心疾患病態における死細胞貪食の意義の解明 【背景・目的】心不全の主な原因疾患の一つである心筋梗塞を発症すると、心筋組織の壊死とそれに伴う代償的な心肥大や組織線維化の進行により心機能が低下する。この過程を心筋リモデリングと呼び、持続的な炎症反応が関与していると考えられているものの、そのメカニズムの十分な解明には至っていない。心筋梗塞発症後、早期には多くの心筋細胞で細胞死が引き起こされ、心筋組織内にミエロイド細胞の一つであるマクロファージ(MΦ)が浸潤する。様々な疾患において、組織内に生じた死細胞はMΦなどの貪食細胞により速やかに除去されるが、除去が不十分な場合、残存した死細胞の二次的ネクローシスにより炎症反応が惹起され、さらなる組織傷害にさらされることが知られている。このように、死細胞貪食と炎症反応が密接に関与していることが示唆されているが、心疾患におけるこれらの相関は明らかとなっていない。これらの背景から、心筋組織内の炎症反応と死細胞貪食との相関を明らかにすることは心不全病態進展を抑制する上で極めて重要である。そこで本研究では、死細胞貪食の観点から心不全における炎症反応発症メカニズムを解明することを目的とし、MΦの死細胞貪食能を向上させたダブルトランスジェニックマウス(DTG)を用いて死細胞貪食の心筋梗塞後の病態への影響を検討した。 【方法・結果】MΦの貪食能を向上させるため、死細胞貪食において重要な役割を果たしているCD93をミエロイド細胞特異的に過剰発現するDTGマウスを作製した。WT,DTGマウスの腹腔由来MΦを単離、蛍光マイクロビーズを添加し、60分培養後、ひとつのMΦが貪食したbeads数を計測することでMΦの貪食能を評価した。その結果、DTGマウスのMΦにおける貪食能の向上が確認された。このマウスを用いて貪食能向上がMI後の病態に及ぼす影響を検討するため、WT,DTGマウスにMI作製後、14日目の心臓凍結切片を作製、Masson’s Trichrome染色で心筋組織の線維化を評価した。その結果、DTGマウスの心臓ではWTマウスに比べて線維化の進展が抑制されていた。また、組織傷害時に炎症性MΦ(M1MΦ)が死細胞貪食を介して抗炎症の性質を示すことが報告されている。そこで、抗炎症性作用を持つMΦ(M2MΦ)マーカーであるCD163,206の発現と抗炎症性サイトカイン(IL-10,TGF-β)の発現を比較したところ、WTに比べてDTGでそれらの発現が有意に増加していた。 【結論】ミエロイド細胞の死細胞貪食能向上は