模擬ハムバッキング・ピックアップの
弦振動応答
String Vibration Response of Improvised
Hum-backing Pickup
北村 大地 原囿正博
D. Kitamura M.Harazono
香川高等専門学校
Kagawa National College of Technology
はじめに
・電磁型変換器(ピックアップ)を用いて
弦の振動を電気信号に変換
・直流偏倚磁束による負スチフネスの影響から
高次振動成分には非調和性が生じる
・部分音同士の干渉によって弦振動に唸りが発生
・2つのシングルコイル・ピックアップを模擬的に
ハムバッキング・ピックアップとして構成し出力を測定
・弦の任意の2箇所にピックアップが存在する場合の
弦振動を理論解析し出力のシミュレーションを行う
模擬ハムバッキング・ピックアップ
・2つのシングルコイルピックアップを逆の位相で
並列に配置した構造
弦振動によりコイルに流れる電流 : 同相
外部からの電磁結合によるノイズ : 逆相
・ギターの信号のみを倍化し,ノイズをキャンセル
する出力特性を持つ
Hum-backing pickup
Steel string
N
S
S
N
Simulation model
振動系のシミュレーションモデル
・弦の任意の位置 にピックアップを設置
→ 吸引力
・2つの負スチフネスが作用する弦の振動方程式
・ の位置に高さ なる初期変位を与える
),(n0 taySFF mmmtm 







2
1
n02
2
2
2
)},(){(
),(),(
m
mmmm taySFax
x
txy
T
t
txy
 ・・①
max 
Improvised Hum-backing Pickup
8x
x
y 
1a
2a
8
h
h
)2,1( m
1355.01 a
1535.02 a
6305.0
0010.0h
[m]
[m]
[m]
[m]
振動周波数の解析
・特性方程式
・非調和性 Inharmonicity








)(sinsinsin)(
)(sinsinsin)(
22
2n
2
11
1n
1
a
c
a
c
S
c
cH
a
c
a
c
S
c
cH










n







1
2log1200
nf
fn
n
・・②

T
c  :波の伝搬速度
[cent]
)(sinsin)()()( 2
2
1
2
2
2n1n
21 a
c
a
c
SS
HHW  



とおくと
3135.93393135.96063135.93683135.963516
2939.93022939.94252939.95342939.965815
2743.93892743.93902743.96802743.968114
2547.94962547.96202547.95792547.970313
2351.93572351.97042351.93792351.972612
2155.91262155.94602155.94162155.974911
1959.92571959.93471959.96821959.977210
1763.96171763.96381763.97741763.97959
1567.94731567.98031567.94881567.98178
1371.88021371.94341371.92081371.98407
1175.86761175.91361175.94031175.98636
979.9486979.9533979.9838979.98865
783.9700783.9901783.9707783.99094
587.7914587.9103587.8741587.99323
391.5630391.7743391.7844391.99542
195.6103195.7848195.8242195.99771
Ideal
Partial
No.
only 2nS only andn1S
Vibration frequencies affected by 1 or 2 negative stiffness
振動周波数の算出
2nSn1S
Inharmonicities affected by 1 or 2 negative stiffness
非調和性 Inharmonicity
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
Inharmonicity[cent]
16151413121110987654321
Partial No.
Sn1 and Sn2
Sn1 only
Sn2 only
Vibration mode
非調和性 Inharmonicity
Hum-backing pickup
0x x4x
0x x4x
(a) n=4.
(b) n=8.
Hum-backing pickup
Inharmonicities affected by 1 or 2 negative stiffness
非調和性 Inharmonicity
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
Inharmonicity[cent]
16151413121110987654321
Partial No.
Sn1 and Sn2
Sn1 only
Sn2 only
出力のシミュレーション
・弦の変位により誘導される起電力
・エレクトリックギターで使用される第3弦のG3音を
シミュレーションの対象とする
・ハムバッキング・ピックアップの出力特性を再現
→2つのピックアップからの出力を合成する
・磁束計を用いてハムバッキングピックアップの
2つの永久磁石の磁束密度を測定
→負スチフネスの値を予測する
dt
txdy
txy
NU
Em
),(
)},({ 2





