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ゼロ年代から現在までを語り直そう
- 3. １．ゼロ年代総論 3
- 4. ゼロ年代研究会とは • 「ゼロ年代」というキーワードを軸にサブカルチャーや社会に ついて研究するサークル。2021年4月に結成 • 「長いゼロ年代」（1995年～2011年） • 95年：阪神淡路大震災、オウム事件、Windows95、エヴァ • 11年：東日本大震災、スマホ・SNSの普及の全面化 4
- 6. なぜゼロ年代にこだわるのか：ゼロ年代批評 • 「ゼロ年代」にこだわってるのは批評好きの男性オタクだけ説 • 東浩紀『動物化するポストモダン――オタクから見た日本社会』（2001） →「萌え」を追求するオタクを「動物」と呼び、95年以降を「動物の 時代」と規定（作品に「物語」を見出そうとする「人間」との対比） • 宇野常寛『ゼロ年代の想像力』（2008） →「萌えオタク」「セカイ系」を批判し、宮藤官九郎、木皿泉、 よしながふみ、仮面ライダー、「部活モノ」、ケータイ小説 などを対置 東は「子どものままでいい」派、宇野は「大人になれよ」派 だったと整理できる 6
- 7. なぜゼロ年代にこだわるのか:〈外部〉を求めて • エヴァ以後や「セカイ系」における、性愛と絡めて「内面の葛 藤」を重視するコンテンツはテン年代に失速してしまった →「テン年代自己実現至上主義」（ゼロ年代研究会） • 東らの重要な問題提起の一つは、冷戦以後のグローバル化の時代 に〈外部〉がどこにあるのかという問題だった • 国際的なグローバル化（90年代頃に進行） • 「郊外」風景の画一化（00年代頃に進行） • インターネットの商業化（10年代頃に進行） →海外も都市もインターネットも〈外部〉じゃなくなった 7
- 8. なぜゼロ年代にこだわるのか:心の中にある〈外部〉 • 〈外部〉がない＝開拓すべきフロンティア（ここではないどこ か）がないということ →未来に希望を抱けない（cf.古市憲寿『絶望の国の幸福な若者たち』、土 井隆義『「宿命」を生きる若者たち』） • もはやフロンティアは「過去」にしかない！ →ゼロ年代は〈外部〉を求めていた最後の時代 • ノスタルジーに浸ってなにが悪いか →近年のリバイバルブームは単なる「懐古」ではなく、 「語り直し」の契機ではないか？ 8
- 9. 「ゼロ年代から現在までを語り直す」の意味 • 漫画界における「自伝的トラウマエッセイ」のブーム？ • 永田カビ『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』（2016） • ティリー・ウォルデン『スピン』（2017=2018） • ふみふみこ『愛と呪い』（2018） • ペス山ポピー『女の体をゆるすまで』（2021） など（かなり恣意的な整理だが） • 少なくとも、MeToo以後のフェミニズムの時代において、 「語り直し」の波もきているのではないか 9
- 10. 「ゼロ年代から現在までを語り直す」の意味 • 「ゼロ年代を語り直す」のは男性の専有物でもオタクの専有物で もない • 「ゼロ年代研究会」としても様々なサブカルチャーを渉猟するこ とで、「ゼロ年代を語り直す」ための手がかりを探している • 3/18-22には「三大電波ゲー合宿」を開催（まだだいぶオタク寄りだが） 10
- 11. ゼロ年代と人格類型 • 80年代頃から隆盛する人格類型の言葉；血液型診断、ネアカ／ネク ラ、新人類、おたく、〇〇族など • ゼロ年代は人格類型が生き残っていた最後の時代？ →「コミュ力」「発達障害」によって拡散・解体されていく • 今回紹介する2冊の本： 熊代亨『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』（2014） 松谷創一郎『ギャルと不思議ちゃん論』（2012） →いずれもアカデミズムや批評で大きくは取り上げられ ないが、越境的で俯瞰的な論考。 11
- 13. 熊代亨氏について 13 • 1975年生まれ。精神科医・ブロガー。 • シロクマのHNで、2005年頃からはてなブログ 「シロクマの屑籠」を運営（当時ははてなダイアリー） • 「適応」、「自己愛」、「コミュニケーション」など をテーマに執筆し続けられており、初の著作が『ロスジェネ心理学』（2012） →その後の著作も含め、基本的には「歳を取ることが難しい、ずっと若者 でいることが称揚される現代をどう生きればいいのか？」という内容が多い • 「サークルクラッシュ」についても一時期ブログで論じられていたので、 個人的にはその点でもお世話になった
- 16. ファスト風土による「上京」の無効化 • ファスト風土とは →ファストフードにかけた造語で、多くの地域で同じような風景になって いく様子。 多くの地方都市で駅前に立って周囲を見回すと、どこでも同じ コンビニ、ファミレス、チェーンのドラッグストア、大手都市銀行がある。 ロードサイド（国道沿い）も同様。イオンの存在が象徴的。 • オタクもサブカルも、上京しなくてもそれなりに満ち足りるようになった （オタクで言えばアニメイトやとらのあな、サブカルで言えば ヴィレヴァンやタワレコなど） • SNSやAmazonなどの存在も大きく、クリエイターとしても ニコニコ動画やpixiv、「なろう」などの普及は大きかった 16
