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さつ

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ろん

入 菩 薩 行 論
菩 薩 の 生 き 方 へ の 手 引
(Bodhisattvacharyavatara : A Guide to the Bodhisattva's Way of Life)
寂天菩薩 (Acharya Shantideva) 著 土山仁士 現代超訳

第八品 靜慮

(第八章 瞑想[3])

69.欲如傷己器 何故令鋒利 自迷癡狂徒 嗚呼滿天下
自分を傷つけてしまう武器を欲しがり、なぜ刃物の先を研磨するのでしょうか?自分
自身が混乱している愚かで狂った人たちが、何と多くこの世界に満ちているのでしょ
う!
【】

70.寒林唯見骨 意若生厭離 豈樂活白骨 充塞寒林城
墓地でただ骨を見て、汚れた現世を嫌い離れたい気持ちがもし生じるなら、生身の
白骨が墓地の街に満ちふさがっていることがどうして楽しいでしょうか?
【】

71.復次女垢身 無酬不可得 今生逐塵勞 後世遭獄難
更には、この女の垢だらけの体は、ただでは得ることができず、この世でそれを得よ
うとして精を尽くして争い、後の世では地獄の困難に遭遇します。
【】

72.少無生財力 及長怎享樂 財積壽漸近 衰老欲何為
幼少の頃は財力を生み出せず、若者になってどうして享楽にふけることができるで
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を欲するのでしょうか?
【】

73.多欲卑下人 白日勞務疲 夜歸氣力盡 身如死屍眠
欲深く卑しい人は、日中は労働で疲れ果て、夜は気力が尽きて帰宅し、体は死体の
ように眠りにつきます。
【】

2013
reserved.
Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
74.或需赴他鄉 長途歷辛勞 雖欲會嬌妻 終年不相見
一方では、他の土地へ赴く必要があり、長旅が辛く精が尽きて疲れ、恋しい妻に会
いたくても、一生対面することができない人もいます。
【】

75.或人為謀利 因愚賣身訖 然利猶未得 空隨業風去
ある人は利益追求のため、愚かにも自分の身を売ったにも拘わらず、未だに利益を
得ることができず、空しく他人の行動という風に振り回されます。
【】

76.或人自售身 任隨他指使 妻妾縱臨產 荒郊樹下生
また、ある人は自分の身を売り、他人に身を任せて指図に従い、たとえ妻が出産す
る場合でも、荒れた郊外の木の下で子供を産まなけばなりません。
【】

77.欲欺凡夫謂 求活謀生故 慮喪赴疆場 為利成傭奴
欲望に欺かれた愚かな人は、生きるために生計を立てようとしますので、死を憂慮
するものの戦場へ赴き、利益のために雇われ奴隷になる人もいます。
【】

78.為欲或喪身 或豎利戈尖 或遭短矛刺 乃至火焚燒
また、貪欲から自分の体を切り売りする人もいれば、尖ったほこを自分に突き立て
る人もいて、短剣で自分を刺す人もおり、更には自分を火で燃やす人もいます。
【】

79.歷盡聚守苦 方知財多禍 貪金渙散人 脫苦遙無期
一つ一つ集め守った物を失う苦しみを通して、富は多くの禍を伴うことを知るべきで、
貪ったお金に気を取られている人は、苦しみからの解脱は遥か彼方へ遠のくでしょ
う。
【】

80.貪欲生眾苦 害多福利少 如彼拖車牲 唯得數口草
貪欲は人々に苦しみを生じさせ、害が多くて福徳は少なく、車を引く家畜のように、
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【】

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81.彼利極微薄 雖畜不難得 為彼勤苦眾 竟毀暇滿身
彼らの利益は極めて微々たるもので、家畜でも難なく得られますが、自分達の行為
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【】

