調 を や っ て 見 た い ん だ が ” と 相 談 さ れ た 。 杉 先 生 の 自 叙 伝 中 に 〃 此 人 は 余 が 開 成 所 で 教 え た 至 っ て 奇 抜 な 人 物 で あ っ た ” と 述 べ ら れ て い る が 、 こ こ に 〃 奇 抜 ” と は 〃 決 断 力 に 富 ん だ " の 意 味 ら し い 。 阿 部 氏 は 早 連 賛 成 し て 実 施 に 協 力 す る こ と を 約 し た 。 そ う し て い る と こ ろ へ 、 府 中 ( 静 岡 ) 奉 行 で あ っ た 中 台 伸 ( 又 は 信 ) 太 郎 氏 が 、 何 か の 機 会 に 沼 津 奉 行 か ら 、 先 生 の 人 別 調 の 計 画 を 伝 承 し た も の ら し く 、 あ る 日 杉 先 生 に 会 見 を 求 め
2.
て 来 た 。 杉 先 生 は 、 直 ち に 氏 の 門 を 叩 か れ た と こ ろ 、 中 台 氏 は ト テ モ 欣 ん で 醇 酒 佳 肴 を も っ て 歓 待 し た 。 先 生 は 〃 一 国 の 実 状 を 知 ろ う と す る な ら ば 、 先 ず 、 そ の 人 員 や 、 生 死 一 般 に 関 係 し た 調 査 を し な け れ ば い け な い 。 ど う で し ょ う 。 府 中 で も 統 計 調 査 を や ら れ て は ー 計 画 と 実 施 の 全 責 任 は 私 に ま か せ て 下 さ っ て ” と 心 楽 し そ う に 述 べ ら れ た 。 そ れ に 対 し て 中 台 氏 も 莞 爾 と し て 〃 そ れ は ス バ ラ シ イ 事 業 で す 。 全 部 お 任 せ し ま す か ら 、 実 施 し て 下 さ い ” 悃 願 し た 。 両 奉 行 の 賛 成 と 、 支 援 に よ っ て 、 駿 河 国 人 別 調 が 進 め ら れ た の で あ る 。 ( ロ ) 調 査 の 準 備 杉 先 先 生 は 、 直 ち に 、 人 別 調 の 準 備 に か か ら れ て 、 先 ず 、 左 記 の 標 識 に も と づ く 調 査 表 を 作 成 さ れ た 。 こ れ が 作 成 の 資 材 と し て は 、 す で に 当 時 ほ 、 そ の 一 部 前 述 の 通 り 千 八 百 三 十 年 よ り 千 八 百 四 十 九 年 に 至 る い わ ゆ る 統 計 万 能 時 代 ( 註 ） に 、 官 府 統 計 機 関 - 統 計 局 が 欧 洲 の 数 ヵ 国 に 於 て 創 設 あ る い は 復 興 、 き れ て い る し 、 英 ・ 仏 を は じ め と し て 和 蘭 ・ 墺 太 利 ・ 白 耳 義 な ど で は 、 す で に 周 期 的 国 勢 調 査 を 始 め て い る の で 、 そ れ ら を 蕃 書 調 所 ひ い て は 開 成 所 在 職 時 代 杉 先 生 が 飜 訳 又 は 通 読 さ れ た 舶 来 紙 や 舶 来 書 に よ っ て 得 ら れ た 関 係 知 識 の ほ か 、 大 部 分 は 、 徳 川 時 代 吉 宗 将 軍 以 降 と く に 強 化 さ れ た 周 期 的 人 別 調 の 最 近 の 表 式 を 参 考 に さ れ た の で は な い か と 忠 。 註 ウ エ ス タ ー ゴ ー ド 氏 著 “ 統 計 学 ” （ 森 谷 喜 一 郎 葯 ） に よ る 。 一 嫁 取 い づ れ の 国 、 だ れ の 娘 か 、 養 女 か 、 何 歳 か 。 一 聟 取 い づ れ の 国 、 だ れ の 伜 か 、 養 子 か 、 何 歳 か 。 一 も ら ひ 子 い づ れ の 国 、 だ れ の 伜 か 、 娘 か 、 何 歳 か 。 一 出 産 男 か 女 か 、 ふ た 子 か 三 つ 子 か 、 男 女 い く 人 か 、 流 産 か 、 死 産 か 。 一 死 去 な に 病 に て 、 何 歳 で 死 去 か 、 男 か 、 女 か 。 一 り え ん 何 歳 で り え ん か 。 