ライター・イン・レジデンスについて
Dec, 2013
 檀原 照和(@yanvalou) 
このスライドを見ていただく前に
「ライター・イン・レジデンス」は、個人的に注目している
文化支援制度ですが、日本語圏内の情報はゼロに等し
いのが実情です。
このスライドは自分で調べた情報とインタビューして
集めた情報がベースになっていますが、間違いがある
かも知れません。
内容は必要に応じて更新しますので、御意見をお寄せ下さい。
ライター・イン・レジデンスとはなにか
小説家、詩人、俳人、翻訳家、戯作家、
ノンフィクション作家、絵本作家など
「作家」と呼ばれる人たちの創作を援助
するシステム。
*英語の“writer”と日本語の「ライター」はニュアンスが異なります。
  “writer”は日本語で言うところの「作家」に相当する言葉です。
日本には
「文豪が温泉宿で長逗留し、新作を書き下ろす」
という習慣がありましたが、
それを公的に助成する仕組みだと考えれば良いで
しょう。
現代的な意味でのライター・イン・レジデンスが
始まったのは、1967年。
アイオワ大学創作学科の「国際創作プログラム
(IWP)」が最初。
これまでに1,400名以上の作家が参加。
作家(ライター)がレジデンス制度を利用する場合
・ライター・イン・レジデンスに参加
・アーチスト・イン・レジデンス(AIR)に参加……後述
の二通りの方法が考えられる。
 *ただし現状、国内での参加は不可能に近い。
   海外のプログラムに参加する必要がある。
アーチスト・イン・レジデンスとはなにか
IWP開始とほぼ同じ時期、つまり1960年代から70年代
にかけて、
欧米において「アーチスト・イン・レジデンス(AIR)」
というシステムが誕生。
ライター・イン・レジデンスのアーチスト・バージョン。
設立や運営の理念は同じ。
 

▼
 

AIRの登場により、
芸術家が異なった文化や環境に長期滞在し、刺激を
受けながら創作活動を行なうことが容易に。
芸術家のノマド的活動が一般化。
主催団体のちがい
ライター・イン・レジデンスの場合
→大学主催のプログラムが多いが、NPO などが主催する小さなプログラムもある

アーチスト・イン・レジデンスの場合
→主催団体は多岐に渡る
  各種財団、NPO、美術館、アーチストの個人運営、自治体の第三セクター etc.
AIRの先駆けは、ベルリンの「キュンストラーハウス・
ベタ二エン」。
かつて病院だった廃墟を美術学生や若いアーティスト
たちが不法占拠してアトリエに。
州政府がこの動きを容認し、キュンストラーハウス
(芸術家の家)として供したのがはじまり。
AIRのルーツは、王政時代に遡る。
外国滞在するアーティストに宿泊先と奨学金を用意する制度は、
フランス人が確立。
1666年、フランスの王立アカデミーがローマのヴィラ・メディチ
(メディチ家の別荘)を買い取り、「ローマ賞(Prix de Rome)」を
受賞したフランスの画家、銅版画家、彫刻家、建築家や作曲家
が、ローマで数年間滞在できるように便宜を図ったのが最初。
近世以前の日本にも、地方の富豪や豪農、寺社
仏閣が文人墨客を庇護し、
食客として自宅などに逗留させる文化があった
ex.
初代広重@甲府(大富豪・大木家の招き)
松尾芭蕉@栃木県大田原市の黒羽(浄法寺高勝、
鹿子畑豊明からの厚遇)
etc.
近代以降の事例
・北大路魯山人
1910年に長浜の素封家・河路豊吉に招かれ、書や篆刻の制作に打
ち込む環境を提供される

