SlideShare a Scribd company logo
1 of 45
ローマと道に関する
いくつかの問題とその解決
「すべての道はローマに通ず」は何
        を意味するのか?
本発表が提起する問題
「すべての道はローマに通ず」
   「すべての道はローマに通ず」ならば、他の都市
    にもすべての道が通じる
       ローマの栄光の崩壊
   ローマの栄光を護るため、ローマの特権性を護
    持できる解釈が必要である
本発表が提供する解決
   いくつかの解決案を提案し、実際に評価を行なう
       対称性の緩和による解決: 一方通行路の導入
       推移性の緩和による解決: ローマの分割
   シミュレーションによる評価
   本発表は「ローマの分割」をより優れた解決案と
    して評価する
ローマ帝国
                   五賢帝時代のローマ
   紀元前509年: 共和制
    ローマの誕生
   5世紀: 西ローマ帝国の
    滅亡
   全盛期の支配面積:500
    万平方km
   人口: 8800万人
ローマの街道
            B.C.3世紀からA.D.5世
             紀に建造された
            幹線だけで8万km
            支線を含めれば15万km
ローマの街道
ローマの街道
ローマの街道
「すべての道はローマに通ず」
   ローマ帝国の全盛時には、世界各地からの道が
    ローマに通じていたということ。物事が中心に向
    かって集中すること、手段は違ってもめざす目標
    は同じであること、あらゆる物事は一つの真理に
    発していることなどのたとえとする。
   http://thu.sakura.ne.jp/others/proverb/data/su.
    htm
ここまでのまとめ
   ローマ帝国はとても大きな帝国
   広い道が縦横無尽に走っていた
   全長は8万km(地球2周分)
問題提起

 すべての道がローマ
 に通じている状態
すべての道がローマに
通じている状態
すべての道がローマに
通じている状態

             すべての都市がすべて
              の都市に通じている
すべての道がローマに
通じている状態




  すべての都市がすべての
    都市に通じている
ローマ帝国の崩壊
   ことわざを文字通りに受け取れば、ローマは特別な都市
    ではない?
   より厳密な証明と、解決が期待される
証明
 任意の都市からローマへ道が通じるならば, その他のす
  べての都市もローマ型(すべての都市から道が通じる都
  市)となる.
[証明]
 任意の都市をaと置く.
       任意の都市bが都市aに通じていることを示す.
       (1)仮定よりbからローマに道が通じる.
       (2)仮定よりaからローマに道が通じる.
       (3) (2)の道を利用すれば、ローマからaにも移動できるはずで
        ある.
       (4)ゆえにb→ローマ→aという経路が存在する.
必要な仮定
    x から y へ道が通じる.




        すべての都市からローマに道が通じる.




        対称性: 道は一方通行ではない.




        推移性: 道から道へ移動できる.
証明の再確認
   [証明]
   任意の都市をaと置く.
       任意の都市bが都市aに通じていることを示す.
       (1)仮定よりbからローマに道が通じる.
                               対称性の利用
       (2)仮定よりaからローマに道が通じる.
       (3) (2)の道を利用すれば、ローマからaにも移動でき
        るはずである.
       (4)ゆえにb→ローマ→aという経路が存在する.
                      推移性の利用
2つの解決策
   対称性の緩和
       一方通行路をおく
   推移性の緩和
       途中に壁をつくる
解決案1: 一方通行路の導入
   ときどき一方通行を入れ
    てみる.

      赤がローマ型都市
100回分の結果
                                   一方通行の導入
20の都市に対し、0
から5本の道をラン
ダムに生成した. た            25
だし道は1/2の確率
                      20
             ローマ型都市


で一方通行路とな
る.                    15

                      10

                      5

               0
   ほぼすべての試行で
                 1         10 19   28 37 46 55   64 73   82 91 100
   ローマ型都市の数が
    20/20となった.                            試行
シミュレーションのまとめ
   以下の試行を100回繰り    試行回数         100
    返した
                    生成した都市の数     20
   20の都市に対し、0から5
    本の道をランダムに生成     ローマ型都市の平均    19.66
    した。ただし道は1/2の確   ローマ型都市が1つの場合 1
    率で一方通行路となる      (ローマのみ)
   ローマ型都市の増加を食
    い止められない
ローマ型都市の増加を
食い止めるには




