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日本のジオパークでは
何を評価してきたのか,
今後何を評価していくのか
日本ジオサービス(株)
目代邦康
STATUTES OF THE INTERNATIONAL GEOSCIENCE
AND GEOPARKS PROGRAMME
国際地質科学ジオパーク計画定款
IGGPにおけるユネスコ世界ジオパークは、国際的な価値のある地
質遺産を有する地域が、ボトムアップ形式の遺産の保全を通じ
て、その遺産への意識向上のために地域社会と連動してお互いを
支援し、その地域の発展に持続可能な方法を採用する、国際協力
の仕組みである。
UNESCO Global Geoparks, within the IGGP, are the mechanism of international
cooperation by which areas of geological heritage of international value, through
a bottom-up approach to conserving that heritage, support each other to engage
with local communities to promote awareness of that heritage and adopt a
sustainable approach to the development of the area.
ユネスコ世界ジオパーク作業指針
● ユネスコ世界ジオパークは、国際的な地質学的
重要性を有するサイトや景観が、保護・教育・
持続可能な開発が一体となった概念によって管
理された、単一の、統合された地理的領域であ
る。
ユネスコ世界ジオパーク作業指針
● ユネスコ世界ジオパークは、国際的な地質学的
重要性を有するサイトや景観が、保護・教育・
持続可能な開発が一体となった概念によって管
理された、単一の、統合された地理的領域であ
る。
生物圏保存地域審査基準
日本ユネスコ国内委員会自然科学小委員会
人間と生物圏(MAB)計画分科会決定
1.生物圏保存地域の目的
生物多様性の保全、経済と社会の発展及び学術的支援の3つ
の機能をもち、自然環境の保全と人間の営みが持続的に共存
している地域を指定することにより、地域の取組と科学的な
知見に基づく人間と自然との共生に関するモデルを提示す
る。
「地域」と「科学」の関係
● 「地域の取組」と「科学的な知見」が並列
● 「主体」としての地域コミュニティーとサポートする研究
者コミュニティー
● 【UGGpガイドライン】ユネスコ世界ジオパークは、科学
と地域社会が相互に利益をもたらす方法で連携
ジオパークにおける地域
● 矯正されるべき存在としての地域
– 「新規認定審査で見送りになってよかったです!」
● 指導される地域
– (日本ジオパーク委員会に対して)震災遺構保全と
ジオガイド養成のシステム・標準化について支援を
お願いしたい(三陸Gp)
科学による価値付け
● 研究者は科学的価値を示すことができる
● (ある程度)共有される価値:科学的な評価の
プロセスを経たもの.
● 保全されるもの=価値のあるもの
● 研究者は,これしか示せない.
生物圏保存地域審査基準
2.審査基準
次の審査基準の全てを満たしていること。
(1)生物圏保存地域候補地の機能
次の3つの機能をもつこと。
① 人間の干渉を含む生物地理学的区域を代表する生態系を含み、生物多
様性の保全上重要な地域であること
② 自然環境の保全と調和した持続可能な発展の国内外のモデルとなりう
る取組が行われていること
③ 持続可能な発展のための調査や研究、教育・研修の場を提供している
こと
Site based conservation
● 世界遺産,ラムサール条約,Man and
Biosphere,ジオパーク・・
● 自然保護問題解決のアプローチの一つ
● 優秀な事例を作り出す.
日本ジオパークにおける
地質遺産の保全問題
● 2015年に保全WGがアンケート調査
地質・地形の保護についての顕在性
/潜在性
←秋吉台黄金柱
↑銚子の海岸の風景
Gray (2008): 保全の必要性
● Value(価値) + Threat(脅威)
= Conservation Need
(保全の必要性)
審査機関の役割
● 地質遺産の価値の評価
● 地質遺産の脅威の評価
● 「保全」と「教育」,
「持続可能な開発」とを
一体化させる活動
地質遺産の保全に関する議論
持続可能な開発の実践に基づく
議論
地球科学に関する科学的知見
基盤となる科学
研究者コミュニティーの責任
● 地球科学についての研究の蓄積・・・・◯
● 地質遺産の脅威の評価    ・・・・✕
● 保全,教育,持続可能な開発に
関する議論         ・・・・✕
研究者コミュニティーの責任
● 地球科学についての研究の蓄積・・・・◯
● 地質遺産の脅威の評価    ・・・・✕
● 保全,教育,持続可能な開発に
関する議論         ・・・・✕
トランスサイエンス 小林傳司(2007)
日本における審査内容の変化
● 日本ジオパーク委員会議事録(第1回〜第32
回)の内容を検討
– Yamada and Sugimoto(2017)によるテキストマ
イニングによる申請書の分析(量的分析)
– 今回は,質的分析.