・イサム・ノグチと山口淑子夫妻
北大路魯山人が星岡窯(北鎌倉・山崎)に寄寓させる

・芥川龍之介
武生(福井県越前市)の大井家で歓待され、二ヶ月間逗留

・インドの詩人タゴール
横浜の富豪・原三渓(富太郎)の世話で横浜・本牧の三渓園に寄宿
etc.
明治、大正、昭和初期の創作支援
・温泉旅館での長逗留
・有力商人からの庇護
 ▼
 しかし、現在、こういった事例は聞かない
では、それに替わるものはあるのか?
現代美術、舞台芸術、音楽、建築、伝統芸能等、映画、
マルチメディアアートなどであれば AIR や各種文化財団
による助成金提供、文化庁による支援などを受けること
が出来る
AIR の国内事例
・トーキョーワンダーサイト青山(東京)
・3331 Open Residence(東京)
・秋吉台国際芸術村(山口)
・国際芸術センター青森(青森)
・神山アーティスト・イン・レジデンス(徳島)
・ ARCUS Project(茨城)……国内最初のAIR
etc
国内には30以上の施設があるとされ、増加傾向にある
しかし、日本では文学は AIR の対象外。
つまはじきにされている。
(日本では文学はアートに含まれない)
海外では文学もアートの1ジャンルとして扱われる
作家(ライター)を受け入れてくれる海外のAIR
・Yaddo(アメリカ)
・The Banff Centre(カナダ)
・Cite-internationale-des-arts(フランス)
・Akademie Schloss Solitude(ドイツ)
・Artist-in-Residence Taipei (台湾)
・RED GATE artists and writers residency Beijing
International(中国)
 etc.
文学専門のレジデンス・プログラムの事例
(ライター・イン・レジデンス)

ベルナ(オーストラリア)

サンガムハウス(インド)
文豪の家をレジデンス施設にした事例も

アーネスト・ヘミングウェイ・ファンデーション
・オブ・オークパーク(旧ヘミングウェイ邸)

ケルアック・ハウス(旧ジャック・ケルアック邸)

土地レジデンシー(旧朴景利邸)
ライター・イン・レジデンスの総数は不明。
正確な統計も存在しないと思われる。
アメリカに関して言えば、大きいプログラムが10〜15くらい。
小さなものに関しては知られていないものも多く、「無数」としか言えない。
全世界のプログラム数に関しても推測するしかないが、
3桁に達することはまちがいないと思われる。
レジデンス・プログラムの規模
▼
主催団体の経済力によって様々

l

一度に1人滞在の小さな所もあれば、100人程度集まる大きな所もある

l

大きいところが良いとは限らない。

l

→小さな所はディレクターが親身になって世話してくれる

l

→大きな所では、逆に孤独を感じる場合も

l

小さな所であれば、家族や友人などゲストを泊めることができる場合も

l

ある程度の大きなプログラムの場合、小さな子供を同行させられるケースも

l

大きなプログラムに参加すると、人脈が拡がる
金銭面でのメリット
参加費を払って参加するプログラムと給付金を支払ってくれるプログラム
→給付金支給のプログラムは競争率が高い
→奨学金を用意してくれるケースや施設内でアルバイトできるケースも
→リッチなプログラムの場合、留守中の日本のアパート代を立て替えてくれる例も

*費用が掛かるプログラムへの参加を受理された場合、
  レジデンスプログラムとは無関係な財団から助成金を支給してもらい、
  参加費を工面するという方法が広く行われている。
 (ただし国内には、文学関係者がこの手法を使った前例はないと思われる)
参加者側から見たライター・イン・レジデンスの問題点と特異点


審査があるので、誰でも利用できるわけではない



審査員が年配者より若者を選ぶ傾向がある



実績よりも提出物で審査する傾向がある



せっかく制作環境を用意してもらっても、創作が進むとは限らない



 (不慣れな環境に適応できない人もいる)



単身者向けの制度なので、小さな子供がいると利用しづらい



 (結婚している場合、単身赴任になる)



英語もしくは滞在先の現地語が出来なければならない



提出資料を英語もしくは現地語で作る必要がある



地方自治体が主催する場合、制度を地域の利益に還元しようとするあまり、



経済指数で損得勘定したり、アーチストを道具のように使うケースがある
●情報収集のためのサイト
#Q&A Writer-in-Residence ¦ Trans Artists
http://www.transartists.org/article/qa-writer-residence
#Res Artis
http://www.resartis.org/en/
#Asia Pacific Writers (AP Writers)
http://apwriters.org/
#NCW--Writers’ Colonies
http://mockingbird.creighton.edu/ncw/colonies.htm
#Asia Writes
http://www.asiawrites.org/
米国内でのライター・イン・レジデンス情報の入手

