人と動物の関係学会 第22回学術大会
•Download as PPTX, PDF•
0 likes•842 views
人と動物の関係学会 第22回学術大会で行った口頭発表のスライドです。 大学4年生のときの作品です。
Recommended
Recommended
More Related Content
Featured
Featured (20)
人と動物の関係学会 第22回学術大会
- 3. 目的 自由で従順さが低いといった印象をもたれやすい気質的特徴、行動様式 ネコの自由気ままで 人に従わない性格 • 飼い主に強い愛着を示さない（Daniel, 2015） → これは幼児及びイヌと明確に異なっている • 飼い主の呼びかけに対して特別な反応は見せない（斎藤, 2013） → 飼い主の声を識別しているにも関わらず。
- 5. 方法 測定部位 1 3 2 5 8 4 7 6 9 10 11 14 13 12 16 15 灰色丸 ：照射プローブ 受光プローブ 数字 ：ch番号 近赤外線分光法（f-NIRS）による 前頭前野の酸素化ヘモグロビン濃度測定 右 左
- 6. 方法 実験概要 ・被験者：29名 （男：10人, 女：19人, 平均21.17± 0.65歳） ・NIRSをつけた状態で 地面に座った状態で行う 机 ネコ 人 3m 3m 机 ドア 仕切り
- 7. 方法 項目 内容 ブラッシング ブラシによるグルーミング 遊びA ネコじゃらしで遊ぶ 命令A 接触を伴わないコマンドを提示 給餌 トリーツを皿に載せ与える コミュニケーション項目と内容 実験 A 項目 内容 撫でる 素手でネコを撫でる 遊びB ボールで遊ぶ 命令B 接触を伴うコマンドを指示 給水 水皿をネコの前に置く 実験 B
- 8. 方法 実験の流れ 30秒 30秒 30秒 安静 （pre） コミュニケーション （task） 安静 （post） １ブロック 計測開始 計測終了
- 9. 方法 ～SAM（Self Assessment Manikin）による自己感情評価～ →感情価 →覚醒度 →支配性
- 10. 方法 項目 評価内容 ブラッシング ネコはブラッシングを許してくれたか 遊びA ネコは遊んでくれたか 命令A ネコは命令に従ってくれたか 給餌 ネコはエサを食べてくれたか ネコに対する主観的評価 実験 A 項目 評価内容 撫でる ネコはブラッシングを許してくれたか 遊びB ネコは遊んでくれたか 命令B ネコは命令に従ってくれたか 給水 ネコはエサを食べてくれたか 実験 B ※0～100%で評価
- 11. 方法 計測データの解析方法① 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 Oxy-Hb値 pre task post それぞれの加算平均を比較
- 13. 結果 Oxy-Hb経時的変化の比較～実験A～ -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 ブラッシング pre task post ＊＊＊＊ -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 遊びA ＊＊＊＊ -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 命令A pre task post ＊＊＊＊ -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 給餌 pre task post ＊＊＊＊ pre task post 単位：[mM･mm] Mean±SD **=p<0.01
- 14. 結果 Oxy-Hb経時的変化の比較～実験B～ -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 撫でる pre task post ＊＊ ＊＊ -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 遊びB pre task post ＊＊ ＊＊ -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 命令B pre task post ＊＊ ＊＊ -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 給水 pre task post ＊＊ ＊＊ 単位：[mM･mm] Mean±SD **=p<0.01
