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2022/11/5
1
第一種感染症指定医療機関
における感染対策と最新治療
- 感染症科医の立場から –
第36回日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会秋季大会(2022.11.5-11.6)
神戸市立医療センター中央市民病院
感染症科 黒田浩一
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
利益相反(COI)開示
発表者名:黒田浩一
発表に関連し開示すべき利益相反関係
にある企業・団体等はありません。
第36回日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 秋季大会
本日の内容
• 現在問題となっている変異株(オミクロン)
• 第一種感染症指定医療機関における感染症科医の役割
• オミクロン流行期の院内・院外での感染対策
• COVID-19の最新治療(軽症~中等症I)
現在問題となっている変異株
- オミクロン -
オミクロン:第6-7波の原因
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/entire/ [2022.10.25最終アクセス]
α
δ
ο
2021.2.17- 医療従事者に接種開始
2021.3- アルファの流行
2021.4.12- 高齢者への接種開始
2021.6- デルタの流行
2022.1- オミクロン流行BA.1
2022.3- オミクロン流行BA.2
2022.7- オミクロン流行BA.5
第7波
• 2021年11月24日:南アフリカではじめて報告された変異株(variant)
• 基準株と比較して、スパイク蛋白に30か所程度のアミノ酸置換を有し、3か
所の小欠損と1か所の挿入部位をもつ
• 主な変異:N501Y、E484A、G142D、G339D、S371L、S373P、S375F、
S477N、T478K、Q493K、G496S、Q498R、Y505H 、P681H
• 感染伝播性 ワクチン効果 モノクローナル抗体の効果
SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第5報)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10876-sars-cov-2-b-1-1-529.html
オミクロンBA.1のアミノ酸置換
2022/11/5
2
オミクロンBA.1の特徴のまとめ
• 感染伝播性がデルタより2~3倍高く、倍加時間・世代時間・発症間隔・潜伏期間
(約3日)がデルタより短い→急速に感染が拡大しやすい
• 入院リスク・死亡リスクは、デルタより低い(30-50%程度)
• 症状は、咽頭痛が多く、味覚嗅覚障害が少ない。肺炎は少ない。
• カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ®:抗体カクテル療法)が無効である
• mRNAワクチンによる感染予防効果が低下した。重症化予防効果は、比較的高く維
持されているが、デルタに対する効果と比較すると低い。
オミクロンの重症度が低い理由
•ウイルスそのものの特性
- 肺炎を起こす頻度・重症度が低い
•ワクチン接種率が高い状況で流行した
•既感染率が高い状況で流行した(特に欧米・南ア)
ICUからプライマリケアへ
• 第6-7波では、ほとんどの患者が軽症であり、COVID-19の
診療の中心は、それまでの集中治療室から外来と中等症病
床へと移行し、プライマリケア医(内科・耳鼻咽喉科・小
児科などの診療所、病院勤務の総合内科医・病院総合診療
医)の果たす役割が大きくなった。
各亜系統について
-2022年3月以降の状況-
変異株の変遷(BA.2→BA.5)
•BA.2系統への置換(2022年3月~)
•BA.2系統の特徴
•BA.4/BA.5系統(2022年7月~)
•BA.2.75系統、BA.4.6系統
•BQ.1.1系統、XBB系統(今後?)
BA.2系統:2022年3月~
• 2022年2月時点で、デンマーク・英国・南アフリカで増加
• 2022年3月下旬以降、日本でも増加傾向となり主流となった
• 実効再生産数:BA.1の1.18-1.4倍
• mRNAワクチンの効果は、BA.1に対する効果と同等
• ソトロビマブのin vitro活性が低下している
• 入院リスク・重症化リスクと死亡リスクは、BA.1と同等
Cell. 2022 Jun 9;185(12):2103-2115.e19. doi: 10.1016/j.cell.2022.04.035.
SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第8報)(2022.2.16)[accessed on 3/3/2022]
medRxiv 2022.02.17.22271030; doi: https://doi.org/10.1101/2022.02.17.22271030 [accessed on 3/3/2022]
SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 38 (11 March 2022)
2022/11/5
3
BA.4/BA.5系統
• 南アフリカ・欧州で、2022年4-5月以降、増加傾向となった
• 日本では2022年6月以降BA.5が増加傾向となり、第7波の原因となった
• BA.2より高い感染伝播性?
• 免疫回避(ワクチンや感染によって誘導された免疫への抵抗性)> BA.2
• 入院リスクはBA.2より1.69倍高い
• COVID-19ワクチンの効果は、BA.2に対する効果とほぼ同等~やや低い
• tixagevimab/cilgavimab(高用量)と抗ウイルス薬の活性はある
Lancet Infect Dis. Published:October 18, 2022.
DOI:https://doi.org/10.1016/S1473-3099(22)00595-3
bioRxiv 2022.05.26.493539;
doi: https://doi.org/10.1101/2022.05.26.493539
medRxiv 2022.07.25.22277996; doi: https://doi.org/10.1101/2022.07.25.22277996
N Engl J Med. 2022 Jul 20. doi: 10.1056/NEJMc2207519.
BA.2.75系統(ケンタウロス)
• BA.2系統の亜系統で、2022年6月2日にインドで最初に報告、インド・ネパール・シンガ
ポールで増加した。スパイク蛋白にG339H、G446S、N460Kなどの変異を有している。
• 実効再生産数は、BA.5より高い(1.13倍)という報告がある
• 免疫逃避は、BA.2と同等で、BA.5より弱い
• その他のオミクロン亜系統と比較して重症化リスクが高いか不明
• エバシェルド、抗ウイルス薬はBA.2.75に対するin vitro活性が確認されている
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株BA.2.75系統について(2022.7.8). https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/11276-covid19-ba-2-75.html
N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMc2209952
bioRxiv 2022.08.07.503115; doi: https://doi.org/10.1101/2022.08.07.503115 bioRxiv 2022.07.18.500332; doi: https://doi.org/10.1101/2022.07.18.500332
Nature 2022;608:462-463. doi: https://doi.org/10.1038/d41586-022-02154-4 DOI:https://doi.org/10.1016/S1473-3099(22)00580-1
BA.4.6系統
• BA.4系統の亜系統で、2022年5月に米国で報告され、9月以降増加傾向
• BA.4系統と比較して、スパイク蛋白にR346T変異を持つ
• ワクチン3回接種±BA1.2感染で誘導される液性免疫からの逃避は、BA.4/5
系統よりも強い。BA.5ブレイクスルー感染後の中和活性はBA.4.6<BA.5。
• bebtelovimabの活性はあるが、エバシェルドの効果は期待できない
• 重症化や死亡リスクが増大するか不明
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株BA.2.75系統について(第20報)(2022.9.8). https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/11469-sars-cov-2-20.html
Lancet Infect Dis. DOI:https://doi.org/10.1016/S1473-3099(22)00642-9
N Engl J Med. 2022 Oct 19. doi: 10.1056/NEJMc2212117.
第8波は何が原因となる?
• 2022年11月現在、今後の流行が懸念されている変異体
- BA.4.6
- BA.2.75, BA.2.75.2, BN.1(BA.2.75の亜系統), BJ.1(BA.2.10の亜系統)
- XBB(BA.2の亜系統2つの組換え体)
:バングラディシュ・インド・シンガポールで増加
- BQ.1, BQ.1.1(BA.5.3の亜系統)
:フランス・米国・ナイジェリアなどで増加(growth advantage 4~% vs BA.5)
bioRxiv 2022.09.15.507787; doi: https://doi.org/10.1101/2022.09.15.507787
国立感染症研究所. 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について (第21報)(2022.10.21)
https://www.nature.com/articles/d41586-022-03533-7
XBB
BQ.1
BA.5がまだ主流
BQ.1.1とXBB:著明な免疫逃避
• 2022年11月時点で、すべての利用可能な中和抗体薬が無効(エバシェルド®・
bebtelovimab・ゼビュディ®)である可能性が指摘されている
• BQ.1.1は、BA.5にRBD領域に3つの変異(K444T, N460K, R346T)が追加
• XBB(R346T, N460K, F486S)は、BQ.1.1やBA.2.75.2と比較して免疫逃避の
程度がさらに大きい
• 従来型ワクチン4回目接種、BA.5対応2価ワクチン(4回目接種)による中和抗体
価の上昇は、BA.5などと比較すると低値である(臨床データはまだない)
• 重症化(入院・死亡)リスクの増大の有無は不明
bioRxiv 2022.09.15.507787; doi: https://doi.org/10.1101/2022.09.15.507787
国立感染症研究所. 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について (第21報)(2022.10.21)
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第一種感染症指定医療機関
における
感染症科医の役割
第一種感染症指定医療機関の役割
• 日本に56医療機関しかない(兵庫県は2医療機関)
• 中等症~重症COVID-19患者の受け入れ
• 手術が必要な疾患を併発しているCOVID-19患者の受け入れ
• ICU管理が必要な疾患を併発しているCOVID-19患者の受け入れ
• COVID-19に罹患した妊婦の受け入れ
• 最新のエビデンスに基づいた適切な診療と感染対策の実践
• 地域の医療機関への情報提供・啓発活動
当院感染症科の使命
• 重症COVID-19診療に直接従事(主治医業務)
• 院内のCOVID-19診療体制の構築
• 院内・地域のCOVID-19診療の質の向上
質を担保しつつ、神戸市内の重症COVID-19患者を最大限受け入れる
• 院内感染対策の質の向上と職員の安全確保
• 研究と外部への情報発信
• 主治医として重症COVID-19患者を担当する(第5波までは中等症も担当)
• 院内のCOVID-19診療体制の構築
- 全内科系診療科による持ち回り制の導入(全患者のフォローと診療支援)
- 発熱外来の内科持ち回り制の導入
- 治療ガイドラインの作成、パキロビッド®処方フローの作成
- 病床回転率を上げるための工夫
典型的なCOVID-19の隔離解除基準の作成と実施
他疾患によって熱型・呼吸状態が修飾された症例の判定の個別化
感染症科医の役割:COVID-19診療
感染症科医の役割:院内感染対策
• 医師・感染管理認定看護師・感染症看護専門看護師・事務員・薬剤師・微生物検査技師
から構成されたICTとして活動
1)院内感染対策マニュアルの作成・更新・周知
2)職員の個人防護具着脱訓練の実施
3)院内クラスター発生時の対応
4)職員対象の啓発活動
・メーリングリストを用いた定期的な注意喚起
・希望のある部署に対する感染対策に関連した講義の実施
・最新のエビデンスをまとめた資料の作成と共有
• 保健所との連携
- 市内の感染状況や病床状況の情報交換
- 市内の医療機関の担当者が集まる会議での講義
- 宿泊療養施設での診療、院内で作成した最新情報の資料の提供
• 看護部との連携(特にCOVID-19病棟のベッドコントロール)
• 地域の医療機関・医療系団体・市民への啓発・講演活動 など
感染症科医の役割:その他
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オミクロン流行期
院内・院外での感染対策
このsectionの内容
•感染経路
•通常病棟での感染対策
-オミクロンに対する院内感染対策
•COVID-19病棟での感染対策
•ウィズコロナ時代の院外での感染対策
SARS-CoV-2の感染経路
SARS-CoV-2の感染経路
• 感染は主に気道分泌物を介して起こる(くしゃみ・咳・会話など)
• 飛沫感染(2m以内):口・鼻・目の粘膜への飛沫の付着
• エアロゾル感染:微小な飛沫あるいはエアロゾルの吸入
感染源から2m以上でも、換気が不十分・3密空間(密閉・密集・密
接)・気道分泌物の放出量が多い・長時間曝露で、リスク高い
• 接触感染(稀)
Ann Intern Med. 2021 Jan;174(1):69-79. doi: 10.7326/M20-5008.日本環境感染学会医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド(第4版)
CDC. Scientific Brief: SARS-CoV-2 Transmission. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/science/science-briefs/sars-cov-2-transmission.html
理化学研究所/神戸大学 坪倉誠. 室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策(2022/2/2)(https://www.r-ccs.riken.jp/fugaku/history/corona/projects/tsubokura/)
感染者がマスクしても、50cm以内だと感染リスクがあることが「富岳」のシ
ミュレーションで示されている
通常病棟での感染対策
院内感染対策の基本
• COVID-19ワクチン接種(3回以上)
• ユニバーサルマスキングと適切な換気(飛沫・エアロゾル)
• 目の防護のルーチン化(飛沫・エアロゾル)
• N95マスクのユニバーサルユース(飛沫・エアロゾル、大流行期)
• 標準予防策(手指衛生)の徹底(接触感染)
• 接触予防策
ワクチン+感染経路の遮断
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ユニバーサルマスキング
• すべての医療従事者・患者・訪問者はマスクを着用する
• COVID-19患者は
- 症状出現の約2日前からウイルス排泄あり
- 無症状病原体保有者(50%?)からの感染伝播もある
• ユニバーサルマスクの目的
- 「気道症状のない感染者(職員・患者・訪問者)」から他者への伝播を防ぐ
⼀般社団法人 日本環境感染学会. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第4版.