雑誌“Poets & Writers”誌(隔月刊)
 ↑
毎年春、レジデンス特集が組まれる
http://www.pw.org/
「公募ガイド」的な性格の文芸誌
“Writer's Digest”にもレジデンス情報が。
http://www.writersdigest.com/
ライター・イン・レジデンスに参加した日本人作家たち
〜アイオワ大学創作学科・国際創作プログラム(IWP)参加者〜


吉増剛造



田村隆一



白石かずこ



吉原幸子



中上健次



平出隆



水村美苗



島田雅彦



野村喜和夫



吉田恭子
#井上ひさし
1976 オーストラリア国立大学(ANU)日本語学科
#村上春樹
1991 プリンストン大学(ニュージャージー)
2005-2006ハーバード大学(ボストン)
#多和田葉子
1999 マサチューセッツ工科大学(MIT)外国語・外国文学学科
#野村喜和夫
2005 アイオワ大学創作学科・国際創作プログラム(IWP)
2003 Château de Lavigny International Writers’ Residence
    →「作家の家」(スイス・ローザンヌ近郊)
#吉田恭子
2005 アイオワ大学創作学科・国際創作プログラム(IWP)
2007 ブラウン大学
# 永井真理子
2010,11,12 アカデミー・シュロス・ソリチュード(ドイツ)
2009 Yaddo(ニューヨーク州)
2009 ロックフェラーセンター主催のベラジオセンター(北イタリア)
など約20箇所でレジデンスを経験
日本国内での事例
見逃しもあるかも知れないが、調べた限りでは下記の1例のみ
#川崎昌平
2009 寿オルタナティブ・ネットワーク(横浜) 
アーチスト・イン・レジデンスに小説家として参加。
「寿にて」という小説を上梓。

*川崎氏は小説家/ライターであるのと同時に、現代美術作家でもある。
上記レジデンスに参加したときは、小説の発表の他、インスタレーションの展示も行った。
ライター・イン・レジデンスを日本に紹介し、根付かせることは出来ないか?
出版不況
▼
版元から書き手へのサポートは薄い
欧米圏であれば契約作家への前渡し制度もある
▼
日本にはそれもない
日本も作家へのサポートを篤くすべきではないだろうか。
現に現代アートや舞台芸術、音楽、古典芸能などは
さまざまな助成制度の恩恵を受けている。
文学へのサポートがない理由
私が文化庁へ取材したところ、理由は単純だった。

「文学の側からの要請が一度としてなかったから」
▼
  芸術への助成は舞台芸術が皮切りだったが、文学以外のジャンルは
  ジャンルを代表する団体が再三支援要請をしてきた。
  文化庁は、その要請を受けて毎年助成を行っている。
▼
 文学界は一度も支援要請をしてきたことがないので、助成の実績はない 
 
日本でもライター・イン・レジデンスをはじめとする書き手へのサポートを期待したい
欧米では、ウィキペディア執筆編集者のための

「ウィキペディアン・イン・レジデンス」も存在

▼
作家への支援は、

ブロガーや電子書籍作家への支援にも
つながる重要な一里塚となりうる
参考となりうる資料
・水村美苗・著「日本語が滅びるとき」第1章(筑摩書房)
・「美術手帳」1998年3月号(レジデンス特集)
・サムワンズガーデン・監修「世界の、アーティスト・イン・レジデンスから」(ビー・エヌ・エヌ新社)
・アーティスト・イン・レジデンス研究会「アーティスト・イン・レジデンスAIR研究会報告書 (’93-’95) 」
・水声通信 -Web Version- http://www.suiseisha.net/tsushin/vol02/nomura01.html
Happy Writing Life

Thank You.

ライター・イン・レジデンスとはなにか