SlideShare a Scribd company logo
第 10 回全国大学コンソーシアム研究交流フォーラム 第 1 分科会 大学図書館連携の取組と課題
地域共同リポジトリ事業の可能性と課題
北山 信一
大学地域コンソーシアム鹿児島
鹿児島大学学術情報部情報管理課学術コンテンツ係長
経緯
現・鹿児島県学術共同リポジトリ(Kagoshima Academic Repository Network)の構想は、平成 21 年 5
月に行われた鹿児島県大学図書館協議会総会において、地域共同リポジトリ構築についての提案がな
されたことに始まる。その後、リポジトリ事業を各大学の事業として位置付ける観点から、協議会から大
学地域コンソーシアム鹿児島に対して、地域共同リポジトリの立ち上げを提案することとなり、平成 22 年
12 月、大学地域コンソーシアム鹿児島運営委員会において、鹿児島県地域共同リポジトリはコンソーシ
アムの事業として承認されることとなった。
リポジトリシステムの構築まで
l 平成 22 年 11 月、鹿児島大学学長裁量経費にて鹿児島県地域共同リポジトリを構築するためのサーバ
機器一式を導入。
l 平成 22 年 12 月、大学地域コンソーシアム鹿児島・運営委員会において、鹿児島県地域共同リポジトリを
コンソーシアムの事業として立ち上げることが承認される。
l 平成 23 年 2 月、大学地域コンソーシアム鹿児島の代表者会議で平成 23 年度からのリポジトリ事業部会
の設置が承認される。
l 平成 23 年 3 月、鹿児島大学において鹿児島県地域共同リポジトリサーバの構築作業開始。
l 平成 23 年 7 月 13 日 鹿児島県地域共同リポジトリの試験公開を開始。併せて担当者向け情報交換サイ
ト(Wiki)を設置。
l 平成 23 年 9 月 14 日、鹿児島県地域共同リポジトリの正式名称を鹿児島県学術共同リポジトリ
(Kagoshima Academic Repository Network「愛称:KARN」)とすることに決定。
l 平成 24 年 3 月 22 日 正式公開。
参加機関
鹿児島県内13(鹿児島大学、鹿屋体育大学、鹿児島国際大学、鹿児島国際大学短期大学部、志學館大
学、第一工業大学、鹿児島純心女子大学、鹿児島純心女子短期大学、鹿児島県立短期大学、鹿児島女子
短期大学、第一幼児教育短期大学、鹿児島工業高等専門学校、放送大学)の高等教育機関が相互に連携・
協力し、高等教育の質的向上を推進することにより、地域の教育および学術堅守の充実・発展を図るとともに、
魅力ある高等教育づくりと活力ある地域づくりに貢献することを目的として、平成21年1月6日に設立された。
(「大学地域コンソーシアム鹿児島 HP」より。青と緑は KARN 参加大学。うち鹿児島大学及び鹿児島国際大学は独自の機
関リポジトリを持っており KARN へはデータのハーベスティングによる参加。緑は KARN のサーバに直接コンテンツ登録を
行っている。ピンクは JAIRO Cloud の利用によるリポジトリ構築機関)
運営・活動状況
KARN は1つのサーバ上でシステムを共有する形で運用している。
http://www.lib.hiroshima-u.ac.jp/share/seika/ShaReReport.pdf
(「共同リポジトリプロジェクト報告書 ‐国内の地域共同リポジトリの分析‐」(2010 年 3 月)
機器類一式は鹿児島大学に設置され、サーバシステムの保守作業も鹿児島大学で行っている。上の
図でいえば、背景、OS、リポジトリシステムの部分が鹿児島大学で管理している部分ということになる。
一方、機関リポジトリのコンテンツ登録業務等については参加する各機関の自主性に任されている。
コンテンツ全体を横断的に利用できる機能は残しつつ、各機関毎に個別の TOP ページ、管理 ID を設
定。サブコミュニティ・コレクション等の登録、削除、メタデータ、論文ファイルの登録も各機関毎に行って
いる。
リポジトリの運営はシステムさえあれば良いというものではなく、そこには運用方針(規則)の制定、各
機関内での教職員の合意形成、コンテンツの収集等、様々な障害が待ち受けている。これらの問題をク
リアするために、地域共同リポジトリ事業部会では、各種講演会、研修会を開催してきた。また、現場レ
ベルでは、担当者向けメーリングリストと情報交換サイト(Wiki)を立ち上げ、情報共有と意見交換を行っ
てきた。
KARN に登録された研究成果(論文)は 2013 年 7 月末現在で約 600 点(鹿児島大学リポジトリのハー
ベスト分を除く)となっている。アクセスログで KARN 全体のコンテンツのダウンロード数の推移を見てみ
ると、一月あたりの平均が約 6,200 回。タイトル別に見ると、多いものでは一月あたり 300~600 回のダウ
ンロードがある。当初想定していたよりもかなり多い数値に教員からの反響も大きかった、との報告があ
った。
参加機関の研究成果を広く社会に公開できたこと、そのことの意義を研究者に認知していただけたこと、
これがこれまで積み上げてきた KARN の活動の最大の成果と言える。
KARN の評価と将来
鹿児島県地域共同リポジトリ事業部会が平成23年度に作成した「事業計画」において、本共同リポジ
トリは「鹿児島県内の各大学等で生産された教育・研究成果物、及び各大学等で所蔵している貴重書等
を共同でサーバに集積・保存し、インターネットを使って社会に公開・発信する「鹿児島県地域共同リポ
ジトリ(仮称)」を、大学地域コンソーシアム鹿児島内に構築・運用し、研究・教育の向上、地域貢献に資
すること」をそのミッションとして宣言した。それから2年、そして KARN の正式公開から1年半が経過しよ
うとしているが、この目的はどの程度達成されただろうかか?今もまだこの「目的」は KARN の理念として
生き続けているのだろうか?リポジトリを取り巻く環境も変化してきている今、見直すべき点はないのだ
ろうか?
共同リポジトリとはいえ「機関リポジトリ」であることに代わりはなく、従って今、「機関リポジトリの世界」
で起きていること―― リポジトリコンテンツの価値の向上、オープンアクセスジャーナルの増加 etc.... ―
― の影響については、共同リポジトリ参加各機関の担当スタッフも当然、意識しておかなければならな
い。
また、上記「事業計画」には KARN 事業の期待される効果として「産官学の協働を促進する」ことや「地
域社会発展の知的データベースとなる」ことが挙げられている。これらは「大学地域コンソーシアム」その
ものの理念にも通じることであり、現状の KARN が単なる「機関リポジトリの集合体(とその共同運営活
動)」にとどまってはいないか?、「大学地域コンソーシアム」の中での位置付けはどうあるべきか、といっ
たことについて考えさせられる。
2013. 9. 15

