SlideShare a Scribd company logo
1 of 10
プロダクトデザインとしての ライティング 
2014.10.11 
北海道大学CoSTEP 
石村源生
上位目的・下位目的 を想定することでス トーリーと構造を定め やすくなる。 
文章の2つのレイヤー:論理構造とストーリー 
目的:読者にどのような影響を与えたいか 
主張 
主張を 支える 論拠 
主張を 支える 論拠 
反対意見 への共感 と手当 
論拠を 裏付け る事実 
論拠を 裏付け る事実 
文章に書かない 部分 
このレイヤーを文章 の一番表に持って来 て、その枠組みの中 に各要素を埋め込む。 読者がストーリーを 追うことで各要素に 出会うように。 
この論理構造にとって 「必然性」のある要素の みを文章に書き、あと は思い切って捨てる。 
上位目的 
下上「ストーリー」の レイヤー 
「与えたい影響」が「興味を 持ってもらうこと」の場合は、 文章自体が「それに値する もの」であることを証明しな ければならない。 
「ストーリー」は例えば 「主人公」「旅=非日 常」「障害の克服」 「日常への回帰」等。 特に「主人公」は最 後まで変えない。 
論理構造 
どうしても二つ以上のこと を主張したい時は「さらに 上位の主張」を考え、元の 主張は下位要素に回す。 
文章に書く部分 
読者への 動線の提示 
下位目的
プロダクトデザインとしてのライティング 
• 
文章には目的がある。「読者に特定の影響を与えるこ と」がそれにあたる。つまり、文章は目的を果たすため の手段であり、機能の実装である。そのような意味で、 文章はプロダクト(工業製品)であり、文章執筆はプロ ダクトデザイン(製品設計)である、と考えることができ る。 
• 
プロダクトに、構造・機能のレイヤーと、インターフェー ス・ビジュアルデザインのレイヤーがあるのと同じように、 文章には論理構造のレイヤーとストーリーのレイヤーが ある。両方併せて、「プロダクトとしての文章の機能」が 実現される。まずこの「2つのレイヤーが存在する」とい うことを意識することが大切。
文章の目的を定める 
• 
文章の目的は「読者に特定の影響を与えること」であるが、 これがなかなかうまく設定できない、漠然としたものしか設 定できない場合にはどうすればよいか。 
• 
その場合は「特定の影響を与えるためには、まず何を実現 しなければならないか」という下位目的を考える。 
• 
あるいは「特定の影響を与えた結果何を実現することをめ ざすか」という上位目的を考える。 
• 
下位目的、上位目的を考えることで、文章の論理構造とス トーリーを定めやすくなる。 
• 
「上位目的」はさらに漠然としてしまうのではないか、という 疑問もあるだろうが、この作業によって逆に「具体的な」上 位目的が浮かび、実は自分が本当に目指していたのはこ のことだったのか、と気付かされることがある。また、たとえ 具体的で無くとも、上位目的と目的がセットになることだけ でも情報量が増えるので、十分事態は改善される。
目的から主張を導き出す 
• 
「目的」がそのまま「主張」になるわけではない。「~に 対する興味を持ってもらうこと」が目的だとすると、「~ に対して興味を持って下さい」と「主張」したくなるが、 そう言われて「はいそうですか、ではそうしましょう」とな る可能性は殆ど無い。 
• 
もし仮に「特定の影響を与えることができた読者」がい たとして、彼(彼女)が何を言いそうか、何を考えそうか、 どんな態度をとりそうか、どんな行動を取りそうかを考 える。そうすると、それらを実現するための「手段」とし てどのような主張をすればよいのかが、見えやすくなる。 
• 
ここでは、「主張」さえも「目的」を実現するための手段 であると認識することが重要。
目的を達成する上での障害を考える 
• 
