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中小企業海外進出支援
国際税務の基礎(初歩・初級編)
平成27年6月
李総合会計事務所
公認会計士 税理士 李 顕史
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昨今、中堅中小企業の海外進出が活発になり、
海外企業の取引の増加、海外拠点の設立も珍しいものではなくなっています。
さらには、海外展開後に事業の見直しを行い撤退を検討する企業もでてきています。
人、モノ、金が動くと税金の問題も生じるため、国を跨いだ取引については、
日本と相手国で課税の問題が生じるかどうか確認する必要があります。
そこで、主に法人にかかわる国際税務の基礎知識として知っておくべき税制と、
間違えやすいポイントを解説し、中堅中小企業が適切な税務申告・税務プランニングを
行うための知識を習得することを目的とします。
Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 1
Contents
国際税務と租税条約1
海外進出・展開・撤退2
海外進出形態の違い3
個人所得税における国際税務4
外国税額控除5
外国子会社合算税制(タックスヘイブン税制)6
外国子会社配当益金不算入制度7
移転価格税制8
Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 2
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1 国際税務と租税条約
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「国際税務」という言葉について、特に明確な定義はありませんが、
2国間以上の税務問題を扱う分野が「国際税務」といわれており、
自国の税法及び相手国の税法、租税条約等を勘案して、
国際間の税務問題に対処することになります。
4
1. 国際税務と租税条約
国際税務とは1
なお、国際税務を考える上で、
以下のような税制を理解しておくことが重要です。
 国内法と租税条約
 外国税額控除
 外国子会社配当益金不算入
 外国子会社合算税制
 移転価格税制
 その他、過少資本税制、過大支払利子税制など
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1. 国際税務と租税条約
租税条約2
「租税条約」とは、二重課税の調整、脱税および租税回避への
対応等を通じ、2国間の健全な投資・経済交流の促進を図る目的で、
2国間で締結される文書による合意をいう。
居住者の範囲や所得の源泉地をはじめ、源泉税の制限税率や課税権の範囲、
情報交換など、2国間の租税に関する基本的な取り決めが明らかにされている。
制限税率の適用等、一定の届け出が必要となる場合があるので注意が必要。
租税条約の規定は国内法に優先して適用される。
海外との取引で税務上の取扱いが問題となる場合には、まず国内法での
取り扱いを確認し、その後、租税条約での取り扱いを確認することになる。
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2 海外進出・展開・撤退
6
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2. 海外進出・展開・撤退の流れ
全体像の把握と段階別の税務上の留意点1
段階 概要 概要
1 海外進出  現地に駐在員事務所を設置して情報収集
 必要に応じて支店形態へ
 最終的に現地法人設立
(現地法人を買収を含む)
 現地の法定税率、優遇税制の把握
 現地の課税ベースの確認
(全世界所得 or 国内源泉所得)
 PE課税、個人所得税の把握
2
海
外
展
開
事
業
活
動
 現地法人事業開始、利益創出・留保
 数年間は損失の場合もある
 移転価格税制の制度と執行状況の把握
 外国子会社合算税制の観点からの非課税所得
3
利
益
還
流
 現地法人が獲得し留保した利益を、
配当等で日本親会社に還流させる
 現地と日本における租税条約の確認
(配当、利子等の源泉税率)
 外国子会社配当益金不算入制度
 現地の過少資本税制
4 事
業
再
編
 複数の海外子会社を有するようになると、
合併・分割等の組織再編の検討
 中間持株会社の設立の検討
 現地の組織再再編税制の把握
5 撤退  現地法人の精算、売却の検討  現地の精算に関する税制と法務面の把握
 現地法人株式売却時の現地での譲渡益課税
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3 海外進出形態の違い
8
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■一般的には恒久的施設には該当しないと考えられる。
9
3. 海外進出形態の違い
駐在員事務所1
■営業活動等行っていると判断された場合にはPE認定されて現地で課税が生
じる場合がある。
■業務範囲は、情報収集に限定することが重要。
■駐在員に対する個人所得税が課税される。
■駐在員給与の手取保証や住宅費の検討。
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■基本的に現地で法人税が課税される。
10
3. 海外進出形態の違い
支店形態2
■海外支店の所得には日本の法人税も課税される。
■現地で納付した法人税は、外国税額控除の適用で二重課税を調整するが、
日本の高税率で課税されるため日本と同等レベルでの税務コストを想定する
必要がある。
■駐在員に対する個人所得税は課税される。
■駐在員給与の手取保証や住宅費の検討。
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■現地で法人税が課税される(日本での課税は原則なし)。
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3. 海外進出形態の違い
子会社形態3
■新設の場合は出資額が子会社株式の取得価額となる。
■会社を買収する場合にも、購入付随費用の取扱いについては、上記設立関
連費用と同様。ただし、株主変更により、それまで受けていた優遇税制が受
けられないケースもある。
■駐在員給与の手取保証や住宅費の検討。
■駐在員給与の現地法人と日本親会社での負担の問題。
■駐在員に対する個人所得税は課税される。
■設立関連費用の取扱いに注意が必要(現地法人が負担すべき費用を日本親
会社が負担した場合には、国外関連者寄附金として全額損金不算入の可能性
あり)。
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4 個人所得税における国際税務