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/infection-control-recommendations.html#minimize
Infect Control Hosp Epidemiol. 2020 May 6;1-2. doi: 10.1017/ice.2020.202.
JAMA Network Open. 2022;5(8):e2227241. doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.27241
オミクロンに対する
院内感染対策
飛沫感染・エアロゾル感染リスクがこれまでより高い
JAMA. 2022 Jan 24. doi: 10.1001/jama.2022.0262.
米国マサチューセッツ州での状況
ワクチン3回接種が進んだにも関わらず、院内感染は1.5倍以上になった
従来株
BA.1
JAMA. 2022 Jul 19;328(3):296-298.
doi: 10.1001/jama.2022.9609.
オミクロン流行期の追加対策
• booster接種の義務化(日本では「義務化」は難しい)
- 十分ではないが感染予防効果がある
- ブレイクスルー感染時、他者への感染リスクが低下する(42%↓)
• 検査を増やす(各病院が検査能力を上げる必要がある)
- 入院時+入院後数日おき(特に大部屋の患者)
- 職員(特に、クラスター発生病棟は定期的な検査が望ましい)
• N95マスクのユニバーサルユース(N95マスクの調達が難しい)
JAMA. 2022 Jan 24. doi: 10.1001/jama.2022.0262.
medRxiv 2021.12.27.21268278; doi: https://doi.org/10.1101/2021.12.27.21268278
• スイスでの観察研究
• 医療従事者のCOVID-19罹患リス
クを検討
• 2020.9-2021.9(オミクロン前)
• 対象者の26%が期間内に感染
• COVID-19患者への曝露:なし
13%、曝露ありかつ曝露時常に
respirator使用 21%、曝露ありか
つサージカル/mixedマスク 35%
曝露時のN95マスクで感染リスク
COVID-19罹患と関連する因子
・家庭内曝露 OR 7.79、COVID-19患者への曝露時間 OR 1.20
・ワクチン接種 OR 0.55、常にrespirator使用(サージカルマスクまたはmixed mask use) 0.56
Respirator=FFP2やN95が該当する
JAMA Netw Open. 2022 Aug 1;5(8):e2226816. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2022.26816.
N95マスクの意義
• 放出する飛沫量の量が0.1%になる(サージカルマスクの10分の1)
• 患者から医療従事者への伝播をかなりの精度で防ぐことが可能となる(適切
な手指衛生と組み合わせれば、手袋・ガウンなしでもほぼ予防可能である)
• 医療従事者から患者への伝播をかなり減らすことが期待される(理論的には
ほぼ感染させないと思われるが、source controlとしてのデータはないため、
個別にリスクを判断して、曝露した患者が濃厚接触者に該当するか判断す
る)
Sci Adv. 2020Sep 2;6(36):eabd3083.doi: 10.1126/sciadv.abd3083.
2022/11/5
7
N95マスクを考慮するタイミング
• サージカルマスクの代わりに全職員が使用するのは現実的ではない(①それだけ
の量を確保できない、②職員の負担が大きい)
• マスクを着用できない患者(認知症、せん妄、知的障害など)の対応を長時間
(例:15分以上)する場合
• 吸痰や食事介助する場合(患者はマスクを着用できない、咳などで飛沫・エアロ
ゾルが発生しやすい)
• 患者との体の接触が多い状況(リハビリ、体位変換)
• エアロゾル発生手技(挿管・気管支鏡など)を行う場合
最新の米国でのN95マスクの推奨
• 地域の流行レベルが高い場合、以下の場合にN95マスクの使用を考慮する
- すべてのエアロゾル発生手技
- 感染伝播リスクの高い手術(鼻・咽頭・気道の手術など)
- 感染伝播リスクの高い状況(患者がマスク着用不可、換気が悪い場所、クラスター発生中の病棟)
- シンプルにするため、全患者、または、感染伝播リスクの高い特定の病棟で、常時着用してもよい
• 全患者対応時に、目の防護(ゴーグル/フェイスシールド)を行う
Interim Infection Prevention and Control Recommendations for Healthcare Personnel During the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)
Pandemic (2022.9.23). https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/infection-control-recommendations.html [2022.9.23更新]
COVID-19病棟での
感染対策
使用する個人防護具(PPE)
• 個人防護具(personal protective equipment)
1. 眼・鼻・口を防護するもの
サージカルマスク or N95マスク
ゴーグル or フェイスシールド
2. 長袖ガウン
3. キャップ(必須ではない)
4. 手袋
新型コロナウイルス感染症(COIVD-19) 診療の手引き 第6版
⼀般社団法人 日本環境感染学会. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第4版.
接触予防策
飛沫予防策
空気予防策
効率的かつ負担の少ない感染対策
ポイント
・接触予防策を最小限にする
・身体密着がなく、体液・排泄物を浴び
る可能性が低い場合はガウン不要(問診
/診察/検温、環境整備、患者搬送)
・専用病棟は不要(病室単位での隔離)
・環境面の過剰な消毒は不要(手指消毒
が基本)
第87回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料3-8(2022.6.8)
事務連絡. 効率的かつ負担の少ない医療現場における感染対策の徹底について(2022.8.5)
事務連絡. 病床や救急医療のひっ迫回避に向けた宿泊療養施設や休止病床の活用等について(2022.8.19)
ウィズコロナ時代の
病院外での感染対策
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8
病院外での感染対策(院内と同じ)
• COVID-19ワクチン接種(3回以上の接種を推奨)
• 屋内や人混みでのマスク着用、換気
• 手指衛生(アルコール製剤 or 流水と石鹸)
• 身体的距離の確保(最低1m、可能なら2m)
• 換気の悪い3密(密集・密接・密閉)の回避
• 体調不良時は、外出しない・人と会わない
医療従事者の感染は
市中感染・家庭内感染
(業務外での感染)が多い
Clin Microbiol Infect. 2022 Jun 28;S1198-743X(22)00334-2. doi: 10.1016/j.cmi.2022.05.038.
病院外での感染対策の難しさ
• 一般社会に対する大部分の各種行動制限の撤廃、海外渡航制限の緩和、学
校での種々の行動制限・感染対策の緩和、濃厚接触者の特定と出勤制限を
求めない国の方針、保健所による積極的疫学調査の事実上の終了がこの半
年でどんどん進められてきており、2022年7月以降、相当数の感染者の増
加は、社会的に許容されている状況である
• 流行拡大期は、どれほど気をつけても、子どもによる家庭内への持ち込み
や市中感染のリスクは極めて高く、それを完全に防ぐことはほぼ不可能と
思われる
• サージカルマスクは万能ではない(屋内で常時使用すると感染66%減少)
MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022 Feb 11;71(6):212-216. doi: 10.15585/mmwr.mm7106e1.
特に感染に気をつける状況
•食事会(会食)
•余暇活動
•旅行先(人混み、食事中)
•海外旅行(海外のマスク着用率は低い)
•同居者が体調不良を訴える場合
会食をする場合に気をつけること
• 全員COVID-19ワクチン接種済みであることが望ましい
• 体調不良者は参加しない
• 他のテーブルとの距離が1-2m以上ある店を選ぶ
• 換気のよい店を選ぶ
• なるべくマスクを着用
• 頻回にアルコールによる手洗いを行う
• 人数制限の意義:感染者の参加率↓、クラスター化した場合の就労制限対象
となる医療従事者と濃厚接触者になる患者↓
会
食
開
始
前
に
行
う
こ
と
家庭内感染予防
• COVID-19ワクチン接種(適応ある12歳以上全員3回接種がベスト)
各人の感染リスク低下、だれかが感染しても家族内伝播リスク減少
• ただし、家庭内への持ち込みを完全に防ぐことは不可能という前提必要
• COVID-19の家族がいる場合、以下を行うと2次感染が減少する
- Social distanceの確保 - マスクの着用
- 高頻度接触面の消毒 - 部屋の換気(窓を開ける)
BMJ Glob Health. 2020 May;5(5):e002794. doi: 10.1136/bmjgh-2020-002794.
2022/11/5
9
オミクロン流行期では特に予防困難
• 家庭内感染率(10日間):オミクロン流行
期51%、デルタ流行期36%
• ワクチン接種者が感染した場合、未接種者
が感染した場合よりも鼻咽頭ぬぐい液(発
症5日以内)から検出される感染性ウイルス
量が少ない(デルタ流行期:2-3回接種、オ
ミクロン:3回接種)
• 感染者が3回接種済みの場合、デルタ流行期
では家庭内の2次感染は減少した(11%)
が、オミクロン流行期では減少しなかった
(46%)(table 3)
• 濃厚接触者がワクチン3回接種している場合、
2次感染率は両時期で減少(table 2)
Nat Med. 2022 Jul;28(7):1491-1500. doi: 10.1038/s41591-022-01816-0. Nat Commun. 2022 Sep 29;13(1):5706. doi: 10.1038/s41467-022-33233-9.