「読者に特定の影響を与えること」を阻んでいるも のは何だろうか?どうして今まで読者は「書き手 が望む状態」になっていなかったのだろうか?そ のような読者は、どのようなことを思い、どのよう なことを言うだろうか? 
• 
そういったことを考えて、読者の中にある「目的を 達成する上での障害」に寄り添い、共感するとこ ろから考え始めると、どのようにそれを「手当」す ればいいのか、手がかりが見えやすくなる。
論理構造とストーリーのレイヤーを 設計する 
• 
論理構造のレイヤー 
– 
「主張」「主張を支える論拠」「論拠を裏付ける事実」の 階層構造によって構成される。さらに「反対意見への 共感と手当」「読者への動線の提示」を付け加えると 効果的である。 
• 
ストーリーのレイヤー 
– 
構造のレイヤーの要素を物語の文法に従って効果的 に配置し、他の要素を付け加えて、最終的に「読者が 目にする自然言語」としてデザインされたものである。 読者が「ストーリー」を追うことによって「構造のレイ ヤー」の各要素とその関係に過不足無く「出会える」よ うにする。
ボトムアップで論理構造のレイヤーを設計する 
• 
論理構造のレイヤーはトップダウンで設計することが望ま しいが、難しい場合は既存の文章を元にしてボトムアップ で考えることもできる。 
1. 
思い切りズームアウトして、引いた視点から俯瞰し、自分の 書いた文章を眺めてみる。 
2. 
文章全体を小分けにして、機能的なまとまり(=モジュール) を作ってみる。 
3. 
それぞれのモジュールに、「それが何を意味するか」というこ とを表す抽象的なタイトルを付けてみる。タイトルは、抽象 的でありながら、「専門用語」ではなく一般的な「日常言語」 で表現する。 
4. 
各モジュールが「主張」「主張を支える論拠」「論拠を裏付け る事実」「反対意見への共感と手当」「読者への動線の提 示」のいずれに当てはまるのかを考えて整理する。 
5. 
足りないモジュール、余分なモジュールを洗い出し、全体の 論理構造を整える。
ストーリーのレイヤーを設計する 
• 
様々なパターンのストーリーがある。本来なら『物語の体操』 (大塚英志著)などを読むとよいが、とりあえずは印象に残っ ている映画や小説、ドラマから借用したものでよいし、自分で 思いついたものでよい。 
• 
一般には、たとえば「日常(主人公の紹介)→ 非日常(主人 公の「旅立ち」や「事件」「異質な他者」との遭遇など)→障害 への遭遇→障害の克服(成長)→日常への回帰」といったパ ターンをとる(※あくまで一例なので、こだわらない)。 
• 
特に、「主人公」は最後まで変えない。「主人公」は「人間」に 限らず、理論、概念、手法、価値観、物質など何でも構わな い。 
• 
ただ、いずれにしてもこれらの作業は極めて難易度が高い (単にストーリーを作るだけでも大変なのに加えて、構造のレイ ヤーにうまくかみ合わせなければならない)ので、まずは最低 限読者が読みやすいような「話の流れ」を作ることを意識して おけばよい。
ボトムアップでストーリーのレイヤーを設計する 
• 
ストーリーはトップダウンで作ることが望ましいが、なかなか思 いつきにくいので、その場合はボトムアップ(自分の書いた既 存の文章に基づいた発想)でもよい。 
• 
たとえば、専門用語のちりばめられた説明を、まずは「Aという 目的を達成するためにはB、Cという2つの条件が必要である。 しかし困ったことに、BとCは従来のままでは両立しない。そこ で、BとCを両立させることのできる新しい物質、Dを開発した」 というように、非専門家でも分かる「問題解決のストーリーの 言葉」に翻訳してみる。 
• 
この「問題解決のストーリー」を下敷きにして、その上に改めて 個々の情報を配置していく。 
• 
このとき、配置する個々の情報が「問題解決のストーリー」に とって必要か、全体として十分か、専門用語の使用は必然性 があるか、などを吟味する。すべてについて、 「問題解決のス トーリー」作りに奉仕するものであるかどうかを判断基準とする。