12
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■原則
給与所得者は、原則として、役務提供地で所得税が課税される。
13
4. 個人所得税における国際税務
長期出張における183日ルール1
■短期滞在者免税(租税条約)
①相手国での滞在日数が183日を超えない
②給与等が相手国の恒久的施設で支払われないこと
③給与等が相手国の恒久的施設に負担されないこと
■注意点
どの期間に対して183日以内であれば短期滞在となるか。
①暦年で
②継続する1年のうち
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■現地に長期出張をしている場合で、現地滞在日数が183日を超えること等に
より、現地で所得税が課税されるケースがある。
14
4. 個人所得税における国際税務
所得税の外国税額控除2
■現地の所得税額を日本親会社が負担した場合には、長期出張者への給与扱
いとなる。
■日本でも居住者である場合には、日本と海外で所得税が二重課税となる。
■二重課税の場合には、所得税の確定申告において外国税額控除の適用によ
り二重課税を調整する。
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5 外国税額控除
15
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■居住者・内国法人は全世界所得ベースで課税されるため、海外で獲得した
所得に対して現地で課税される部分は二重課税が発生する。
16
5. 外国税額控除
制度の概要1
■例えば、海外支店の所得や海外現地法人から受け取る利子や使用料につい
ては、原則として、海外で課税され、かつ、日本でも課税対象となる。
■外国税額控除制度は、このような国際的な二重課税を排除するため、外国
で納付した外国税額を、一定の範囲内で、日本で納付する税額から控除する
ことを認める制度。
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■外国税額控除の対象となる外国税額は、国外で納付した全ての税が対象と
なるわけではない。「所得を課税標準として課される税」が対象となる。
―例えば、日本の法人税や源泉所得税に相当する税が対象となる。
―日本の消費税のような付加価値税については、外国税額控除の対象から除
かれる。そのため、例えば、中国から使用料を受け取る際に、営業税と企業
所得税が徴収される場合には、企業所得税は外国税額控除の対象となるが、
営業税は外国税額控除の対象とならず、損金算入することになる。
17
5. 外国税額控除
控除の対象となる外国法人税2
■また、外国で課された附帯税等や、税務当局との合意により任意で税率が
決められる税、納付後任意に還付を請求できる税などは、外国税額控除の対
象から除かれる。
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■海外で課税された外国税額が無制限に控除することが可能なわけではなく、
一定の限度が設けられている。
18
5. 外国税額控除
控除限度額3
■控除限度額の計算方法
✔(国別限度額方式)
✔(所得項目別限度額方式)
✔(一括限度額方式)=日本の外国税額控除制度
■概念的には、以下の算式の通り、全世界所得のうちに国外所得の占める割
合に相当する税額が控除限度額となる。
国外所得
控除限度額=法人税額×
全世界所得
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3年間の繰越
19
5. 外国税額控除
控除限度額3
■その事業年度の外国税額が、控除限度額を超える場合には、その超える部
分の外国税額は、翌事業年度以降3年間繰越すことができる(繰越控除限度超
過額)。
■一方、その事業年度の外国税額が、控除限度額に満たない場合には、その
満たない部分の金額を、翌事業年度以降3年間繰越すことができる(繰越控除
余裕額)。
■ただし、欠損となった場合等で外国税額控除制度を適用しないこととなっ
た場合には、繰越控除限度額や繰越控除余裕額は切り捨てられる。
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■二重課税の調整のために外国税額控除を選択することが一般的だが、外国
税額控除を選択せず、損金算入を選択した方が有利なケースもある(例えば、
欠損の事業年度が継続して控除限度額が発生しないようなケース)。
20
5. 外国税額控除
外国税額控除と損金算入4
■その事業年度の外国税額の一部を外国税額控除、残りを損金算入を選択す
るといったことは認められておらず、その全ての外国税額についてどちらか
に統一する必要がある。
■過年度から繰り越してきた控除限度超過額や控除余裕額がある場合におい
て、損金算入を選択すると、その繰り越してきた控除限度超過額や控除余裕
額が切り捨てとなり、翌事業年度に繰越すことが認められない。
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■みなし外国税額控除(タックススペアリングクレジット)とは、開発途上
国等において外国企業誘致の一環として租税優遇措置を設けて租税の減免を
行っている場合において、その政策的配慮から、その減免された租税につい
ても、これを納付したものとみなして、外国税額控除を適用する制度をいい
ます。
21
5. 外国税額控除
みなし外国税額控除5
■例えば、日中租税条約において、使用料所得については、みなし税率を適
用することができることとされている。
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■連結納税制度を採用している場合の外国税額控除は、連結納税グループ全
体で計算することとされている。
22
5. 外国税額控除
連結納税の場合6
■そのため、グループ企業が連結納税制度を採用していない場合において、
単体申告において控除対象外国法人税額が控除限度額を超過している状況と
なっている場合には、連結ベースでの控除限度額を試算し、メリットがある
かどうか検討する価値はある。
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6 外国子会社合算税制
23
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■外国子会社合算税制とは、
✔原則として、内国法人や日本居住者が発行済株式等の「50%超」を保有す
る外国関係会社で、
✔我が国の法人税負担に比して著しく低い税負担の国又は地域(いわゆるトリ