- 15. 方法 項目 相関係数(ｒ) P値 ブラッシング 0.44 ＊ 遊びA 0.72 ＊＊ 命令A 0.66 ＊＊ 「SAMの陽気度(感情価)」と「ネコに対する主観的な評価」の相関 実験 A 項目 相関係数(ｒ) P値 撫でる 0.63 ＊＊ 遊びB 0.47 ＊＊ 命令B 0.77 ＊＊ 給水 0.61 ＊＊ 実験 B *=p<0.05 **=p<0.01
- 16. 結果 ～各コミュニケーションの主観的評価の比較～ 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 成 功 率 平均値 ＊ ＊ ＊ ブラッシング 遊びA 命令A 給餌 撫でる 遊びB 命令B 給水 Mean±SD *=p<0.05
- 17. 結果 ～task時のoxy-Hb変化量の比較～ 0 5 10 15 20 25 30 35 40 Oxy-Hb 変 化 量 平均値 ＊ ＊ [mM･mm] ブラッシング 遊びA 命令A 給餌 撫でる 遊びB 命令B 給水 Mean±SD *=p<0.05
- 18. 結果 主観的評価の高・低による群間比較 「ネコが命令に従ってくれたか」の100％評価 「評価が低い群」 8.6±11.3% n=14 （比較的、ネコが命令に従ってくれなかった） 「評価が高い群」 77.5±18.3% n=14 （比較的、ネコが命令に従ってくれた） VS Mean±SD% 「命令B」
- 20. 結果 主観的評価の高・低による群間比較 1ch 3ch 6ch 評価の低い群 26.73±12.18 40.41±20.58 30.49±12.08 評価の高い群 18.35±16.79 24.69±17.65 17.74±10.91 P値 ＊＊ ＊ ＊＊ Mean±SD 「命令B」 *=p<0.05 **=p<0.01 Oxy-Hb変化量
- 21. 結果 主観的評価の高・低による群間比較 「ネコが撫でられるのを許してくれたか」の100％評価 「評価が低い群」 41.5±18.3％ n=13 （比較的、ネコが撫でられるのを許してくれなかった） 「評価が高い群」 89.5±8.1％ n=15 （比較的、ネコが撫でられるのを許してくれた） VS Mean±SD% 「撫でる」
- 23. 結果 主観的評価の高・低による群間比較 13ch 15ch 評価の低い群 12.68±8.98 14.91±9.35 評価の高い群 20.98±9.03 23.00±9.26 P値 ＊ ＊ Mean±SD 「撫でる」 *=p<0.05 **=p<0.01 Oxy-Hb変化量 ネコとの接触時間 19±5.9秒 25.9±2.5秒 ＊＊
- 28. 考察 1 3 2 5 8 4 7 6 9 10 11 14 13 12 16 15 右下前頭回 成功率が低い群で有意な賦活化部位 眼窩前頭皮質 「命令」 灰色丸 ：照射プローブ 受光プローブ 数字 ：ch番号
- 29. 考察 「右下前頭回」 非言語コミュニケーションと関連 共同注視 表情弁別 悲 or 喜 （湯浅，2009）（Tanabe，2012）
- 34. 考察 1 3 2 5 8 4 7 6 9 10 11 14 13 12 16 15 有意な賦活化部位 左下前頭回 および 左背外側前頭前野 「撫でる」 灰色丸 ：照射プローブ 受光プローブ 数字 ：ch番号
- 36. 考察 接触欲求や動機の一説 自分ではない他者の肌の方が柔らかくて滑らかであると錯覚する。 さらにその錯覚は、 毛の生えている部分を触った時に起こる。 （2015，Gentsch） 柔らかい 滑らか
- 38. ご静聴ありがとうございました。
Editor's Notes
- 人間は今日までに多種多様な動物と共生関係を築いてきました。その中でも特にイヌとネコは、現代において代表的なコンパニオンアニマルとされています。しかし、イヌとネコは、家畜化の経緯の違いやその種自体の特性の違いなどから、非常に異なった気質を持っていると考えられています。
- 近年の研究により、ネコは、イヌが飼い主に見せるような明確な愛着行動を見せることが少ないことや、飼い主の声を識別しているものの、他者の呼びかけに対する反応の仕方に違いを見せないことが明らかになっています。これらの研究から、ネコは人に対して従順でない自由気ままな気質を持っていることが分かります。一方で、ネコと人の相互関係やネコが人に与える影響に関する研究は少なく、不明瞭な点が多く見られます。