More Related Content

More from Professional University of Information and Management for Innovation (情報経営イノベーション専門職大学)

More from Professional University of Information and Management for Innovation (情報経営イノベーション専門職大学) (20)

各回授業への学生からのフィードバックコメントについての考察
各回授業への学生からのフィードバックコメントについての考察各回授業への学生からのフィードバックコメントについての考察
各回授業への学生からのフィードバックコメントについての考察
 
2022リサーチ入門3リサーチ戦略と調査テーマの理解2
2022リサーチ入門3リサーチ戦略と調査テーマの理解22022リサーチ入門3リサーチ戦略と調査テーマの理解2
2022リサーチ入門3リサーチ戦略と調査テーマの理解2
 
2022リサーチ入門2リサーチ戦略と調査テーマの理解1
2022リサーチ入門2リサーチ戦略と調査テーマの理解12022リサーチ入門2リサーチ戦略と調査テーマの理解1
2022リサーチ入門2リサーチ戦略と調査テーマの理解1
 
Education of science communication for graduate students
Education of science communication for graduate studentsEducation of science communication for graduate students
Education of science communication for graduate students
 
New Communication Formats for Effective Science Communication
New Communication Formats for Effective Science CommunicationNew Communication Formats for Effective Science Communication
New Communication Formats for Effective Science Communication
 
Homo Deus 読書会話題提供
Homo Deus 読書会話題提供Homo Deus 読書会話題提供
Homo Deus 読書会話題提供
 
科学技術・学術政策研究所講演20170731テイクホームメッセージ
科学技術・学術政策研究所講演20170731テイクホームメッセージ科学技術・学術政策研究所講演20170731テイクホームメッセージ
科学技術・学術政策研究所講演20170731テイクホームメッセージ
 
科学技術・学術政策研究所講演20170731ver.2(公開用修正版)
科学技術・学術政策研究所講演20170731ver.2(公開用修正版)科学技術・学術政策研究所講演20170731ver.2(公開用修正版)
科学技術・学術政策研究所講演20170731ver.2(公開用修正版)
 
科学情報の現在と未来[抜粋]
科学情報の現在と未来[抜粋]科学情報の現在と未来[抜粋]
科学情報の現在と未来[抜粋]
 
2016年度CoSTEP受講説明会(札幌)用資料ver.4
2016年度CoSTEP受講説明会(札幌)用資料ver.42016年度CoSTEP受講説明会(札幌)用資料ver.4
2016年度CoSTEP受講説明会(札幌)用資料ver.4
 
Application of Case Method to Education for Science and Technology Communication
Application of Case Method to Education for Science and Technology CommunicationApplication of Case Method to Education for Science and Technology Communication
Application of Case Method to Education for Science and Technology Communication
 
CoSTEPの事業構想(案)
CoSTEPの事業構想(案)CoSTEPの事業構想(案)
CoSTEPの事業構想(案)
 
カリキュラムに関わる各施策の目的―手段関係2
カリキュラムに関わる各施策の目的―手段関係2カリキュラムに関わる各施策の目的―手段関係2
カリキュラムに関わる各施策の目的―手段関係2
 
Development of Workshops for Handling Trans-Science Problems
Development of Workshops for Handling Trans-Science ProblemsDevelopment of Workshops for Handling Trans-Science Problems
Development of Workshops for Handling Trans-Science Problems
 
未来シナリオの描出と価値基準の構築のためのワークショップ手法の提案(第49回ことば工学研究会)
未来シナリオの描出と価値基準の構築のためのワークショップ手法の提案(第49回ことば工学研究会)未来シナリオの描出と価値基準の構築のためのワークショップ手法の提案(第49回ことば工学研究会)
未来シナリオの描出と価値基準の構築のためのワークショップ手法の提案(第49回ことば工学研究会)
 
看護ロボットについて考えるワークショップ20150829(確定版)
看護ロボットについて考えるワークショップ20150829(確定版)看護ロボットについて考えるワークショップ20150829(確定版)
看護ロボットについて考えるワークショップ20150829(確定版)
 
科学技術への市民参加としての「対話の場」とは何か20150613
科学技術への市民参加としての「対話の場」とは何か20150613科学技術への市民参加としての「対話の場」とは何か20150613
科学技術への市民参加としての「対話の場」とは何か20150613
 
科学技術コミュニケーションの原点と座標軸20150517(本編)
科学技術コミュニケーションの原点と座標軸20150517(本編)科学技術コミュニケーションの原点と座標軸20150517(本編)
科学技術コミュニケーションの原点と座標軸20150517(本編)
 
北海道大学CoSTEP2015年度カリキュラムガイダンス イントロ部
北海道大学CoSTEP2015年度カリキュラムガイダンス イントロ部北海道大学CoSTEP2015年度カリキュラムガイダンス イントロ部
北海道大学CoSTEP2015年度カリキュラムガイダンス イントロ部
 