感染対策のまとめ
• 飛沫の粘膜への付着またはエアロゾルの吸入(2m以内)がSARS-CoV-2の主要な感染
経路であるが、換気の悪い3密(密閉・密集・密接)空間では、エアロゾルは2mを超え
て感染しうる
• ウィズコロナ時代の院内感染対策の基本は、COVID-19ワクチン接種(3回目接種以上
の推奨)、標準予防策の徹底、ユニバーサルマスキング・適切な換気、目の防護(特に
患者がマスクを着用していない場合)
• COVID-19流行期は、N95マスクのルーチン使用が検討される
• 病院外での感染対策も、院内での感染対策と基本は同じである
COVID-19の最新治療
(軽症~中等症I)
COVID-19に対する薬物治療の考え方 第14.2版
初期(~1週間)
・ウイルス増殖
:抗ウイルス作用
過剰炎症反応期
・宿主免疫による炎症反応
:抗炎症作用
薬物治療の適応判断と選択
• 年齢、重症化リスク因子の数、免疫不全の有無
• 臨床試験で示された治療効果
• 発症からの日数
• 静脈注射が可能な環境かどうか(自施設 or 他院紹介)
• 服用中の薬剤との薬物相互作用
• 流行している主なvariant
• 薬剤の需要と供給のバランス(流通制限の有無)
NIHガイドライン(米国)
• 軽症から中等症COVID-19患者で重症化リスクがある場合
- ニルマトレルビル/リトナビル(1回300/100mg 1日2回 5日間)(AIIa)
発症5日以内、成人 or 12歳以上かつ40kg以上、ritonavirとの薬物相互作用に注意
- レムデシビル(1日目200mg, 2-3日目100mg 点滴)(BIIa)
発症7日以内、成人 or 12歳以上かつ40kg以上
- モルヌピラビル(1回800mg 1日2回 5日間)(CIIa)
発症5日以内、18歳以上、上記2剤が利用できない場合に使用する
- Bebtelovimab(1回175mg 単回投与)(CIII) 発症7日以内(日本では未承認)
Therapeutic Management of Nonhospitalized Adults With COVID-19 (Last Updated: September 26, 2022).
https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/management/clinical-management/nonhospitalized-adults--therapeutic-management/
2022/11/5
10
WHOガイドライン
入院リスクの高い患者に対して
1. ニルマトレルビル/リトナビル
2. レムデシビル
または
モルヌピラビル
Therapeutics and COVID-19: living
guideline(WHO)(16/9/2022)
https://www.who.int/publications/i/item/
WHO-2019-nCoV-therapeutics-2022.5
BMJ 2020;370:m3379,
http://dx.doi.org/10.1136/bmj.m3379
ニルマトレルビル/リトナビル
ニルマトレルビル/リトナビル
• 二重盲検プラセボ対照RCT(EPIC-HR)
• 2021.7‐2021.12に施行(デルタ流行期)
• 18歳以上の高リスク群(ワクチン接種なし)に対す
る効果、発症5日以内に開始、5日間投与、約50%が
既感染者
• 28日以内の入院+死亡88%
• Seropositiveでも効果あり(0.2% vs 1.5%)
• 副作用:味覚障害5.6%、下痢3.1%
N Engl J Med. 2022 Feb 16. doi: 10.1056/NEJMoa2118542.
ニルマトレルビル/リトナビル
• イスラエル(主にBA.1流行期)の観察研究
• 対象:2022.1.9-2022.2.24に診断された40歳以上の重症
化リスクのある患者(ワクチン接種 or 既感染者:78%)
• 65歳以上の入院:73%減少
- 過去の免疫のある65歳以上:入院68%減少
- 過去の免疫のない65歳以上:入院85%減少
• 65歳以上の死亡:79%減少(治療群の死亡:2/2484)
• 40-64歳の入院・死亡:減少なし
N Engl J Med. 2022 Aug 24. doi: 10.1056/NEJMoa2204919.
免疫なし=ワクチン0-1回接種、かつ、未感染
パキロビッドの入院予防効果
• 対象:18歳以上のワクチン接種済みの外来患者@
米国(2021.12.1-2022.4.18:主にオミクロン)
• 30日以内の全ER受診・入院・死亡(治療群
7.87% vs 無治療群 14.4%、45%減少)
• 入院は、60%減少(0.8% vs 2%)
• 肺炎72%減少、不整脈50%減少、30日以内に出
現する呼吸器・消化器・全身症状が減少
※ワクチン接種済みの定義の記載なし
Clin Infect Dis. 2022 Aug 20;ciac673. doi: 10.1093/cid/ciac673.
治療終了後のリバウンド
• 治療終了後のSARS-CoV-2 RNA量の増加とCOVID-19症
状の再発が報告されている
• 頻度は0.8%という報告がある
• 耐性化とは関連なし、リバウンド後に感染伝播しうる
• 長期投与や2コース目の投与の効果に関するデータはない
NIH. https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/therapies/antiviral-therapy/ritonavir-boosted-nirmatrelvir--paxlovid-/ [最終アクセス2022.5.21]
https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-1588371/v2 [最終アクセス2022.5.21] Clin Infect Dis. 2022 Jun 14;ciac481. doi: 10.1093/cid/ciac481.(再燃0.8%)
Clin Infect Dis. 2022 Jun 20;ciac496. doi: 10.1093/cid/ciac496. Clin Infect Dis. 2022 Jun 23;ciac512. doi: 10.1093/cid/ciac512
N Engl J Med. 2022 Sep 15;387(11):1047-1049. doi: 10.1056/NEJMc2205944. N Engl J Med. 2022 Sep 15;387(11):1045-1047. doi: 10.1056/NEJMc2206449.
2022/11/5
11
薬物相互作用を必ず確認する
パキロビッド®パックの添付文書から
薬物相互作用を必ず確認する
パキロビッド®パックの添付文書から
• 主要な併用禁忌薬
• アゼルニジピン
• アミオダロン、フレカイニド、シルデナフィル、リバーロキサバン
• ジアゼパム、エスタゾラム、トリアゾラム、ミダゾラム
• ボリコナゾール、リファンピシン、リファブチン
• カルバマゼピン、フェニトイン
薬物相互作用を必ず確認する
パキロビッド®パックの添付文書から
• 主要な併用注意薬
• エベロリムス、シクロスポリン、タクロリムス
• コルヒチン、クラリスロマイシン、ワルファリン
• クエチアピン、フルコナゾール、バルプロ酸、ラモトリギン
• カルシウム拮抗薬
• アトルバスタチン、トラゾドン、(クロピドグレル:海外では)
併用注意薬内服中の具体的な対応
• 以下の4通りに分類(NIH guideline)
• 他のCOVID-19治療薬を選択する(≒併用禁忌)
• 臨床的に可能であれば、併用薬を一時的に中断する(ニルマトレ
ルビル/リトナビル終了してから2~3日以上経過してから再開)
• 併用薬の用量を調整し、副作用をモニタリングする
• 併用薬を継続して、副作用をモニタリングする
NIH. Drug-Drug Interactions Between Ritonavir-Boosted Nirmatrelvir (Paxlovid) and Concomitant Medications.
複数の情報源を参考にする
• NIH. Drug-Drug Interactions Between Ritonavir-Boosted
Nirmatrelvir (Paxlovid) and Concomitant Medications.
• The Liverpool COVID-19 Drug Interactions website
• The Ontario COVID-19 Science Advisory Table
• The Food and Drug Administration Emergency Use
Authorization fact sheet
実際には使用できないケースは少ない
• 米国の66007名の患者で、禁忌は9830名(14.8%)で認められた
• 重症患者であるほど禁忌を持つ率は高くなった
• 外来患者:14%、入院患者:20.6%、ICU患者:22.9%、死亡した患者:35.1%
• 外来患者における禁忌の内訳(N=59869名)
- 12歳未満 4671名(7.8%)、未成年かつ40kg未満 3702名(6.2%)
- 重度の腎障害 1268名(2.1%)、重度の肝障害 284名(0.4%)
- 薬物相互作用 2554名(4.2%)
• タクロリムス使用時は原則パキロビッドは使用しない(なお、リファンピシンでリバース可能である)
5mg/日で濃度60 ng/mL以上になり、腹痛・背部痛・倦怠感・AKIを起こした2例報告がある
Open Forum Infectious Diseases, ofac389, https://doi.org/10.1093/ofid/ofac389
Open Forum Infect Dis. 2022 Jul; 9(7): ofac238. doi: 10.1093/ofid/ofac238
2022/11/5
12
米国での処方状況
• 2021.12.23-2022.5.21
• 内服抗ウイルス薬の総処
方数:1076762
• パキロビッド®:77%
• ラゲブリオ®:23%
MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022 Jun 24;71(25):825-829. doi: 10.15585/mmwr.mm7125e1.
処方可能な医療機関の拡大
• 2022.2.28以降
病院・有床診療所で、院内または院外処方が可能
• 2022.4.22以降
無床診療所で、院外処方が可能
• ほとんどの軽症例は、無床診療所で診断されていると思われ
るので、今後処方量の増加に期待
厚生労働省. 事務連絡(2022/4/22). 新型コロナウイルス感染症における経口抗ウイルス薬(パキロビッド®パック)の医療機関及び薬局への配分について
ニルマトレルビル/リトナビル:第1選択薬
• 重症化予防効果は非常に高い(RCT)
- オミクロン流行期での入院予防効果は50-70%(観察研究)
• ワクチン接種後の高リスク患者への効果も期待できる
• 内服薬である
• 発症5日以内、薬物相互作用は多いが、使用不可の状況は比較的稀
• 進行した腎不全患者には使用できない(eGFR<30)
• 高度肝障害の患者にも使用できない(Child-Pugh class C)
• 流通制限あり(各医療機関・薬局のストックは約5回分)
レムデシビル
軽症者に対する早期レムデシビル
• 12歳以上の外来COVID-19患者
• 発症7日以内に開始
• ワクチン接種歴なし
• 重症化リスクあり or 60歳以上
• レムデシビル 3日間 vs プラセボ
• 28日以内の入院+死亡
:0.7% vs 5.3%(87% )
N Engl J Med. 2021 Dec 22;NEJMoa2116846. doi: 10.1056/NEJMoa2116846.
2020.9.18-2021.4.8に行われた試験(従来株~アルファ)
海外データ
免疫不全者に対するレムデシビル
• 前向き観察研究@メキシコ、重症化リスクの高い発
症7日以内の軽症・中等症COVID-19に対するレム
デシビル(外来で3日間投与)の効果を検討、
2021.12.2~2022.4.30(オミクロンが約95%を占
めた)、126名(R群 54、非投与群72)、93.7%
が中等度以上の免疫不全者、約80%がワクチン接種
済み(定義の記載はないが2回以上と思われる)
• 主要評価項目:発症28日以内の入院+死亡→投与群
で84%減少(9.3% vs 43.1%)
Open Forum Infectious Diseases, 2022;, ofac502, https://doi.org/10.1093/ofid/ofac502
中等度以上の免疫不全者の場合、オミクロン
流行期かつワクチン接種していても、治療の
メリットは大きい
2022/11/5
13
レムデシビルの副作用
• 吐き気などの消化器症状、肝障害、PT延長、腎障害など
• 製剤内にシクロデキストリンが含まれているため、eGFR 30mL/min
未満の患者に対して、その蓄積による腎障害の懸念がある
• ⼀方で、eGFR 30mL/min未満であっても安全に使用可能という小規
模な観察研究が多数報告されている
• 重度の徐脈を起こすことがある
J Am Soc Nephrol. 2020;31:1384-6
Clin Infect Dis. 2020 Dec 14:ciaa1851. doi: 10.1093/cid/ciaa1851.
