北海道大学和歌山研究林付近におけるニホンミツバチ営巣用ゴーラの分布と営巣環境に関する研究
- 1. 3. 結果および考察
図2にゴーラの分布図を示す。マチゴーラは軽トラックでアクセスできる谷筋の林道沿いに分布しており、特に研究林内を東西にの
びる林道沿い(地図内北西部)に多い。植生図によれば、この付近にはカナメモチ-コジイ群集など広葉樹林が分布している。ま
た、現地踏査では、広範にトチノキも分布していることが確認された(図3)。すなわち、スギ・ヒノキ植林地周辺ではなく、花木となる
広葉樹周辺に選択的にゴーラが設置されているものと考えられた。実際、営巣が確認されたゴーラのほとんどが、当該林道最奥
部付近に立地していた。
北海道大学和歌山研究林付近におけるニホンミツバチ営巣用ゴーラの分布と営巣環境に関する研究
内田 遼太・瀬古 成哉・御手洗 昂大・山口 直也(和歌山大学システム工学部4回生)
原 祐二・中島 敦司(和歌山大学システム工学部)
揚妻 直樹・桝本 浩志(北海道大学和歌山研究林)
1. はじめに
和歌山大学システム工学部環境システム学科では、自然環境調査手法を現場で学ぶため、2006年より古座川町平井にある北海
道大学和歌山研究林において野外実習を実施している。実習は例年9月に行い、その内容は、間伐体験、動植物調査、食文化調
査、地産地消自炊体験など、多岐にわたる。学生が自然環境調査の基礎と自主性を身に付けることが最終目的である。
一方、和歌山大学には学生自主創造科学センター(通称:クリエ)という組織があり、自主演習と呼ばれる単位認定科目を統括して
いる。これは学生が主体的に調査テーマを設定、調査研究を遂行し、報告書を提出することで、正規の1単位が認定されるというも
のである。学生の主体性を育成することを目的としており、毎年多くの学生が自ら興味のある調査研究を実施している。
本報告では、2009年9月に実施した和歌山研究林における野外実習時に現地調査した「ニホンミツバチ営巣用ゴーラの分布と営
巣環境」について、その後自主演習として分布図作製および営巣環境に関する考察を行ったので、途中経過を報告する。
2. 研究方法
和歌山県南部ではニホンミツバチの伝統的養蜂が行われている。巣箱は木をくりぬいたドウ型のもので、古座川町ではゴーラと呼
ばれている(図1)。宇野(2001)によれば、ニホンミツバチは4月から5月の快晴の日に巣分かれをする。養蜂家は、巣分かれしたニ
ホンミツバチの分蜂群を捕獲し、ゴーラを用いて養蜂を行っている。一方、山々の広範な地域に内部にミツを塗った空のゴーラを設
置し、巣分かれしたニホンミツバチが入るのを待つ方法もとられている。こうしたゴーラは、特にマチゴーラと呼ばれている。
著者らは、2009年9月に行われた和歌山研究林における野外実習において、研究林を含む広範な
地域にマチゴーラが設置されていることに関心を持った。そこで、実習期間中の9月4日に、当該地
域においてマチゴーラの全数調査を実施した。調査では、GPSおよび地形図確認によるマチゴーラ
の位置情報の取得、デジタルカメラによる写真撮影、目視による営巣の有無の記録を行った。
その後、自主演習として、取得データのデジタル化、地形・植生環境との関係把握を行った。具体的
には地理情報システムを用いて、マチゴーラの位置をポイント情報として構築した。その際、営巣の
有無を属性情報として格納した。地形に関しては国土地理院提供の基盤地図情報から10mメッシュ
標高DEMデータを、植生環境については環境省による第6・7回自然環境保全基礎調査の2003年度
1:25000植生図および2004年撮影の空中写真を用いて検討した。また、適宜現地踏査時に撮影した
写真も参考にした。
【図1】営巣用のゴーラ
【図2】ゴーラの分布
4. 今後の課題
ニホンミツバチの生理生態的特性の理解と分布状況と
の関係考察、実際の養蜂家の方々への聞き取り調査が
課題としてあげられる。
【図3】トチノキ林
参考文献
宇野 幸徳(2001):西日本の伝統的養蜂の技術.自然と文化 67,48-53.