Yamada and Sugimoto, 2017
初期は、見た目のジオパークらしさを意識。
最近は、持続可能性を意識。
審査基準に関する議論
2008年5月 第1回
日本ジオパークに関しては、日本独自の認定基準を設けることも可能であるし、将来はそうすべき。
日本独自のジオパークについては、認定方針を確認しておく必要がある。すなわち、どのくらいの数を集めるのか、質を優先するか
数を優先するかなど、委員の共通理解が必要。あまり数が少ないと、事業として盛り上がらないとは予想されるが、「日本でのジオ
に対する意識を高めたい」というのが理念であるならば、質を妥協すべきではない。「世界ジオパークを目指す資質がある」という
のはひとつの目安か。
2008年9月 第2回
基準については、将来は GGN にも修正・変更を求めることも検討する。
2008年10月 第3回
認定基準についてはGGNに準じることとし、小規模なもの、発展途上なものも認めたい.価値あるジオサイトがあること、ジオパー
ク活用のための実現可能な計画があることなどが重視する。
2009年7月 第5回
科学的知識を次の世代に伝える能力をもった土地であるかどうか。
2010年03月 第7回
GGN 審査ではサイエンスはもちろんだが,管理運営がかなり重視された。全体の採点のバランスは体制に重みを置く方がよく,そ
れを審査するシステムが必要。GGN の基準に日本ジオパークが全て合わせるのはむしろよくない。GGN には出さ
ないが日本ジオパークには認定する場合は,日本独自の基準でいい。
審査基準に関する議論
2010年9月 第9回
世界と日本の評価点を比べると、日本は期待値を含み、世界は実績である。日本の場合は、確度が高ければ計画性も評価するが、確
実性を慎重に見る。
2011年3月 第10回
外部審査委員の制度を設け、現地審査に協力してもらう。
「1.ジオサイトと保全」のところに「恵と災い」という語を入れ、「2.教育研究活動」に「防災教育」を、また、「3.管理組織、運
営体制」にも「防災」GGN と JGN との関係は、どちらかがどちらかを含むものではないし、審査のクオリティも大きく異な
る。全く別物として扱ったほうがよい。
2011年5月 第11回
基本は日本のジオパークを健全に育てること。世界については、JGC が認めたものは必ず通るようなレベルを保ちたい。しかし、委
員会の基本は盛り立てることで、アドバイスもする。
2011年9月 第12回
(室戸の世界審査について)ジオパークというブランドを傷つけないか、ユネスコの名を汚さないかを一番気にしている。
2012年第14回
審査にあたって、良いジオパークを育てるといった観点で審査する
審査基準に関する議論
2012年9月 第15回
採点表の点数の集計のみで決めるのでなく、ここでの議論の結果に基づき決定すること、これまで同様各地域の改善すべき課題をま
とめて「宿題」を課すことを確認。
今までは、学術的な審査はしてもらえていたが、活動・運営の審査が不十分という印象がある。
2013年5月 第17回
日本のジオパークの場合は、現在できていなくても今後実現する方向が示されていれば良く、世界ジオパークの場合は、出来上がっ
ている必要があると区別。
今後の計画・進み方の方向を決める際のガイドライン的なもの。採点項目を満たす方向に計画が立っていない場合はまずい。
現地審査について JGN からの審査員を迎え入れる
2013年9月 第18回
JGC として狭いエリアを認めるのか本来議論が必要。
過去は採点の点数をある程度重視していて、初めの2年には不認定があった。一昨年くらいから、委員会から明確な要望を出して認
定する例が多くなった。せっかく採点表があるので、点数を活かして可否を明確にしてはどうか?委員による採点表(4 点満点)に
ついて、議論を踏まえて各委員が点数を見直し。以降、採点表の平均点をもって議論
審査基準に関する議論
(2013年10月 隠岐全国大会)
JGN:審査のやり方について、報告書の書き方/認定時の宿題(指摘事項)が各地でどう受け取られどう活用されているか/JGN の
サポートとフォローをどうするか?/ジオサイトの価値とは何かの議論 等が,検討課題としてあがる
2013年12月 第19回
・審査のやり方について、これまで試行錯誤でやってきた。報告を早めに出すためにもわかりやすく書き方を整理した方がよい。
(2014年4月 現地審査員研究会)
・現在の審査でもっとも重視されている点(運営体制,地域の協力体制)が,明示されていない.