82.諸欲終壞滅 貪彼易墮獄 為此瞬息樂 須久歷艱困
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84.思惟地獄苦 始知諸欲患 非毒兵器火 險敵所能擬
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85.故當厭諸欲 欣樂阿蘭若 離諍無煩惱 寂靜山林中
ですから、諸々の欲望を嫌って離れるのは当然であり、静かで修行に適する場所を
悦びます。いさかいから離れて煩悩はなく、寂しく静かな山林の中にいます。
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86.皎潔明月光 清涼似檀香 傾洩平石上 如宮意生歡
清らかに明るく輝く月光は、香木の香りのように清涼であり、平らな石の上を斜めに
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【】

林風無聲息 徐徐默吹送 有福瑜伽士 踱步思利他
林の風は響くことなく、徐々に静かに吹いて、幸福なヨーガ行者は、ゆっくりと歩きな
がら他を利することを思考します
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2013
87.空舍岩洞樹 隨時任意住 盡捨護持苦 無忌恣意行
岩の洞窟と樹木で作った空虚な小屋で、好きな時に気ままに住み、大切に守り保っ
ている苦しみを捨てきって、嫌がることなく自分の思うままに行動します。
【】

88.離貪自在行 誰亦不相干 王侯亦難享 知足閒居歡
貪欲から離れて自由自在に行動し、誰とも互いに干渉しませんので、王侯貴族です
らこのような満足で何もすることのない歓びを享受することは難しいでしょう。
【】

89.遠離諸塵緣 思彼具功德 盡息諸分別 觀修菩提心
塵のような諸々の縁から遠ざかり、功徳を積むことを考えながら、諸々の分別を身
につけて、菩提心についての分析瞑想をします。
【】

90.首當勤觀修 自他本平等 避苦求樂同 護他如護己
第一に、勤勉な分析瞑想をすべきであり、自他とも本質的に平等で、苦しみを避け
幸福を望むことは同じですので、自分を守るように他を守るべきです。
【ここで言う平等とは、お金や権力や地位や名誉のような二次的なものではなく、肉
体的、感情的、精神的に人間として根本的に同一であるという意味である。この平
等感を持つことができれば、自己中心的な心や破壊的感情を抑制でき、煩悩による
苦しみを減少させることができる】

91.手足肢雖眾 護如身則同 眾生苦樂殊 求樂與我同
生きとし生けるものには手や足や四肢がありますが、護るべき体としては同じであり、
生きとし生けるものの苦楽は異なっても、幸福を求めることは私と同じです。
【全ての感性を持つ生きものは、苦しみを望むものはおらず、幸福になることを願っ
ている。従って、苦しみを克服し、幸福になることは全ての感性を持つ生きものの
権利であって、何ものも犯してはならない。自分だけ特別だと思う心が残っていると、
自分さえ良ければ他はどうなっても構わないという利己心により、あらゆる煩悩が
生じて苦しみから抜け出せなくなる】

92.雖吾所受苦 不傷他人身 此苦亦當除 執我難忍故
たとえ、私が苦しみを受けるとしても、他人の身を傷つけることはなく、この苦しみを
取り除くのは当然ですが、自分に執着していると耐えがたくなります。

2013
Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
【自分への執着は、自分を守ってくれるように見えるので良いものだと錯覚しやすい
が、偏っていて視野が狭く自己中心的なので、自分の思い通りにならないと怒りに
変わり常に苦しむことになる】

93.如是他諸苦 雖不臨吾身 彼苦仍應除 執我難忍故
同様に、他人の諸々の苦しみは、吾が身に降りかかることはなく、他人の苦しみを
取り除いてあげるべきですが、自分に執着していると耐えがたくなります。
【この場合は、自分への執着により他人の苦しみに無関心となり、どうして他人の苦
しみを自分が引き受けなければならないのかに納得がいかず、苦しむことになる】

94.我應除他苦 他苦如自苦 我當利樂他 有情如吾身
他人の苦しみを自分の苦しみと思って、私は他人の苦しみを取り除いてあげるべき
であり、感情を持つものを吾が身と思って、私は他を利し幸せにするのが当然です。
【相手の立場になって考え、相手に幸福をもたらそうとする行為は、思いやりの実践
そのものであり、自分への執着を捨てきらないと不可能である】

