１．宗教と科学の両立　２．カトリック教会が科学に貢献したこと　３．現代の議論

1. 科学と
カトリック教会

2. 教会の役割を考える前にまず：
宗教と科学の両立は可能
でしょうか？
多くの人が両立できると
考えます。

3. 2009年の調査。回答者数：2,500人以上
Pew Research Center調べ
（American Association for the Advancement of
Science の協力を得て）
米国の科学者の何パーセントが神を信じ
ているでしょうか？
神がいると思う: 51%
神がいないと思う: 17%

4. 「宗教なしの化学は
びっこを引いている
科学なしの宗教は
めくらである」
-アルベルト・アインシュタイン
Quoted in Chance or Reality, Stanley Jaki, p 147

5. ニコラウス
コペルニクス
1473-1543
数学者、天文学者
カトリックの司祭
（聖アウグスチノ修道会）
地動説を唱える

6. ジョヴァンニ・バッティ
スタ・リッチョーリ
1598-1671
天文学者かつ神学
者（イエズス会）
初めてた自由落下
の加速度を測定

7. ルジェル・ヨシプ・ボ
スコヴィッチ
（イエズス会）
1711-1787
物理学者
天文学者
原子論の先駆者

8. 福者ニコラウス・
ステノ
カトリック司教
1638-86
「現代地学の父」

9. フランチェスコ・マリア
グリマルディ
1618-1663
数学者、天文学者
（イエズス会）
光の回折について正確な
観察を行った
彼の月地図は
ワシントンDCの
国立航空宇宙博物館に

10. 35個の月面の
ク レ ー タ ー は
イエズス会の科
学者・数学者に
ちなんで名付け
られている。

11. グレゴール・ヨハン・メンデル
1822-1884
修道士
（聖アウグスチノ修道会）
「遺伝学の父」

12. ジョルジュ・ルメートル1894-1966
物理学者, カトリックの司祭
ビッグバン理論の提唱者

13. もちろん科学者の大部分は神父であるわけ
ではありません。しかし、お見せした多く
の科学者神父の存在は、信仰を持ちつつも
科学研究を行うことが可能だということを
示しています。
教会は常に健全な科学の声に耳を
傾けています。

14. スティーヴン・ホーキング, 1942-
物理学者 (無神論者)
教皇庁立科学アカデミーの委員

15. では、キリスト教
（そして、カトリック教会）の貢献
はどれほどのものでしょうか？
巨大
文明を保つ
科学にふさわしい思想を広める
教育機関を促進する

16. 文明化の力:
1. 政治的安定
2. 経済力
3. 交流
古代ローマはこの条件を満たしたが、（後述する
が）文化的状況が不十分であったために、科学的発
見は発展は散発的であった。
ローマ帝国の没落の後、ヨーロッパでは数世紀に
渡ってカオス的状況が続いた。しかし、教会によっ
て、状況は少しずつ徐改善していった。
文明を保つ

17. 設立、債券された修道院によって人文
学、そして最低限の社会的秩序が維持
された。古典の知識も保つように心が
けた。
例えば、巡礼者のために道路の安全保
持に努力が払われ、そして修道院の秩
序がを遠くまで伝わった。
文明を保つ

18. 信仰の力
科学的活動を促進する信念
1. 超越者たる神、盲目の自然。
2. 宇宙の秩序。
3. 人間の知性。
4. 真理への希求。
5. 必然ではなく偶然。
6. 進歩の可能性。
思想

19. アニミズム（精霊信仰）：太陽の神、山
の神、風の神、森の神々、先祖の魂など
汎神論：神は生きている自然界に内在し
ている力や霊である
物質世界には人間にとって可知的法則が
あるように思われない。物はそれ自体の
不思議な欲求によって動く。
思想： 神と物の区別
（超越者たる神、盲目の自然）

20. 宇宙には秩序があるけれども、神の知恵が定
めた秩序ではないから、人間は理性によって
それを把握し、言葉で説明することができない。
参考：Joseph Needham（オクスフォード大学の歴史学
者、無神論者）, Science and Civilization in China, vol 1,
CUP 1954
中国で科学が発展しなかった理由：理性的、人
格的,超越的な創造主（rational, personal,
transcendent God)を信じなかったこと。
思想： 神と物の区別
（超越者たる神、盲目の自然）

21. 中世のイスラムのいくつかの傾向
1. 汎神論
2. 神は絶対、自由であるから、法則はあ
りえない。強い傾向が見えても、神は
いつでもそれを覆すことができる。
Stanley Jaki, “The Physics of Impetus” in The Absolute Beneath the Relative p146-51
Stanley Jaki, The Savior of Science, Grand Rapids, MI: Eerdmans p77-8
Caesar Farah 1994, Islam: Beliefs and Observances, 5th ed. Barron’s. p 199
In Stark, The Victory of Reason, p21
思想： 神と物の区別
（超越者たる神、盲目の自然）