 新規申請地域に対するサポートでコミュニケーション不足を解消するようにする
2014年4月 第20回
採点シートの上位概念として、「ジオパークを目指す地域は、持続可能な社会実現のために、ジオパークとして
その地域にあったやり方で、住民、行政、研究者などの関係者が、ともに考え続けているか、また、その
ためにこれまでのやり方を変える覚悟がある。」という前文を提案。
(2015年4月 事務局 産総研→JGN)
(2015年11月 世界ジオパークのユネスコ事業化) 
審査基準に関する議論
2015年12月 第25回
ジオサイトという考え方について。ジオポイント、ジオエリアについて包含するような部分が JGC にあり、使用している地域がある
のはあまりよくないと個人的には考える。
2016年4月 第26回
日本ユネスコ国内委員会があり、世界ジオパークの審査に関してはそういう位置付けをされたジオパークの審査をするという大前提.
多様性も尊重しないと。個性のないジオパークができても仕方ない。現地審査にあたっては、共通認識はあってよいが、それを超え
る個性の強い地域がでてくるはずだから臨機応変にするという意識も大事。
日本から世界に向けて価値あるジオパークを出していく際に、単に数だけだせばよいというわけではない。
(新規加盟審査手順文書)
審査基準に関する議論
2017年5月 第30回
昨年の 1 月に日本ユネスコ国内委員会よりナショナルコミッティーとしてJGCが機関認証されたことをうけ、ユネスコのガイドライ
ンにあるナショナルコミッティーの構成要員に沿うことが推奨されている。現委員は来年の 3 月に任期が終了するので、その機会に
現委員構成を見直す必要があれば、考えていく.
2017年9月 第31回
自己評価表の試行
2017年12月 第 32 回
(新しい審査体制についての議論)
審査体制の変化の歴史
● 2008〜2013(スタートアップ期)
– 新規認定,世界審査,再認定,イエローカードなどその都
度,制度を考えていく.GGNとの距離感のゆらぎ
● 2013〜2015(カンブリア爆発期)
– JGC+JGN現地審査員
– 何を審査するのか?ジオパークで何を目指すのか?
● 2015〜
– ジオパークブランドを強く意識.
– 国際的な文脈の中での活動の位置付け.
審査体制の改善の背景
● 関係者を増加させながら,議論の多様化させ
る.
– 客観的な視点.
– 多様な専門家の視点.
– 当事者を増やす(各地での専門家の雇用:学術的な
トレーニングを受け,かつジオパークがわかる人
材)
● 今後,如何に新しい視点を取り込んでいくの
か?
日本のジオパークの審査における「保全」の議論
● 日本では,地質や地形の管理(保護・保全)に関しての研
究の蓄積がほとんどない.
● そうした中で,地質遺産の保全を通じて行なわれるプログ
ラム実施地域の認定審査が行なわれてきた.
● 地質や地形の管理(保護・保全)の議論の上に,ジオパー
クとしての,保全と,教育,持続可能な開発と一体化させ
る議論が必要である.
審査制度を今後発展させていくために
● 「地域の取組」と「科学的な知見」が並列な関係にしてい
く.
● 科学者コミュニティーでは,保全地球科学の研究の確立と
進展,さらにジオパークにおける教育,持続可能な開発と
一体的に進ませる方法論についての研究をすすめる.
– 科学的背景に基づいた審査
● 当事者による審査制度の確立.

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