95.自與他雙方 求樂既相同 自他何差殊 何故求獨樂
自分も他人も双方が幸福を望んでいるのは同じであり、自分に他人とどのような差
が特別にあるというのでしょうか?なぜ、自分だけ幸福を望むのでしょうか?
【自分だけの幸福を望む執着、傲慢、強欲といった自己中心的な心こそ苦しみの原
因であり、その根源には自分は特別だと思っている「平等」又は「相互依存」の無知
がある。そして、自己中心的な心は、怒り、憎しみ、恐れ、嫉妬、悲しみ等の破壊的
感情を発生させる】

96.自與他雙方 惡苦既相同 自他何差殊 何故唯自護
自分も他人も双方が苦しみを嫌うのは同じであり、自分に他人とどのような差が特
別にあるというのでしょうか?なぜ、自分だけ護るのでしょうか?
【自分だけ護るのは、自分だけ苦しみから逃れて幸福になればいいという、自己中
心的な執着、傲慢、強欲がある証拠である】

97.謂彼不傷吾 故不護他苦 後苦不害今 何故汝防護
他人の苦しみは自分に危害を加えないので、他人を苦しみから護らないと言うなら、
将来の苦しみは今危害を加えないのに、なぜあなたは防護するのでしょうか?
【】

98.若謂當受苦 此誠邪思惟 亡者他體故 生者亦復然
2013
Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
もし、苦しみを受けるのが当然だと言うなら、それは誠にまっとうでない思考であり、
死んだ者は他の体であるが故に、生れる者もまた他の体なのです。
【現世の体と来世の体は別のものであるので、現世の行為の結果を来世でのみ受
けるというのは誤った思考であるということか?もし、現世の行為の結果が来世で
しか出ないなら、悪行が増えるに違いない。従って、現世の行為の結果は現世でも
出ると警鐘を鳴らしているに違いない】

99.若謂自身苦 應由自防護 足苦非手苦 何故手護足
もし、自分自身が苦しんでいると言うなら、自ら防護すべきであり、足の苦しみは手
の苦しみではないのに、なぜ手が足を護らねばならないのでしょうか?
【他人の苦しみは他人が防護すれば良くて、関係のない私が防護してあげる必要は
ないとの冷たい自分勝手な主張】