22. アリストテレス力学:
自然運動
-物体はいるべきところに安らぐ。
-物体は自分のいるべき場所を求めて動く。岩石は地球
の中心を目指し、火は天空を目指す。
-大切なのは「どういう風に動くか？」ではなく「なぜ
動くか」ということだ. 第一動因はその後すべての動き
の原因である。
非自然的な運動
-物体は他の体物を動かすことができる。その原因は物
体同士の物理的接触である。
アニミズムの影響に注意
In Woods, How the Catholic Church Built Western Civilization, pp81-2
思想： 神と物の区別

23. ジャン・ビュリダン* の力学:
1. 神は無から宇宙を創造した
2. 神は物に対し働きかけはしないが、より
形而上学的なレベルにおいて全ての物に
対して働きかけている。すなわち、物を
存在せしめている。
3. 神は創造の時に物に運動量（impetus)を
与えた。動くものは妨げられない限り永
久にでも動き続ける。
4. 物には意識がない。
*(c. 1295-1363) カトリック司祭, 哲学者, パリ大学の教授
思想： 神と物の区別

24. 槍の動き（アリストテレス説）
槍は人間の手によって投げられたときに発生した渦
（vortex)に接していることによって、運動を保持する。
思想： 神と物の区別

25. 槍の動き（ビュリダン説）
「被射体は、発射体を離れた後、与えられ
た運動量によって、それが抵抗より大きい
限りその運動を保持し続ける。もしも保持
している運動量が抵抗力によって逓減しな
いのであれば、その運動は永遠に保持され
る。」
（アリストテレス「物理学VII.9に対する問）
思想： 神と物の区別

26. 彼らの遺贈：
- アリストテレス  テオプラストス（占
星術や植物学の本の著者）。
- ビュリダン  ガリレオ 
ニュートン
思想： 神と物の区別

27. 潮の知識科学ではなく、
迷信、占星術
古代ギリシア人は潮の満ち引きは月の引
力によって引き起こされることを示した。
この知見は天文学や地学と結びついて発
展していってよさそうなものだが、しか
し彼らは、神々の天体が人間の感情も含
めて全てに作用しているなどと主張し
た。
Stanley Jaki, “The Greeks of Old & the Novelty of Science” in
Chance or Reality, 1986, University Press of America
思想： 神と物の区別

28. プルタルコスの理論:
月の軌道は恋の結果である
• 月の地球に引っ張られる力と、公転による
遠心力とは互いに釣り合っている動きはパ
チンコの回しと似ている。石投げ紐（スリ
ングショット）と似ている。
• 月が回転運動をしたり、太陽と交わったり
する（食）のは、太陽に恋慕しているが故
であり、太陽から最も実りあるものをもら
わんとするためである。
Stanley Jaki “The Greeks of Old & the Novelty of Science” in Chance or
Reality pp205-24
思想： 神と物の区別

29. 「主は、知恵の不思議なわざを、秩序よ
くととのえた。」集会の書42：21
「貴方は、数と、目方と、尺度とで、す
べてのものを、ととのえた。」知恵の書
11：20
思想： 秩序

30. 中世のイスラム教：法則はありえない
• アラー（神）の自由は絶対である。
• 自然の法則に見えるのは単なる「アラー
の習慣」であり、神はいつでもそれを取
り消すかもしれない。
• アラーの考えを知ろうとすることは冒涜
である。
Stanley Jaki, The Savior of Science, Grand Rapids, MI: Eerdmans
p77-8
Jaki, “Myopia about Islam, with an Eye on Chesterbelloc” The
Chesterton Review 28 (winter 2002):500
思想： 秩序

31. アダム  アブラハム  イエス 
教会  イエスの再臨
一方通行、一回限りの方向性
永久の周期ではない
キリスト教の歴史観
思想： 進歩

32. 「産めよ、増えよ、
地に満ちて地を従わ
せよ」創世記1:28
思想： 進歩

33. 古代バビロニアでは、毎年、
万物がカオスに陥らないため
に、償いの儀式が行った。
思想： 進歩

34. ヒンドゥー教の宇宙論によれば、宇
宙は８６．４億年の周期で絶滅したり
創造されたりする。
思想： 進歩

35. 「一番良い世代は私の世代である。次
に良いのはその次の世代であり、その
次に良いのはさらにその次の世代であ
る。」
-ムハンマド
Mahmoud Ayoub 1996 “The Islamic Tradition” in Willard Oxtoby:
World Religions, pp352-491. OUP
In Stark, p9
思想： 進歩