Antimicrob Agents Chemother. 2021 Jan 20;65(2):e02290-20.
Clin Microbiol Infect. 2021 Feb 27;27(5):791.e5-791.e8. doi: 10.1016/j.cmi.2021.02.013.
JACC Case Rep. 2020 Nov 18;2(14):2260-2264.
Circ Arrhythm Electrophysiol. 2021 Jul;14(7):e009811. doi: 10.1161/CIRCEP.121.009811.
神戸市立医療センター中央市民病院. COVID-19の薬物治療ガイドライン version 2
レムデシビル
• 効果は非常に高い
• 3日間の点滴(200-100-100mg)必要(入院加療が現実的)
• ワクチン接種者への効果はほとんど検討されていない
• 腎不全患者に対して問題なく使用可能である
• 一般流通している(薬価収載済)が、高価(3日間253,368円)
モルヌピラビル
モルヌピラビル
• 18歳以上、重症化リスクあり(年齢は60歳
以上)、軽症~中等症COVID-19を対象
• 発症5日以内
• Variant判明しているものでは、デルタが最
多(約60%)
• 29日以内の24時間以上の入院+死亡:
6.8% vs 9.7%(約30%の効果)
• Subgroup解析:既感染者では効果
なし(3.8% vs 1.7%)
2021.5-2021.11に行われた臨床試験(主にデルタ流行期) N Engl J Med. 2021 Dec 16;NEJMoa2116044.
doi: 10.1056/NEJMoa2116044
オミクロン流行期での検討
• 2022.1~2022.2のイスラエル(オミクロン流行期)
• 観察研究
• モルヌピラビル投与群 vs 非投与群、77%が十分なワクチン接種状態
• 複合エンドポイント(入院+死亡)は減少しなかった
• サブグループ解析では、高齢者(75歳以上)、女性、不十分なワクチン接
種歴、の場合に、複合エンドポイントの改善を認めた
→ 最適なワクチン接種状態の患者には無効の可能性が高い
Clin Infect Dis. 2022 Sep 20;ciac781. doi: 10.1093/cid/ciac781
2022/11/5
14
オミクロン流行期での検討
• 2021.12.8~2022.4.27の英国(オミクロンBA.1・BA.2流行期)
• オープンラベル無作為化比較試験(N=約25000)、査読前論文
• モルヌピラビル投与群 vs 非投与群、90%以上がワクチン3回接種
• 主要評価項目:28日以内の入院+死亡は同等(0.8% vs 0.8%)
• 副次評価項目:症状改善までの日数は4.2日短縮(10.3日 vs 14.5日)
→ 最適なワクチン接種状態の患者には無効の可能性が高い
Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=4237902
• オミクロン流行期のソトロビマブとモ
ルヌピラビルの効果を比較した観察研
究(英国)、ワクチン3回以上接種者
BA.1流行期88%、BA.2流行期94%
• Main outcome:28日以内の入院+
死亡は、BA.1流行期 0.96% vs
2.05%、BA.2流行期 0.95% vs
2.03%(約50%減少)
BA.2流行期:ソトロビマブより効果低い
medRxiv 2022.05.22.22275417; doi:https://doi.org/10.1101/2022.05.22.22275417 (BMJに掲載予定)
• 直接の比較試験はないが、他の薬剤より有効性が低い可能性が高い
• ワクチン接種者・既感染者への効果は期待できない可能性が高い
• 内服可能、発症5日以内
• カプセルが大きくて内服しにくい(脱カプセルは可能とされている)
• 小児・妊婦は使用できない(適応は18歳以上)
• 他の薬剤が使用できない場合にのみ使用することが推奨される
• 薬価収載された(5日間94312円)
モルヌピラビル
抗SARS-CoV-2
モノクローナル抗体
(中和抗体薬)
抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体
• 日本で2022.11現在使用可能な製剤2つあるが...
- カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ®)
:BA.1に対する中和活性は著明に低下
- ソトロビマブ(ゼビュディ®)
:BA.1では中和活性維持、BA.2では効果低下
• 米国では、BA.2にin vitro活性のあるbebtelovimabが使用可能
ソトロビマブ
• COMET-ICE試験の中間結果
• 18歳以上の軽症~中等症のCOVID-19
• 呼吸不全なし、かつ、発症から5日以内、
かつ、重症化リスクあり(55歳以上)
• COVID-19ワクチン接種者は除外
• 500mg 点滴静注1回
• 24時間以上の入院+死亡
:85%減少(1% vs 7%)
N Engl J Med 2021; 385:1941-1950 DOI: 10.1056/NEJMoa2107934
2020.8.27-2021.3.4施行の臨床試験
主に従来株~アルファの流行期
2022/11/5
15
ソトロビマブの投与は推奨されない
• 米国のFDAは、流行している
SARS-CoV-2の50%以上がBA.2
となった複数の州でソトロビマブ
の使用を制限した(2022.3.25)
• 段階的にその制限範囲を拡大し、
2022.4.5には米国全域でソトロビ
マブの使用が制限された
https://www.fda.gov/drugs/drug-safety-and-availability/fda-updates-sotrovimab-emergency-use-authorization accessed on 4/9/2022
• デルタ流行期~BA.2流行
期のソトロビマブの効果
を無治療群と比較した観
察研究(米国、2022.3以
降はBA.2 dominant)、
ワクチン接種者約20%
• 30日以内の入院+死亡抑
制効果は60%程度
オミクロン流行中の検討
medRxiv 2022.09.07.22279497; doi:https://doi.org/10.1101/2022.09.07.22279497
• オミクロン流行期のソトロビマブとモ
ルヌピラビルの効果を比較した観察研
究(英国)、ワクチン3回以上接種者
BA.1流行期88%、BA.2流行期94%
• Main outcome:28日以内の入院+
死亡は、BA.1流行期 0.96% vs
2.05%、BA.2流行期 0.95% vs
2.03%(約50%減少)
オミクロン流行中の検討
medRxiv 2022.05.22.22275417; doi:https://doi.org/10.1101/2022.05.22.22275417 (BMJに掲載予定)
ソトロビマブ
• BA.2流行前は、重症化効果は非常に高く第1選択薬だった
• 点滴ルートが必要であるが、1回投与である
• 安全性は高く、妊婦にも使用可能
• BA.2以降の流行variantへのin vitro活性は低いことが示されているが、
実際には臨床治療効果は期待できるかもしれない
• 臨床試験では、発症5日以内が対象とされたが、日本では発症7日以内であ
れば使用可能
• 流通制限あり(院内ストックがあまり認められていない)
その他の薬剤は使用しない
• 残念ながら...十分な効果を示す薬剤はない
- デキサメタゾン(予後悪化のリスクすらある)
- ファビピラビル、イベルメクチン、コルヒチン
- 吸入ブテソニド、吸入シクレソニド、フルボキサミン
• 上記すべての薬剤は、RCTで効果を示すことができなかった
• 日本の臨床現場で使用することはない
ここまでのまとめ
• 2022.11現在の日本では...
•第1選択薬:ニルマトレルビル/リトナビル
•第2選択薬:レムデシビル
• 第3選択薬:モルヌピラビル、(ソトロビマブ)
• 使用しない:カシリビマブ・イムデビマブ
2022/11/5
16
治療適応の考え方
オミクロン流行期に、ワクチン3回接種済
みの高血圧の38歳男性に治療は必要か?
• 重症化リスクがもともと低いオミクロンでの効果はあまり効果が検討
されていない(デルタ流行期よりも効果に差がでにくい)
• ワクチン接種者に対する効果はあまり検討されていない(パキロビッ
ド、中和抗体薬、ラゲブリオ)、かつ、効果は小さいと予想される
• in vitro活性は、抗ウイルス薬で確認されている
• コストが非常に高い薬剤である(安価なもので約10万円)
カナダオンタリオ州のガイドライン
Clinical Practice Guideline Summary: Recommended Drugs and Biologics in Adult Patients with COVID-19. https://covid19-sciencetable.ca/sciencebrief
/clinical-practice-guideline-summary-recommended-drugs-and-biologics-in-adult-patients-with-covid-19-version-11-0/ [accessed on 4/2/2022]
高リスク群(入院リスク 5%以上):
ニルマトレルビル/リトナビル、または、レムデシビル
欧州のガイドライン
ESCMID COVID-19 guidelines: update on treatment for patients with mild/moderate disease. Clinical Microbiology and Infection, 2022, doi: 10.1016/j.cmi.2022.08.013.
