42. • 生き物に「魂」はあるのか
– 人間には?
– 動物には?
– 植物には?
– 細菌には?
– ウイルスには?
– タンパク質には?
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 2
3. 機械論対生気論
生命観をめぐって
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 3
4. 日本語の生命観としての『息』
• いき 【息】
– ①息。呼吸。
– ②命。
• 出典万葉集 三五三九
• 「人妻児ころをいきにわがする」
• [訳] 人妻であるあの子を命のように私は思うことだ
• いき-の-を 【息の緒】
– ①命。
– ②息。呼吸。
• 参考「を(緒)」は長く続くという意味。多くは「いきのをに」の形で用いられ、
「命がけで」「命の綱として」と訳される。
• いき-た・ゆ 【息絶ゆ】
– ①息が切れる。息が続かなくなる。
– ②死ぬ。
• 出典源氏物語 夕顔
• 「いきはとくたえ果てにけり」
• [訳] すでに死んでしまったのであった。
– (学研全訳古語辞典)
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 4
5. 古代の生命観としての「息」
• 心に留めてください
• 土くれとして私を造り
• 土に戻されるのだということを
– 『ヨブ記』10・9
• その霊と息吹をご自分に集められるなら
• 生きとし生けるものは直ちに息絶え
• 人間も塵に返るだろう。
– 『ヨブ記』 34・14-15
• ヨブ記の成立はB.C.5世紀中ごろ、イスラエルがアケメネス朝ペルシア支配にあっ
たころ
• 主なる神は土(アダマ)の塵で人(アダム)を形づくり、その鼻に
命の息吹を吹き入れられた。人はこうして生きるものとなった。
– 『創世記』2・7
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 5
6. The Scientific Revolution
個別科学における科学革命
旧思想の体系 中間段階 科学革命の遂行
力 学 アリストテレス インペトゥス理論 ガリレオ
ニュートン
天文学 プトレマイオス コペルニクス ケプラー
生理学 ガレノス ヴェサリウス ハーヴィ
化 学 錬金術 ボイル ラヴォワジェ
プトレマイオス天文学
アリストテレス天動説に基礎を置き数学的テクニック・観測が精緻化したもの
ガレノス生理学
アリストテレス霊魂論に基礎を置く
錬金術
アリストテレス元素転換理論に基礎を置く
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 6
7. B.C.384-B.C.322
アリストテレスの物質観
• 種が花となるように
• 可能態、潜勢態(デュナミス)から現実
態(エネルゲイア)へ
• 形相と質料
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 7
8. B.C.384-B.C.322
アリストテレスの生命観
• 可能態、潜勢態(デュナミス)と し て の 質 料 を,現
実態(エネルゲイア)へともたらすものが,形相(エ
イドス)としての「魂(ψυχ´η, anima)」である。
• 形相としての霊魂(プシュケー)が潜勢態であり質料
的な身体(ソーマ)に宿ることで生き物が成立(現実
態へ)
• 『霊魂論』(『アリストテレス全集』第六巻)
– 霊魂の三区分
• 栄養霊魂:すべての生き物に存在。栄養・生長・生殖の原理。
• 動物霊魂:動物と人間に存在。運動や感覚の原理。
• 理性:人間固有(人間は理性的動物)。思考や判断の原理。
• 植物・動物・人間などの違いに応じて,魂はその生命
活動を具現化する形相にほかならない
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 8
9. B.C.384-B.C.322
アリストテレスと息
• 「呼吸について」
• (『アリストテレス全集』第六巻)
– 精気(プネウマ)に言及
⇒生命現象を実現する原理は霊魂であり、霊魂は心臓内で
熱を帯び、そのままでは消滅ないしは遊離してしまうため
呼吸が必要。
この呼吸を実現する原理が精気。
(呼吸で霊魂を冷やす。心臓はいわば冷蔵庫)
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 9
10. 古代ローマの生命観
• ガレノス(AD129~)
– 中心原理は霊魂および自然でなく、精気(プネウ
マ)
• 『自然の能力』
– 生命精気:肺から吸収され、左心室を起点に動脈血
とともに体内各部に配分され諸器官の活動を実現
– 動物精気:脳のレテ・ミラブレ(ふるい)で生命精
気から精製され、神経管を通して身体各部に送られ、
感覚と運動を実現
– 自然精気(あるいは血液):消化吸収された食物
(乳糜)に起源。乳糜を材料として肝臓で血液とと
もに精製され静脈をとおり身体の各部に送られて、
栄養・生長を実現。
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 10
12. 中世に行く前に、古代
の「病気」観と医学の
歴史も見ておくよ!