ガー税率「20%以下」の軽課税国)に本店又は主たる事務所を有する法人
(特定外国子会社等)の所得を、
✔その特定外国子会社等の発行済株式等の「10%以上」を直接・間接に保有
する内国法人等の所得に合算して課税するという制度である。
24
6. 外国子会社合算税制
制度の概要1
■ただし、特定外国子会社等が独立事業としての実体を備え、かつ、その本
店所在地国において事業活動を行うことについて十分な経済的合理性がある
等、一定の条件(適用除外基準)のすべてを満たす事業年度については、合
算課税は行わないこととなっている。
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6. 外国子会社合算税制
制度の概要1
外国法人、外国関係会社、特定外国子会社等のイメージ
外国関係会社
外国法人
特定外国子会社等
内国法人以外の法人
発行済株式等(自己株式を除く)の
50%超が、居住者及び内国法人
並びに特殊関係非居住者により、
直接・間接保有されている
外国法人
所得に対する税負担がゼロで
あるいは20%以下である国等に
所在する外国関係会社
Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 26
6. 外国子会社合算税制
外国関係会社2
外国関係会社の判定
外国関係会社
居住者
非居住者 外国法人
内国法人
役員等
(特殊関係非居住者※) 居住者
直接及び間接保有割合50%超
※特殊関係非居住者とは、次の者をいう。
① 居住者の親族
② 居住者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
③ 居住者の使用人
④ 上記①~③以外の者で居住者から受ける金銭その他の資産によって生計を維持しているもの
⑤ 上記②~④の者と生計を一にするこれらの者の親族
⑥ 内国法人の役員及びその役員に係る特殊関係使用人
日本
海外
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6. 外国子会社合算税制
適用対象となる内国法人3
間接保有の場合
外国法人B社
他の株主
内国法人
P社
内国法人
S1社
内国法人
S2社
外国法人
A社
合算対象 合算対象
対象外
他の株主
日本
海外
(軽課税国)
同族株主グループ
100%100%
50% 50%
5% 15% 80%
(50%×15%=7.5%)
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6. 外国子会社合算税制
租税負担割合4
タックスヘイブン対策租税負担割合の計算式
本店所在地国で
納付する外国法人税 (※1)
所在地国の法令により外国子会社に課された税額のうちに
特定外国子会社等が納付したとみなされる金額 (※2)
本店所在地国の
法令に基づく
所得の金額
本店所在地国の
法令で非課税と
される所得 (※3)
損金算入
支払配当
損金算入
外国法人税
還付外国法人税で
益金算入している
もの (※4)
+
+ + + -
≦20% (※5)
※1 非課税配当に係る外国法人税は除外される。ただし、日本の源泉所得税のようなものは含まれる。
※2 その税率が所得の金額に応じて複数ある場合には、最高税率により計算することができる。
ただし、法人の所得の区分によって税率が異なる場合には、この適用はなく、最高税率による計算は
できない(措通66の6-7)
※3 ただし、当該子会社の所在地国内あるいは国外法人からの非課税受取配当は除かれる。
※4 分母の金額が欠損である場合には、その主たる事業に係る収入金額から所得が生じたものとした
場合に適用される法人税率により判定する。
※5 毎事業年度で判定する。
Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 29
6. 外国子会社合算税制
租税負担割合4
租税負担割合の具体例
仮に、以下の前提のもと、租税負担割合を計算した場合には、以下の通りとなる。
外国関係会社の本店所在地国の法令に基づく所得の金額= 400
現地での法人税率= 30%
現地で納付する法人税= 120(損金算入)
現地での非課税所得= 200
支払配当= 80
前提
120
+400 120200 80+ +
=15%≦20%
この場合、現地での法人税率が30%であるにも関わらず、
タックスヘイブン対策税制における租税負担割合の計算では、15%となるため、
この具体例では、当該外国関係会社の所在地国は軽課税国であると判定される。
Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved.
■外国子会社等が、以下のすべての条件(適用除外基準)を満たす場合には、
会社単位での合算課税の対象とならない。
―事業基準(主たる事業が株式の保有等、一定の事業でないこと)
―実体基準(本店所在地国に主たる事業に必要な事務所等を有すること)
―管理支配基準(本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら
行っていること)
―次のいずれかの基準
(1)所在地国基準(主として本店所在地国で主たる事業を行っていること)
※主たる事業が下記以外の業種の場合に適用
(2)非関連者基準(非関連者との取引割合が50%超であること)
※主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送
業の場合に適用
30
6. 外国子会社合算税制
適用除外基準5
■また、一定の税負担の水準(20%)以下の外国子会社等が得る資産運用的
な所得については、適用除外基準を満たす場合でも、内国法人等の所得とみ
なし、それを合算して課税(資産性所得の合算課税)。
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統括会社
■適用除外における事業基準の判定上、統括業務を主たる事業とする場合のその株式の
保有を主たる事業とする場合は、事業基準の適用をしない。
■統括業務とは、他の外国法人の事業活動の総合的な管理及び調整を通じてその収益性
の向上に資する業務をいう。
31
6. 外国子会社合算税制
適用除外基準5
統括会社要件
■「親会社出資比率要件」
その特定外国子会社等の発行済株式等を100%(親会社が直接、間接に保有している
その特定外国子会社等の持株割合の合計額が100%)であること。
■「孫会社持株要件」
その特定外国子会社等が保有する被統括会社の株式等の帳簿価額の合計額がその統括
会社の株式等の帳簿価額の50%超であること。
■「非統括会社複数管理要件」
その特定外国子会社等は2以上の被統括会社に対して統括業務を行う。
■「所在地国・管理支配基準の適用」
被統括会社要件