推奨順位は
1. ニルマトレルビル・リトナビル
2. レムデシビル
3. モルヌピラビル、中和抗体薬
ワクチン接種済み
免疫不全なし
データ不十分
ワクチン接種済み
免疫不全あり
ワクチン未接種
重症化予防薬の適応(当院)
神戸市立医療センター中央市民病院. COVID-19の薬物治療ガイドライン version 2
重症化予防薬の適応(当院)
神戸市立医療センター中央市民病院. COVID-19の薬物治療ガイドライン version 2
2022/11/5
17
重症化予防薬の選択(当院)
• 第1選択薬:ニルマトレルビル/リトナビル
• 第2選択薬:レムデシビルを使用する場合
- 内服不可、パキロビッド併用禁忌薬内服中
- 発症から6-7日目に治療開始する場合
- ⼀過性の呼吸不全例(多くの場合、高齢者の誤嚥)
- 全例入院して投与している
実際の当院での外来患者の治療状況
• 2022年7月22日~8月21日
• 神戸市内の感染者数:1週間に22000人程度の時期
• PCRまたは抗原定量検査陽性であった外来患者
- 1065名(1日平均34名)
- パキロビッド処方:77名(7.2%)
- レムデシビル適応:適応9名(0.85%)→投与6名、治療なし 3名
投与できなかった患者の内訳(満床のため入院できず)
43歳、DCM、ワクチン2回(薬物相互作用) 74歳、心不全/DM/DL、ワクチン3回(薬物相互作用) 50歳、肥満、ワクチン2回(パキロ在庫なし)
抗ウイルス薬は余っている
• 2022年9月時点:ラゲブリオ 62万/160万、4万5千/200万が投薬された
• 2022年7月の感染者 約340万人、8月の感染者 約630万人
•治療が必要な患者に適切に処方されていない
知識の問題、薬剤の供給システムの問題
診療責任の所在の問題、薬物相互作用を調べるのが手間
第100回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(2022.9.21). https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000992311.pdf
新規治療薬のまとめ
• 年齢、ワクチン接種回数、免疫不全の有無、その他の重症化リス
ク因子の数などから、治療適応を決定する
• 第1選択薬は、ニルマトレルビル/リトナビル 5日間
• 第2選択薬は、レムデシビル 3日間
• モルヌビラビルはその他の薬剤が使用できない場合に考慮
• ワクチン接種者、かつ、第1・2選択薬が使用不可時の場合、ソロ
トビマブを検討してもよいかもしれない
本日の内容
• 現在の流行状況と変異株(主にオミクロン)
• 第一種感染症指定医療機関における感染症科医の役割
• オミクロン流行期の院内・院外での感染対策
• COVID-19の最新治療(軽症~中等症I)

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20221105 Infection Control and Current Treatment of COVID-19.pdf

  • 1. 2022/11/5 1 第一種感染症指定医療機関 における感染対策と最新治療 - 感染症科医の立場から – 第36回日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会秋季大会(2022.11.5-11.6) 神戸市立医療センター中央市民病院 感染症科 黒田浩一 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 利益相反(COI)開示 発表者名:黒田浩一 発表に関連し開示すべき利益相反関係 にある企業・団体等はありません。 第36回日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 秋季大会 本日の内容 • 現在問題となっている変異株(オミクロン) • 第一種感染症指定医療機関における感染症科医の役割 • オミクロン流行期の院内・院外での感染対策 • COVID-19の最新治療(軽症~中等症I) 現在問題となっている変異株 - オミクロン - オミクロン:第6-7波の原因 https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/entire/ [2022.10.25最終アクセス] α δ ο 2021.2.17- 医療従事者に接種開始 2021.3- アルファの流行 2021.4.12- 高齢者への接種開始 2021.6- デルタの流行 2022.1- オミクロン流行BA.1 2022.3- オミクロン流行BA.2 2022.7- オミクロン流行BA.5 第7波 • 2021年11月24日:南アフリカではじめて報告された変異株(variant) • 基準株と比較して、スパイク蛋白に30か所程度のアミノ酸置換を有し、3か 所の小欠損と1か所の挿入部位をもつ • 主な変異:N501Y、E484A、G142D、G339D、S371L、S373P、S375F、 S477N、T478K、Q493K、G496S、Q498R、Y505H 、P681H • 感染伝播性 ワクチン効果 モノクローナル抗体の効果 SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第5報) https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10876-sars-cov-2-b-1-1-529.html オミクロンBA.1のアミノ酸置換
  • 2. 2022/11/5 2 オミクロンBA.1の特徴のまとめ • 感染伝播性がデルタより2~3倍高く、倍加時間・世代時間・発症間隔・潜伏期間 (約3日)がデルタより短い→急速に感染が拡大しやすい • 入院リスク・死亡リスクは、デルタより低い(30-50%程度) • 症状は、咽頭痛が多く、味覚嗅覚障害が少ない。肺炎は少ない。 • カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ®:抗体カクテル療法)が無効である • mRNAワクチンによる感染予防効果が低下した。重症化予防効果は、比較的高く維 持されているが、デルタに対する効果と比較すると低い。 オミクロンの重症度が低い理由 •ウイルスそのものの特性 - 肺炎を起こす頻度・重症度が低い •ワクチン接種率が高い状況で流行した •既感染率が高い状況で流行した(特に欧米・南ア) ICUからプライマリケアへ • 第6-7波では、ほとんどの患者が軽症であり、COVID-19の 診療の中心は、それまでの集中治療室から外来と中等症病 床へと移行し、プライマリケア医(内科・耳鼻咽喉科・小 児科などの診療所、病院勤務の総合内科医・病院総合診療 医)の果たす役割が大きくなった。 各亜系統について -2022年3月以降の状況- 変異株の変遷(BA.2→BA.5) •BA.2系統への置換(2022年3月~) •BA.2系統の特徴 •BA.4/BA.5系統(2022年7月~) •BA.2.75系統、BA.4.6系統 •BQ.1.1系統、XBB系統(今後?) BA.2系統:2022年3月~ • 2022年2月時点で、デンマーク・英国・南アフリカで増加 • 2022年3月下旬以降、日本でも増加傾向となり主流となった • 実効再生産数:BA.1の1.18-1.4倍 • mRNAワクチンの効果は、BA.1に対する効果と同等 • ソトロビマブのin vitro活性が低下している • 入院リスク・重症化リスクと死亡リスクは、BA.1と同等 Cell. 2022 Jun 9;185(12):2103-2115.e19. doi: 10.1016/j.cell.2022.04.035. SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第8報)(2022.2.16)[accessed on 3/3/2022] medRxiv 2022.02.17.22271030; doi: https://doi.org/10.1101/2022.02.17.22271030 [accessed on 3/3/2022] SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 38 (11 March 2022)
  • 3. 2022/11/5 3 BA.4/BA.5系統 • 南アフリカ・欧州で、2022年4-5月以降、増加傾向となった • 日本では2022年6月以降BA.5が増加傾向となり、第7波の原因となった • BA.2より高い感染伝播性? • 免疫回避(ワクチンや感染によって誘導された免疫への抵抗性)> BA.2 • 入院リスクはBA.2より1.69倍高い • COVID-19ワクチンの効果は、BA.2に対する効果とほぼ同等~やや低い • tixagevimab/cilgavimab(高用量)と抗ウイルス薬の活性はある Lancet Infect Dis. Published:October 18, 2022. DOI:https://doi.org/10.1016/S1473-3099(22)00595-3 bioRxiv 2022.05.26.493539; doi: https://doi.org/10.1101/2022.05.26.493539 medRxiv 2022.07.25.22277996; doi: https://doi.org/10.1101/2022.07.25.22277996 N Engl J Med. 2022 Jul 20. doi: 10.1056/NEJMc2207519. BA.2.75系統(ケンタウロス) • BA.2系統の亜系統で、2022年6月2日にインドで最初に報告、インド・ネパール・シンガ ポールで増加した。スパイク蛋白にG339H、G446S、N460Kなどの変異を有している。 • 実効再生産数は、BA.5より高い(1.13倍)という報告がある • 免疫逃避は、BA.2と同等で、BA.5より弱い • その他のオミクロン亜系統と比較して重症化リスクが高いか不明 • エバシェルド、抗ウイルス薬はBA.2.75に対するin vitro活性が確認されている 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株BA.2.75系統について(2022.7.8). https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/11276-covid19-ba-2-75.html N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMc2209952 bioRxiv 2022.08.07.503115; doi: https://doi.org/10.1101/2022.08.07.503115 bioRxiv 2022.07.18.500332; doi: https://doi.org/10.1101/2022.07.18.500332 Nature 2022;608:462-463. doi: https://doi.org/10.1038/d41586-022-02154-4 DOI:https://doi.org/10.1016/S1473-3099(22)00580-1 BA.4.6系統 • BA.4系統の亜系統で、2022年5月に米国で報告され、9月以降増加傾向 • BA.4系統と比較して、スパイク蛋白にR346T変異を持つ • ワクチン3回接種±BA1.2感染で誘導される液性免疫からの逃避は、BA.4/5 系統よりも強い。BA.5ブレイクスルー感染後の中和活性はBA.4.6<BA.5。 • bebtelovimabの活性はあるが、エバシェルドの効果は期待できない • 重症化や死亡リスクが増大するか不明 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株BA.2.75系統について(第20報)(2022.9.8). https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/11469-sars-cov-2-20.html Lancet Infect Dis. DOI:https://doi.org/10.1016/S1473-3099(22)00642-9 N Engl J Med. 2022 Oct 19. doi: 10.1056/NEJMc2212117. 第8波は何が原因となる? • 2022年11月現在、今後の流行が懸念されている変異体 - BA.4.6 - BA.2.75, BA.2.75.2, BN.1(BA.2.75の亜系統), BJ.1(BA.2.10の亜系統) - XBB(BA.2の亜系統2つの組換え体) :バングラディシュ・インド・シンガポールで増加 - BQ.1, BQ.1.1(BA.5.3の亜系統) :フランス・米国・ナイジェリアなどで増加(growth advantage 4~% vs BA.5) bioRxiv 2022.09.15.507787; doi: https://doi.org/10.1101/2022.09.15.507787 国立感染症研究所. 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について (第21報)(2022.10.21) https://www.nature.com/articles/d41586-022-03533-7 XBB BQ.1 BA.5がまだ主流 BQ.1.1とXBB:著明な免疫逃避 • 2022年11月時点で、すべての利用可能な中和抗体薬が無効(エバシェルド®・ bebtelovimab・ゼビュディ®)である可能性が指摘されている • BQ.1.1は、BA.5にRBD領域に3つの変異(K444T, N460K, R346T)が追加 • XBB(R346T, N460K, F486S)は、BQ.1.1やBA.2.75.2と比較して免疫逃避の 程度がさらに大きい • 従来型ワクチン4回目接種、BA.5対応2価ワクチン(4回目接種)による中和抗体 価の上昇は、BA.5などと比較すると低値である(臨床データはまだない) • 重症化(入院・死亡)リスクの増大の有無は不明 bioRxiv 2022.09.15.507787; doi: https://doi.org/10.1101/2022.09.15.507787 国立感染症研究所. 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について (第21報)(2022.10.21)