ローマ型都市が1つ
に抑えられたケース
ローマ型の都市の増加を
食い止めるには

        ローマには入る
        道しかない




   ローマに入る道をすべて一方通行路にすればよい
       ローマ以外の都市には、ローマから道が通じない
問題点
   ローマから出られない。
   とても不便である。
   遠征に出かけられないた
    め、大帝国を築けない。
   写真や図を見るかぎり
    ローマの道は一方通行で
    はないように見える。
解決案2: ローマの分割
   ローマ市内に壁をもうけ、分断する
   a都市からローマに行っても、ローマにつながるす
    べての道に到達できるわけではない
100回分の結果

20の都市に対し、0本か                 ローマの分断
ら5本の道をランダムに
生成した. ただしローマ            25
は5つに分割された状態
とする.                    20
               ローマ型都市
                        15

                        10
   100回の内12回             5
   はローマ型都市
    が1つとなった.             0
                                試行
シミュレーションのまとめ
   以下の試行を100回繰り    試行回数         100
    返した             生成した都市の数     20
   20の都市に対し、0から5                17.33
                    ローマ型都市の平均
    本の道をランダムに生成
                    ローマ型都市が1つの場合 12
    した。ただしローマは5つ
                    (ローマのみ)
    に分割された状態とする
   ローマ分割の方が効果
    が高い
安価な解決策
   ローマ分割法の場合、特殊な
    都市を1つ置くことによって、
    確実にローマ型都市の数を1
    つに抑えることができる
   特殊都市はローマに通ず。た
    だし特殊都市から入ったロー
    マは壁に分断されており、そ
    こから他のどの場所にも行け
    ない
   特殊都市から道が通じるのは
    ローマだけ!
全体のまとめ
   「すべての道はローマに通ず」が成り立つ場合、
    ごく普通の道を想定すると、すべての道がすべ
    ての都市に通じてしまう
   ローマの特権性を護る解釈としては
       (1)一方通行路が存在する
       (2)ローマが壁で分割されている
   という2種類が考えられる
全体のまとめ
   一方通行路を想定した場合、ローマ型都市の増
    加を抑えることは難しい
       ローマに向う道がすべて一方通行であるなどという常
        識では考えられない事態を想定しなければならない
   ローマが壁に分断されているとした場合、ただ1
    つの都市を犠牲にすることによって、ローマの特
    権性を護ることができる
   結論: 「すべての道はローマに通ず」が成り立っ
    ていた時代、ローマは壁で分割されていた
おまけ画像集
第一回ナンセンスプレゼンテーションの会:ローマと道に関するいくつかの問題とその解決
第一回ナンセンスプレゼンテーションの会:ローマと道に関するいくつかの問題とその解決
第一回ナンセンスプレゼンテーションの会:ローマと道に関するいくつかの問題とその解決

More Related Content

What's hot

Upstream and downstream in Requirement Development
Upstream and downstream in Requirement DevelopmentUpstream and downstream in Requirement Development
Upstream and downstream in Requirement DevelopmentKent Ishizawa
 
Socila Media2009 4 15
Socila Media2009 4 15Socila Media2009 4 15
Socila Media2009 4 15Yuki Fujino
 
【12-E-2】 SEC流品質作りこみESQR 組込みソフトウェア開発向け品質作り込みガイドの紹介
【12-E-2】 SEC流品質作りこみESQR 組込みソフトウェア開発向け品質作り込みガイドの紹介【12-E-2】 SEC流品質作りこみESQR 組込みソフトウェア開発向け品質作り込みガイドの紹介
【12-E-2】 SEC流品質作りこみESQR 組込みソフトウェア開発向け品質作り込みガイドの紹介devsumi2009
 
Newb CMS eco Business Solution
Newb CMS eco Business SolutionNewb CMS eco Business Solution
Newb CMS eco Business SolutionKanji Syuto
 