More Related Content

Similar to 第10回全国大学コンソーシアム研究交流フォーラム予稿集原稿

KanagawaLib(20131114)
KanagawaLib(20131114)KanagawaLib(20131114)
KanagawaLib(20131114)
真 岡本
 
Ceal_Shashi(20130320)
Ceal_Shashi(20130320)Ceal_Shashi(20130320)
Ceal_Shashi(20130320)
真 岡本
 
LF2012_LC(20121122)
LF2012_LC(20121122)LF2012_LC(20121122)
LF2012_LC(20121122)
真 岡本
 

Similar to 第10回全国大学コンソーシアム研究交流フォーラム予稿集原稿 (9)

20150227機関リポジトリのこれから
20150227機関リポジトリのこれから20150227機関リポジトリのこれから
20150227機関リポジトリのこれから
 
b47_2022sli_【ライブラリーリンク】修正1.pdf
b47_2022sli_【ライブラリーリンク】修正1.pdfb47_2022sli_【ライブラリーリンク】修正1.pdf
b47_2022sli_【ライブラリーリンク】修正1.pdf
 
KanagawaLib(20131114)
KanagawaLib(20131114)KanagawaLib(20131114)
KanagawaLib(20131114)
 
大学図書館の役割を考える  ~地域貢献・図書館連携~
大学図書館の役割を考える ~地域貢献・図書館連携~大学図書館の役割を考える ~地域貢献・図書館連携~
大学図書館の役割を考える  ~地域貢献・図書館連携~
 
Nagoya(20151022)
Nagoya(20151022)Nagoya(20151022)
Nagoya(20151022)
 
大学コンソーシアム 地域共同リポジトリ事業の可能性と課題
大学コンソーシアム 地域共同リポジトリ事業の可能性と課題大学コンソーシアム 地域共同リポジトリ事業の可能性と課題
大学コンソーシアム 地域共同リポジトリ事業の可能性と課題
 
Ceal_Shashi(20130320)
Ceal_Shashi(20130320)Ceal_Shashi(20130320)
Ceal_Shashi(20130320)
 