一 縁 ぐ み 何 歳 に て 縁 ぐ み か 、 二 度 の 縁 か 、 三 度 の 縁 か 、 い く 度 の 縁 か 。 一 や も を い づ れ の 国 か 、 何 渡 世 か 、 何 歳 に て や も を か 。 一 や も め い づ れ の 国 か 、 何 渡 世 か 、 何 歳 に て や も め か 。 一 み な し 子 何 歳 に て み な し 子 か 、 男 か 、 女 か 。 一 ひ と り も の い づ れ の 国 か 、 何 渡 世 か 、 何 歳 に て ひ と り も の か 、 男 か 女 か 。 一 田 畑 、 山 林 い づ れ の た れ へ ゆ づ り 渡 し 、 誰 よ り ゆ づ り 受 候 か 。 一 と せ い 替 何 渡 世 よ り 何 と せ い に か へ る か 。 一 家 持 な に と せ い の も の よ り 家 か ひ 受 け る か 、 何 と せ い を 始 め る か 。 一 借 家 な に と せ い の も の 住 居 か 、 何 と せ い を 始 め る か 。 一 出 か せ ぎ い づ れ の 国 か 、 何 と せ い か 、 男 か 女 か 、 何 歳 か 。 一 入 か せ ぎ い づ れ の 国 た れ か 、 何 と せ い か 、 男 か 女 か 、 何 歳 か 。 一 宗 旨 が へ 何 宗 旨 よ り 何 宗 旨 に 改 む る か 。 右 の ヶ 条 は 何 年 何 月 と し た た め 三 日 の 内 に と ど け 可 申 事 。 一 召 使 何 れ の 国 か 、 何 と せ い か 、 男 か 女 か 、 何 歳 か 、 何 宗 旨 か 、 但 し 子 供 を つ れ 候 は ば
3.
男 か 女 か 、 何 歳 か 。 右 召 使 い の 分 は 毎 年 十 一 月 朔 日 よ り 同 十 五 日 ま で に と ど け 可 申 事 。 右 者 御 領 内 人 民 の た め に 相 成 候 様 厚 く 御 世 話 被 成 度 御 趣 意 有 之 て の 事 に 候 間 能 々 会 得 い た し 箇 条 、 日 限 等 無 相 違 市 中 は 町 会 所 、 在 方 は 其 所 役 人 え 届 可 申 事 。 但 実 用 第 一 の 儀 に 付 と ど け 書 は な に 紙 に て も 不 苦 候 且 当 人 届 に 出 候 に も 及 ば す 人 頼 に て も 召 使 の 者 に て も 持 参 可 致 事 。 杉 先 生 は 次 掲 調 査 表 を 携 帯 し て 府 中 の 町 会 所 に 行 か れ 、 市 中 の 名 主 を 残 ら ず 呼 び 集 め て 、 こ う 説 諭 さ れ た 。 〃 こ ん ど 駿 遠 参 の 三 ケ 国 を 徳 川 家 へ 恩 賜 あ っ た 感 激 に 酬 い た め 、 君 公 が 治 民 の こ と で ト テ も 心 配 に な っ て お ら れ る 。 つ い て は 、 領 内 の 人 別 が ど の く ら い あ る か 、 そ の 内 男 は 何 人 、 女 は 何 人 、 婚 姻 は 何 組 、 離 縁 は 何 組 か 、 ま た 人 々 の 職 業 は 何 々 か 、 子 供 の 読 み 書 き 算 用 の で き る も の 何 人 ― と 言 う た こ と は 、 治 民 上 大 切 な こ と で あ る か ら 、 調 べ て お け と の 卸 命 令 だ 。 こ と に 近 来 の よ う な 凶 歳 の 時 な ど は 、 人 別 を 基 に し た 穀 物 の お 手 当 が あ る 筈 だ し 、 ま た 風 俗 の 善 悪 を 明 瞭 に す る の に 人 別 調 が 極 め て 必 要 な の だ 。 だ か ら 、 こ の 箇 条 に 依 て 、 先 ず 市 中 の 調 か ら 実 施 せ よ と の 卸 命 令 。 と こ ろ で 、 市 中 を 支 配 さ れ て お ら れ る 名 主 の 皆 は 、 こ う 言 っ た 調 が 、 正 確 に 滞 無 く 実 施 で き る と 思 わ れ る か ど う か " と 。 