AHPにおける選択肢と評価基準の関係~「未来の科学館を考える」ワークショップを例として~
AHPにおける選択肢と評価基準の関係~「未来の科学館を考える」ワークショップを例として~AHPにおける選択肢と評価基準の関係~「未来の科学館を考える」ワークショップを例として~
AHPにおける選択肢と評価基準の関係~「未来の科学館を考える」ワークショップを例として~
 

Recently uploaded

ゲーム理論 BASIC 演習105 -n人囚人のジレンマモデル- #ゲーム理論 #gametheory #数学
ゲーム理論 BASIC 演習105 -n人囚人のジレンマモデル- #ゲーム理論 #gametheory #数学ゲーム理論 BASIC 演習105 -n人囚人のジレンマモデル- #ゲーム理論 #gametheory #数学
ゲーム理論 BASIC 演習105 -n人囚人のジレンマモデル- #ゲーム理論 #gametheory #数学ssusere0a682
 
TokyoTechGraduateExaminationPresentation
TokyoTechGraduateExaminationPresentationTokyoTechGraduateExaminationPresentation
TokyoTechGraduateExaminationPresentationYukiTerazawa
 
生成AIの回答内容の修正を課題としたレポートについて:お茶の水女子大学「授業・研究における生成系AIの活用事例」での講演資料
生成AIの回答内容の修正を課題としたレポートについて:お茶の水女子大学「授業・研究における生成系AIの活用事例」での講演資料生成AIの回答内容の修正を課題としたレポートについて:お茶の水女子大学「授業・研究における生成系AIの活用事例」での講演資料
生成AIの回答内容の修正を課題としたレポートについて:お茶の水女子大学「授業・研究における生成系AIの活用事例」での講演資料Takayuki Itoh
 
The_Five_Books_Overview_Presentation_2024
The_Five_Books_Overview_Presentation_2024The_Five_Books_Overview_Presentation_2024
The_Five_Books_Overview_Presentation_2024koheioishi1
 
東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 大学院入学入試・進学説明会2024_v2
東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 大学院入学入試・進学説明会2024_v2東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 大学院入学入試・進学説明会2024_v2
東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 大学院入学入試・進学説明会2024_v2Tokyo Institute of Technology
 
UniProject Workshop Make a Discord Bot with JavaScript
UniProject Workshop Make a Discord Bot with JavaScriptUniProject Workshop Make a Discord Bot with JavaScript
UniProject Workshop Make a Discord Bot with JavaScriptyuitoakatsukijp
 
ゲーム理論 BASIC 演習106 -価格の交渉ゲーム-#ゲーム理論 #gametheory #数学
ゲーム理論 BASIC 演習106 -価格の交渉ゲーム-#ゲーム理論 #gametheory #数学ゲーム理論 BASIC 演習106 -価格の交渉ゲーム-#ゲーム理論 #gametheory #数学
ゲーム理論 BASIC 演習106 -価格の交渉ゲーム-#ゲーム理論 #gametheory #数学ssusere0a682
 

Recently uploaded (7)

ゲーム理論 BASIC 演習105 -n人囚人のジレンマモデル- #ゲーム理論 #gametheory #数学
ゲーム理論 BASIC 演習105 -n人囚人のジレンマモデル- #ゲーム理論 #gametheory #数学ゲーム理論 BASIC 演習105 -n人囚人のジレンマモデル- #ゲーム理論 #gametheory #数学
ゲーム理論 BASIC 演習105 -n人囚人のジレンマモデル- #ゲーム理論 #gametheory #数学
 
TokyoTechGraduateExaminationPresentation
TokyoTechGraduateExaminationPresentationTokyoTechGraduateExaminationPresentation
TokyoTechGraduateExaminationPresentation
 
生成AIの回答内容の修正を課題としたレポートについて:お茶の水女子大学「授業・研究における生成系AIの活用事例」での講演資料
生成AIの回答内容の修正を課題としたレポートについて:お茶の水女子大学「授業・研究における生成系AIの活用事例」での講演資料生成AIの回答内容の修正を課題としたレポートについて:お茶の水女子大学「授業・研究における生成系AIの活用事例」での講演資料
生成AIの回答内容の修正を課題としたレポートについて:お茶の水女子大学「授業・研究における生成系AIの活用事例」での講演資料
 
The_Five_Books_Overview_Presentation_2024
The_Five_Books_Overview_Presentation_2024The_Five_Books_Overview_Presentation_2024
The_Five_Books_Overview_Presentation_2024
 