  • 4. 2022/11/5 4 第一種感染症指定医療機関 における 感染症科医の役割 第一種感染症指定医療機関の役割 • 日本に56医療機関しかない(兵庫県は2医療機関) • 中等症~重症COVID-19患者の受け入れ • 手術が必要な疾患を併発しているCOVID-19患者の受け入れ • ICU管理が必要な疾患を併発しているCOVID-19患者の受け入れ • COVID-19に罹患した妊婦の受け入れ • 最新のエビデンスに基づいた適切な診療と感染対策の実践 • 地域の医療機関への情報提供・啓発活動 当院感染症科の使命 • 重症COVID-19診療に直接従事(主治医業務) • 院内のCOVID-19診療体制の構築 • 院内・地域のCOVID-19診療の質の向上 質を担保しつつ、神戸市内の重症COVID-19患者を最大限受け入れる • 院内感染対策の質の向上と職員の安全確保 • 研究と外部への情報発信 • 主治医として重症COVID-19患者を担当する(第5波までは中等症も担当) • 院内のCOVID-19診療体制の構築 - 全内科系診療科による持ち回り制の導入(全患者のフォローと診療支援) - 発熱外来の内科持ち回り制の導入 - 治療ガイドラインの作成、パキロビッド®処方フローの作成 - 病床回転率を上げるための工夫 典型的なCOVID-19の隔離解除基準の作成と実施 他疾患によって熱型・呼吸状態が修飾された症例の判定の個別化 感染症科医の役割:COVID-19診療 感染症科医の役割:院内感染対策 • 医師・感染管理認定看護師・感染症看護専門看護師・事務員・薬剤師・微生物検査技師 から構成されたICTとして活動 1)院内感染対策マニュアルの作成・更新・周知 2)職員の個人防護具着脱訓練の実施 3)院内クラスター発生時の対応 4)職員対象の啓発活動 ・メーリングリストを用いた定期的な注意喚起 ・希望のある部署に対する感染対策に関連した講義の実施 ・最新のエビデンスをまとめた資料の作成と共有 • 保健所との連携 - 市内の感染状況や病床状況の情報交換 - 市内の医療機関の担当者が集まる会議での講義 - 宿泊療養施設での診療、院内で作成した最新情報の資料の提供 • 看護部との連携(特にCOVID-19病棟のベッドコントロール) • 地域の医療機関・医療系団体・市民への啓発・講演活動 など 感染症科医の役割:その他
  • 5. 2022/11/5 5 オミクロン流行期 院内・院外での感染対策 このsectionの内容 •感染経路 •通常病棟での感染対策 -オミクロンに対する院内感染対策 •COVID-19病棟での感染対策 •ウィズコロナ時代の院外での感染対策 SARS-CoV-2の感染経路 SARS-CoV-2の感染経路 • 感染は主に気道分泌物を介して起こる(くしゃみ・咳・会話など) • 飛沫感染(2m以内):口・鼻・目の粘膜への飛沫の付着 • エアロゾル感染:微小な飛沫あるいはエアロゾルの吸入 感染源から2m以上でも、換気が不十分・3密空間(密閉・密集・密 接)・気道分泌物の放出量が多い・長時間曝露で、リスク高い • 接触感染(稀) Ann Intern Med. 2021 Jan;174(1):69-79. doi: 10.7326/M20-5008.日本環境感染学会医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド(第4版) CDC. Scientific Brief: SARS-CoV-2 Transmission. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/science/science-briefs/sars-cov-2-transmission.html 理化学研究所/神戸大学 坪倉誠. 室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策(2022/2/2)(https://www.r-ccs.riken.jp/fugaku/history/corona/projects/tsubokura/) 感染者がマスクしても、50cm以内だと感染リスクがあることが「富岳」のシ ミュレーションで示されている 通常病棟での感染対策 院内感染対策の基本 • COVID-19ワクチン接種(3回以上) • ユニバーサルマスキングと適切な換気(飛沫・エアロゾル) • 目の防護のルーチン化(飛沫・エアロゾル) • N95マスクのユニバーサルユース(飛沫・エアロゾル、大流行期) • 標準予防策(手指衛生)の徹底(接触感染) • 接触予防策 ワクチン+感染経路の遮断
  • 6. 2022/11/5 6 ユニバーサルマスキング • すべての医療従事者・患者・訪問者はマスクを着用する • COVID-19患者は - 症状出現の約2日前からウイルス排泄あり - 無症状病原体保有者(50%?)からの感染伝播もある • ユニバーサルマスクの目的 - 「気道症状のない感染者(職員・患者・訪問者)」から他者への伝播を防ぐ ⼀般社団法人 日本環境感染学会. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第4版. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/infection-control-recommendations.html#minimize Infect Control Hosp Epidemiol. 2020 May 6;1-2. doi: 10.1017/ice.2020.202. JAMA Network Open. 2022;5(8):e2227241. doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.27241 オミクロンに対する 院内感染対策 飛沫感染・エアロゾル感染リスクがこれまでより高い JAMA. 2022 Jan 24. doi: 10.1001/jama.2022.0262. 米国マサチューセッツ州での状況 ワクチン3回接種が進んだにも関わらず、院内感染は1.5倍以上になった 従来株 BA.1 JAMA. 2022 Jul 19;328(3):296-298. doi: 10.1001/jama.2022.9609. オミクロン流行期の追加対策 • booster接種の義務化(日本では「義務化」は難しい) - 十分ではないが感染予防効果がある - ブレイクスルー感染時、他者への感染リスクが低下する(42%↓) • 検査を増やす(各病院が検査能力を上げる必要がある) - 入院時+入院後数日おき(特に大部屋の患者) - 職員(特に、クラスター発生病棟は定期的な検査が望ましい) • N95マスクのユニバーサルユース(N95マスクの調達が難しい) JAMA. 2022 Jan 24. doi: 10.1001/jama.2022.0262. medRxiv 2021.12.27.21268278; doi: https://doi.org/10.1101/2021.12.27.21268278 • スイスでの観察研究 • 医療従事者のCOVID-19罹患リス クを検討 • 2020.9-2021.9(オミクロン前) • 対象者の26%が期間内に感染 • COVID-19患者への曝露:なし 13%、曝露ありかつ曝露時常に respirator使用 21%、曝露ありか つサージカル/mixedマスク 35% 曝露時のN95マスクで感染リスク COVID-19罹患と関連する因子 ・家庭内曝露 OR 7.79、COVID-19患者への曝露時間 OR 1.20 ・ワクチン接種 OR 0.55、常にrespirator使用(サージカルマスクまたはmixed mask use) 0.56 Respirator=FFP2やN95が該当する JAMA Netw Open. 2022 Aug 1;5(8):e2226816. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2022.26816. N95マスクの意義 • 放出する飛沫量の量が0.1%になる(サージカルマスクの10分の1) • 患者から医療従事者への伝播をかなりの精度で防ぐことが可能となる(適切 な手指衛生と組み合わせれば、手袋・ガウンなしでもほぼ予防可能である) • 医療従事者から患者への伝播をかなり減らすことが期待される(理論的には ほぼ感染させないと思われるが、source controlとしてのデータはないため、 個別にリスクを判断して、曝露した患者が濃厚接触者に該当するか判断す る) Sci Adv. 2020Sep 2;6(36):eabd3083.doi: 10.1126/sciadv.abd3083.
  • 7. 2022/11/5 7 N95マスクを考慮するタイミング • サージカルマスクの代わりに全職員が使用するのは現実的ではない(①それだけ の量を確保できない、②職員の負担が大きい) • マスクを着用できない患者(認知症、せん妄、知的障害など)の対応を長時間 (例:15分以上)する場合 • 吸痰や食事介助する場合(患者はマスクを着用できない、咳などで飛沫・エアロ ゾルが発生しやすい) • 患者との体の接触が多い状況(リハビリ、体位変換) • エアロゾル発生手技(挿管・気管支鏡など)を行う場合 最新の米国でのN95マスクの推奨 • 地域の流行レベルが高い場合、以下の場合にN95マスクの使用を考慮する - すべてのエアロゾル発生手技 - 感染伝播リスクの高い手術(鼻・咽頭・気道の手術など) - 感染伝播リスクの高い状況(患者がマスク着用不可、換気が悪い場所、クラスター発生中の病棟) - シンプルにするため、全患者、または、感染伝播リスクの高い特定の病棟で、常時着用してもよい • 全患者対応時に、目の防護(ゴーグル/フェイスシールド)を行う Interim Infection Prevention and Control Recommendations for Healthcare Personnel During the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Pandemic (2022.9.23). https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/infection-control-recommendations.html [2022.9.23更新] COVID-19病棟での 感染対策 使用する個人防護具(PPE) • 個人防護具(personal protective equipment) 1. 眼・鼻・口を防護するもの サージカルマスク or N95マスク ゴーグル or フェイスシールド 2. 長袖ガウン 3. キャップ(必須ではない) 4. 手袋 新型コロナウイルス感染症(COIVD-19) 診療の手引き 第6版 ⼀般社団法人 日本環境感染学会. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第4版. 接触予防策 飛沫予防策 空気予防策 効率的かつ負担の少ない感染対策 ポイント ・接触予防策を最小限にする ・身体密着がなく、体液・排泄物を浴び る可能性が低い場合はガウン不要(問診 /診察/検温、環境整備、患者搬送) ・専用病棟は不要(病室単位での隔離) ・環境面の過剰な消毒は不要(手指消毒 が基本) 第87回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料3-8(2022.6.8) 事務連絡. 効率的かつ負担の少ない医療現場における感染対策の徹底について(2022.8.5) 事務連絡. 病床や救急医療のひっ迫回避に向けた宿泊療養施設や休止病床の活用等について(2022.8.19) ウィズコロナ時代の 病院外での感染対策
  • 8. 2022/11/5 8 病院外での感染対策(院内と同じ) • COVID-19ワクチン接種(3回以上の接種を推奨) • 屋内や人混みでのマスク着用、換気 • 手指衛生(アルコール製剤 or 流水と石鹸) • 身体的距離の確保(最低1m、可能なら2m) • 換気の悪い3密(密集・密接・密閉)の回避 • 体調不良時は、外出しない・人と会わない 医療従事者の感染は 市中感染・家庭内感染 (業務外での感染)が多い Clin Microbiol Infect. 2022 Jun 28;S1198-743X(22)00334-2. doi: 10.1016/j.cmi.2022.05.038. 病院外での感染対策の難しさ • 一般社会に対する大部分の各種行動制限の撤廃、海外渡航制限の緩和、学 校での種々の行動制限・感染対策の緩和、濃厚接触者の特定と出勤制限を 求めない国の方針、保健所による積極的疫学調査の事実上の終了がこの半 年でどんどん進められてきており、2022年7月以降、相当数の感染者の増 加は、社会的に許容されている状況である • 流行拡大期は、どれほど気をつけても、子どもによる家庭内への持ち込み や市中感染のリスクは極めて高く、それを完全に防ぐことはほぼ不可能と 思われる • サージカルマスクは万能ではない(屋内で常時使用すると感染66%減少) MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022 Feb 11;71(6):212-216. doi: 10.15585/mmwr.mm7106e1. 特に感染に気をつける状況 •食事会(会食) •余暇活動 •旅行先(人混み、食事中) •海外旅行(海外のマスク着用率は低い) •同居者が体調不良を訴える場合 会食をする場合に気をつけること • 全員COVID-19ワクチン接種済みであることが望ましい • 体調不良者は参加しない • 他のテーブルとの距離が1-2m以上ある店を選ぶ • 換気のよい店を選ぶ • なるべくマスクを着用 • 頻回にアルコールによる手洗いを行う • 人数制限の意義:感染者の参加率↓、クラスター化した場合の就労制限対象 となる医療従事者と濃厚接触者になる患者↓ 会 食 開 始 前 に 行 う こ と 家庭内感染予防 • COVID-19ワクチン接種(適応ある12歳以上全員3回接種がベスト) 各人の感染リスク低下、だれかが感染しても家族内伝播リスク減少 • ただし、家庭内への持ち込みを完全に防ぐことは不可能という前提必要 • COVID-19の家族がいる場合、以下を行うと2次感染が減少する - Social distanceの確保 - マスクの着用 - 高頻度接触面の消毒 - 部屋の換気(窓を開ける) BMJ Glob Health. 2020 May;5(5):e002794. doi: 10.1136/bmjgh-2020-002794.