■ 統括会社によって、その海外孫会社の発行する株式等の25%以上を保有されている
こと、かつ、本店所在地国にその事業を営む従業者の所在。
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7 外国子会社配当益金不算入
32
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■内国法人が、一定の要件を満たす外国子会社等から受取る配当金について
は、その内国法人の課税所得の計算上、その配当等の額の95%相当額を益金
不算入とする制度。
33
7. 外国子会社配当益金不算入
制度の概要1
■本制度の適用対象となる外国子会社等とは、内国法人が外国法人の発行済
株式等の25%以上を、配当等の支払義務が確定する日以前6か月以上引き続き、
直接に保有している場合の当該外国法人。
■外国子会社配当益金不算入の対象となる配当に係る源泉税は、損金不算入。
外国税額控除の適用なし。
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■我が国が締結している租税条約において、「二重課税排除条項」により前
述の持株割合として25%未満の割合が定められている場合(アメリカ、オー
ストラリア、ブラジル、フランス、オランダなど)には、外国子会社配当益
金不算入制度の対象となる外国子会社の判定上、25%以上という持株割合に
変えて、租税条約で定められている割合により判定される。
34
7. 外国子会社配当益金不算入
租税条約との関係2
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■連結納税制度を採用している場合における外国子会社配当益金不算入制度
の適用上、外国子会社の判定における持株割合については、連結納税グルー
プ全体での持株割合で判定することとされている。
35
7. 外国子会社配当益金不算入
連結納税との関係3
■なお、連結納税グループの場合であっても、前述の租税条約に定める持株
割合の適用がある場合には、租税条約で定める持株割合ではなく、連結納税
グループ全体で25%以上保有していることが要件となるため、注意が必要で
ある。
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7. 外国子会社配当益金不算入
連結納税との関係3
ケース1 連結納税を採用していない場合 ケース2 連結納税を採用している場合
内国法人
P社
内国法人
S1社
内国法人
S2社
内国法人
S3社
適用なし 適用なし 適用なし
グループ全体 : 27%
オランダ法人A社
100%100%100%
9%9%9%
内国法人
P社
連結法人
S1社
連結法人
S2社
連結法人
S3社
適用あり
グループ全体 : 27%(≧25%)
オランダ法人A社
100%100%100%
9%9%9%
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8 移転価格税制
37
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■日本の法人が、国外関連企業との間で取引を行う場合において、その取引
価格を通常の取引価格(第3者との取引価格)とは異なる額に設定することに
より、一方の利益を他方に移転することが可能となる。
38
8. 移転価格税制
制度の概要1
■移転価格税制とは、日本の法人による国外関連企業との間の取引を通じた
所得の海外移転を防止する制度。
■日本の法人と国外関連者間の取引の対価の額が、通常の取引価格と異なる
ことにより、日本の法人の所得金額が過少となっている場合に、その取引を
通常の取引価格(独立企業間価格)で行ったものとして、その法人の所得金
額を計算し課税する制度。
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■国外関連取引とは、法人が、その国外関連者との間で行う棚卸資産等の資
産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引をいう。
39
8. 移転価格税制
国外関連取引2
■国外関連者…外国法人で、法人との間に、持株関係、実質的支配関係又は
それらが連鎖する関係の「特殊の関係」のあるものをいう。
✔持株関係とは、(1)いわゆる「親子関係」として、二の法人のいずれか一方が他方
の法人の発行済株式等の50%以上の株式等を直接又は間接に保有する関係をいい、ま
た(2)いわゆる「兄弟関係」として、二の法人が同一の者によってそれぞれその発
行済株式等の50%以上の株式等を直接又は間接に保有される関係をいいます。
✔実質的支配関係とは、例えば、他方の法人の役員の2分の1以上又は代表権を有する
社員が、一方の法人の役員若しくは使用人を兼務している等の事実により、二の法人
のいずれか一方の法人が他方の法人の事業の方針の全部又は一部につき実質的に決定
できる関係をいいます。
✔持株関係と実質的支配関係とが連鎖する関係とは、法人と外国法人との間が、持株関
係又は実質的支配関係の一方又は双方で連鎖している関係をいいます。
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■独立価格比準法
40
8. 移転価格税制
独立企業間価格3
■再販売価格基準法
■原価基準法
■取引単位営業利益法
■利益分割法
✔比較利益分割法
✔寄与度利益分割法
✔残余利益分割法
✔ (平成25年度税制改正)ベリー比基準(営業費用売上総利益率=売上総
利益/販売費及び一般管理費)が導入
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■相互協議…二重課税の排除を含め、租税条約の規定に適合しない課税を回
避するため、我が国の税務当局が租税条約に基づき、相手国の税務当局と行
う協議をいう。
41
8. 移転価格税制
相互協議等4
■APA(事前確認)…国外関連取引について税務当局に事前に確認してお
くこと。
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■海外進出を検討する際に、事業上や法務上の検討の他に、税務の面でも事
前に検討する項目も多い。
42
おわりに
■海外進出後であっても、日本のみならず海外でも税制改正が頻繁に行われ
るため、定期的な税務のアップデートは必要。
【問い合わせ先】
李総合会計事務所
162-0814
東京都新宿区新小川町1-14飯田橋リープレックスビズ2階
info@lee-kaikei.jp
公認会計士 税理士 李 顕史
Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved.

