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多人数インタラクションにおける
「話したい」の発露
参与者固有の非言語行為が醸し出す
発話欲求による駆け引きの分析

09. 14. 2013
日本認知科学会第30回大会
坂井田瑠衣・福士知加・諏訪正樹(慶應義塾大学)
「誰が話すか」という駆け引き
•  多人数インタラクション
ü  3名以上の参与者によるやりとり
ü  次話者が一意に定まらない
Ø 「次に誰が話すか」という駆け引きが発生
                     聞き手
 話し手    聞き手   話し手

話したい…

黙って聞いて
いたい…

    2人会話     多人数会話
多人数インタラクションにおける「話したい」の発露
発話欲求とは
•  発話欲求
ü  会話参与者の「発話したい / したくない」と
いう心的状態
ü  各参与者に固有の非言語行為としてあらわれ
るのではないか?
Ø  全参与者に普遍的な非言語チャネルも存在
–  話者に視線を向けるのは,現話者が自分を次話者として
選択するように仕向ける手段 (榎本, 2003)

Ø  本研究:参与者固有の非言語行為から発話欲求状
態を推定
多人数インタラクションにおける「話したい」の発露
データ収録方法(1)
•  互いに親しい4名の会話を参与観察
•  筆者による参与観察
ü  第一著者:参与者S (M1 / 男)
ü  第二著者:傍観者 (B4 / 女)

•  被験者:3名
ü  F (B4 / 男),U (B4 / 女),H (B4 / 女)
ü  筆者らは被験者の性格を把握
Ø  被験者との関係性において理解可能な解釈を記述
※学年は全て収録当時
多人数インタラクションにおける「話したい」の発露
データ収録方法(2)
•  実験場所:被験者が使い慣れた研究室 (土足禁止)
•  実験回数:異なる座席配置により2度
ü  座席配置による影響を観察
   S       H
 F   U   F   S
   H       U
 <実験1>   <実験2>

    U    H

 S          F

実験1
•  会話内容の教示:なし
•  収録方法:2方向から全員の全身を映像収録

ü  撮影時間:実験1は22分06秒,実験2は23分53秒
多人数インタラクションにおける「話したい」の発露
分析方法
分析
1

参与者の発話欲求チャネルの特定

分析
2

分析
3

参与者の視線配布特性と
発話欲求の関係性分析

参与者間の発話欲求の
相互関係分析

多人数インタラクションにおける「話したい」の発露
分析1

参与者の発話欲求チャネルの特定

多人数インタラクションにおける「話したい」の発露
分析1-方法:
参与者の発話欲求チャネルの特定
•  発話量と非言語行為の共起関係を分析し
チャネルを決定
ü  発話欲求が低いと考えられる非言語行為が観
察された場合に発話量が少ないことを検定
ü  それ以外の場合に発話欲求が高いと判断

多人数インタラクションにおける「話したい」の発露
分析1-結果:各参与者の発話欲求チャネル
•  分析対象
ü  顕著な非言語行為が観察された3名(F,S,U)

•  F:体重移動
ü  変数値:A. 前体重 / B. 垂直 / C. 後ろ体重

•  S:手の位置
ü  変数値:A. 左手-頬
D. その他

/ B. 両手-前 / C. 両手-膝上 /

•  U:手遊び
ü  変数値:A. 手遊び有 / B. 手遊び無
※赤字の変数値は発話欲求が高い
多人数インタラクションにおける「話したい」の発露
分析2

参与者の視線配布特性と
発話欲求の関係性分析
多人数インタラクションにおける「話したい」の発露
分析2-方法:参与者の視線配布特性と
発話欲求の関係性分析
•  他者からの視線を受けて発話欲
求が上がる者がいるのでは?
1.  <分析対象者→他参与者>の 
視線配布時間を算出

分析対象者A

2.
ü  分析対象者が他者を見なければ,  1.
A→B
B→A
他者の視線の影響は少ない
の視線    の視線

2.  <他参与者→分析対象者>の 
視線配布時間を算出
3.  他者からの視線配布時間と  
発話欲求の関係を分析
多人数インタラクションにおける「話したい」の発露

他参与者B
分析2-結果(1):Sから他者への視線配布
•  e.g. Sに関する視線配布時間の分析
•  Sは座席配置を問わずFに視線配布しやすい
  S       H
F   U   F   S
  H       U
<実験1>   <実験2>