- そこで本研究は、このネコの気質から現れる性格や行動が及ぼしうる人への影響について、認知・情動・判断を含む様々な精神的機能に関連を持つ前頭前野の活動を測定することで明らかにすることを目的としました。
- 前頭前野の機能活動測定には光イメージング脳機能測定装置を用い、これを被験者の額部分に装着し、スライドに示した16chの各測定部位の酸素化ヘモグロビン濃度の変化を測定しました。
- 実験には、適切に飼育され、日常のトレーニングによっていくつかの行動指示をコマンドとして学習している8才のメスのラグドール種1頭を用いました。実験は29人の被験者に対して行い、座った状態でネコとコミュニケーションを取ってもらいました。 実験ではコミュニケーション項目を8つ設定しましたが、長時間の行動範囲の制限によるネコの負荷を考慮して、4項目ずつ実験Aと実験Bの2回に分けて、それぞれ別日に行いました。実験Aでは基本的にネコに対する直接的接触をしないコミュニケーション項目を多く設定し、「ネコをグルーミングする」、「ネコじゃらしで遊ばせる」、「直接的接触がないコマンドを指示する」、「皿の上に1粒ずつエサを置く」の4項目を行いました。また実験Bでは、直接的にネコの接触刺激を受ける項目を多く設定し、「素手で撫でる」、「小さいボールで遊ばせる」、「直接的接触があるコマンドを指示する」、「水皿をネコの前に置く」の4項目を行いました。
- 実験はコミュニケーション項目を8つ設定しましたが、長時間の行動範囲の制限によるネコの負荷を考慮して、4項目ずつ実験Aと実験Bの2回に分けて、それぞれ別日に行いました。実験Aでは基本的にネコに対する直接的接触をしないコミュニケーション項目を多く設定し、「ネコをグルーミングする」、「ネコじゃらしで遊ばせる」、「直接的接触がないコマンドを指示する」、「皿の上に1粒ずつエサを置く」の4項目を行いました。また実験Bでは、直接的にネコの接触刺激を受ける項目を多く設定し、「素手で撫でる」、「小さいボールで遊ばせる」、「直接的接触があるコマンドを指示する」、「水皿をネコの前に置く」の4項目を行いました。
- コミュニケーション時間として、30秒のtask時間を設け、その前後に安静時間として30秒のpreおよびpost時間を設け、合計90秒間で1ブロックとしました。
- 各ブロック終了後に被験者には、まずSAMと呼ばれる自己の感情を評価するアンケートに回答してもらいました。SAMは三つのカテゴリーに分かれており、それぞれ感情価・覚醒度・支配性の度合いとして9段階で評価してもらいました。
- さらに、ネコとのコミュニケーションが成功したかどうかを主観的に0～100のパーセンテージで評価してもらい、これをネコとのコミュニケーションの成功率としました。
- 続いて、解析方法ですが、全被験者のOxy-Hb データをコミュニケーション毎に加算平均し、pre・task・postごとに比較をしました。
- また、Oxy-Hbデータを積分値化することで、Oxy-Hb変化量を算出しました。
- 結果です。8つ全てのコミュニケーション項目で、task時に有意な上昇がみられました。スライドは実験Aの比較結果です。
- こちらが実験Bの比較結果です。
- また、「給餌」項目を除く7つの項目で、「SAMの感情価」の回答結果と「ネコとのコミュニケーションが成功したかどうか」の回答結果に有意な正の相関関係が見られました。
- 次に、各コミュニケーションの成功率を比較したところ、「命令」項目は実験AもBも低い成功率を示しました。
- 一方、積分値から算出したoxy-Hb変化量を各項目で比較したところ、先ほど成功率の低かった「命令」項目はAもBも高い賦活化を示しました。
- 続いて、命令B項目において、ネコとのコミュニケーションの成功率の中央値を境に、成功率が低い、すなわち命令にあまり従っていなかった群と成功率が高い、すなわちネコが命令に従ってくれた群の二つに分けて、血流を比較しました。
- まず、NIRSで得られたデータを元に、二つの群のoxy-Hb濃度の経時的変化を動画で表しました。濃い赤色であるほど、大きく賦活化していることになります。時間の都合上、taskの開始から20秒間の経時的変化を流しておりますが、スライドを見てわかるように、評価の低い群の方が、広い範囲で大きな賦活化を示しています。