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国際税務解説 初級編

  • 2. 昨今、中堅中小企業の海外進出が活発になり、 海外企業の取引の増加、海外拠点の設立も珍しいものではなくなっています。 さらには、海外展開後に事業の見直しを行い撤退を検討する企業もでてきています。 人、モノ、金が動くと税金の問題も生じるため、国を跨いだ取引については、 日本と相手国で課税の問題が生じるかどうか確認する必要があります。 そこで、主に法人にかかわる国際税務の基礎知識として知っておくべき税制と、 間違えやすいポイントを解説し、中堅中小企業が適切な税務申告・税務プランニングを 行うための知識を習得することを目的とします。 Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 1
  • 4. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 3 1 国際税務と租税条約
  • 5. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 「国際税務」という言葉について、特に明確な定義はありませんが、 2国間以上の税務問題を扱う分野が「国際税務」といわれており、 自国の税法及び相手国の税法、租税条約等を勘案して、 国際間の税務問題に対処することになります。 4 1. 国際税務と租税条約 国際税務とは1 なお、国際税務を考える上で、 以下のような税制を理解しておくことが重要です。  国内法と租税条約  外国税額控除  外国子会社配当益金不算入  外国子会社合算税制  移転価格税制  その他、過少資本税制、過大支払利子税制など
  • 6. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 5 1. 国際税務と租税条約 租税条約2 「租税条約」とは、二重課税の調整、脱税および租税回避への 対応等を通じ、2国間の健全な投資・経済交流の促進を図る目的で、 2国間で締結される文書による合意をいう。 居住者の範囲や所得の源泉地をはじめ、源泉税の制限税率や課税権の範囲、 情報交換など、2国間の租税に関する基本的な取り決めが明らかにされている。 制限税率の適用等、一定の届け出が必要となる場合があるので注意が必要。 租税条約の規定は国内法に優先して適用される。 海外との取引で税務上の取扱いが問題となる場合には、まず国内法での 取り扱いを確認し、その後、租税条約での取り扱いを確認することになる。
  • 7. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 2 海外進出・展開・撤退 6
  • 8. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 7 2. 海外進出・展開・撤退の流れ 全体像の把握と段階別の税務上の留意点1 段階 概要 概要 1 海外進出  現地に駐在員事務所を設置して情報収集  必要に応じて支店形態へ  最終的に現地法人設立 (現地法人を買収を含む)  現地の法定税率、優遇税制の把握  現地の課税ベースの確認 (全世界所得 or 国内源泉所得)  PE課税、個人所得税の把握 2 海 外 展 開 事 業 活 動  現地法人事業開始、利益創出・留保  数年間は損失の場合もある  移転価格税制の制度と執行状況の把握  外国子会社合算税制の観点からの非課税所得 3 利 益 還 流  現地法人が獲得し留保した利益を、 配当等で日本親会社に還流させる  現地と日本における租税条約の確認 (配当、利子等の源泉税率)  外国子会社配当益金不算入制度  現地の過少資本税制 4 事 業 再 編  複数の海外子会社を有するようになると、 合併・分割等の組織再編の検討  中間持株会社の設立の検討  現地の組織再再編税制の把握 5 撤退  現地法人の精算、売却の検討  現地の精算に関する税制と法務面の把握  現地法人株式売却時の現地での譲渡益課税
  • 9. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 3 海外進出形態の違い 8
  • 10. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■一般的には恒久的施設には該当しないと考えられる。 9 3. 海外進出形態の違い 駐在員事務所1 ■営業活動等行っていると判断された場合にはPE認定されて現地で課税が生 じる場合がある。 ■業務範囲は、情報収集に限定することが重要。 ■駐在員に対する個人所得税が課税される。 ■駐在員給与の手取保証や住宅費の検討。
  • 11. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■基本的に現地で法人税が課税される。 10 3. 海外進出形態の違い 支店形態2 ■海外支店の所得には日本の法人税も課税される。 ■現地で納付した法人税は、外国税額控除の適用で二重課税を調整するが、 日本の高税率で課税されるため日本と同等レベルでの税務コストを想定する 必要がある。 ■駐在員に対する個人所得税は課税される。 ■駐在員給与の手取保証や住宅費の検討。
  • 12. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■現地で法人税が課税される(日本での課税は原則なし)。 11 3. 海外進出形態の違い 子会社形態3 ■新設の場合は出資額が子会社株式の取得価額となる。 ■会社を買収する場合にも、購入付随費用の取扱いについては、上記設立関 連費用と同様。ただし、株主変更により、それまで受けていた優遇税制が受 けられないケースもある。 ■駐在員給与の手取保証や住宅費の検討。 ■駐在員給与の現地法人と日本親会社での負担の問題。 ■駐在員に対する個人所得税は課税される。 ■設立関連費用の取扱いに注意が必要(現地法人が負担すべき費用を日本親 会社が負担した場合には、国外関連者寄附金として全額損金不算入の可能性 あり)。
  • 13. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 4 個人所得税における国際税務 12
  • 14. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■原則 給与所得者は、原則として、役務提供地で所得税が課税される。 13 4. 個人所得税における国際税務 長期出張における183日ルール1 ■短期滞在者免税(租税条約) ①相手国での滞在日数が183日を超えない ②給与等が相手国の恒久的施設で支払われないこと ③給与等が相手国の恒久的施設に負担されないこと ■注意点 どの期間に対して183日以内であれば短期滞在となるか。 ①暦年で ②継続する1年のうち
