日本心理学会で発表したやつ。(ポスター発表in仙台) グレートな結果は出なかったが、黄金の精神で練り上げたのでとりあえず発表まではしたかったの。

1. 感情ラベリングを併せた
ＳＳＴの有効性
―対象の少なさをベイズ推定により補った効果測定の実施―
佐名 隆徳（さめ たかのり）
（千葉県 東上総児童相談所）

2. 問題
• 近年注意の問題や攻撃的行動で表現されているような児童の自己統制
の問題は児童養護施設等、児童を監護する現場での課題となっている。
• 自身で認知している自己効力感は、自己統制尺度の下位尺度にあたる
①意思決定、②許容性、③自己開示の３つに影響を与えていることが結
果として得られており、自身で認知している自己効力感が自己統制に影
響を与えていることが示されている。

3. 問題
• 感情を認知した際に言語を用いてラベリングを行うことで扁桃体の活性度
が下がり、右前側前頭皮質等が活性化されることが分かっている。
⇒不安や恐怖に対する身体応答が不適応行動という形で表出してしまう
児童が感情のラベリングを行うことで、扁桃体優位から前頭葉優位に変化
し、自己統制困難な不適応行動の表出が統制できるようになる可能性。

4. 目的
1. 自己統制に影響を与えている概念である、自己認知された自己効力感
の得点を確認することで、そのリスクについて考慮し、その得点の増加
＝リスクの低下と考えて、介入効果の検討を行っていきたい。
2. 併せて、臨床的事例検討のような、対象者が多く得られないケースに、
科学的な研究の立ち位置を確保するための方略も模索したい。

5. 方法
概要
①効果測定に用いるために、各セッションの頭に「自己効力尺度」に記入し
てもらい、ＳＳＴ実施による変化を確認する。
②ＳＳＴのロールプレイ実施時には自作した感情カードを用いて感情のラ
ベリングを行った。
ＳＳＴによる適応行動の獲得に加えて感情理解の深化・感情ラベリングスキ
ル獲得を促すことも目的とした。

6. 方法
尺度
「児童の自己統制と自己効力との関係(田中・塩見,2000)」内で開発された
自己効力尺度の「自己認知された効力」因子の項目を使用。
分析方法
マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC 法)を用いたベイズ推定により母数推
定を行った（主な使用パッケージはrｓｔａｎ）。

7. 方法
仮説１：本集団療法を行うことで自己効力感が向上する（集団療法前半と
後半の差の比較により検討）
仮説２：本集団療法を行うたびに自己効力感が向上し、尺度得点が上がる
が、日を置けば尺度得点は低下（自己回帰）する可能性がある（集団療法
セッション内前半と後半の比較により検討）
仮説３：仮説２の上で、徐々に自己効力感は向上していく（予測を含んだ状
態空間モデルにより検討）

8. 結果
仮説１：delta:生成量の事後平均(μ2-μ1)⇒集団療法実施後は平均して認知された
自己効力得点が-0.019で、僅かではあるが低下するという結果となった。
delta_over:μ2-μ1＞0が正しい確率⇒「集団療法前より集団療法後の方が認知され
た自己効力得点が下がる」という仮説は46%で正しい。
以上により、
仮説１は支持されない
結果となった。
mean se_mean sd 2.5% 25% 50% 75% 97.5% n_eff Rhat
mu[1] 2.868 0.005 0.180 2.507 2.758 2.865 2.975 3.235 1464 1.002
mu[2] 2.849 0.003 0.132 2.606 2.764 2.847 2.932 3.125 1487 1.003
rho 0.247 0.007 0.284 -0.373 0.077 0.275 0.459 0.730 1527 1.000
delta -0.019 0.005 0.196 -0.409 -0.141 -0.017 0.108 0.370 1600 1.000
delta_over 0.460 0.012 0.499 0.000 0.000 0.000 1.000 1.000 1600 1.001

9. 結果
仮説２：ＳＳＴ、感情のラベリングを実施すると、認知された自己効力得点が
向上するという仮説は65％の確率で正しい。ＳＳＴ、感情のラベリングを実
施後は平均して認知された自己効力得点が+0.05 で増加する。

10. 結果
仮説３：8 期先(倍の期間集団療法を実施した場合)の認知された自己効力
得点の95％確信区間は2.28~3.65。予測区間では明確な得点の上昇が確
認できないため、仮説が支持されたとは言い難い結果となった。

11. 結果
• ＳＳＴと感情ラベリングを実施した直後は得点増加傾向が
あるが、全体を通してそれが汎化したとは言い難い。
• 質問紙の選定（理解のしやすさ）やセッション実施時・質問
紙記入時のフォロー等が十分ではなかった可能性がある。

12. 終わりに
反省点
ベイズ推定の効果を最大限発揮するためには、先行研究のデータよ
り事前分布を具体的に設定することが望まれる(ベイズ更新)
⇒本研究で用いた尺度の平均値・標準偏差等のデータを得られず、
事前分布の設定に不十分さがあった。

13. 終わりに
• 本報告で用いたような統計的手法は、その性質上多くの対象
者を得難い臨床的事例報告にも力を発揮することができる。
• 臨床的事例報告を行う際は、臨床家の解釈に加えて、ベイズ
推定を用い科学的な報告という位置付けを確保することで、結
果の説得性を強化することが可能となる。