多極化時代のグループ経営の再構築
- 4. ●お問い合わせ先
株式会社ローランド・ベルガー
広報担当:山下
〒107-6023 東京都港区赤坂1-12-32 アーク森ビル23階
電話03-3587-6660(代表) ファックス03-3587-6670 e-mail strategy@jp.rolandberger.com URL http://www.rolandberger.co.jp
ノベーションへの取り組み事例としては、グローバルでの消費
者マーケティング活動の一元化が特徴的である。具体的に
は、コンシューマーマーケティング機能のグローバル一元化や、
インドやブラジルなどの新興国に現地生活研究拠点を設立し
て顧客ニーズをマーケティング活動に反映するとともに、グロー
バルコンシューマーリサーチセンターが、日本のナレッジやリ
ソースと結びつけることで、ローカル最適化とグローバル効率
化のバランスを見極めた商品開発に取り組んでいる。
■ 経営理念の浸透活動: 創業者が掲げた「公明正大」「和親
一致」「感謝報恩」など7つの精神をまとめた冊子を15以上の
言語に翻訳し、2008年から全従業員に配布している。
② 資生堂
■経営構造改革: 前田社長は、2005年の就任時以降、就任前
から実施されてきたグローバルプレーヤーとして生まれ変わる
ための経営構造改革を継続し、マーケティング改革、販売員の
ノルマ廃止などの営業改革、ブランドの統廃合による重点ブ
ランドへの資源集中、グローバル生産体制の再構築やコーポ
レートガバナンス改革などを実施した。
■グローバル・イノベーション: 中国リサーチセンターにおける中
国向けの専用ブランド製品の開発過程で獲得した中国消費
者の肌の研究や嗜好性、漢方などの中国独特の技術などの
研究成果の情報を活かした、日本でのスキンケアブランドの開
発などがその実例である。
■経営理念の浸透活動: これは経営理念とは異なるが、アジ
アを代表するグローバルプレーヤーとして欧米企業との差別
化を図るため、「おもてなし」の精神に基づくサービス文化の普
及を重視している。資生堂は、日本の店舗運営モデルを中国に
持ち込み成功を収めているが、販売員への「おもてなし」の精
神の指導にあたっては、「SHISEIDO BC OMOTENASHI
CREDO」を各国の美容部員に配布するとともに、現地へ美容
部員を派遣し、展示販売や実演などの接客方法を現地従業
員に対して直接指導している。
終わりに∼意識改革の課題
これまで日本企業のグループ経営の再構築について、あるべ
きモデルと取り組み事例について紹介してきた。最も必要なのは
人材のグローバル化であるが、これは浸透するまでは時間の経
過を待たなければならない。今後、日本企業がグループ全体最適
経営を実現していくためには、従来の価値観を変える「グローバ
ル化をトリガーとした意識改革」が最後の乗り越えるべき課題で
ある。これは私見ではあるが、具体的には、①多様性を認めるこ
と、②自前主義・完璧主義へのこだわりを捨てること、③リスク許
容度を高めることが必要である。これら課題の克服には、日本企
業が長年培ってきた企業文化の変革を伴いその実行は容易で
はない。しかし、グローバル競争環境においては、日本企業が生
き残っていくためにはいよいよこの意識改革に取り組まなければ
ならない時が来ているように思う。日本企業がグローバルリテラ
シーを高め、「自社らしい」グループ経営モデルを早期に構築する
ことを切に願うばかりである。
以 上
主要参考文献:
「松下電器の経営改革」伊丹 敬之、田中 一弘、加藤 俊彦、
中野 誠(2009年、有斐閣)
「メタナショナル経営論から見た日本企業の課題:グローバル
R&Dマネジメントを中心に」浅川 和宏(2006年4月、独立法人経
済産業研究所、ディスカッションペーパー)
パナソニック、資生堂 会社ウェブサイト
Vol.71 February
東京大学法学部を卒業後、米国系戦略コンサルティング
ファームを経て、ローランド・ベルガーに参画。流通・小
売、アパレル、飲料、ラグジュアリーブランド、鉄道・航空、
自動車、商社、金融、不動産業界などを中心に幅広いクラ
イアントにおいて、成長戦略、企業ブランド構築戦略、ポートフォリオマネジ
メント、BPR、ストラテジックソーシング(直接材、間接材のコスト削減)など
のプロジェクト経験を豊富に持つ。消費財・流通グループのメンバー。
慶応義塾大学経済学部卒業後、東京三菱銀行(現三菱
東京UFJ銀行)、日系コンサルティング・ファームを経て現
職。テンプル大学ジャパンMBA、米国公認会計士(ワシ
ントン州)、社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。
食品、卸売、小売、鉄道、物流、機械、金融など幅広い業
種の国内の大手企業に対し事業戦略・M&A戦略立案、PMI(ポストM&Aの
統合)、グループ経営、組織再編、ガバナンス改革、事業再生、財務戦略など
の豊富なプロジェクト経験を有する。単なる概念の提供に留まらず、戦略の
実行にフォーカスしたコンサルティングを心がけている。
プリンシパル
中野 大亮 Daisuke Nakano
daisuke_nakano@jp.rolandberger.com
プリンシパル
人見 健 Takeshi Hitomi
takeshi_hitomi@jp.rolandberger.com
発行人プロフィールと“ひとりごと” 執筆者
日本企業の大きな課題の一つとして、「チャンスに対して、思い切った意思決定ができない」ということが挙げられるでしょう。新興国へ
の参入しかり、新規事業しかりです。国内市場が大きくシュリンクしてもはや食べていけない、という状態であれば分かりやすいのですが、国
内市場は狡猾にも、企業の危機感を一気には加速させずにじわりじわりとその実態を弱めようとし、「企業が思い切って行動する力」を奪って
いきます。しかし、十年後、二十年後を想像したとき、いまここで意思決定をしなかったときの「ホラーストーリー」は他人事ではないかもしれ
ません。グローバル化時代のグループ経営において、十年後の自社を見据えた意思決定は、今何よりも求められていると思います。