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 12
13. Ancient Greece
古代ギリシャの病気観
• Patho
– Pathology
– sympathy(共感),pathetic(悲惨な),passion(受難)
などの同語源語
• pathema(病気),ギリシャ語
• もともとは苦しみを受け取ること
• 一個の生身の全体的な人間が受け取る「苦しみ」
が病気
• ⇔物質系の部分的破綻と見なす現代の「病気」
– 機械論的把握?
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 13
14. Medical Anthropology
医療人類学の提出する「病気」
• 病気sickness=疾患disease+病illness
– 疾患disease…生物学的なもの
– 病illness…主観的な経験
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 14
16. B.C.460-B.C.370
ヒポクラテス
• 「近代医学の父」
– 哲学的傾向(四元素説)の排除
– 医学を経験科学化
– 「ヒポクラテスの誓い」
• 体液の全体のバランス
– 血液・粘液・黄胆汁・黒胆汁
– 病気はたんなる現象
– 身体を切って中を見る意義は少
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 16
17. B.C.460-B.C.370
ヒポクラテスの誓い
医神アポロン、アスクレピオス、ヒギエイア、パ
ナケイアおよびすべての男神と女神に誓う、私の能
力と判断にしたがってこの誓いと約束を守ることを。
この術を私に教えた人をわが親のごとく敬い、わ
が財を分かって、その必要あるとき助ける。
その子孫を私自身の兄弟のごとくみて、彼らが学
ぶことを欲すれば報酬なしにこの術を教える。
そして書きものや講義その他あらゆる方法で私の
持つ医術の知識をわが息子、わが師の息子、また医
の規則にもとずき約束と誓いで結ばれている弟子ど
もに分かち与え、それ以外の誰にも与えない。
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 17
18. B.C.460-B.C.370
ヒポクラテスの誓い
1)私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、
悪くて有害と知る方法を決してとらない。
2)頼まれても死に導くような薬を与えない。それを覚らせる
こともしない。同様に婦人を流産に導く道具を与えない。
3)純粋と神聖をもってわが生涯を貫き、わが術を行う。
4)結石を切りだすことは神かけてしない。それを業とするも
のに委せる。
5)いかなる患家を訪れるときもそれはただ病者を利益するた
めであり、あらゆる勝手な戯れや堕落の行いを避ける。 女と男、
自由人と奴隷のちがいを考慮しない。
6)医に関すると否とにかかわらず他人の生活について秘密を
守る。
7)この誓いを守りつづける限り、私は、いつも医術の 実施を
楽しみつつ生きてすべての人から尊敬されるであろう。 もしこ
の誓いを破るならばその反対の運命をたまわりたい。
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 18
19. 129-200
ガレノス
• 解剖を基盤に
– 人体より獣屍を主
– 現代から見れば誤りが多い
• ストア派の精気論、ヒポクラテス以来の
四体液論との組み合わせ
• 17cころまで、この体系が権威
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 19
20. 4C~15c,15c~16c Middle Age and Renaissance
中世からルネサンス
• 正規の医師の仕事
– ギリシアのヒポクラテスやローマのガレノスの本を
読んでよく勉強し、解剖しそれを確認し学生に伝え
る。
– 治療にあたるのは刃物をもつ下賤な職業たる床屋。
血や死体はけがらわしいものであった。
• 中世キリスト教世界
– 魔術的世界観の解体と、神―人間―自然の階層構造。
– 自然を支配するという発想⇒ベーコン
• ルネサンス技芸家の活躍
– ⇒ヴェサリウス『人体構造論』(1555)
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 20
21. 1452-1519
レオナルド・ダ・ヴィンチ
• 中世の解剖…ガレノス体系の確認
– 知識人たる医師
– 職人としての理髪医
• ルネサンス期の技芸家
– 人体の美の至高性
– 一つの物体としての人体観察、解剖図へ
– 医師ヴェサリウスへの影響
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 21
22. 1514-1564
ヴェサリウス
• 『人体構造論』
– “De humani corpolis
fabrica”
– ガレノス体系を否
定しようとはしな
い
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 22
23. Mechanism and Scientific Revolution
科学革命の時代と機械論
①生き物をその時々の最高の機械になぞら
え
(当時は時計、現代ならコンピューター)
②生命現象を自然現象一般と同様のものと
見なしたうえで
③物理・化学法則に還元して説明し
④探求方法として実験を重視する
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 23
24. The Scientific Revolution
デカルトの機械論的世界像
1637,『方法序説』
《Discours de la méthode pour bien conduire