36. アリストテレス：自然の法則は必
然である（理性でのみ捉え得る）。
キリスト教：神は、それぞれ別の
法則が支配する、無数のあらゆる
宇宙を創造し得る。（この宇宙の
法則を知るためには、観察し、実
験しなければならない）。
A.C.Crombie, Medieval and Early Modern Science, vol I,
(Garden City, NY: Doubleday, 1959) p 58, in Woods p81
思想： 宇宙の偶然性

37. 古代ギリシアの科学は、単に理論や観察
（単なる記載や分類）である。（実験し
なかった）
例えば、アリストテレスによると落ちる
ものの速さは重さに比例する。二倍重た
いものは二倍の速さで落下するはずであ
る。彼は近くの崖で確かめてみようとは
思いもじなかった。
Lewis Mumford 1939:14 Technics and Civilization. Harcourt Brace.
In Stark, pp13-4
思想： 宇宙の偶然性

38. ロバート・グロステスト, 1175-
1253, (オックスフォード大学の学
長 、 リ ン カ ン 市 の 司 教 、 ロ
ジャー・ベーコンの先生）科学実
験の手順を書いた。
In Woods, p. 95-6
思想： 宇宙の偶然性

39. 「何事も実験なしでは適格に知る
ことはできない。議論は理論的に
証明されども、全ての疑いを晴ら
すに足る確信は与えてくれない」
ロジャー・ベーコン, 1214‐1292, 修道士
（フランシスコ会）,オックスフォード大学
で教えた。
James Walsh, The Popes and Science. NY: Fordham U
Press 292-3 in Woods p94
思想： 宇宙の偶然性

40. 「初めに言（ロゴス) があった。言は神と共に
あった。言は神であった。。。万物はかれに
よってつくられた。」ヨハネ1：1‐3
「存在するものについての正しい知識を、神は
わたしに授けられた。宇宙の秩序、元素の働き
をわたしは知り、」知恵7:17－21
「わたしの言葉にとどまるならば、あなたたち
は本当にわたしの弟子である。あなたたちは真
理を知り、真理はあなたたちを自由にする。」
ヨハネ8:31‐32
思想： 理性

41. 「理性は神に属するものである。なぜな
ら、全ての創造主である神が理性によら
ずに創り、配置し、秩序付けるものは何
一つとしてないからである。
神が望まれ創造されたものは、（理性に
よって）知覚し得る。」
テルトゥリアヌス(期限155－240 A.D.)
On Repentance ch 1 in Rodney Stark, The Victory of
Reason, p7
思想： 理性

42. 「人間に理性があるからこそ他の動物
より優れているので、その理性を創造
した神は理性を憎むことは決してない
だろう。我々は理性的魂がなければ信
仰することも不可能であるから、理由
を受け入れなかったり求めなかったり
しないで信じることは決してないよう
に祈ります。」
聖アウグスティヌス (354-430) カトリックの司教、神学者
In David Lindberg and Ronald Numbers, God and
Nature: Historical Essays on the Encounter between
Christianity and Science. Berkeley: U of Cal Press. 1986.
pp27-8
in Stark, The Victory of Reason, p8
思想： 理性

43. 「義人は信仰によって生きるわけ
だが、その信仰に科学（scientia）
を合わせることもまた良いことで
ある。」
当時の「scientia」は神学、哲学と自然科
学を含む「原因を探る理性的な学問」と
意味していた。
シルウェステル2世 (ローマ教皇), c1000 AD
Quoted in Philippe Wolff, The Awakening of Europe, (NY:
Penguin Books, 1968) p 177-78
思想： 理性

44. 「自然科学の目的は単に他人の
言説を受け入れることではなく、
自然のなかに働いている原因を
追及することである。」
アルベルトゥス・マグヌス, c. 1200-1280,
教会博士、パリ大学で自然科学を教えた。
In De Mineralibus, quoted in Woods, How the Catholic Church Made
Western Civilization, p94-5
思想： 理性

45. • 大学はもともと教会が作った学校だった。
• パリとボローニャは12世紀の半ばに創立された。
• オックスフォードとケンブリッジもそれぞれ12世紀
の創立。
• 13世紀の初頭では、パリ、オックスフォード、
トゥールーズとボローニャ大学の生徒数はそれ
ぞれ1,000から1,500人。
• 他の大学も中世に教会によって創立された：
オルレアンス、ナポリ、サラマンカ、セビリア、リスボン、
グルノーブル、パドヴァ、ローマ、ペルージャ、ピサ、モ
デナ、フィレンツェ、プラハ、クラクフ、ウィーン、ハイデル
ベルク、ケルン、オフェン、ライプツィヒ、ロストク
.
促進