と こ ろ が 名 王 ら 一 同 は 異 口 同 音 に こ う 答 え て 賛 成 し た 。 〃 誠 に 御 尤 な 箇 条 で あ る 。 こ と に 近 来 は 、 婚 姻 等 の 事 に つ い て 、 伜 ・ 娘 等 が 我 儘 に な り 兎 角 親 共 も 困 っ て い る 際 で あ る か ら 、 一 々 婚 姻 な ど を 届 出 る よ う に な る と 、 大 い に 取 締 も で き て 、 至 極 結 構 な こ と と 思 う " と 。 杉 先 生 は 、 念 に は 念 を 入 れ る 点 か ら 、 〃 皆 さ ん の 承 知 を 得 た の は 、 ま こ と に う れ し い が 、 実 際 に 当 っ て 市 中 の 人 々 は 、 気 持 ち よ く 正 直 に 届 出 や 申 告 を し て く れ る だ ろ う か 、 一 つ 皆 さ ん か ら 、 相 談 し て い た だ き た い の だ が " と 依 頼 し た ・ そ れ か ら 両 三 日 を 経 て 、 名 主 ら が 杉 先 生 を 町 会 所 に 呼 び に 来 た 。 杉 先 生 が 行 っ て 見 る と 、 名 主 一 同 が 列 席 し て い て 言 っ た 。 " 先 日 の 人 別 調 の こ と を 、 市 中 の 人 々 に よ く 調 の 趣 旨 芳 法 な ど を 話 し た 上 で 相 談 し た と こ ろ 、 一 同 差 支 な い 、 届 出 や 申 告 致 す と の こ と で し た 〃 と 。
4.
( ハ ) 調 査 の 進 行 杉 先 生 は 名 主 の 報 告 を 聞 い て 欣 ば れ 、 そ れ な ら 先 ず 、 市 中 か ら 調 を は じ め よ う と 、 前 掲 の 家 別 表 を 人 々 に 配 市 し た 。 日 々 両 三 人 の ア シ ス タ ン ト を 召 連 れ て 調 を つ づ け た 。 刀 な ど を さ し て い る と 恐 れ を な し て 寄 り つ か な い の で 、 丸 腰 で 、 麦 飯 の 弁 当 を 提 げ て 歩 る い た 。 そ の 時 分 、 戸 籍 を 調 べ る こ と を 、 人 々 が 、 ど こ で も 大 喜 び だ っ た 。 そ の 理 由 は 、 他 所 か ら 入 っ 来 て 婿 養 子 な ど に な る と 、 送 状 と 言 う 物 を 向 う の 住 地 よ り 、 此 方 の 住 地 へ 送 る 。 そ の 上 で 土 地 の 人 別 に な る 。 そ れ で な い と 、 帳 外 れ 者 と い っ て 、 人 別 帳 に 入 ら な い 者 に な る 。 人 別 帳 に 入 ら な い と 、 町 村 の 寄 合 な ど へ 出 て 口 を 利 く こ と が で き な い 。 人 か ら 軽 蔑 さ れ て 大 変 に 恥 じ る 。 そ う い う 帳 外 れ 者 が 、 沢 山 い る こ と を 知 っ た 杉 先 生 は 、 す べ て 人 別 帳 に 入 れ て や っ た 。 そ う い う こ と も あ っ て 、 行 く 所 で 先 生 を 歓 迎 し て 、 御 馳 走 し た 。 先 生 は そ れ を 見 て 、 初 め の う ち は 断 る の に 閉 口 し て お ら れ た が 、 果 て は 腹 を 立 て て し ま わ れ た 。 〃 こ の 騒 が し い 世 の 中 に 、 む だ の 雑 費 を 使 っ て 、 そ う い う こ と を す る の は 、 一 切 止 め て 貰 い ま し ょ う 。 ー 私 は そ う 言 う 特 別 の お 世 話 に た ら な い よ う に 、 こ の 通 り 麥 飯 の 弁 当 を 持 参 し て い る か ら 、 お 茶 だ け 飲 ま し て 頂 き ま し ょ う " と ま で 厳 命 さ れ た 。 し か し 、 人 々 は 、 こ ん な こ と は 慣 習 だ か ら と 言 っ て 、 聞 か な い 。 