  • 9. 2022/11/5 9 オミクロン流行期では特に予防困難 • 家庭内感染率(10日間):オミクロン流行 期51%、デルタ流行期36% • ワクチン接種者が感染した場合、未接種者 が感染した場合よりも鼻咽頭ぬぐい液(発 症5日以内)から検出される感染性ウイルス 量が少ない(デルタ流行期:2-3回接種、オ ミクロン:3回接種) • 感染者が3回接種済みの場合、デルタ流行期 では家庭内の2次感染は減少した(11%) が、オミクロン流行期では減少しなかった (46%)(table 3) • 濃厚接触者がワクチン3回接種している場合、 2次感染率は両時期で減少(table 2) Nat Med. 2022 Jul;28(7):1491-1500. doi: 10.1038/s41591-022-01816-0. Nat Commun. 2022 Sep 29;13(1):5706. doi: 10.1038/s41467-022-33233-9. 感染対策のまとめ • 飛沫の粘膜への付着またはエアロゾルの吸入(2m以内)がSARS-CoV-2の主要な感染 経路であるが、換気の悪い3密(密閉・密集・密接)空間では、エアロゾルは2mを超え て感染しうる • ウィズコロナ時代の院内感染対策の基本は、COVID-19ワクチン接種(3回目接種以上 の推奨)、標準予防策の徹底、ユニバーサルマスキング・適切な換気、目の防護(特に 患者がマスクを着用していない場合) • COVID-19流行期は、N95マスクのルーチン使用が検討される • 病院外での感染対策も、院内での感染対策と基本は同じである COVID-19の最新治療 (軽症~中等症I) COVID-19に対する薬物治療の考え方 第14.2版 初期(~1週間) ・ウイルス増殖 :抗ウイルス作用 過剰炎症反応期 ・宿主免疫による炎症反応 :抗炎症作用 薬物治療の適応判断と選択 • 年齢、重症化リスク因子の数、免疫不全の有無 • 臨床試験で示された治療効果 • 発症からの日数 • 静脈注射が可能な環境かどうか(自施設 or 他院紹介) • 服用中の薬剤との薬物相互作用 • 流行している主なvariant • 薬剤の需要と供給のバランス(流通制限の有無) NIHガイドライン(米国) • 軽症から中等症COVID-19患者で重症化リスクがある場合 - ニルマトレルビル/リトナビル(1回300/100mg 1日2回 5日間)(AIIa) 発症5日以内、成人 or 12歳以上かつ40kg以上、ritonavirとの薬物相互作用に注意 - レムデシビル(1日目200mg, 2-3日目100mg 点滴)(BIIa) 発症7日以内、成人 or 12歳以上かつ40kg以上 - モルヌピラビル(1回800mg 1日2回 5日間)(CIIa) 発症5日以内、18歳以上、上記2剤が利用できない場合に使用する - Bebtelovimab(1回175mg 単回投与)(CIII) 発症7日以内(日本では未承認) Therapeutic Management of Nonhospitalized Adults With COVID-19 (Last Updated: September 26, 2022). https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/management/clinical-management/nonhospitalized-adults--therapeutic-management/
  • 10. 2022/11/5 10 WHOガイドライン 入院リスクの高い患者に対して 1. ニルマトレルビル/リトナビル 2. レムデシビル または モルヌピラビル Therapeutics and COVID-19: living guideline(WHO)(16/9/2022) https://www.who.int/publications/i/item/ WHO-2019-nCoV-therapeutics-2022.5 BMJ 2020;370:m3379, http://dx.doi.org/10.1136/bmj.m3379 ニルマトレルビル/リトナビル ニルマトレルビル/リトナビル • 二重盲検プラセボ対照RCT(EPIC-HR) • 2021.7‐2021.12に施行(デルタ流行期) • 18歳以上の高リスク群(ワクチン接種なし)に対す る効果、発症5日以内に開始、5日間投与、約50%が 既感染者 • 28日以内の入院+死亡88% • Seropositiveでも効果あり(0.2% vs 1.5%) • 副作用:味覚障害5.6%、下痢3.1% N Engl J Med. 2022 Feb 16. doi: 10.1056/NEJMoa2118542. ニルマトレルビル/リトナビル • イスラエル(主にBA.1流行期)の観察研究 • 対象:2022.1.9-2022.2.24に診断された40歳以上の重症 化リスクのある患者(ワクチン接種 or 既感染者:78%) • 65歳以上の入院:73%減少 - 過去の免疫のある65歳以上:入院68%減少 - 過去の免疫のない65歳以上:入院85%減少 • 65歳以上の死亡:79%減少(治療群の死亡:2/2484) • 40-64歳の入院・死亡:減少なし N Engl J Med. 2022 Aug 24. doi: 10.1056/NEJMoa2204919. 免疫なし=ワクチン0-1回接種、かつ、未感染 パキロビッドの入院予防効果 • 対象:18歳以上のワクチン接種済みの外来患者@ 米国(2021.12.1-2022.4.18:主にオミクロン) • 30日以内の全ER受診・入院・死亡(治療群 7.87% vs 無治療群 14.4%、45%減少) • 入院は、60%減少(0.8% vs 2%) • 肺炎72%減少、不整脈50%減少、30日以内に出 現する呼吸器・消化器・全身症状が減少 ※ワクチン接種済みの定義の記載なし Clin Infect Dis. 2022 Aug 20;ciac673. doi: 10.1093/cid/ciac673. 治療終了後のリバウンド • 治療終了後のSARS-CoV-2 RNA量の増加とCOVID-19症 状の再発が報告されている • 頻度は0.8%という報告がある • 耐性化とは関連なし、リバウンド後に感染伝播しうる • 長期投与や2コース目の投与の効果に関するデータはない NIH. https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/therapies/antiviral-therapy/ritonavir-boosted-nirmatrelvir--paxlovid-/ [最終アクセス2022.5.21] https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-1588371/v2 [最終アクセス2022.5.21] Clin Infect Dis. 2022 Jun 14;ciac481. doi: 10.1093/cid/ciac481.(再燃0.8%) Clin Infect Dis. 2022 Jun 20;ciac496. doi: 10.1093/cid/ciac496. Clin Infect Dis. 2022 Jun 23;ciac512. doi: 10.1093/cid/ciac512 N Engl J Med. 2022 Sep 15;387(11):1047-1049. doi: 10.1056/NEJMc2205944. N Engl J Med. 2022 Sep 15;387(11):1045-1047. doi: 10.1056/NEJMc2206449.
  • 11. 2022/11/5 11 薬物相互作用を必ず確認する パキロビッド®パックの添付文書から 薬物相互作用を必ず確認する パキロビッド®パックの添付文書から • 主要な併用禁忌薬 • アゼルニジピン • アミオダロン、フレカイニド、シルデナフィル、リバーロキサバン • ジアゼパム、エスタゾラム、トリアゾラム、ミダゾラム • ボリコナゾール、リファンピシン、リファブチン • カルバマゼピン、フェニトイン 薬物相互作用を必ず確認する パキロビッド®パックの添付文書から • 主要な併用注意薬 • エベロリムス、シクロスポリン、タクロリムス • コルヒチン、クラリスロマイシン、ワルファリン • クエチアピン、フルコナゾール、バルプロ酸、ラモトリギン • カルシウム拮抗薬 • アトルバスタチン、トラゾドン、(クロピドグレル:海外では) 併用注意薬内服中の具体的な対応 • 以下の4通りに分類(NIH guideline) • 他のCOVID-19治療薬を選択する(≒併用禁忌) • 臨床的に可能であれば、併用薬を一時的に中断する(ニルマトレ ルビル/リトナビル終了してから2~3日以上経過してから再開) • 併用薬の用量を調整し、副作用をモニタリングする • 併用薬を継続して、副作用をモニタリングする NIH. Drug-Drug Interactions Between Ritonavir-Boosted Nirmatrelvir (Paxlovid) and Concomitant Medications. 複数の情報源を参考にする • NIH. Drug-Drug Interactions Between Ritonavir-Boosted Nirmatrelvir (Paxlovid) and Concomitant Medications. • The Liverpool COVID-19 Drug Interactions website • The Ontario COVID-19 Science Advisory Table • The Food and Drug Administration Emergency Use Authorization fact sheet 実際には使用できないケースは少ない • 米国の66007名の患者で、禁忌は9830名(14.8%)で認められた • 重症患者であるほど禁忌を持つ率は高くなった • 外来患者:14%、入院患者:20.6%、ICU患者:22.9%、死亡した患者:35.1% • 外来患者における禁忌の内訳(N=59869名) - 12歳未満 4671名(7.8%)、未成年かつ40kg未満 3702名(6.2%) - 重度の腎障害 1268名(2.1%)、重度の肝障害 284名(0.4%) - 薬物相互作用 2554名(4.2%) • タクロリムス使用時は原則パキロビッドは使用しない(なお、リファンピシンでリバース可能である) 5mg/日で濃度60 ng/mL以上になり、腹痛・背部痛・倦怠感・AKIを起こした2例報告がある Open Forum Infectious Diseases, ofac389, https://doi.org/10.1093/ofid/ofac389 Open Forum Infect Dis. 2022 Jul; 9(7): ofac238. doi: 10.1093/ofid/ofac238
  • 12. 2022/11/5 12 米国での処方状況 • 2021.12.23-2022.5.21 • 内服抗ウイルス薬の総処 方数:1076762 • パキロビッド®:77% • ラゲブリオ®:23% MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022 Jun 24;71(25):825-829. doi: 10.15585/mmwr.mm7125e1. 処方可能な医療機関の拡大 • 2022.2.28以降 病院・有床診療所で、院内または院外処方が可能 • 2022.4.22以降 無床診療所で、院外処方が可能 • ほとんどの軽症例は、無床診療所で診断されていると思われ るので、今後処方量の増加に期待 厚生労働省. 事務連絡(2022/4/22). 新型コロナウイルス感染症における経口抗ウイルス薬(パキロビッド®パック)の医療機関及び薬局への配分について ニルマトレルビル/リトナビル:第1選択薬 • 重症化予防効果は非常に高い(RCT) - オミクロン流行期での入院予防効果は50-70%(観察研究) • ワクチン接種後の高リスク患者への効果も期待できる • 内服薬である • 発症5日以内、薬物相互作用は多いが、使用不可の状況は比較的稀 • 進行した腎不全患者には使用できない(eGFR<30) • 高度肝障害の患者にも使用できない(Child-Pugh class C) • 流通制限あり(各医療機関・薬局のストックは約5回分) レムデシビル 軽症者に対する早期レムデシビル • 12歳以上の外来COVID-19患者 • 発症7日以内に開始 • ワクチン接種歴なし • 重症化リスクあり or 60歳以上 • レムデシビル 3日間 vs プラセボ • 28日以内の入院+死亡 :0.7% vs 5.3%(87% ) N Engl J Med. 2021 Dec 22;NEJMoa2116846. doi: 10.1056/NEJMoa2116846. 2020.9.18-2021.4.8に行われた試験(従来株~アルファ) 海外データ 免疫不全者に対するレムデシビル • 前向き観察研究@メキシコ、重症化リスクの高い発 症7日以内の軽症・中等症COVID-19に対するレム デシビル(外来で3日間投与)の効果を検討、 2021.12.2~2022.4.30(オミクロンが約95%を占 めた)、126名(R群 54、非投与群72)、93.7% が中等度以上の免疫不全者、約80%がワクチン接種 済み(定義の記載はないが2回以上と思われる) • 主要評価項目:発症28日以内の入院+死亡→投与群 で84%減少(9.3% vs 43.1%) Open Forum Infectious Diseases, 2022;, ofac502, https://doi.org/10.1093/ofid/ofac502 中等度以上の免疫不全者の場合、オミクロン 流行期かつワクチン接種していても、治療の メリットは大きい