  • 15. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■現地に長期出張をしている場合で、現地滞在日数が183日を超えること等に より、現地で所得税が課税されるケースがある。 14 4. 個人所得税における国際税務 所得税の外国税額控除2 ■現地の所得税額を日本親会社が負担した場合には、長期出張者への給与扱 いとなる。 ■日本でも居住者である場合には、日本と海外で所得税が二重課税となる。 ■二重課税の場合には、所得税の確定申告において外国税額控除の適用によ り二重課税を調整する。
  • 16. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 5 外国税額控除 15
  • 17. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■居住者・内国法人は全世界所得ベースで課税されるため、海外で獲得した 所得に対して現地で課税される部分は二重課税が発生する。 16 5. 外国税額控除 制度の概要1 ■例えば、海外支店の所得や海外現地法人から受け取る利子や使用料につい ては、原則として、海外で課税され、かつ、日本でも課税対象となる。 ■外国税額控除制度は、このような国際的な二重課税を排除するため、外国 で納付した外国税額を、一定の範囲内で、日本で納付する税額から控除する ことを認める制度。
  • 18. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■外国税額控除の対象となる外国税額は、国外で納付した全ての税が対象と なるわけではない。「所得を課税標準として課される税」が対象となる。 ―例えば、日本の法人税や源泉所得税に相当する税が対象となる。 ―日本の消費税のような付加価値税については、外国税額控除の対象から除 かれる。そのため、例えば、中国から使用料を受け取る際に、営業税と企業 所得税が徴収される場合には、企業所得税は外国税額控除の対象となるが、 営業税は外国税額控除の対象とならず、損金算入することになる。 17 5. 外国税額控除 控除の対象となる外国法人税2 ■また、外国で課された附帯税等や、税務当局との合意により任意で税率が 決められる税、納付後任意に還付を請求できる税などは、外国税額控除の対 象から除かれる。
  • 19. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■海外で課税された外国税額が無制限に控除することが可能なわけではなく、 一定の限度が設けられている。 18 5. 外国税額控除 控除限度額3 ■控除限度額の計算方法 ✔(国別限度額方式) ✔(所得項目別限度額方式) ✔(一括限度額方式)=日本の外国税額控除制度 ■概念的には、以下の算式の通り、全世界所得のうちに国外所得の占める割 合に相当する税額が控除限度額となる。 国外所得 控除限度額=法人税額× 全世界所得
  • 20. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 3年間の繰越 19 5. 外国税額控除 控除限度額3 ■その事業年度の外国税額が、控除限度額を超える場合には、その超える部 分の外国税額は、翌事業年度以降3年間繰越すことができる(繰越控除限度超 過額)。 ■一方、その事業年度の外国税額が、控除限度額に満たない場合には、その 満たない部分の金額を、翌事業年度以降3年間繰越すことができる(繰越控除 余裕額)。 ■ただし、欠損となった場合等で外国税額控除制度を適用しないこととなっ た場合には、繰越控除限度額や繰越控除余裕額は切り捨てられる。
  • 21. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■二重課税の調整のために外国税額控除を選択することが一般的だが、外国 税額控除を選択せず、損金算入を選択した方が有利なケースもある(例えば、 欠損の事業年度が継続して控除限度額が発生しないようなケース)。 20 5. 外国税額控除 外国税額控除と損金算入4 ■その事業年度の外国税額の一部を外国税額控除、残りを損金算入を選択す るといったことは認められておらず、その全ての外国税額についてどちらか に統一する必要がある。 ■過年度から繰り越してきた控除限度超過額や控除余裕額がある場合におい て、損金算入を選択すると、その繰り越してきた控除限度超過額や控除余裕 額が切り捨てとなり、翌事業年度に繰越すことが認められない。
  • 22. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■みなし外国税額控除(タックススペアリングクレジット)とは、開発途上 国等において外国企業誘致の一環として租税優遇措置を設けて租税の減免を 行っている場合において、その政策的配慮から、その減免された租税につい ても、これを納付したものとみなして、外国税額控除を適用する制度をいい ます。 21 5. 外国税額控除 みなし外国税額控除5 ■例えば、日中租税条約において、使用料所得については、みなし税率を適 用することができることとされている。
  • 23. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■連結納税制度を採用している場合の外国税額控除は、連結納税グループ全 体で計算することとされている。 22 5. 外国税額控除 連結納税の場合6 ■そのため、グループ企業が連結納税制度を採用していない場合において、 単体申告において控除対象外国法人税額が控除限度額を超過している状況と なっている場合には、連結ベースでの控除限度額を試算し、メリットがある かどうか検討する価値はある。
  • 24. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 6 外国子会社合算税制 23
  • 25. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■外国子会社合算税制とは、 ✔原則として、内国法人や日本居住者が発行済株式等の「50%超」を保有す る外国関係会社で、 ✔我が国の法人税負担に比して著しく低い税負担の国又は地域(いわゆるトリ ガー税率「20%以下」の軽課税国)に本店又は主たる事務所を有する法人 (特定外国子会社等)の所得を、 ✔その特定外国子会社等の発行済株式等の「10%以上」を直接・間接に保有 する内国法人等の所得に合算して課税するという制度である。 24 6. 外国子会社合算税制 制度の概要1 ■ただし、特定外国子会社等が独立事業としての実体を備え、かつ、その本 店所在地国において事業活動を行うことについて十分な経済的合理性がある 等、一定の条件(適用除外基準)のすべてを満たす事業年度については、合 算課税は行わないこととなっている。