ライブラリー・ファシリテーター入門講座 図書館パートナーズ
ライブラリー・ファシリテーター入門講座 図書館パートナーズライブラリー・ファシリテーター入門講座 図書館パートナーズ
ライブラリー・ファシリテーター入門講座 図書館パートナーズ
 
LF2012_LC(20121122)
LF2012_LC(20121122)LF2012_LC(20121122)
LF2012_LC(20121122)
 

More from Shinichi Kitayama

More from Shinichi Kitayama (7)

日本と世界の図書館システムを考える_ILSの現状と課題
日本と世界の図書館システムを考える_ILSの現状と課題日本と世界の図書館システムを考える_ILSの現状と課題
日本と世界の図書館システムを考える_ILSの現状と課題
 
電子図書館_IT時代の資料組織化(H20司書教諭講習)
電子図書館_IT時代の資料組織化(H20司書教諭講習)電子図書館_IT時代の資料組織化(H20司書教諭講習)
電子図書館_IT時代の資料組織化(H20司書教諭講習)
 
事例報告_CMSによる図書館サイト運用の試み(平成17年)
事例報告_CMSによる図書館サイト運用の試み(平成17年)事例報告_CMSによる図書館サイト運用の試み(平成17年)
事例報告_CMSによる図書館サイト運用の試み(平成17年)
 
ERDB-JP-国内電子出版物の国際発信力強化に向けた取り組み
ERDB-JP-国内電子出版物の国際発信力強化に向けた取り組みERDB-JP-国内電子出版物の国際発信力強化に向けた取り組み
ERDB-JP-国内電子出版物の国際発信力強化に向けた取り組み
 
まなぶたSearchの4年
まなぶたSearchの4年まなぶたSearchの4年
まなぶたSearchの4年
 
目録情報と電子リソース-多様な学術情報資源と利用者をつなぐ-
目録情報と電子リソース-多様な学術情報資源と利用者をつなぐ-目録情報と電子リソース-多様な学術情報資源と利用者をつなぐ-
目録情報と電子リソース-多様な学術情報資源と利用者をつなぐ-
 