  • 13. 2022/11/5 13 レムデシビルの副作用 • 吐き気などの消化器症状、肝障害、PT延長、腎障害など • 製剤内にシクロデキストリンが含まれているため、eGFR 30mL/min 未満の患者に対して、その蓄積による腎障害の懸念がある • ⼀方で、eGFR 30mL/min未満であっても安全に使用可能という小規 模な観察研究が多数報告されている • 重度の徐脈を起こすことがある J Am Soc Nephrol. 2020;31:1384-6 Clin Infect Dis. 2020 Dec 14:ciaa1851. doi: 10.1093/cid/ciaa1851. Antimicrob Agents Chemother. 2021 Jan 20;65(2):e02290-20. Clin Microbiol Infect. 2021 Feb 27;27(5):791.e5-791.e8. doi: 10.1016/j.cmi.2021.02.013. JACC Case Rep. 2020 Nov 18;2(14):2260-2264. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2021 Jul;14(7):e009811. doi: 10.1161/CIRCEP.121.009811. 神戸市立医療センター中央市民病院. COVID-19の薬物治療ガイドライン version 2 レムデシビル • 効果は非常に高い • 3日間の点滴(200-100-100mg)必要(入院加療が現実的) • ワクチン接種者への効果はほとんど検討されていない • 腎不全患者に対して問題なく使用可能である • 一般流通している(薬価収載済)が、高価(3日間253,368円) モルヌピラビル モルヌピラビル • 18歳以上、重症化リスクあり(年齢は60歳 以上)、軽症~中等症COVID-19を対象 • 発症5日以内 • Variant判明しているものでは、デルタが最 多(約60%) • 29日以内の24時間以上の入院+死亡: 6.8% vs 9.7%(約30%の効果) • Subgroup解析:既感染者では効果 なし(3.8% vs 1.7%) 2021.5-2021.11に行われた臨床試験(主にデルタ流行期) N Engl J Med. 2021 Dec 16;NEJMoa2116044. doi: 10.1056/NEJMoa2116044 オミクロン流行期での検討 • 2022.1~2022.2のイスラエル(オミクロン流行期) • 観察研究 • モルヌピラビル投与群 vs 非投与群、77%が十分なワクチン接種状態 • 複合エンドポイント(入院+死亡)は減少しなかった • サブグループ解析では、高齢者(75歳以上)、女性、不十分なワクチン接 種歴、の場合に、複合エンドポイントの改善を認めた → 最適なワクチン接種状態の患者には無効の可能性が高い Clin Infect Dis. 2022 Sep 20;ciac781. doi: 10.1093/cid/ciac781
  • 14. 2022/11/5 14 オミクロン流行期での検討 • 2021.12.8~2022.4.27の英国(オミクロンBA.1・BA.2流行期) • オープンラベル無作為化比較試験(N=約25000)、査読前論文 • モルヌピラビル投与群 vs 非投与群、90%以上がワクチン3回接種 • 主要評価項目:28日以内の入院+死亡は同等(0.8% vs 0.8%) • 副次評価項目:症状改善までの日数は4.2日短縮(10.3日 vs 14.5日) → 最適なワクチン接種状態の患者には無効の可能性が高い Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=4237902 • オミクロン流行期のソトロビマブとモ ルヌピラビルの効果を比較した観察研 究(英国)、ワクチン3回以上接種者 BA.1流行期88%、BA.2流行期94% • Main outcome:28日以内の入院+ 死亡は、BA.1流行期 0.96% vs 2.05%、BA.2流行期 0.95% vs 2.03%(約50%減少) BA.2流行期:ソトロビマブより効果低い medRxiv 2022.05.22.22275417; doi:https://doi.org/10.1101/2022.05.22.22275417 (BMJに掲載予定) • 直接の比較試験はないが、他の薬剤より有効性が低い可能性が高い • ワクチン接種者・既感染者への効果は期待できない可能性が高い • 内服可能、発症5日以内 • カプセルが大きくて内服しにくい(脱カプセルは可能とされている) • 小児・妊婦は使用できない(適応は18歳以上) • 他の薬剤が使用できない場合にのみ使用することが推奨される • 薬価収載された(5日間94312円) モルヌピラビル 抗SARS-CoV-2 モノクローナル抗体 (中和抗体薬) 抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体 • 日本で2022.11現在使用可能な製剤2つあるが... - カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ®) :BA.1に対する中和活性は著明に低下 - ソトロビマブ(ゼビュディ®) :BA.1では中和活性維持、BA.2では効果低下 • 米国では、BA.2にin vitro活性のあるbebtelovimabが使用可能 ソトロビマブ • COMET-ICE試験の中間結果 • 18歳以上の軽症~中等症のCOVID-19 • 呼吸不全なし、かつ、発症から5日以内、 かつ、重症化リスクあり(55歳以上) • COVID-19ワクチン接種者は除外 • 500mg 点滴静注1回 • 24時間以上の入院+死亡 :85%減少(1% vs 7%) N Engl J Med 2021; 385:1941-1950 DOI: 10.1056/NEJMoa2107934 2020.8.27-2021.3.4施行の臨床試験 主に従来株~アルファの流行期
  • 15. 2022/11/5 15 ソトロビマブの投与は推奨されない • 米国のFDAは、流行している SARS-CoV-2の50%以上がBA.2 となった複数の州でソトロビマブ の使用を制限した(2022.3.25) • 段階的にその制限範囲を拡大し、 2022.4.5には米国全域でソトロビ マブの使用が制限された https://www.fda.gov/drugs/drug-safety-and-availability/fda-updates-sotrovimab-emergency-use-authorization accessed on 4/9/2022 • デルタ流行期~BA.2流行 期のソトロビマブの効果 を無治療群と比較した観 察研究(米国、2022.3以 降はBA.2 dominant)、 ワクチン接種者約20% • 30日以内の入院+死亡抑 制効果は60%程度 オミクロン流行中の検討 medRxiv 2022.09.07.22279497; doi:https://doi.org/10.1101/2022.09.07.22279497 • オミクロン流行期のソトロビマブとモ ルヌピラビルの効果を比較した観察研 究(英国)、ワクチン3回以上接種者 BA.1流行期88%、BA.2流行期94% • Main outcome:28日以内の入院+ 死亡は、BA.1流行期 0.96% vs 2.05%、BA.2流行期 0.95% vs 2.03%(約50%減少) オミクロン流行中の検討 medRxiv 2022.05.22.22275417; doi:https://doi.org/10.1101/2022.05.22.22275417 (BMJに掲載予定) ソトロビマブ • BA.2流行前は、重症化効果は非常に高く第1選択薬だった • 点滴ルートが必要であるが、1回投与である • 安全性は高く、妊婦にも使用可能 • BA.2以降の流行variantへのin vitro活性は低いことが示されているが、 実際には臨床治療効果は期待できるかもしれない • 臨床試験では、発症5日以内が対象とされたが、日本では発症7日以内であ れば使用可能 • 流通制限あり(院内ストックがあまり認められていない) その他の薬剤は使用しない • 残念ながら...十分な効果を示す薬剤はない - デキサメタゾン(予後悪化のリスクすらある) - ファビピラビル、イベルメクチン、コルヒチン - 吸入ブテソニド、吸入シクレソニド、フルボキサミン • 上記すべての薬剤は、RCTで効果を示すことができなかった • 日本の臨床現場で使用することはない ここまでのまとめ • 2022.11現在の日本では... •第1選択薬:ニルマトレルビル/リトナビル •第2選択薬:レムデシビル • 第3選択薬:モルヌピラビル、(ソトロビマブ) • 使用しない:カシリビマブ・イムデビマブ
  • 16. 2022/11/5 16 治療適応の考え方 オミクロン流行期に、ワクチン3回接種済 みの高血圧の38歳男性に治療は必要か? • 重症化リスクがもともと低いオミクロンでの効果はあまり効果が検討 されていない(デルタ流行期よりも効果に差がでにくい) • ワクチン接種者に対する効果はあまり検討されていない(パキロビッ ド、中和抗体薬、ラゲブリオ)、かつ、効果は小さいと予想される • in vitro活性は、抗ウイルス薬で確認されている • コストが非常に高い薬剤である(安価なもので約10万円) カナダオンタリオ州のガイドライン Clinical Practice Guideline Summary: Recommended Drugs and Biologics in Adult Patients with COVID-19. https://covid19-sciencetable.ca/sciencebrief /clinical-practice-guideline-summary-recommended-drugs-and-biologics-in-adult-patients-with-covid-19-version-11-0/ [accessed on 4/2/2022] 高リスク群(入院リスク 5%以上): ニルマトレルビル/リトナビル、または、レムデシビル 欧州のガイドライン ESCMID COVID-19 guidelines: update on treatment for patients with mild/moderate disease. Clinical Microbiology and Infection, 2022, doi: 10.1016/j.cmi.2022.08.013. 推奨順位は 1. ニルマトレルビル・リトナビル 2. レムデシビル 3. モルヌピラビル、中和抗体薬 ワクチン接種済み 免疫不全なし データ不十分 ワクチン接種済み 免疫不全あり ワクチン未接種 重症化予防薬の適応(当院) 神戸市立医療センター中央市民病院. COVID-19の薬物治療ガイドライン version 2 重症化予防薬の適応(当院) 神戸市立医療センター中央市民病院. COVID-19の薬物治療ガイドライン version 2
  • 17. 2022/11/5 17 重症化予防薬の選択(当院) • 第1選択薬:ニルマトレルビル/リトナビル • 第2選択薬:レムデシビルを使用する場合 - 内服不可、パキロビッド併用禁忌薬内服中 - 発症から6-7日目に治療開始する場合 - ⼀過性の呼吸不全例(多くの場合、高齢者の誤嚥) - 全例入院して投与している 実際の当院での外来患者の治療状況 • 2022年7月22日~8月21日 • 神戸市内の感染者数:1週間に22000人程度の時期 • PCRまたは抗原定量検査陽性であった外来患者 - 1065名(1日平均34名) - パキロビッド処方:77名(7.2%) - レムデシビル適応:適応9名(0.85%)→投与6名、治療なし 3名 投与できなかった患者の内訳(満床のため入院できず) 43歳、DCM、ワクチン2回(薬物相互作用) 74歳、心不全/DM/DL、ワクチン3回(薬物相互作用) 50歳、肥満、ワクチン2回(パキロ在庫なし) 抗ウイルス薬は余っている • 2022年9月時点:ラゲブリオ 62万/160万、4万5千/200万が投薬された • 2022年7月の感染者 約340万人、8月の感染者 約630万人 •治療が必要な患者に適切に処方されていない 知識の問題、薬剤の供給システムの問題 診療責任の所在の問題、薬物相互作用を調べるのが手間 第100回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(2022.9.21). https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000992311.pdf 新規治療薬のまとめ • 年齢、ワクチン接種回数、免疫不全の有無、その他の重症化リス ク因子の数などから、治療適応を決定する • 第1選択薬は、ニルマトレルビル/リトナビル 5日間 • 第2選択薬は、レムデシビル 3日間 • モルヌビラビルはその他の薬剤が使用できない場合に考慮 • ワクチン接種者、かつ、第1・2選択薬が使用不可時の場合、ソロ トビマブを検討してもよいかもしれない 本日の内容 • 現在の流行状況と変異株(主にオミクロン) • 第一種感染症指定医療機関における感染症科医の役割 • オミクロン流行期の院内・院外での感染対策 • COVID-19の最新治療(軽症~中等症I)