46. ボローニャ、フィレンツェ、パリとロー
マのカテドラル（司教教座大聖堂）は
17、18世紀に一級の太陽観測所とし
ても使用された。建物にある穴から
太陽光を取り入れ、建物の線に沿っ
て子午線を測るなどした。
J.L. Heilbron, Annual Invitation Lecture to the Scientific
Instrument Society, Royal Institution, London, Dec. 6,
1995, in Woods, p112
促進

47. 教会は、王に忠実を誓うなどせず
とも自由にカリキュラムを制定す
る権利を与えた。例えば、1231年
パリ大学に対して教皇聖グレゴリ
ウス9世の勅書が出された。
In Woods 50-1
促進

48. 地球の自転: 古代から否定された理由：①自転すれば絶
えず東から風が吹くはずです②上へうたれた矢はまっす
ぐ落ちないはずです。ニコル・オレーム(1325-82、パリ
大学学長)の説：地面に近いものは地球と同じ水平方向の
impetus (運動量）を持つ。
地球の中心: クーサのニコラス(1401-54)の説：「人は地
球にいても、太陽にいても、ほかの星にいても、自分の
いる位置は動かない中心に見え、ほかのすべての物は動
いているように見えるだろう」
コペルニクスに影響を与えた。
Stark p 53-54
中世時代の知識：他の例
促進

49. 論争

50. 論争： ガリレオ
ガリレオ
1. 判決は誤りであった。教会自身はそれを認めている。
2. 異例の判決だったからこそ、その後しばしば引用され
ることとなった。
3. 教会は地動説を問題としていない。実際に、地動説は
ガリレオのずっと前にコペルニクスによって唱えられ
ていた。

51. 論争： ガリレオ
ガリレオ
4. 当時の科学者の過半数は地動説を認めていなかっ
た。裁判官はそのコンセンサスに頼った。
5. 科学にだけ専念して、聖書解釈は専門の神学者に
任せるよう助言されたが、ガリレオは受け入れなか
った。
6. 判決は不当であったそが、彼への待遇は正当であ
った。係争中、彼には適切な宿舎が与えられ、外交
官と共にそこに滞在していた。彼に教壇に立つこと
こそ禁止されたが、彼は大学にはそのまま留まり、
研究を続け、彼の最も重要な研究はこの時期に完成
した。

52. 論争： 進化論
原理主義のプロテスタントの中には進化論を否
定する人がいる。カトリックにとっては、それは最
初から問題になり得ないことである。
「宇宙と人間の起源に関する問いかけは数多く
の科学的探求の対象となり、宇宙の年齢や大き
さ、生物の成長、人間の出現に関する知識を驚
くほど豊かにしました。これらの発言によってわ
たしたちは創造主の偉大さを賛美し、そのあらゆ
るわざと学者や探求者に与えられている知識に
対して神に感謝するよう促されます」 カトリック教
会のカテキズム, 283

53. 論争： 進化論
注意点:
1. カトリックの教えでは、現代人（人間）はみな同じ
2人の祖先から生まれている。
2. 人間は体と霊魂で成り立っている。脳（物質）と
霊的心（霊魂）は違う。体は進化によってできた
としても、霊は神が直接に作った物であるー動
物が進化してできたものではない。
3. 物質、生命、進化のプロセスを主宰するのは神
である。

54. 論争： ES細胞その他.
数年前まで、数多くの研究者（と政治家）はES細胞の
研究を推進していた。教会は重大な倫理問題があると
指摘して反対したため、「反科学」と批判された。そうこ
うしているうちにiPS細胞の技術が確立し、ES細胞を追
及する意味はなくなってしまった。
倫理＝アンチサイエンスというわけではない。

55. 教会は人間の尊厳を擁護するのが務めである。それ
には、時には流行に逆らうようなこともあろう。それで
もこのように倫理基準を思い出させる団体があること
は社会にとって有益であろう。技術的に可能であって
も、科学的に面白くても、倫理的な視点からことの良し
悪しを考えるべきである。科学の最先端というのは、
時として人間の欲望、名声、金儲けにとって、この上な
く魅力的なものとなり得るからである。
論争： ES細胞その他.

56. 参考文献:
1. Stanley Jaki, The Absolute Beneath the Relative, 1988 and
Chance or Reality, 1986, (both) University Press of America
2. Rodney Stark, The Victory of Reason, 2005, NY: Random
House
3. William Shea and Mariano Artigas, ローマのガリレオ―天
才の栄光と破滅, 2005, Oxford University Press
4. Thomas E. Woods, How the Catholic Church Built Western
Civilization, 2005, Regnery Press
5. 50 Nobel Laureates and Other Great Scientists Who Believe
in God, http://nobelists.net/
6. John Paul II, 信仰と理性, 1998, カトリック中央協議会