優良病・医院経営を目指して 事務部長による経営課題解決編 ~初期臨床研修で地域医療を学んでもらう~ 特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長 藤井将志 医師の初期臨床研修制度を実施している医療機関は、指導医が何人もいて全国でもそれなりに名がしれている医療機関と思われるでしょう。確かに、初期臨床研修プログラムの基幹病院については、そのような医療機関である必要があります。もちろん、それなりに小規模な病院でも基幹病院になることはできますが、定数を常に埋めるためには教育の質はもとより、広報活動なども含めてかなりの努力が必要となります。こうしたことから、初期臨床研修は全国の大半の医療機関には関わりがないこと、となってしまいがちです。 筆者の所属する、人口1万人の田舎町にある99床のケアミックス病院でも、これまではそう考えていました。しかし、こうした地域密着型の医療機関だからこそ学べる地域医療があると感じることが多々あります。初期臨床研修の基幹型病院の多くは、救急を中心にたくさんの症例数があり、その症例を診ることにより診断能力を向上させていくことが基本にあります。「臨床」を学ぶためには、やはり症例をもち実践することが重要であり、地域の基幹となる救急病院が旗振り役となることは望ましいことだと思います。しかし、そこだけで完結してしまうと、救急医療だけしかしらない臨床医ばかりが生まれてしまうことになります。つまり、地域医療を教わる機会がないまま、医師となっていきます。 実際の医療としては、救急病院で提供している医療は全体のごく僅かで、その他はポストアキュートから慢性期医療、終末期医療のボリュームがかなり大きくなります。そこを知らず、救急医療こそが医療なのだと思ってしまう、もしくは頭では急性期後の医療が分かっていても、実感値で知らないまま育ってしまうと、やはり救急医療に偏った人材になってしまいがちです。日本の医療界に漂う「なんとなく、急性期医療のほうが“上位”、“偉そう”」という雰囲気はそうした仕組みの結果ではないかなと思います。 医学的には基礎疾患+認知症、慢性的な生活習慣病、終末期医療など、地域医療でないと学びにくいことがあります。事務的な視点でいうと、介護療養と医療療養の違い、回復期リハと地域包括ケアの違い、通所リハや通所介護の役割、特養と老健の違い、サ高住と在宅の違い、などを知っている初期臨床研修終了後の医師がどのくらいいるのか、と思います。こうしたことを知っているからといって、急性期での医療の質がどのくらい上がるかは不明ですが、ポストアキュートの機能を知ったうえで急性期医療を提供することで、その後の患者さんのQOLは間違いなく高まるはずです。まさに、こうしたことを学んでもらう場として、初期臨床研修の時期に当院のような地域密着型の医療機関にも来てもらいたいと思っています。 実際には、協力型の臨床研修病院となることで、1ヶ月くらい研修医を受け入れることもできるのですが、その要件も指導医要件があったりハードルは低くありません。そこで、まず当院がチャレンジしてみたのが基幹病院の協力医療機関となり、1週間程度受け入れる医療機関となることです。これは明確な要件はなく、基幹型病院で認めてもらえることと、基幹型病院が厚生局への届け出変更を行うだけで済みます。研修プログラムのスケジュールもあるので、年中いつでもという訳にはいかないかもしれませんが、比較的容易に話を進めることができます。もちろん、届け出しただけで研修医が来るわけではなく、たとえ来たとしても、その間にしっかりと教育をしないと、先述の課題は解決しません。来年度からどうなるか、乞うご期待です。