アジャツール!オブラブ夏イベント号外発行!!
アジャツール!オブラブ夏イベント号外発行!!アジャツール!オブラブ夏イベント号外発行!!
アジャツール!オブラブ夏イベント号外発行!!Takeshi Kakeda
 
Jp En101 Language Learning (in Japanese)
Jp En101 Language Learning (in Japanese)Jp En101 Language Learning (in Japanese)
Jp En101 Language Learning (in Japanese)Robert Zhuang
 

What's hot (7)

Upstream and downstream in Requirement Development
Upstream and downstream in Requirement DevelopmentUpstream and downstream in Requirement Development
Upstream and downstream in Requirement Development
 
Socila Media2009 4 15
Socila Media2009 4 15Socila Media2009 4 15
Socila Media2009 4 15
 
4 15 Guidance
4 15 Guidance4 15 Guidance
4 15 Guidance
 
【12-E-2】 SEC流品質作りこみESQR 組込みソフトウェア開発向け品質作り込みガイドの紹介
【12-E-2】 SEC流品質作りこみESQR 組込みソフトウェア開発向け品質作り込みガイドの紹介【12-E-2】 SEC流品質作りこみESQR 組込みソフトウェア開発向け品質作り込みガイドの紹介
【12-E-2】 SEC流品質作りこみESQR 組込みソフトウェア開発向け品質作り込みガイドの紹介
 
Newb CMS eco Business Solution
Newb CMS eco Business SolutionNewb CMS eco Business Solution
Newb CMS eco Business Solution
 
アジャツール!オブラブ夏イベント号外発行!!
アジャツール!オブラブ夏イベント号外発行!!アジャツール!オブラブ夏イベント号外発行!!
アジャツール!オブラブ夏イベント号外発行!!
 
Jp En101 Language Learning (in Japanese)
Jp En101 Language Learning (in Japanese)Jp En101 Language Learning (in Japanese)
Jp En101 Language Learning (in Japanese)
 