杉 先 生 は 、 慣 習 で も 、 な ん で も 、 そ う い う こ と を さ れ る と 、 私 の 身 分 に か か わ る こ と に な る か ら 、 一 切 お 断 り す る と 悉 く 、 謝 絶 し た 。 出 し て も 一 物 も 食 べ ら れ な い 。 行 く 先 々 に 触 を 出 し て 茶 だ け は 貰 う 。 湯 で も 結 構 と い う こ と で 押 し 通 さ れ た の で あ っ た 。 ま ず 、 そ の 頃 九 十 六 町 を 有 っ て い た 府 中 ( 駿 府 ・ 静 岡 ) の 調 を 終 え 、 次 で 江 尻 の 調 に 掛 っ た 。 そ こ で 、 こ の 附 近 の 地 理 を 聞 い て 見 た と こ ろ 、 江 尻 は 庵 原 郡 で 、 清 水 港 の 方 は 宇 土 郡 で あ る 。 そ の 間 に 巴 川 と い う 川 が あ っ て 、 両 万 の 郡 の 界 を な し て い る 。 そ れ だ の に 、 清 水 港 か ら 三 保 の 松 原 ま で を 庵 原 郡 に 入 れ て あ る 。 杉 先 生 は 、 不 審 に 思 わ れ て 、 そ の 訳 を 戸 長 な ど に 聞 か れ た 。 そ れ は 、 昔 、 庵 原 郡 は 武 田 信 玄 の 領 地 で 三 保 の 松 原 で 採 塩 し た 。 八 十 何 箇 所 で 採 塩 し た 。 そ の 為 庵 原 郡 内 に 入 れ た も の で あ る と 言 い 伝 え て 来 て い る 。 し か し 、 地 理 上 か ら は 、 ど う し て も 、 三 保 の 松 原 は 宇 土 郡 に 属 す べ き も の だ 。 今 は 武 田 の 時 と 違 う 。 将 来 は 宇 土 郡 に 属 さ せ て 庵 原 郡 は 閃 係 し な い が よ い と 論 え ら れ た 。 戸 長 ら は 、 そ う な れ ば 大 変 原 郡 の 部 合 が よ く な る ん で す が 、 そ う し て も よ い で し ょ う か と 念 を 押 し た 。 そ こ で 杉 先 生 は 〃 よ ろ し い 、 拙 者 が 請 合 っ た 。 そ う い う 不 都 合 の 事 は 改 め な け れ ば い け な い " と 言 わ れ た の で あ っ た 。 そ の 後 沼 津 ・ 原 ・ 清 水 港 の 調 が で き 、 沼 津 ( 五 月 十 六 日 よ り 六 月 朔 日 ま ぜ 調 ) 原 ( 六 月 二 十 二 日 よ り 同 二 十 八 日 ま で 調 ) は 、 小 さ い 地 積 で も あ っ た 関 係 上 、 結 果 表 が 作 成 さ れ た 。 ( 註 ) 註 杉 先 生 の 講 演 集 の 附 録 参 照 。 か く て 、 杉 先 生 の 鉄 石 を も 熔 鑠 し 悉 く す 調 査 意 欲 は 、 日 を 逐 い 、 所 を 重 ね る に 従 っ て 、 そ の 成 果 を 拡 大 し て い っ た 。 し か し ・ そ の 間 、 思 い が け な く も 、 種 々 な 疑 惑 や 反 抗 や 圧 迫 が 相 次 い で 生 起 し て 来 た 。” 封 土 も 人 民 も 朝 廷 に 奉 還 し た 後 で 、 朝 廷 で 計 画 さ れ な い 調 を 、 徳 川 藩 で 実 施 す る こ と は 不 都 合 だ 。 誤 解 を 招 く 基 だ " と 言 う の だ 。 先 生 も こ れ ら の 没 暁 漢 の た め に 、 遂 に 遣 憾 の 涙 を 呑
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ん で 調 を 廃 絶 し て し ま わ れ た 。 と は 言 え 、 杉 先 生 の 当 時 の 体 験 は 、 超 え て 明 治 十 二 年 甲 斐 国 現 在 人 別 調 の 計 画 と 完 成 に 、 見 事 に 活 用 さ れ た の だ 。 （「 杉 亨 二 伝 」 加 地 成 雄 著 昭 和 35 年 10 月 1 日 発 行 ）
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