東京都心部におけるインフルエンザ菌の抗菌薬耐性の経年的変化（2004年〜2013年）日本プライマリ・ケア連合学会誌 2015, vol.38, no.3, p.263-267. 2015/12/03 院内発表会

1. 東京都心部におけるインフルエンザ
菌の抗菌薬耐性の経年的変化
（2004年〜2013年）
日本プライマリ・ケア連合学会誌 2015, vol.38, no.3, p.263-267.
小池宙 （総合診療内科）
山田邦子，藤井幸太郎 （臨床検査科）
壁谷悠介，塚田信廣 （内科）
2015/12/03

2. 緒言
（背景・目的）

3. 病原菌の薬剤耐性化
・世界的に大問題となっている
・2015年6月，主要7カ国首脳会談（G7サミット）の
主要課題の1つだった
・2015年11月29日，日中韓が，アジア・太平洋各国
が参加する薬剤耐性に関する会議を日本で開催
することに同意した
（日経新聞 2015年11月29日）

6. インフルエンザ菌
（Haemophilus influenzae）
・ヒトの上気道に常在するグラム陰性短桿菌
・呼吸器感染症や耳鼻科領域感染症，細菌性
髄膜炎の起因菌として重要

7. インフルエンザ菌
① β-lactamase nega?ve ampicillin sensi?ve（BLNAS） ：
ペニシリンが有効
② β-lactamase posi?ve ampicillin resistant（BLPAR） ：
1974発見，ペニシリンを分解 （βラクタマーゼ阻害薬 有効）
③ β-lactamase nega?ve ampicillin resistant（BLNAR）：
1980年代発見，ペニシリン結合タンパクに変異あり，セフェム系も効きにくく，
カルバペネムも効きにくくなっている （βラクタマーゼ阻害薬 無効）
④ β-lactamase posi?ve amoxicillin / clavulanate resistant（BLPACR）：
BLPARとBLNAR両方の耐性をあわせ持つ
⑤ 成人からはニューキノロンへの耐性株も分離されている

8. インフルエンザ菌
・BLNARの増加は日本に特徴的。日本では2005年まで
に分離されるインフルエンザ菌の過半数がBLNAR中心
の耐性株。同時期のヨーロッパではBLPAR，BLNARともに
10%程度
・日本では，ウイルス性上気道炎を含めた軽症感染症に
経口セフェム系抗菌薬が頻用され，かつ抗菌薬の有効
血中濃度を検討しない不十分な投与量が定着している
ためだと言われる

9. 今回の研究
・抗菌薬への耐性率は地域によって違う。全国統
計は必ずしも地域の耐性率と一致しない
・診療地域の薬剤耐性率を把握することが，適切
に抗菌薬を使用するためには必要
・今回，重要な病原菌であるインフルエンザ菌の，
港区での薬剤耐性率の10年間での変化を調べた

10. 方法

11. 研究方法
・2004年から2013年の10年間に，東京都済生
会中央病院細菌検査室に提出された各種臨床
検体より分離培養されたインフルエンザ菌の薬
剤耐性を集計した
・同一患者由来の株が複数存在するときは初
回分離株のみを対象とした

12. 結果

13. インフルエンザ菌の各種抗菌薬への
薬剤耐性率変化
2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年
p for
trend
株数 251 189 182 172 177 203 227 176 165 134 -
小児検体株数 - - - - - 106 126 72 63 43 -
ABPC
（ビクシリン）
26.3% 27.5% 35.2% 43.0% 46.3% 24.1% 39.2% 36.4% 41.2% 31.3% 0.0190
ABPC/SBT
（ユナシン）
- - - - - 20.2% 33.9% 34.7% 35.8% 24.6% 0.1699
（成人）ABPC/
SBT
- - - - - 15.2% 29.7% 32.7% 35.6% 22.8% 0.1094
（小児）ABPC/
SBT
- - - - - 24.5% 38.9% 36.1% 38.1% 27.9% 0.4152
CDTR-PI
（メイアクト）
0.0% 0.0% 0.0% 0.6% 2.8% 0.5% 0.4% 1.7% 1.2% 3.0% 0.0025
LVFX
（クラビット）
0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 1.5% 0.0% 0.6% 1.2% 0.0% 0.0683
CAM
（クラリス）
- - - - - - 11.3% 9.3% 16.6% 12.1% 0.4017

14. 0%
10%
20%
30%
40%
50%
2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014
薬剤耐性率
年度
ABPC
CDTR-PI
インフルエンザ菌のampicillinとcefditoren
pivoxilへの薬剤耐性率の変化

15. 結果
・βラクタム系抗菌薬（ABPC，ABPC/SBT，CDTR-PI）への耐性率
は，初年度と比較し統計的に有意に増加している年度が存
在した
・集計したすべての年度において小児のABPC/SBTへの耐性
率は成人よりも高値だった
・傾きの検定の結果ではABPCとCDTR-PIの耐性率で有意な増
加傾向を認めた
・LVFX耐性株は10年間で6株存在したがすべて成人から分離
され小児由来の株は存在しなかった

16. 考察

17. 全国サーベイランスによるインフルエンザ
菌の各種抗菌薬への薬剤耐性率変化
1994年 2004年 2007年 2010年
株数 292 1051 675 660
ABPC 15.8% 14.7% 36.7% 43.9%
AMPC/CVA
（オーグメンチン）
0.0% 14.0% 32.9% 31.1%
CFDN
（フロモックス）
0.0% 46.9% 54.1% 60.9%
LVFX 0.0% 0.1% 0.1% 0.0%
CAM 1.4% 0.2% 1.9% 1.7%

18. 考察①
・マクロライド系抗菌薬であるCAMへの耐性は，全国サーベイラ
ンスでは1%前後であるのに対し，本調査では10%前後と高い耐
性率を認めた
・東京近郊の医療機関では，細菌感染を否定できないウイルス
性上気道炎に対して，非定型肺炎を目標としたマクロライド系抗
菌薬の使用頻度が高く耐性化が進行した可能性がある
・成人には頻用され小児では使用されないニューキノロン系へ
の耐性は成人でのみ確認された。抗菌薬の圧力の1つの結果と
考えられた

19. 考察②
・地域の病原菌の薬剤耐性率は全国のものとは違う可
能性がある．全国サーベイランスの結果や他国のデータ
をもとにつくられた感染症治療マニュアルは，地域医療
には直接使用できない可能性が存在することを意識す
る必要がある
・地域基幹病院とプライマリ・ケア医の間で，薬剤耐性率
の情報を共有・確認する機会を持つことが今後必要と考
えられる

20. 結語
・東京都港区では，肺炎や耳鼻科感染症，細菌
性髄膜炎の原因となるインフルエンザ菌の抗菌
薬への耐性化が進行していた
・日常臨床で適切に抗菌薬を使用し，未来の子
どもたちが使用できる抗菌薬を残す必要がある