第一回ナンセンスプレゼンテーションの会:ローマと道に関するいくつかの問題とその解決

  • 2. 本発表が提起する問題 「すべての道はローマに通ず」  「すべての道はローマに通ず」ならば、他の都市 にもすべての道が通じる  ローマの栄光の崩壊  ローマの栄光を護るため、ローマの特権性を護 持できる解釈が必要である
  • 3. 本発表が提供する解決  いくつかの解決案を提案し、実際に評価を行なう  対称性の緩和による解決: 一方通行路の導入  推移性の緩和による解決: ローマの分割  シミュレーションによる評価  本発表は「ローマの分割」をより優れた解決案と して評価する
  • 4. ローマ帝国 五賢帝時代のローマ  紀元前509年: 共和制 ローマの誕生  5世紀: 西ローマ帝国の 滅亡  全盛期の支配面積:500 万平方km  人口: 8800万人
  • 5. ローマの街道  B.C.3世紀からA.D.5世 紀に建造された  幹線だけで8万km  支線を含めれば15万km
  • 9. 「すべての道はローマに通ず」  ローマ帝国の全盛時には、世界各地からの道が ローマに通じていたということ。物事が中心に向 かって集中すること、手段は違ってもめざす目標 は同じであること、あらゆる物事は一つの真理に 発していることなどのたとえとする。  http://thu.sakura.ne.jp/others/proverb/data/su. htm
  • 10. ここまでのまとめ  ローマ帝国はとても大きな帝国  広い道が縦横無尽に走っていた  全長は8万km(地球2周分)
  • 13. すべての道がローマに 通じている状態 すべての都市がすべて の都市に通じている
  • 15. ローマ帝国の崩壊  ことわざを文字通りに受け取れば、ローマは特別な都市 ではない?  より厳密な証明と、解決が期待される
  • 16. 証明  任意の都市からローマへ道が通じるならば, その他のす べての都市もローマ型(すべての都市から道が通じる都 市)となる. [証明]  任意の都市をaと置く.  任意の都市bが都市aに通じていることを示す.  (1)仮定よりbからローマに道が通じる.  (2)仮定よりaからローマに道が通じる.  (3) (2)の道を利用すれば、ローマからaにも移動できるはずで ある.  (4)ゆえにb→ローマ→aという経路が存在する.
  • 17. 必要な仮定 x から y へ道が通じる. すべての都市からローマに道が通じる. 対称性: 道は一方通行ではない. 推移性: 道から道へ移動できる.
  • 18. 証明の再確認  [証明]  任意の都市をaと置く.  任意の都市bが都市aに通じていることを示す.  (1)仮定よりbからローマに道が通じる. 対称性の利用  (2)仮定よりaからローマに道が通じる.  (3) (2)の道を利用すれば、ローマからaにも移動でき るはずである.  (4)ゆえにb→ローマ→aという経路が存在する. 推移性の利用
  • 19. 2つの解決策  対称性の緩和  一方通行路をおく  推移性の緩和  途中に壁をつくる
  • 20. 解決案1: 一方通行路の導入  ときどき一方通行を入れ てみる. 赤がローマ型都市
  • 21.
  • 22.
  • 23.
  • 24. 100回分の結果 一方通行の導入 20の都市に対し、0 から5本の道をラン ダムに生成した. た 25 だし道は1/2の確率 20 ローマ型都市 で一方通行路とな る. 15 10 5 0 ほぼすべての試行で 1 10 19 28 37 46 55 64 73 82 91 100 ローマ型都市の数が 20/20となった. 試行
  • 25. シミュレーションのまとめ  以下の試行を100回繰り 試行回数 100 返した 生成した都市の数 20  20の都市に対し、0から5 本の道をランダムに生成 ローマ型都市の平均 19.66 した。ただし道は1/2の確 ローマ型都市が1つの場合 1 率で一方通行路となる (ローマのみ)  ローマ型都市の増加を食 い止められない
  • 27. ローマ型の都市の増加を 食い止めるには ローマには入る 道しかない  ローマに入る道をすべて一方通行路にすればよい  ローマ以外の都市には、ローマから道が通じない
  • 28. 問題点  ローマから出られない。  とても不便である。  遠征に出かけられないた め、大帝国を築けない。  写真や図を見るかぎり ローマの道は一方通行で はないように見える。
  • 29. 解決案2: ローマの分割  ローマ市内に壁をもうけ、分断する  a都市からローマに行っても、ローマにつながるす べての道に到達できるわけではない
  • 30.
  • 31.
  • 32.
  • 33. 100回分の結果 20の都市に対し、0本か ローマの分断 ら5本の道をランダムに 生成した. ただしローマ 25 は5つに分割された状態 とする. 20 ローマ型都市 15 10 100回の内12回 5 はローマ型都市 が1つとなった. 0 試行
  • 34. シミュレーションのまとめ  以下の試行を100回繰り 試行回数 100 返した 生成した都市の数 20  20の都市に対し、0から5 17.33 ローマ型都市の平均 本の道をランダムに生成 ローマ型都市が1つの場合 12 した。ただしローマは5つ (ローマのみ) に分割された状態とする  ローマ分割の方が効果 が高い
  • 35.
  • 36.
  • 37. 安価な解決策  ローマ分割法の場合、特殊な 都市を1つ置くことによって、 確実にローマ型都市の数を1 つに抑えることができる  特殊都市はローマに通ず。た だし特殊都市から入ったロー マは壁に分断されており、そ こから他のどの場所にも行け ない  特殊都市から道が通じるのは ローマだけ!
  • 38.
  • 39.
  • 40. 全体のまとめ  「すべての道はローマに通ず」が成り立つ場合、 ごく普通の道を想定すると、すべての道がすべ ての都市に通じてしまう  ローマの特権性を護る解釈としては  (1)一方通行路が存在する  (2)ローマが壁で分割されている  という2種類が考えられる
  • 41. 全体のまとめ  一方通行路を想定した場合、ローマ型都市の増 加を抑えることは難しい  ローマに向う道がすべて一方通行であるなどという常 識では考えられない事態を想定しなければならない  ローマが壁に分断されているとした場合、ただ1 つの都市を犠牲にすることによって、ローマの特 権性を護ることができる  結論: 「すべての道はローマに通ず」が成り立っ ていた時代、ローマは壁で分割されていた