  • 26. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 25 6. 外国子会社合算税制 制度の概要1 外国法人、外国関係会社、特定外国子会社等のイメージ 外国関係会社 外国法人 特定外国子会社等 内国法人以外の法人 発行済株式等(自己株式を除く)の 50%超が、居住者及び内国法人 並びに特殊関係非居住者により、 直接・間接保有されている 外国法人 所得に対する税負担がゼロで あるいは20%以下である国等に 所在する外国関係会社
  • 27. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 26 6. 外国子会社合算税制 外国関係会社2 外国関係会社の判定 外国関係会社 居住者 非居住者 外国法人 内国法人 役員等 (特殊関係非居住者※) 居住者 直接及び間接保有割合50%超 ※特殊関係非居住者とは、次の者をいう。 ① 居住者の親族 ② 居住者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者 ③ 居住者の使用人 ④ 上記①~③以外の者で居住者から受ける金銭その他の資産によって生計を維持しているもの ⑤ 上記②~④の者と生計を一にするこれらの者の親族 ⑥ 内国法人の役員及びその役員に係る特殊関係使用人 日本 海外
  • 28. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 27 6. 外国子会社合算税制 適用対象となる内国法人3 間接保有の場合 外国法人B社 他の株主 内国法人 P社 内国法人 S1社 内国法人 S2社 外国法人 A社 合算対象 合算対象 対象外 他の株主 日本 海外 (軽課税国) 同族株主グループ 100%100% 50% 50% 5% 15% 80% (50%×15%=7.5%)
  • 29. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 28 6. 外国子会社合算税制 租税負担割合4 タックスヘイブン対策租税負担割合の計算式 本店所在地国で 納付する外国法人税 (※1) 所在地国の法令により外国子会社に課された税額のうちに 特定外国子会社等が納付したとみなされる金額 (※2) 本店所在地国の 法令に基づく 所得の金額 本店所在地国の 法令で非課税と される所得 (※3) 損金算入 支払配当 損金算入 外国法人税 還付外国法人税で 益金算入している もの (※4) + + + + - ≦20% (※5) ※1 非課税配当に係る外国法人税は除外される。ただし、日本の源泉所得税のようなものは含まれる。 ※2 その税率が所得の金額に応じて複数ある場合には、最高税率により計算することができる。 ただし、法人の所得の区分によって税率が異なる場合には、この適用はなく、最高税率による計算は できない(措通66の6-7) ※3 ただし、当該子会社の所在地国内あるいは国外法人からの非課税受取配当は除かれる。 ※4 分母の金額が欠損である場合には、その主たる事業に係る収入金額から所得が生じたものとした 場合に適用される法人税率により判定する。 ※5 毎事業年度で判定する。
  • 30. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 29 6. 外国子会社合算税制 租税負担割合4 租税負担割合の具体例 仮に、以下の前提のもと、租税負担割合を計算した場合には、以下の通りとなる。 外国関係会社の本店所在地国の法令に基づく所得の金額= 400 現地での法人税率= 30% 現地で納付する法人税= 120(損金算入) 現地での非課税所得= 200 支払配当= 80 前提 120 +400 120200 80+ + =15%≦20% この場合、現地での法人税率が30%であるにも関わらず、 タックスヘイブン対策税制における租税負担割合の計算では、15%となるため、 この具体例では、当該外国関係会社の所在地国は軽課税国であると判定される。
  • 31. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■外国子会社等が、以下のすべての条件(適用除外基準)を満たす場合には、 会社単位での合算課税の対象とならない。 ―事業基準(主たる事業が株式の保有等、一定の事業でないこと) ―実体基準(本店所在地国に主たる事業に必要な事務所等を有すること) ―管理支配基準(本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら 行っていること) ―次のいずれかの基準 (1)所在地国基準(主として本店所在地国で主たる事業を行っていること) ※主たる事業が下記以外の業種の場合に適用 (2)非関連者基準(非関連者との取引割合が50%超であること) ※主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送 業の場合に適用 30 6. 外国子会社合算税制 適用除外基準5 ■また、一定の税負担の水準(20%)以下の外国子会社等が得る資産運用的 な所得については、適用除外基準を満たす場合でも、内国法人等の所得とみ なし、それを合算して課税(資産性所得の合算課税)。
  • 32. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 統括会社 ■適用除外における事業基準の判定上、統括業務を主たる事業とする場合のその株式の 保有を主たる事業とする場合は、事業基準の適用をしない。 ■統括業務とは、他の外国法人の事業活動の総合的な管理及び調整を通じてその収益性 の向上に資する業務をいう。 31 6. 外国子会社合算税制 適用除外基準5 統括会社要件 ■「親会社出資比率要件」 その特定外国子会社等の発行済株式等を100%(親会社が直接、間接に保有している その特定外国子会社等の持株割合の合計額が100%)であること。 ■「孫会社持株要件」 その特定外国子会社等が保有する被統括会社の株式等の帳簿価額の合計額がその統括 会社の株式等の帳簿価額の50%超であること。 ■「非統括会社複数管理要件」 その特定外国子会社等は2以上の被統括会社に対して統括業務を行う。 ■「所在地国・管理支配基準の適用」 被統括会社要件 ■ 統括会社によって、その海外孫会社の発行する株式等の25%以上を保有されている こと、かつ、本店所在地国にその事業を営む従業者の所在。