- 17. 「ヤンキー」の方が成熟が早い？ • オタク／サブカルのような趣味に特化した「トガった生き方」 は20代ぐらいの内はいいが、30代ぐらいになってくるとキツく なりがち（それゆえシロクマ先生は軟着地も勧めている） • 「昔ヤンチャしてました」という言い方に象徴的なように、暴 走族やヤンキーには「卒業」が想定されている →就職・結婚が安定しているという点で「成熟」にも向いている • 近年は管理的な教育もあり、若者は大人しくなった （若年犯罪率の低下、喫煙率の低下など） →「仲間」「家族」「地元」を大事にする点のみ残った （マイルドヤンキー） 17
- 19. 松谷創一郎氏について 19 • 1974年生まれ、ライター。 • はてなダイアリー黎明期（2003年）から 「TRiCK FiSH blog」を運営（現在は非公開） • 社会情報学の修士であり、社会学の「若者論」や「文化社会学」の分野で 論文も複数執筆されている • そのへんの学者よりもよっぽど映画や音楽、マンガ、テレビ、 ファッション、インターネットなどのカルチャー全般に詳しく、 文章からは博覧強記ぶりが窺える
- 20. 「コギャル」の生成過程：性の解放 • 80年代頃までは明治時代以後の「良妻賢母教育」の名残があり、女 性の性的な振舞いを禁止する風潮（タテマエ）があった • しかし、90年代を通じてそのようなタテマエは崩れていった。顕著 なデータとして、90～02年頃の性交経験率は著しく増加（早期化） →たとえば、高校生女子は10%前後→30%前後に • ドラマ『高校教師』(1993) →性に関するタテマエ破りが通俗化 • 少女漫画の衰退とヤング・レディースの隆盛（90年代頃） →『FEEL YOUNG』など。 作家としては内田春菊、岡崎京子、安野モヨコなど。 20
- 23. 「コギャル」周辺の文化：ブルセラ、援交 • ブルセラショップブーム(93-4年あたりがピーク) • テレクラ・伝言ダイヤル(80年代中期～)、ダイヤルQ2(89 年～)、ポケベル、PHS、ケータイ →援助交際のツールに(cf.村上龍『ラブ＆ポップ』) • 96-7年頃の援助交際の経験率は4～5%程度とされている (クラスに1人か2人ぐらい？) →かつての典型的な不良少女ではなく、一見普通に 見える女子高生が援助交際をしていることへの驚き 23
- 24. 「コギャル」周辺の文化：コギャルイメージ • メディア上のコギャルブーム(95-6年あたりがピーク) →ポケベル(93～) プリクラ たまごっち マルキューなど (70年代前半生まれ(団塊ジュニア)がターゲットの高校生向 けマーケティングが行われていたが、実際にこれらが花開い たのは70年代後半生まれの世代、すなわちコギャル世代) • 雑誌として、東京ストリートニュース、egg(95～)、 popteen、Cawaii(96～) 24
- 26. 松谷の言う「不思議ちゃん」イメージ • 音楽におけるニューウェイブ（YMOや戸川純） • ナゴムギャル（ケラ主宰のナゴムレコードのファン。 有頂天、筋肉少女帯、人生、たまなど） • 中森明夫の言う「トンガリキッズ」 • いわゆる「サブカル」ともかなり重複している 26
- 29. 「コギャル」から「ギャル」への浸透 • 「ギャル」スタイルは成人女性や地方へと一般化した • ガングロスタイルの登場（98年頃～） →もはや男性からの性的視線を回避している。先鋭的が ゆえに2000年頃に衰退 • 『Men's egg』（1999～）→ギャル男 29
- 31. 「負け犬」現象と「ギャル」 • コギャル世代以前のキャリア志向の女性は、女性が「少女」とし て育つ（性経験率も低い）世代だったため、異性関係のコミュニ ケーションのコントロールを学んでこなかった世代と言える →いわゆる「負け犬」現象が象徴的。酒井順子『負け犬の遠吠え』 （2003）；30代以上・未婚・未出産のハイキャリアの女性を自虐 的なユーモアで描いた • ただし、その6年前には東電OL事件（1997）が。「負け犬」のネ ガティブな部分 • それに対し、00年代の「モテ」志向の女性は、 キャリアも家庭も両立しようという志向 （つまり、一部の「勝ち組」を志向した） 31
- 32. 「ギャル」のその後 • 益若つばさ（1985年生）、小森純（1985年生） →ブログを使いこなしたことが特徴的 • 同時代の「ブログの女王」としては眞鍋かをり（1980 年生）、中川翔子（1985年生） • 小悪魔agehaやケータイ小説などの話なども したいが、スライドの準備が間に合わず 32
- 38. ゼロ年代内面吐露ブーム • 95年のエヴァ→ゼロ年代の内面吐露ブームへ。 • 阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、酒鬼薔薇事件、不況 などに伴う社会不安に対する「癒し」として機能 • 告白系ノンフィクションブーム（98～01頃）： 乙武洋匡『五体不満足』 大平光代『だから、あなたも生きぬいて』 飯島愛『プラトニック・セックス』（ギャル層も支持） 梅宮アンナ『「みにくいあひるの子」だった私』 など。どんどんトラウマ的な暗いものがブームに。 38