•  SはFから視線を向けられると発話欲求が高ま
るという仮説が発生
多人数インタラクションにおける「話したい」の発露
分析2-結果(2):
他者からSへの視線とSの発話欲求
•  Sの発話欲求上昇時について
•  実験1: SはFからの視線に促され発話欲求が上昇
ü  「F→S」&「U→S」:「F→S」が有意に多い (p < .005)

ü  「F→S」&「H→S」:「F→S」が多い (p > .05)
ü  「U→S」&「H→S」:有意差なし (p > .1)
ü  「H→S」「U→S」の合算値&「F→S」:     
「F→S」が有意に多い (p < 0.05)

•  実験2:Sの発話欲求とFからSへの視線配布は無関係
ü  「F→S」&「U→S」:有意差なし (p >.25)
ü  「F→S」&「H→S」:有意差なし (p > .5)
ü  「U→S」&「H→S」:有意差なし (p > .5)
多人数インタラクションにおける「話したい」の発露
分析2-結果(3):
SはFの視線を隣で受けると発話欲求が上昇
  S       H
F   U   F   S
  H       U
<実験1>   <実験2>

•  なぜ正面では発話欲求が高まらないか?
ü  Sの発話欲求が高いのは「左手-頬
Ø  右隣にFがいると「頬
Ø  正面にFがいると「頬

」

」状態になりやすい
」状態になりづらい

ü  他の発話欲求チャネルが表出している可能性
多人数インタラクションにおける「話したい」の発露
分析3

参与者間の発話欲求の相互関係分析

多人数インタラクションにおける「話したい」の発露
分析3-方法:
参与者間の発話欲求の相互関係分析
•  会話データを経過時間に沿って機械的に10等分
•  各区間の発話欲求を高中低の3段階で表記
ü  高:赤,中:黄,低:青

各区間における発話欲求の変動(実験1)
区間

1

2

3

4

5

6

7

F
S
U

多人数インタラクションにおける「話したい」の発露

8

9

10
分析3-結果(1):F⇔Uで移譲される発話欲求
•  実験1:赤色のセルが参与者間で移譲される
ü  区間2: Uの発話欲求が高くなる
ü  区間7∼8: FとSへ発話欲求の高まりが移行

区間

1

2

3

4

5

6

7

F
S
U

多人数インタラクションにおける「話したい」の発露

8

9

10
分析3-結果(2):場を調整するS
•  区間6:FとUの発話欲求がやや下がった時,Sの発話
欲求が初めて高まった
ü  FとUの発話欲求低下を察知し,話者がいない状況を
防ぎたくなり発話欲求を高めた?

•  区間7:Uの発話欲求が再び高まった
ü  Sの調整が奏功し,他者の発話欲求が再上昇した?
区間

1

2

3

4

5

6

7

F
S
U
多人数インタラクションにおける「話したい」の発露

8

9

10
分析3-考察:F,U,Sの発話欲求の相互関係
•  FとUの発話欲求は同時に上昇しない?
ü  FとUは同時に話したいとは思わない?
Ø  実験2では異なる結果,さらなる検討が必要

•  SはFとUの発話欲求が下がると発話欲求を
高めた
ü  3者間において,Sは調整役を担った?
Ø  実験2でも,FとUの発話欲求が下がるとSの発話欲
求が上昇

多人数インタラクションにおける「話したい」の発露
まとめ(分析結果)
•  他者からの視線に影響を受けて発話欲求
を高める者とそうでない者がいる可能性
ü  Sのみ,他者の視線により発話欲求が高まる
様子がみられた

•  発話欲求の駆け引きが観察された
ü  他者の発話欲求状態を察知して自らの発話欲
求を調整?

多人数インタラクションにおける「話したい」の発露
まとめ(方法)
•  発話欲求という観点から,
ü  各参与者のコミュニケーション特性を分析
ü  参与者同士の会話内の関係性を分析

•  各参与者の個人固有性に即した分析方法
•  筆者2名が親しい相手を参与観察
ü  各参与者を日常的に理解しているからこそ解
釈可能な分析
△ 先入観により妥当な解釈が妨げられないよう配慮が必要

多人数インタラクションにおける「話したい」の発露
今後の課題
•  分析方法の妥当性の確保
ü  発話欲求チャネル特定の妥当性
Ø  他参与者への適用可能性
Ø  本実験の分析対象者以外への適用可能性

ü  各参与者内でのチャネルの普遍性を検討
Ø  本実験以外の会話中での妥当性

•  個人固有性を考慮しつつ妥当性の高い体系
的手法の確立をめざす
多人数インタラクションにおける「話したい」の発露

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