- さらに、それぞれのch毎にoxy-Hb変化量を比較したところ、評価の低い群の方が、特に1,3,6chで有意に高いことが示されました。
- 次に、先ほどの命令項目と同じように、撫でる項目も二つの群に分けて比較しました。
- 同じように、二つの群のoxy-Hb濃度の経時的変化です。濃い赤色であればあるほど、高い賦活化を示していることになります。今度は、先ほどの命令項目とは反対に評価の高い群、すなわちネコが撫でられるのを許してくれたなと評価している群の方が、広い範囲で大きな賦活化を示していることが分かります。
- さらに、評価の高い群の方が、特に13,15chで有意にoxy-Hb変化量が高いことが示され、また、ネコに触れている時間が有意に長いことも示されました。
- 考察です。結果から、ネコとのコミュニケーションは、どのような種類の形式であっても、また、コミュニケーションが成功したと判断したか否かに関わらず、前頭前野の上昇を示すことが分かりました。
- さらに、SAMの感情価は快情動の指標と考えられていることから、コミュニケーションが成功するほど人は快情動を抱くことも明らかになりました。これらのことから、ネコとのコミュニケーションは人の精神機能に影響を与えることが明確に示されました。
- コミュニケーションとは、単方向ではなく、双方向的なものであると考えられます。また、ペットとの関係性は人同士の関係性と類似しているとも考えられており、ネコと人の関係性においても、ネコからのフィードバックがコミュニケーションの成功率と非常に関係してくると考えられます。
- 「命令」項目においては、実験AもBも低い成功率を示しました。これは、ネコからの明確なフィードバックがなければコミュニケーションの成功を人が感じにくいため、ネコのような人の命令にあまり従わない気質が強く表れる命令項目において、成功率が低くなったのだと考えられる。しかし、その一方で前頭前野には広い範囲で賦活化が見られました。
- さらに、評価の低い群では、特に、右下前頭回や眼窩前頭皮質の領域で賦活化がみられました。
- まず、右下前頭回は、非言語コミュニケーションとの関連が示唆されており、他者の視線の誘導や追尾を行う共同注視や、他者の表情を推測する表情弁別実験などを行うことで賦活化することも分かっています。
- つまりこのことから、人はネコを従わせるためにはどうするべきかを思考し、ネコの感情や動きや視線を観察した結果、右下前頭回に有意な賦活が見られたと推測できます。
- また、眼窩前頭皮質は、報酬系との関与が示唆されており、与えられた刺激が報酬としての価値を持つ場合に活動すると考えられています。
- このことから、コマンドが失敗することで、それが次のコマンドの成功報酬の期待値を高めたことで、6chが賦活化したのではないかと考えられます。以上の事から、ネコの人に従わない行動特性が、人の前頭前野の広範囲の賦活化、及び特異的な部位の賦活化を与えることが分かりました。
- 続いて、撫でる項目に関する考察です。撫でる項目では、コミュニケーション成功率の高い群が前頭前野の広い範囲で賦活化を示しましたが、この結果は過去のいくつかの研究結果からも明らかとなっています。
- さらに、評価の高い群では、13，15chが測定領域であると考えられている左下前頭回および左背外側前頭前野の付近で有意な賦活化が見られました。
- これらの領域は、反応抑制、ワーキングメモリ等、非常に多様な機能との関連が示唆されています。
- 一方で、人は、自分の肌よりも他人の肌の方が柔らかく滑らかであると錯覚することが明らかになっており、さらにその錯覚は、毛の生えていない部分を触った時よりも、毛の生えている部分を触った時に表れることが分かっています。つまり、本研究の結果は、人が動物に触れたいと思う接触欲求と左下前頭回および左背外側前頭前野との関連を示唆し、さらにネコの「毛」という接触因子が、人の動物への接触欲求刺激として重要であることが推測できます。
- 結論です。本研究は、ネコとの様々な相互関係において、ネコの気ままな性格や行動特性、さらにはネコとの接触による刺激が、人の前頭前野に大きな影響を与えることが明らかとなりました。この本研究の結果は、人とネコとの関係において、今まで不明瞭であったネコの人への精神的影響の要因とそのメカニズムを説明しうる一助になると考えられます。