R





1
cossin),(
n
n
t
n t
xn
eAtxy n



S01  
8
sin
)(7
128
2


n
n
h
An 
,
,
Measured envelope
シミュレーション結果
Simulated envelope
-300
-200
-100
0
100
200
300
Voltage[mV]
876543210
Time [sec]
300
200
100
0
-100
-200
-300
Voltage[mV]
876543210
Time [sec]
シミュレーション結果
Simulated and measured waveform(0.00-0.05)
Simulated and measured waveform(0.50-0.55)
300
200
100
0
-100
-200
-300
Voltage[mV]
0.550.540.530.520.510.50
Time [sec]
simulated
measured
300
200
100
0
-100
-200
-300Voltage[mV]
0.050.040.030.020.010.00
Time [sec]
simulated
measured
シミュレーション結果
Simulated and measured waveform(1.00-1.05)
Simulated and measured waveform(2.00-2.05)
300
200
100
0
-100
-200
-300
Voltage[mV]
2.052.042.032.022.012.00
Time [sec]
simulated
measured
300
200
100
0
-100
-200
-300Voltage[mV]
1.051.041.031.021.011.00
Time [sec]
simulated
measured
まとめ
・2つのシングルコイル・ピックアップを用いた
模擬ハムバッキング・ピックアップの出力を測定
・2つの負スチフネスの影響を加味した弦の振動
について理論的に解析し,模擬ハムバッキング・
ピックアップの出力シミュレーションを行った
・シミュレーションによる出力波形は高精度で
実測値と一致し,理論解析の妥当性が確認された
今後の課題
・ボディの形状が弦振動に及ぼす影響の解析

模擬ハムバッキング・ピックアップの弦振動応答 (in Japanese)