sa raison, et chercher la vérité dans les
•機械論 sciences》「理性を正しく導き、もろもろ
の知識の中に真理を探究するための方法序
説」
René Descartes ・デカルト座標系の確立(解析幾何学)
(1596-1650) ・精神を物体から分離(『省察録』の主題)
・オラトワール修道会との交流(神の意志
の絶対自由…世界の擬人的な目的論解釈の
拒否)
・物体を形、大きさ、運動(第一性質)の
みで取り扱う(色、匂いなどの第二性質、
目的意識、生命原理の追放)
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 24
25. Mechanism and Scientific Revolution
機械論の展開
ハーヴィ
1578-1657
血液循環説
デカルト
1596-1650 ラ・メトリー
1712-1786
『人間機械論』
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 25
26. 1578-1657
ハーヴィ
• 血液循環説…ガレノス体系の克服
– ガレノス血液理論
• 静脈も動脈も血液を身体各部に運び滲み出させる
• 肺から、プネウマを含む空気が全身に送られる
• 右心と左心を繋ぐ心中隔の穴
– ハーヴィーの血液循環
• 閉鎖血管系
• 心臓の運動を機械に例える
• 神秘的な力をもった心臓⇒単なるポンプへ
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 26
27. Mechanism and Scientific Revolution
J・de・ラ・メトリの人間機械論
• 『人間機械論』1747
• 霊魂の内容は感覚器官と臓物に依存する
• 人間の卓越性は人間の備える体制に依存する
• 「霊魂などと云うものは、我々がその観念さえ持
ち合わせていない、無駄な言葉に過ぎない」
– 霊魂の身体化、自然化
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 27
28. Mechanism and Scientific Revolution
J・de・ラ・メトリの人間機械論
• 『霊魂論』1745
– 純粋に受動的で不活性な物質観(デカルト)
の否定
• 受動的延長+能動的/自発的駆動力
• 駆動力の顕在化には何らかの形をとる必要
– 機械は非能動的、動物は能動的⇒動物は純粋な機械でな
い
• 動物は感覚能力がある(比較解剖学より)
– 動物霊魂の存在
• 『人間機械論』1747
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 28
31. Mechanism and Scientific Revolution
生気論vs機械論
• 機械論mechanismと生気論vitalismの対立
• 生気論:①生命現象を自然現象とは異な
るものとみなし、②特殊原理を導入し、
③観察を重視
• (生気論ということば自体は18c末に登場)
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 31
32. Mechanism and Scientific Revolution
生気論vs機械論
生気論 機械論
• アスクレピオス • ハーヴィ
• ヒポクラテス • デカルト
• アリストテレス • ラ・メトリ
• ガレノス
• ヴェサリウス
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 32
33. Today : Mechanism’s Triumph
現代の生命観
• 現代の科学的生命観(機械論的生命観)
(擬人主義の徹底的な排除)
• ①遺伝子還元論(究極例としてのドーキ
ンス『利己的な遺伝子』)
• ②脳還元主義
• ③人間=コンピューター論
• ④臓器移植に象徴される機械論的人間把
握
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 33
34. Today : Mechanism’s Triumph
反省的視点
1)現代の科学的生命観で生命が解明されている
のか
③⇒認識や活動の主体はコンピューターか人間か
①⇒遺伝されるのは遺伝子か塩基か。主体は遺伝子か塩
基か
②④⇒たとえば悲しみとその癒し。長期脳死者
2)忘却されかけている人生論的・道徳論的生命
観
⇒科学的生命観の発展とともに「いのち」の感覚から乖離
3)そもそも「機械論vs生気論」という対立図式
は明確なのか
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 34
35. 従来の対立軸から
機械論VS生気論…?
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 35
36. 1.対立軸の総括として…
機械論 生気論
• 機器モデル • 生体モデル
• 物理的な力 • 生命力
• 作用因の重視 • 目的因の許容
• 還元=分析主義 • ホーリズム
• 唯物論 • 唯心論
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 36
38. 3.大戦後
• 認識論
– サイバネティクス(ウィーナーら)
– メルロポンティ『知覚の現象学』
→ゲシュタルトのありか
• アロステリック効果(モノーら)
• チョムスキー「生成文法」
⇒心のモジュール性(フォーダー)
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 38
39. 4.1970~
• システム論
– (ベルタランフィ)
• オートポイエーシス
– (マトゥラーナ&ヴァレラ)
• プリゴジン「散逸構造」
2012/11/6 東大科学哲学ゼミ 39