2014図書館総合展フォーラム
2014図書館総合展フォーラム2014図書館総合展フォーラム
2014図書館総合展フォーラム
 

第10回全国大学コンソーシアム研究交流フォーラム予稿集原稿

  • 1. 第 10 回全国大学コンソーシアム研究交流フォーラム 第 1 分科会 大学図書館連携の取組と課題 地域共同リポジトリ事業の可能性と課題 北山 信一 大学地域コンソーシアム鹿児島 鹿児島大学学術情報部情報管理課学術コンテンツ係長 経緯 現・鹿児島県学術共同リポジトリ(Kagoshima Academic Repository Network)の構想は、平成 21 年 5 月に行われた鹿児島県大学図書館協議会総会において、地域共同リポジトリ構築についての提案がな されたことに始まる。その後、リポジトリ事業を各大学の事業として位置付ける観点から、協議会から大 学地域コンソーシアム鹿児島に対して、地域共同リポジトリの立ち上げを提案することとなり、平成 22 年 12 月、大学地域コンソーシアム鹿児島運営委員会において、鹿児島県地域共同リポジトリはコンソーシ アムの事業として承認されることとなった。 リポジトリシステムの構築まで l 平成 22 年 11 月、鹿児島大学学長裁量経費にて鹿児島県地域共同リポジトリを構築するためのサーバ 機器一式を導入。 l 平成 22 年 12 月、大学地域コンソーシアム鹿児島・運営委員会において、鹿児島県地域共同リポジトリを コンソーシアムの事業として立ち上げることが承認される。 l 平成 23 年 2 月、大学地域コンソーシアム鹿児島の代表者会議で平成 23 年度からのリポジトリ事業部会 の設置が承認される。 l 平成 23 年 3 月、鹿児島大学において鹿児島県地域共同リポジトリサーバの構築作業開始。 l 平成 23 年 7 月 13 日 鹿児島県地域共同リポジトリの試験公開を開始。併せて担当者向け情報交換サイ ト(Wiki)を設置。 l 平成 23 年 9 月 14 日、鹿児島県地域共同リポジトリの正式名称を鹿児島県学術共同リポジトリ (Kagoshima Academic Repository Network「愛称:KARN」)とすることに決定。 l 平成 24 年 3 月 22 日 正式公開。 参加機関 鹿児島県内13(鹿児島大学、鹿屋体育大学、鹿児島国際大学、鹿児島国際大学短期大学部、志學館大 学、第一工業大学、鹿児島純心女子大学、鹿児島純心女子短期大学、鹿児島県立短期大学、鹿児島女子 短期大学、第一幼児教育短期大学、鹿児島工業高等専門学校、放送大学)の高等教育機関が相互に連携・ 協力し、高等教育の質的向上を推進することにより、地域の教育および学術堅守の充実・発展を図るとともに、 魅力ある高等教育づくりと活力ある地域づくりに貢献することを目的として、平成21年1月6日に設立された。 (「大学地域コンソーシアム鹿児島 HP」より。青と緑は KARN 参加大学。うち鹿児島大学及び鹿児島国際大学は独自の機
  • 2. 関リポジトリを持っており KARN へはデータのハーベスティングによる参加。緑は KARN のサーバに直接コンテンツ登録を 行っている。ピンクは JAIRO Cloud の利用によるリポジトリ構築機関) 運営・活動状況 KARN は1つのサーバ上でシステムを共有する形で運用している。 http://www.lib.hiroshima-u.ac.jp/share/seika/ShaReReport.pdf (「共同リポジトリプロジェクト報告書 ‐国内の地域共同リポジトリの分析‐」(2010 年 3 月) 機器類一式は鹿児島大学に設置され、サーバシステムの保守作業も鹿児島大学で行っている。上の 図でいえば、背景、OS、リポジトリシステムの部分が鹿児島大学で管理している部分ということになる。 一方、機関リポジトリのコンテンツ登録業務等については参加する各機関の自主性に任されている。 コンテンツ全体を横断的に利用できる機能は残しつつ、各機関毎に個別の TOP ページ、管理 ID を設 定。サブコミュニティ・コレクション等の登録、削除、メタデータ、論文ファイルの登録も各機関毎に行って いる。 リポジトリの運営はシステムさえあれば良いというものではなく、そこには運用方針(規則)の制定、各 機関内での教職員の合意形成、コンテンツの収集等、様々な障害が待ち受けている。これらの問題をク
  • 3. リアするために、地域共同リポジトリ事業部会では、各種講演会、研修会を開催してきた。また、現場レ ベルでは、担当者向けメーリングリストと情報交換サイト(Wiki)を立ち上げ、情報共有と意見交換を行っ てきた。 KARN に登録された研究成果(論文)は 2013 年 7 月末現在で約 600 点(鹿児島大学リポジトリのハー ベスト分を除く)となっている。アクセスログで KARN 全体のコンテンツのダウンロード数の推移を見てみ ると、一月あたりの平均が約 6,200 回。タイトル別に見ると、多いものでは一月あたり 300~600 回のダウ ンロードがある。当初想定していたよりもかなり多い数値に教員からの反響も大きかった、との報告があ った。 参加機関の研究成果を広く社会に公開できたこと、そのことの意義を研究者に認知していただけたこと、 これがこれまで積み上げてきた KARN の活動の最大の成果と言える。 KARN の評価と将来 鹿児島県地域共同リポジトリ事業部会が平成23年度に作成した「事業計画」において、本共同リポジ トリは「鹿児島県内の各大学等で生産された教育・研究成果物、及び各大学等で所蔵している貴重書等 を共同でサーバに集積・保存し、インターネットを使って社会に公開・発信する「鹿児島県地域共同リポ ジトリ(仮称)」を、大学地域コンソーシアム鹿児島内に構築・運用し、研究・教育の向上、地域貢献に資 すること」をそのミッションとして宣言した。それから2年、そして KARN の正式公開から1年半が経過しよ うとしているが、この目的はどの程度達成されただろうかか?今もまだこの「目的」は KARN の理念として 生き続けているのだろうか?リポジトリを取り巻く環境も変化してきている今、見直すべき点はないのだ ろうか? 共同リポジトリとはいえ「機関リポジトリ」であることに代わりはなく、従って今、「機関リポジトリの世界」 で起きていること―― リポジトリコンテンツの価値の向上、オープンアクセスジャーナルの増加 etc.... ― ― の影響については、共同リポジトリ参加各機関の担当スタッフも当然、意識しておかなければならな い。 また、上記「事業計画」には KARN 事業の期待される効果として「産官学の協働を促進する」ことや「地 域社会発展の知的データベースとなる」ことが挙げられている。これらは「大学地域コンソーシアム」その ものの理念にも通じることであり、現状の KARN が単なる「機関リポジトリの集合体(とその共同運営活 動)」にとどまってはいないか?、「大学地域コンソーシアム」の中での位置付けはどうあるべきか、といっ たことについて考えさせられる。 2013. 9. 15