  • 33. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 7 外国子会社配当益金不算入 32
  • 34. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■内国法人が、一定の要件を満たす外国子会社等から受取る配当金について は、その内国法人の課税所得の計算上、その配当等の額の95%相当額を益金 不算入とする制度。 33 7. 外国子会社配当益金不算入 制度の概要1 ■本制度の適用対象となる外国子会社等とは、内国法人が外国法人の発行済 株式等の25%以上を、配当等の支払義務が確定する日以前6か月以上引き続き、 直接に保有している場合の当該外国法人。 ■外国子会社配当益金不算入の対象となる配当に係る源泉税は、損金不算入。 外国税額控除の適用なし。
  • 35. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■我が国が締結している租税条約において、「二重課税排除条項」により前 述の持株割合として25%未満の割合が定められている場合(アメリカ、オー ストラリア、ブラジル、フランス、オランダなど)には、外国子会社配当益 金不算入制度の対象となる外国子会社の判定上、25%以上という持株割合に 変えて、租税条約で定められている割合により判定される。 34 7. 外国子会社配当益金不算入 租税条約との関係2
  • 36. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■連結納税制度を採用している場合における外国子会社配当益金不算入制度 の適用上、外国子会社の判定における持株割合については、連結納税グルー プ全体での持株割合で判定することとされている。 35 7. 外国子会社配当益金不算入 連結納税との関係3 ■なお、連結納税グループの場合であっても、前述の租税条約に定める持株 割合の適用がある場合には、租税条約で定める持株割合ではなく、連結納税 グループ全体で25%以上保有していることが要件となるため、注意が必要で ある。
  • 37. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 7. 外国子会社配当益金不算入 連結納税との関係3 ケース1 連結納税を採用していない場合 ケース2 連結納税を採用している場合 内国法人 P社 内国法人 S1社 内国法人 S2社 内国法人 S3社 適用なし 適用なし 適用なし グループ全体 : 27% オランダ法人A社 100%100%100% 9%9%9% 内国法人 P社 連結法人 S1社 連結法人 S2社 連結法人 S3社 適用あり グループ全体 : 27%(≧25%) オランダ法人A社 100%100%100% 9%9%9%
  • 38. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. 8 移転価格税制 37
  • 39. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■日本の法人が、国外関連企業との間で取引を行う場合において、その取引 価格を通常の取引価格(第3者との取引価格)とは異なる額に設定することに より、一方の利益を他方に移転することが可能となる。 38 8. 移転価格税制 制度の概要1 ■移転価格税制とは、日本の法人による国外関連企業との間の取引を通じた 所得の海外移転を防止する制度。 ■日本の法人と国外関連者間の取引の対価の額が、通常の取引価格と異なる ことにより、日本の法人の所得金額が過少となっている場合に、その取引を 通常の取引価格(独立企業間価格)で行ったものとして、その法人の所得金 額を計算し課税する制度。
  • 40. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■国外関連取引とは、法人が、その国外関連者との間で行う棚卸資産等の資 産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引をいう。 39 8. 移転価格税制 国外関連取引2 ■国外関連者…外国法人で、法人との間に、持株関係、実質的支配関係又は それらが連鎖する関係の「特殊の関係」のあるものをいう。 ✔持株関係とは、(1)いわゆる「親子関係」として、二の法人のいずれか一方が他方 の法人の発行済株式等の50%以上の株式等を直接又は間接に保有する関係をいい、ま た(2)いわゆる「兄弟関係」として、二の法人が同一の者によってそれぞれその発 行済株式等の50%以上の株式等を直接又は間接に保有される関係をいいます。 ✔実質的支配関係とは、例えば、他方の法人の役員の2分の1以上又は代表権を有する 社員が、一方の法人の役員若しくは使用人を兼務している等の事実により、二の法人 のいずれか一方の法人が他方の法人の事業の方針の全部又は一部につき実質的に決定 できる関係をいいます。 ✔持株関係と実質的支配関係とが連鎖する関係とは、法人と外国法人との間が、持株関 係又は実質的支配関係の一方又は双方で連鎖している関係をいいます。
  • 41. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■独立価格比準法 40 8. 移転価格税制 独立企業間価格3 ■再販売価格基準法 ■原価基準法 ■取引単位営業利益法 ■利益分割法 ✔比較利益分割法 ✔寄与度利益分割法 ✔残余利益分割法 ✔ (平成25年度税制改正)ベリー比基準(営業費用売上総利益率=売上総 利益/販売費及び一般管理費)が導入
  • 42. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■相互協議…二重課税の排除を含め、租税条約の規定に適合しない課税を回 避するため、我が国の税務当局が租税条約に基づき、相手国の税務当局と行 う協議をいう。 41 8. 移転価格税制 相互協議等4 ■APA(事前確認)…国外関連取引について税務当局に事前に確認してお くこと。
  • 43. Copyright Ⓒ 李総合会計事務所 All rights reserved. ■海外進出を検討する際に、事業上や法務上の検討の他に、税務の面でも事 前に検討する項目も多い。 42 おわりに ■海外進出後であっても、日本のみならず海外でも税制改正が頻繁に行われ るため、定期的な税務のアップデートは必要。