2013年5月8日 土山仁士

2013
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  • 2. 74.或需赴他鄉 長途歷辛勞 雖欲會嬌妻 終年不相見 一方では、他の土地へ赴く必要があり、長旅が辛く精が尽きて疲れ、恋しい妻に会 いたくても、一生対面することができない人もいます。 【】 75.或人為謀利 因愚賣身訖 然利猶未得 空隨業風去 ある人は利益追求のため、愚かにも自分の身を売ったにも拘わらず、未だに利益を 得ることができず、空しく他人の行動という風に振り回されます。 【】 76.或人自售身 任隨他指使 妻妾縱臨產 荒郊樹下生 また、ある人は自分の身を売り、他人に身を任せて指図に従い、たとえ妻が出産す る場合でも、荒れた郊外の木の下で子供を産まなけばなりません。 【】 77.欲欺凡夫謂 求活謀生故 慮喪赴疆場 為利成傭奴 欲望に欺かれた愚かな人は、生きるために生計を立てようとしますので、死を憂慮 するものの戦場へ赴き、利益のために雇われ奴隷になる人もいます。 【】 78.為欲或喪身 或豎利戈尖 或遭短矛刺 乃至火焚燒 また、貪欲から自分の体を切り売りする人もいれば、尖ったほこを自分に突き立て る人もいて、短剣で自分を刺す人もおり、更には自分を火で燃やす人もいます。 【】 79.歷盡聚守苦 方知財多禍 貪金渙散人 脫苦遙無期 一つ一つ集め守った物を失う苦しみを通して、富は多くの禍を伴うことを知るべきで、 貪ったお金に気を取られている人は、苦しみからの解脱は遥か彼方へ遠のくでしょ う。 【】 80.貪欲生眾苦 害多福利少 如彼拖車牲 唯得數口草 貪欲は人々に苦しみを生じさせ、害が多くて福徳は少なく、車を引く家畜のように、 ただ数口の草しか得られません。 【】 2013 reserved. Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
  • 3. 81.彼利極微薄 雖畜不難得 為彼勤苦眾 竟毀暇滿身 彼らの利益は極めて微々たるもので、家畜でも難なく得られますが、自分達の行為 に苦しんでいる人々は、ただ余暇を無駄にし肉体を満たしているだけです。 【】 82.諸欲終壞滅 貪彼易墮獄 為此瞬息樂 須久歷艱困 諸々の欲望は壊滅に終わり、貪欲な人は地獄に堕ちやすく、この瞬間的な快楽の ために、久しく困難極まる苦しみを経なければなりません。 【】 83.彼困千萬分 便足成佛道 欲者較菩薩 苦多無菩提 悟りを開く方法について、彼らははなはだ困り果て、貪欲な者は菩薩と比較すると、 苦しみが多いだけで悟りを開けません。 【】 84.思惟地獄苦 始知諸欲患 非毒兵器火 險敵所能擬 地獄の苦しみを考えると、諸々の欲望は患いだと分かり出し、毒、兵器、火、険しい 所、敵などとは引き比べることができないほどです。 【】 85.故當厭諸欲 欣樂阿蘭若 離諍無煩惱 寂靜山林中 ですから、諸々の欲望を嫌って離れるのは当然であり、静かで修行に適する場所を 悦びます。いさかいから離れて煩悩はなく、寂しく静かな山林の中にいます。 【】 86.皎潔明月光 清涼似檀香 傾洩平石上 如宮意生歡 清らかに明るく輝く月光は、香木の香りのように清涼であり、平らな石の上を斜めに 照らし、宮殿のように歓びが湧いてきます。 【】 林風無聲息 徐徐默吹送 有福瑜伽士 踱步思利他 林の風は響くことなく、徐々に静かに吹いて、幸福なヨーガ行者は、ゆっくりと歩きな がら他を利することを思考します 【】 Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved. 2013
  • 4. 87.空舍岩洞樹 隨時任意住 盡捨護持苦 無忌恣意行 岩の洞窟と樹木で作った空虚な小屋で、好きな時に気ままに住み、大切に守り保っ ている苦しみを捨てきって、嫌がることなく自分の思うままに行動します。 【】 88.離貪自在行 誰亦不相干 王侯亦難享 知足閒居歡 貪欲から離れて自由自在に行動し、誰とも互いに干渉しませんので、王侯貴族です らこのような満足で何もすることのない歓びを享受することは難しいでしょう。 【】 89.遠離諸塵緣 思彼具功德 盡息諸分別 觀修菩提心 塵のような諸々の縁から遠ざかり、功徳を積むことを考えながら、諸々の分別を身 につけて、菩提心についての分析瞑想をします。 【】 90.首當勤觀修 自他本平等 避苦求樂同 護他如護己 第一に、勤勉な分析瞑想をすべきであり、自他とも本質的に平等で、苦しみを避け 幸福を望むことは同じですので、自分を守るように他を守るべきです。 