東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 大学院入学入試・進学説明会2024_v2
東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 大学院入学入試・進学説明会2024_v2東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 大学院入学入試・進学説明会2024_v2
東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 大学院入学入試・進学説明会2024_v2
 
UniProject Workshop Make a Discord Bot with JavaScript
UniProject Workshop Make a Discord Bot with JavaScriptUniProject Workshop Make a Discord Bot with JavaScript
UniProject Workshop Make a Discord Bot with JavaScript
 
ゲーム理論 BASIC 演習106 -価格の交渉ゲーム-#ゲーム理論 #gametheory #数学
ゲーム理論 BASIC 演習106 -価格の交渉ゲーム-#ゲーム理論 #gametheory #数学ゲーム理論 BASIC 演習106 -価格の交渉ゲーム-#ゲーム理論 #gametheory #数学
ゲーム理論 BASIC 演習106 -価格の交渉ゲーム-#ゲーム理論 #gametheory #数学
 

プロダクトデザインとしてのライティング20141011

  • 2. 上位目的・下位目的 を想定することでス トーリーと構造を定め やすくなる。 文章の2つのレイヤー:論理構造とストーリー 目的:読者にどのような影響を与えたいか 主張 主張を 支える 論拠 主張を 支える 論拠 反対意見 への共感 と手当 論拠を 裏付け る事実 論拠を 裏付け る事実 文章に書かない 部分 このレイヤーを文章 の一番表に持って来 て、その枠組みの中 に各要素を埋め込む。 読者がストーリーを 追うことで各要素に 出会うように。 この論理構造にとって 「必然性」のある要素の みを文章に書き、あと は思い切って捨てる。 上位目的 下上「ストーリー」の レイヤー 「与えたい影響」が「興味を 持ってもらうこと」の場合は、 文章自体が「それに値する もの」であることを証明しな ければならない。 「ストーリー」は例えば 「主人公」「旅=非日 常」「障害の克服」 「日常への回帰」等。 特に「主人公」は最 後まで変えない。 論理構造 どうしても二つ以上のこと を主張したい時は「さらに 上位の主張」を考え、元の 主張は下位要素に回す。 文章に書く部分 読者への 動線の提示 下位目的
  • 3. プロダクトデザインとしてのライティング • 文章には目的がある。「読者に特定の影響を与えるこ と」がそれにあたる。つまり、文章は目的を果たすため の手段であり、機能の実装である。そのような意味で、 文章はプロダクト(工業製品)であり、文章執筆はプロ ダクトデザイン(製品設計)である、と考えることができ る。 • プロダクトに、構造・機能のレイヤーと、インターフェー ス・ビジュアルデザインのレイヤーがあるのと同じように、 文章には論理構造のレイヤーとストーリーのレイヤーが ある。両方併せて、「プロダクトとしての文章の機能」が 実現される。まずこの「2つのレイヤーが存在する」とい うことを意識することが大切。
  • 4. 文章の目的を定める • 文章の目的は「読者に特定の影響を与えること」であるが、 これがなかなかうまく設定できない、漠然としたものしか設 定できない場合にはどうすればよいか。 • その場合は「特定の影響を与えるためには、まず何を実現 しなければならないか」という下位目的を考える。 • あるいは「特定の影響を与えた結果何を実現することをめ ざすか」という上位目的を考える。 • 下位目的、上位目的を考えることで、文章の論理構造とス トーリーを定めやすくなる。 • 「上位目的」はさらに漠然としてしまうのではないか、という 疑問もあるだろうが、この作業によって逆に「具体的な」上 位目的が浮かび、実は自分が本当に目指していたのはこ のことだったのか、と気付かされることがある。また、たとえ 具体的で無くとも、上位目的と目的がセットになることだけ でも情報量が増えるので、十分事態は改善される。