Editor's Notes

  • #2 それでは,「模擬ハムバッキングピックアップの弦振動応答」と題しまして,香川高専の北村大地が発表させていただきます.
  • #3 はじめに,エレクトリックギターは,ピックアップを用いて,弦の振動を電気信号に変換し,発音する楽器です. このピックアップの永久磁石からの,直流偏倚磁束による負スチフネスの影響を受け,ギターの弦振動の高次振動成分には非調和性が生じます. そしてこの部分音同士の干渉によって,1本の弦振動に対しても唸りが発生します. 今回は,2つのシングルコイルピックアップを用いて,模擬的なハムバッキングピックアップとして構成し,その出力を測定します. また,模擬ハムバッキングピックアップの測定と同じ条件のシミュレーションモデルを立て,弦の2箇所に,ピックアップが存在する場合の弦振動を理論的に解析し,出力のシミュレーションを行いました. そして,測定によって得られた出力とシミュレーション結果の比較検討を行いました。
  • #4 今回模擬的に構成したハムバッキング・ピックアップの構成図を示します.2つのシングルコイルピックアップを逆の位相で並列に並べた構造です. 弦振動によりそれぞれのコイルに流れる電流は同相で検出され,電磁結合によって生じるノイズは逆相で検出されます。 したがって,ハムバッキングピックアップはギターの信号だけを倍化し,ノイズをキャンセルするという出力特性を持っています.
  • #5 次に,ハムバッキングピックアップの振動系のシミュレーションモデルについてご説明いたします. いま,下に示した図のようなシミュレーションモデルを想定します. 弦の任意の位置x=amに,ピックアップを想定した永久磁石があるものと考えます。 金属製の弦を永久磁石がひきつける吸引力Ftmを,静的成分F0mと動的成分にわけて一次式として近似できます。動的成分中のy(am,t)はx=amにおける弦の時間的な変位であり,その係数Snmを負スチフネスと呼びます。 この吸引力が2つの永久磁石の直上のみで作用するように,ディラックのデルタ関数をもちいて表現すると,弦の振動方程式を①式が得られます. 今回のモデルでは,実際にギターを演奏する場合に弦をはじく位置を参考にして,x=ℓ/8の位置をピッキングポイントとし,そこに高さhの初期変位を与えるものとして考えます.
  • #6 振動周波数の解析方法についてご説明いたします. 先ほどの①式はラプラス変換を用いて解くことができます. a1とa2の負スチフネスがそれぞれ単独に作用する場合の特性方程式はH1とH2のように求まります。それぞれの負スチフネスは,弦の振動周波数(右側)に対して,このように作用します。 a1とa2の負スチフネスが同時に作用した場合の特性方程式は単純にH1とH2の積ではなく2式のようになります。 (さらに,非調和性を表す尺度のInharmonicity δnは,このように定義されます. ここで,centという単位についてですが,Inharmonicity値がちょうど100[cent]であった場合,音階でいう半音のずれが生じている,ということを示しています。)
  • #7 こちらは,先ほどの(2)式から,弦に含まれる部分音の振動周波数を第16次まで算出した結果の表です. 表中のIdealは,弦振動に外力の働かない理想的な場合の振動周波数を示しています. さらに,a1とa2の負スチフネスがそれぞれ単独に作用した場合および同時に作用した場合の弦の振動周波数を表に示しています. この結果を見ると,負スチフネスは弦振動の周波数を理想的な場合に比べて低下させていることが分かります.
  • #8 こちらは,a1とa2の負スチフネスがそれぞれ単独に作用した場合および同時に作用した場合の非調和性ついて第16次まで示したグラフになっています. この結果をみると,第4次,第8次,第12次といった,4の整数倍の非調和性が大きな値をとっていることがわかります. これは
  • #9 この図のように,ピックアップの位置が弦長のおよそ1/4であり,4の整数倍の振動成分がノーダルポイント,節となる位置なので,負スチフネスの影響をあまり受けなかったことに起因しています.
  • #10 非調和性は,負スチフネスの影響を最も強く受ける基本周波数を基準としておりますので,影響を受けない振動成分が結果的に高くなります。 また,高次振動成分の非調和性は一定となっていくことがわかります。
  • #11 次に,出力のシミュレーションについてご説明いたします. ピックアップ直上の弦の変位によって,誘導される起電力Emは次のような式になります. 式中のNはピックアップのコイルの巻数,Uは永久磁石の起磁力,分母はピックアップのレラクタンスを,静的成分と動的成分に分けて表しています。このレラクタンスが弦振動によって変化するため,磁束が変化し電圧が発生します。 また,ηは透磁率μ0かける磁極の断面積Sの逆数を示しています。 そして,弦の変位であるy(x,t)は,このフーリエ級数の式で求まります。 γnは第n次部分音の減衰係数です。 また,振幅であるAnはx=l/8に初期変位を与える条件から,次のように近似されます 今回は,エレクトリックギターで使用される,第3弦の開放音であるG3音の出力をシミュレーションの対象とします. また,ハムバッキング・ピックアップの出力特性を再現するため,a1とa2の並列した2つの永久磁石からの出力を合成します. さらに,実際のギターに搭載されているハムバッキングピックアップの,2つの永久磁石に対して,磁束計を用いて磁束密度を測定し,その値から負スチフネスの値を予測してシミュレーションに使用しました.
  • #12 シミュレーションの結果はこのようになっています. 上の波形がシミュレーションによる出力波形であり,下の波形が実際のギターの出力を示しています. この結果を見ると,負スチフネスによる非調和性に起因した唸が,再現できていることがわかります. また,波形全体の大まかなエンベロープを再現できていることも確認できます.
  • #13 こちらは先ほどの出力波形の時間軸を拡大した波形です. 赤色で示したのが実測値,白色がシミュレーション波形となっています. 上の波形が0秒から0.05秒,下の波形が0.5秒から0.55秒のグラフです.
  • #14 さらに,1秒から1.05秒,2秒から2.05秒の波形です. これらの結果を見ると,エレクトリックギターの出力波形は,基本波の非整数倍の部分音が発生しているために,周期性を失い,波形が時間とともに変化していくのが分かります. そして,その波形の時間的な変化を,非常に高い精度で再現できていることが確認できます.
  • #15 まとめといたしまして,今回は2つの負スチフネスの影響を加味した弦の振動について理論的に解析し,擬似ハムバッキングピックアップの出力シミュレーションを行いました. その結果,ハムバッキングピックアップはシングルコイルピックアップに比べ,高出力かつ低雑音であるという出力特性が確認されました。 さらに,ハムバッキングピックアップのシミュレーションによる出力波形は非常に高い精度で実測値と一致し,理論解析の妥当性が確認さました. 今後の課題といたしましては,複数の弦が同時に振動した場合の理論的な解析などについて研究を進めていく予定であります。 以上で発表を終わります.ご静聴ありがとうございました.