【ここで言う平等とは、お金や権力や地位や名誉のような二次的なものではなく、肉 体的、感情的、精神的に人間として根本的に同一であるという意味である。この平 等感を持つことができれば、自己中心的な心や破壊的感情を抑制でき、煩悩による 苦しみを減少させることができる】 91.手足肢雖眾 護如身則同 眾生苦樂殊 求樂與我同 生きとし生けるものには手や足や四肢がありますが、護るべき体としては同じであり、 生きとし生けるものの苦楽は異なっても、幸福を求めることは私と同じです。 【全ての感性を持つ生きものは、苦しみを望むものはおらず、幸福になることを願っ ている。従って、苦しみを克服し、幸福になることは全ての感性を持つ生きものの 権利であって、何ものも犯してはならない。自分だけ特別だと思う心が残っていると、 自分さえ良ければ他はどうなっても構わないという利己心により、あらゆる煩悩が 生じて苦しみから抜け出せなくなる】 92.雖吾所受苦 不傷他人身 此苦亦當除 執我難忍故 たとえ、私が苦しみを受けるとしても、他人の身を傷つけることはなく、この苦しみを 取り除くのは当然ですが、自分に執着していると耐えがたくなります。 2013 Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
  • 5. 【自分への執着は、自分を守ってくれるように見えるので良いものだと錯覚しやすい が、偏っていて視野が狭く自己中心的なので、自分の思い通りにならないと怒りに 変わり常に苦しむことになる】 93.如是他諸苦 雖不臨吾身 彼苦仍應除 執我難忍故 同様に、他人の諸々の苦しみは、吾が身に降りかかることはなく、他人の苦しみを 取り除いてあげるべきですが、自分に執着していると耐えがたくなります。 【この場合は、自分への執着により他人の苦しみに無関心となり、どうして他人の苦 しみを自分が引き受けなければならないのかに納得がいかず、苦しむことになる】 94.我應除他苦 他苦如自苦 我當利樂他 有情如吾身 他人の苦しみを自分の苦しみと思って、私は他人の苦しみを取り除いてあげるべき であり、感情を持つものを吾が身と思って、私は他を利し幸せにするのが当然です。 【相手の立場になって考え、相手に幸福をもたらそうとする行為は、思いやりの実践 そのものであり、自分への執着を捨てきらないと不可能である】 95.自與他雙方 求樂既相同 自他何差殊 何故求獨樂 自分も他人も双方が幸福を望んでいるのは同じであり、自分に他人とどのような差 が特別にあるというのでしょうか?なぜ、自分だけ幸福を望むのでしょうか? 【自分だけの幸福を望む執着、傲慢、強欲といった自己中心的な心こそ苦しみの原 因であり、その根源には自分は特別だと思っている「平等」又は「相互依存」の無知 がある。そして、自己中心的な心は、怒り、憎しみ、恐れ、嫉妬、悲しみ等の破壊的 感情を発生させる】 96.自與他雙方 惡苦既相同 自他何差殊 何故唯自護 自分も他人も双方が苦しみを嫌うのは同じであり、自分に他人とどのような差が特 別にあるというのでしょうか?なぜ、自分だけ護るのでしょうか? 【自分だけ護るのは、自分だけ苦しみから逃れて幸福になればいいという、自己中 心的な執着、傲慢、強欲がある証拠である】 97.謂彼不傷吾 故不護他苦 後苦不害今 何故汝防護 他人の苦しみは自分に危害を加えないので、他人を苦しみから護らないと言うなら、 将来の苦しみは今危害を加えないのに、なぜあなたは防護するのでしょうか? 【】 98.若謂當受苦 此誠邪思惟 亡者他體故 生者亦復然 2013 Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.
  • 6. もし、苦しみを受けるのが当然だと言うなら、それは誠にまっとうでない思考であり、 死んだ者は他の体であるが故に、生れる者もまた他の体なのです。 【現世の体と来世の体は別のものであるので、現世の行為の結果を来世でのみ受 けるというのは誤った思考であるということか?もし、現世の行為の結果が来世で しか出ないなら、悪行が増えるに違いない。従って、現世の行為の結果は現世でも 出ると警鐘を鳴らしているに違いない】 99.若謂自身苦 應由自防護 足苦非手苦 何故手護足 もし、自分自身が苦しんでいると言うなら、自ら防護すべきであり、足の苦しみは手 の苦しみではないのに、なぜ手が足を護らねばならないのでしょうか? 【他人の苦しみは他人が防護すれば良くて、関係のない私が防護してあげる必要は ないとの冷たい自分勝手な主張】 2013年5月8日 土山仁士 2013 Copyright © 2013, Hitoshi Tsuchiyama. All rights reserved.