  • 5. 目的から主張を導き出す • 「目的」がそのまま「主張」になるわけではない。「~に 対する興味を持ってもらうこと」が目的だとすると、「~ に対して興味を持って下さい」と「主張」したくなるが、 そう言われて「はいそうですか、ではそうしましょう」とな る可能性は殆ど無い。 • もし仮に「特定の影響を与えることができた読者」がい たとして、彼(彼女)が何を言いそうか、何を考えそうか、 どんな態度をとりそうか、どんな行動を取りそうかを考 える。そうすると、それらを実現するための「手段」とし てどのような主張をすればよいのかが、見えやすくなる。 • ここでは、「主張」さえも「目的」を実現するための手段 であると認識することが重要。
  • 6. 目的を達成する上での障害を考える • 「読者に特定の影響を与えること」を阻んでいるも のは何だろうか?どうして今まで読者は「書き手 が望む状態」になっていなかったのだろうか?そ のような読者は、どのようなことを思い、どのよう なことを言うだろうか? • そういったことを考えて、読者の中にある「目的を 達成する上での障害」に寄り添い、共感するとこ ろから考え始めると、どのようにそれを「手当」す ればいいのか、手がかりが見えやすくなる。
  • 7. 論理構造とストーリーのレイヤーを 設計する • 論理構造のレイヤー – 「主張」「主張を支える論拠」「論拠を裏付ける事実」の 階層構造によって構成される。さらに「反対意見への 共感と手当」「読者への動線の提示」を付け加えると 効果的である。 • ストーリーのレイヤー – 構造のレイヤーの要素を物語の文法に従って効果的 に配置し、他の要素を付け加えて、最終的に「読者が 目にする自然言語」としてデザインされたものである。 読者が「ストーリー」を追うことによって「構造のレイ ヤー」の各要素とその関係に過不足無く「出会える」よ うにする。
  • 8. ボトムアップで論理構造のレイヤーを設計する • 論理構造のレイヤーはトップダウンで設計することが望ま しいが、難しい場合は既存の文章を元にしてボトムアップ で考えることもできる。 1. 思い切りズームアウトして、引いた視点から俯瞰し、自分の 書いた文章を眺めてみる。 2. 文章全体を小分けにして、機能的なまとまり(=モジュール) を作ってみる。 3. それぞれのモジュールに、「それが何を意味するか」というこ とを表す抽象的なタイトルを付けてみる。タイトルは、抽象 的でありながら、「専門用語」ではなく一般的な「日常言語」 で表現する。 4. 各モジュールが「主張」「主張を支える論拠」「論拠を裏付け る事実」「反対意見への共感と手当」「読者への動線の提 示」のいずれに当てはまるのかを考えて整理する。 5. 足りないモジュール、余分なモジュールを洗い出し、全体の 論理構造を整える。
  • 9. ストーリーのレイヤーを設計する • 様々なパターンのストーリーがある。本来なら『物語の体操』 (大塚英志著)などを読むとよいが、とりあえずは印象に残っ ている映画や小説、ドラマから借用したものでよいし、自分で 思いついたものでよい。 • 一般には、たとえば「日常(主人公の紹介)→ 非日常(主人 公の「旅立ち」や「事件」「異質な他者」との遭遇など)→障害 への遭遇→障害の克服(成長)→日常への回帰」といったパ ターンをとる(※あくまで一例なので、こだわらない)。 • 特に、「主人公」は最後まで変えない。「主人公」は「人間」に 限らず、理論、概念、手法、価値観、物質など何でも構わな い。 • ただ、いずれにしてもこれらの作業は極めて難易度が高い (単にストーリーを作るだけでも大変なのに加えて、構造のレイ ヤーにうまくかみ合わせなければならない)ので、まずは最低 限読者が読みやすいような「話の流れ」を作ることを意識して おけばよい。
  • 10. ボトムアップでストーリーのレイヤーを設計する • ストーリーはトップダウンで作ることが望ましいが、なかなか思 いつきにくいので、その場合はボトムアップ(自分の書いた既 存の文章に基づいた発想)でもよい。 • たとえば、専門用語のちりばめられた説明を、まずは「Aという 目的を達成するためにはB、Cという2つの条件が必要である。 しかし困ったことに、BとCは従来のままでは両立しない。そこ で、BとCを両立させることのできる新しい物質、Dを開発した」 というように、非専門家でも分かる「問題解決のストーリーの 言葉」に翻訳してみる。 • この「問題解決のストーリー」を下敷きにして、その上に改めて 個々の情報を配置していく。 • このとき、配置する個々の情報が「問題解決のストーリー」に とって必要か、全体として十分か、専門用語の使用は必然性 があるか、などを吟味する。すべてについて、 「問題解決のス トーリー」作りに奉仕するものであるかどうかを判断基準とする。